第四十九話 小さな異変

 入ってきたときと同じ光る扉を開き中へ入ると……そこは、元のボス部屋では無く地上への転移部屋だった。


 あれ、ここって……ボス部屋じゃない? あ、二人がいるし床にある魔法陣からして、ここは転移部屋か! この光る扉はどうゆう仕掛けになってるんだろうな? 


「……あ、二人ともただいま。いや~、やっと戻ってこれたよ」

「お、お帰り兄貴。なんで壁から出てきたのか知らねぇけど中で何があったんだ?」

「……おかえり……気になる」


 光る扉に入ってから何があったのか、妖精の事やダンジョンの事について二人に話そうとしたのだが、やはり魔人のときと同じように話すことができなかった。


 誰にも言えなくなるとは言われてたが、誰にも言ってはいけないとは言われてなかったから試してみたけど……やっぱりダメだったな。さて、二人には何と説明したらいいのか……ん~、閉じ込められて出るまでに時間がかかってしまったとかでいいか?


 二人へはとりあえず、部屋に入ってはみたけどそこには何もなく危険はなさそうだったから出口はないか調べていたと言っておいた。ラウはそんな適当な説明でも納得していたがレイの方はちょっと疑うような目で見て来ていた。


「ま~、とりあえずルカ事も心配だしさっさと戻ろうか」

「……うん」

「そうだな! ルカの事心配だし早く戻ろうぜ!」


 時間的にはまだギルドが閉まるような時間ではなかったが、寄らずに真っ直ぐ宿に戻ることにした。


「「ただいま~」」

「おかえりなさい」

「……ただいま」


 ルカに留守の間変わったことはなかったか聞き、こちらもダンジョンで何があったかを話せる範囲で話しルカを撫でていたら手触りはいいのだが髪が乱れてちょっとべたついていたのに気が付いたので『魔法アプリ』でついでに身体や部屋ごと浄化を使ってきれいにしたが、きれいにしただけだったので髪はまだちょっと乱れていた。


 そう言えば今まであまり気にしてなかったけど、髪とか結構ぼさぼさだな。てか、手触りがいいから今まで気にしてなかったな……ラウは男の子だからまだしもルカやレイは女の子なんだからもう少し身だしなみに気を使うべきだったな。そうだ! 今度ブラシ買って来てブラッシングでもするか。それにしても、こんなことに気づきもしなかったなんて……俺って、思ってたより余裕なかったんだな。


 夕食はダンジョン攻略で疲れていて調理するのも面倒だったので出来合いの物を『倉庫アプリ』から出して食べ、夕食後は就寝するまで自由時間とした。


 さてと、なんかすることあったかな? あ『倉庫アプリ』にツーヘッドウルフ入れれるようにするためにスマホのレベル上げてたけど、あの時はあんまりレベルアップの内容を詳しく見てなかったんだよな。ちょっと内容を確認しておくか。それに、倒した魔物からなんか能力が得れるかもしれないからそっちも確認しておくか。


 スマホのレベルは29になっており、交換用ポイントが増えたのと各種機能等が向上した以外にこれといって追加されたアプリも特記事項も無かった。


 なんかスマホのレベルが上がりにくくなってきてる気がするな……順当にいけばスマホのレベルが30になれば新しいアプリが追加になるはずだな。ん~、いいアプリが追加になって無かった交換ポイントは結構残ってるんだしランダム交換をやってみようかな? もしかしたら当たり引けるかもしれないしな。さて、次はなんか能力が得れるか『倉庫アプリ』にある魔物でも見てみるか。


 ツーヘッドウルフなど強い魔物も『倉庫アプリ』に入っていたから少しはいい能力が得れるのではないかと期待していたのだが……魔物から何個か能力を得ることはできたのだが、自身で使える能力は何一つなかった。


 まさか何一つ使える能力を得れないとはな……って言うか、能力って使用者の魔力ありきの物がほとんどだから魔力をスマホに依存してる俺には使える能力がどうしても少なくなってしまうんだよな。どうにかして自力で魔力を使えるようになる方法……あ、女神のリュースが知らなくても妖精のラディなら知ってたかもしれないから聞くだけ聞いてみればよかったな。そのうち聞きに行ってみるか……。


 スマホの確認を終えると結構いい時間になっていたので、さっさと寝ることにした。

 翌朝ちょっと遅くなった朝食を食べていたときに


「兄貴、今日はどうするんだ?」

「ん~、とりあえずギルドにダンジョンで得た素材なんか売りに行って、その後は散歩がてらルカの薬草採集の依頼でも行かないか? ついでにこなせる簡単な依頼でもあればそれも一緒にやってもいいし……昨日まのダンジョン攻略で結構疲れたし軽く流す程度にしたいんだけど、どうかな?」

「リン兄さんがそれでいいのなら私は行きたいです」

「俺もそれで構わないぜ」

「…………うん……問題ない……行く」

「あ、そうだ。レイ、いまさらなんだけどツーヘッドウルフってランク的にはどのくらいだったんだ?」

「……おそらく……ゴールド……かな?」


 三人とも異論はないようだったので身支度を済ませてからギルドに向かった。

 まずはダンジョンで得た素材などの買取をしてもらうと、ツーヘッドウルフの額に付いていた宝石が希少なものだったらしくかなりの高額で買い取って貰えた。

 ちなみに『ゴラウのダンジョンを攻略した冒険者』として名前を刻めると言われたが、変に目立つのもどうかと思い辞退した。


 これで所持金に余裕が出てきたな。これだけあれば他種族への偏見があまり無いと言うレオロイデ共和国へ駅馬車で移動できるとかもしれないけど、途中の町とかで色々買い物したいからどのくらい金が必要か情報を集めつつ依頼をこなしてからレオロイデ共和国へ向かおうかな? ま、夜にでも皆と相談してみるか。


「思ったより買取価格高かったな」

「それなら今日は御馳走食べようぜ!」

「お兄ちゃん! リン様すみません」

「…………御馳走……だめ?」

「あ~、たまにはちょっとくらい贅沢するのもいいか。それとラウ、もう少し言葉遣いに気を付けるようにな?」

「お……はい、リン様」


 まったく、ラウは相変わらず食い物となると我を忘れがちだな。さて、とりあえず薬草採取の依頼と他に何か良さそうなの探してみるか~。


 薬草採集の依頼板と他にも薬草が取れる場所の近くに出没する魔物の討伐依頼が書かれているシルバーランクの依頼板を数種選んで現地へと向かうことにした。


「さて、俺とルカで採集するからレイとラウは依頼板の対象の魔物がいる奥の方で狩りをお願い。あ、他にも狩りしてる人たちがいる様だったら一応余り目立たない様に離れたところで狩りしてくれ。なんかあったらすぐに俺に報告するのを忘れるなよ」

「リン兄さん、よろしくお願いします」

「……了解」

「分かった気を付けるぜ」


 狩りをする二人と別れ俺はルカと一緒に薬草が群生している場所へ移動し、辺りに危険が無いことを確認してから薬草の採集をルカに任せて俺は食材にできそうなものを探すことに決めた。


「それじゃ、ルカはこの辺で薬草採集していてくれ。俺はちょっと食材になりそうなものを採ってるからなんかあったらすぐ呼ぶんだぞ」

「はい、分かりました」


 初めはルカから少し離れたところで食用にできるハーブなどの野草や木の実などを採集していたのだが、気が付いたらルカのいるところから少し離れすぎてしまっていたので戻ろうとしたとき、ルカの悲鳴が聞こえた。


 ん! いまのルカだよな? 魔物でも出たか? 


 辺りを索敵した結果、近くに魔物の反応は無いようだったが、ルカの近くに人間族の反応が確認できたため急いで戻ると、一組のガラの悪い冒険者がルカに今のも襲い掛かりそうな勢いで何やら怒鳴っていた。

 何があったかは分からなかったが放っておいたらルカが危ないと思い、ルカをかばうように前に出てそこにいた冒険者風の4人の右腕へターゲットマーカーをつけ、同時に『魔法アプリ』を起動し『ウィンドショットx4』を念じて打ち込み、すぐにでも魔法を撃ち込みたいのを我慢しつつ口を開いた。


「あの~、すみません。この子は俺の奴隷なんですが……何かありましたか?」

「あぁ! 獣風情が勝手に薬草とってやがったから世の中の常識ってやつを教えてただけだよ」


 は? なにそれ? 獣人が薬草とっちゃいけないなんてルールねぇだろ。それにルカの事を獣風情とか万死に値する……すぐにでも魔法ぶち込みたい! とはいえ下手にこちらから手を出すとどんな因縁つけられるか分かったもんじゃないな……いっそ始末して証拠隠蔽……いやいや! 本当に殺しちゃうのはさすがにまずいだろ! ここは当たり障りのない会話でお帰り願おう。


「おまえも飼い主なら獣の躾けくらいちゃんとしとけ!」

「……はい(ぶっとばしたい!)」

「……ま、人様がいるような所をあんまりちょろちょろさせんなよ」

「……はい(殺したい)」

「ッチ、ガキや獣に構ってても時間の無駄だ戻るぞ」

「「「へい!」」」


 去り際にリーダー格の男が『もうちょっと育ってれば高く……』とつぶやいているのが聞こえたので首を切り落としたい衝動にかられたがグッと我慢して、今後ルカを一人で行動させるのは危険だろうと思ってルカ目をやると、いつの間にか左手にしがみついて震えていた。


「ルカ、もう大丈夫だぞ。一人にして悪かったな」

「だ、だい……じょうぶ……です」


 近くの大木の根元に座り、震えていたルカを抱きしめて頭を撫でて落ち着かせていると昼になり、ラウとレイが戻ってきたので何があったか説明すると予想通りにラウがすごい剣幕で怒り始めたので、実害はなかったからと落ち着かせた。


 それにしても、何か思考が物騒な方向に行ってたんだけど、戦い慣れし過ぎて殺す事に麻痺してきたのかな? それに、ダンジョン攻略して疲れてたこともあってちょっと気が緩みすぎてたか、いくら外とは言っても人目が全くないわけじゃないんだから用心してフードくらい被らせておくべきだったな。


「あ、ルカ。また因縁つけられたリまだ小さいとはいえ性別が女性だとわかったら狙われちゃうかもしれないからフード被っとけ、一応ラウもな。レイは……初めから被ってるな」

「分かった(りました)」

「……ん……もう……被ってる」

「……レイは逆にフード被りすぎだな。部屋ではフードはずせよ?」

「……善処は……する……」


 薬草採集や魔物の討伐依頼はすでに終わっていたのでちょっと早かったが周囲を警戒しつつゴラウへ戻ることにした。


「さて、依頼分はもうこなしたんだし、また変な奴に絡まれない内にゴラウに戻ろう」

「おう!(はい)(……ん)」


 ギルドで依頼報告のついでに『薬草採集してたら他の冒険者に獣人だからと因縁つけられた』と相談してみると、最近冒険者の中にもラミルズ教に感化されて入信する者が増えてきていて、その教義のせいで冒険者の間でさえ獣人と言うだけで因縁をつけて依頼を横取りしたり邪魔したりする事案が増えているという事だった。

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