第四十八話 ダンジョンマスター
あれ? さっきまでこんな扉無かったはずだけど……ダンジョンクリアした褒美の財宝とかある部屋なのかな?
「なぁ、あの光ってる扉ってなんだろうな?」
「? 兄貴、入ってきた扉と出口の扉は両方とも別に光って無いぜ?」
「……?……リン……大丈夫?」
「いやいや、そっちじゃなくてあっちの壁に光ってる扉があるだろ? てかレイ、大丈夫ってなんだよ! なにがだよ!」
「……ただの壁……リン……本格的におかしくなった?」
「ああ、レイ姉の言う通り壁しかないぜ?」
んんん? 俺にしか見えてないのか? って魔人に付けられた左手の紋章が光ってる……まさか扉の先にいるんじゃないだろうな? ってか『本格的におかしくなった?』ってレイひどい! 目から水がこぼれちゃいそうだ……。
何故か危険な感じがしなかったが、一応周りを調べ左手で光る扉に触れた瞬間扉に吸い込まれてしまった。
「え! どうしてここに人間が入ってこれるのよ! すぐ出ていきなさいよ!」
「…………」
まさかこの小っちゃいのがこのダンジョンの本当のボスってオチじゃ無いだろうな?
目の前に身長1m程の半透明の羽の生えた妖精のような生意気な女の子が宙に浮いていた。何やら騒いでいたが無視して周りを見渡してみたがどうやら魔人はいないようだった。
「ちょっとー! 聞きなさいよ! このバカ人間!」
「……なぁ、ここにこれたのってこの左手の紋章と関係あるのか? それとおまえは何者だ? あ、ちなみに俺はリン・クスノキだ。呼ぶならリンと呼んでくれ」
「え! ちょっと、あんたその左手の紋章! もしかして魔人の関係者なの? あ、あたしはダンジョンマスターのラディエル、妖精よ! リンって言ったわね用事が無いなら帰ってくんない?」
なんか失礼で生意気な妖精だな。とりあえず戦闘にはならなそうではあるけど……魔人の事を知ってるみたいだな……って、この紋章が見えるってことは……もしかしてこいつには魔人との事を話せるのか?
試しに魔人に関しての事をラディエルに少し話してみると、今まで誰にも話すことができなかったのに何の問題もなく話すことができた。
「へぇ~、それは災難だったわね。あいつらは基本マイペースで相手の事あんまり気にしないからね~」
ラディエルの言葉に『いや、お前も対外だと思うぞ!』と心の中で思ったがあえて口には出さなかった。言うとなんか面倒なことになりそうだし。
「……んんん? ちょ、ちょっと、あんた! この世界の人間じゃないわね! あれ? でもなんか違うような……リン、あんた変なやつね、なんかこう歪な存在だわ」
何故俺が異世界から来たのか分かったのか不思議ではあったが何か敵意や悪意は感じないし悪いやつではなさそうだから、何か色々と知っていそうだったのでどうせ異世界から来たのはバレている感じだったので、自分が何故この世界に来たのかを話してみると。
「成程ね、あの女神関係か道理で……(な~る……ってことは~……ついにか)……あ、ちなみにあたしの事は魔人の事と同じで他人には話せないし女神にも言えないわよ? 魔人には……言わないで欲しいかな? あと、天使にも」
「分かった。言わないでおくよ……それで、仲間と一緒に来てるんだけど、心配してると思うからここに呼ぶことはできないかな? もしここに呼べないならせめて連絡する手段はないか?」
この部屋に呼ぶことは不可能という事で、ボス部屋へ声を通すことができるようにしてくれて、そこで二人へ俺は無事だからと言って地上への転移部屋で待機していてもらうことにし、ラディエルなら何かこっちの知らないことを知っているかもしれないと思い、色々と聞いてみることにした。
「それでラディエル「ラディでいいわよ」ラディエル「ラ・デ・ィ!」……ラディが知ってる事を色々教えて欲しいんだけど可能か?」
「んー、どうしても言えないこともあるんだけど……ま、質問次第かな~? ……あ! なんか美味しいものとかくれればその対価として教えてあげることにするわ! じゃないと、なぁ~んにも教えてあげな~い」
何故食べ物なのか、そもそも妖精がものを食べるのか、食べるなら普段食べ物はどうやって調達してるのかと疑問は尽きなかったのだが『倉庫アプリ』に料理がいっぱい入っているから別にいいかと思い、料理を出してまずはダンジョンと言う物について聞いてみることにした。
「これでいいか? 「おっけ~」まず、ダンジョンと言う物についてについて教えて欲しいんだが」
「お、中々美味しそうじゃないの! って、ダンジョン、ダンジョンね! で、ダンジョンの何を知りたいの? あ、ちなみに私のスリーサイズは秘密よ」
おまえみたいなちんちくりんのスリーサイズなど知りたくもないわ!
ダンジョンとは、この世界を支え管理するシステムの一つで、魔素を管理する施設でもあり、ダンジョンが無ければ世界から魔素は枯渇してしまう。
そして、魔素が無くなると魔物が生まれなくなるが、同時に魔法も使えなくなる。さらに、この世界で魔素が無くなると生態系が壊れ多数の動植物が死に絶えることになってしまう。そしてダンジョンにいる妖精が倒されない限りいくらダンジョンを破壊しても再生するという事だった。
魔物が生まれないように魔素を管理できないかと聞いたのだが、そう都合よくいかないそうで、魔物が生まれない程度の魔素量を排出するだけではほとんどの動植物が生きていくための魔素量にはならないらしい。
そして、この魔素の管理なのだが魔素を排出するだけではなく大気中の余分な魔素を吸収することもしており、魔素の吸収量が多いとダンジョン内に出てくる魔物が強くなったり凶悪な罠ができたりするらしかった。そういうのは女神の仕事なんじゃないのかと質問すると、女神と言うのは基本的にいるだけで世界に対してあまり影響力はないらしく、基本となる仕事は他の世界と次元干渉しないようにすることらしかった。
一通り話を聞いて、ふとダンジョン攻略したんだからなんかもらえないか聞いてみることに。
「なぁ、そう言えばダンジョン攻略したんだからなんか褒美とか賞品みたいのは出ないのか?」
「そういう物は特にないわよ? しいて言えば倒した魔物から得れる物ってとこらしらね? 最後の狼の頭にあった宝石や魔石は中々の物のはずよ。あ、そうだ――」
ラディに、いい物を上げるから右手を出せと言われたので右手を出すと右手の甲へ魔人のときと同じような紋章が刻まれた。この紋章はどういう事だと質問すると。
紋章があれば攻略したそこの妖精から紋章にそのダンジョンの事を刻んでもらうと、そのダンジョンの入り口付近にある帰還部屋から最下層の転移部屋へ移動することができるようになり、これは帰還部屋に入った全員に効果がある。さらに、帰還部屋から転移した最下層の転移部屋では帰還部屋へ転移する他に他の大陸でダンジョンを攻略し紋章を刻んでもらえば登録している別大陸のダンジョンへを転移することができるようになる。ただし、一つの大陸で登録できるダンジョンは一つだけと言う制約があるとのことだった。
それなら各大陸で一つはダンジョン攻略しておいた方が便利そうだな……とはいえ、できるだけ便利な場所で、できるだけ難易度の低いダンジョンを探さないと命がいくらあっても足りなそうだな。って、あれ? この紋章があるから他の人に話せないんじゃなかったのか?
「なぁラディ、この紋章があるから他の人に魔人の事を話せないんじゃなかったのか?」
「紋章なんかなくても話せないわよ? その魔人の紋章はただの目印みたいな物ね『こいつは俺んだから手を出すな―』みたいな感じだと思うわ。あと、天使、魔人、妖精が近くにいると光って知らせると思うわよ」
紋章で発言に制限を加えていると思ってたら違ったようだな。ただ他のやつに俺を取られのが嫌だからってだけだったのか……獲物として。勘弁して欲しいなぁ~もぅ!
「俺は平穏に暮らしていきたいんだけどな……」
「無理ね! 魔人と出会って、さらにあたしにまで出会ったんだから平凡な生活ができると思わない方がいいわよ? ま~、何かあってもいいように精々強くなっておくことね。どうせその内に天使とも会う事になるでしょうし……あ、ちなみにあたし達妖精は中立だから誰の敵にも味方にもならないからね? でも、あんたは面白いからできることはしてあげるわよ。美味しい料理、特に甘味と引き換えに!」
……最後の言葉で台無しだな。ま~この世界にはあまり甘味が無いから試しに作ってみるのも嫌ではないんだけど……それにしてもダンジョンって割と重要な施設だったんだな。
「あ、そうそう。説明が抜けてたわ」
「ん、まだなんかあるのか?」
魔物は確かに魔素から生まれるのだが、正確には純粋に魔素のみから生まれるわけではなく魔素とある一定量の悪意が有って生まれるのが魔物で、普通は魔素だまりだけでは魔物も何も生まれる事は無く、高純度の魔素が貯まった場所では例外として聖獣等と呼ばれる存在が生まれることが稀にある。
これを管理しているのもダンジョンだと言うので、何故魔物が生まれる様な事をするのか聞くと、世界にある悪意を分散して浄化するためで、魔物が生まれなければ世界中に悪意が満ちてしまい世界中の意思を持つ者たちは悪意に汚染されて凶暴化したり悪意ある行動を取るようになってしまう
「それじゃ、悪意に汚染された者が魔人になっちゃうとかなのか?」
「ああ、違う違う。魔人が悪人と言う認識は間違ってるわよ。ま~、詳しいことは言えないんだけど……例外はあるけど悪意があって行動している魔人はいないわよ」
「俺が見た魔人はドラゴンを狩るついでのように商隊を壊滅させて死体を持って行ったぞ?」
「それはあんた達も森とかで狩りで生き物を殺したり、邪魔だからって言う理由だけで生き物を殺したりするでしょ? それと同じ感じよ。ま~、あんたの出会った魔人は多分実験かなんかの材料を集めてたんだと思うけどね」
そんな理由で生き物は殺さないと否定したが、畑の害虫や雑草を処理することも同じ事だと言われて、魔人はそれと同じ感覚だったのかと理解してしまった。
「ま~、色々分かったんだけど……なんでダンジョンの中ってあんな造りになってるんだ?」
「ああ、あれは暇だったから色々いじってたらあんな感じになっちゃった」
「…………各フロアを作ったり、罠を作ったのはお前なのか?」
「そうよ!」
「ちなみに、ダンジョンがいくつあるのか、その場所とかは知らないか?」
「う~ん、全部でいくつあるかはちょっとわからないけど、私が知ってるだけでも16かな? 場所については知らないわ。と言うか、このダンジョンが大陸のどの辺にあるかも私には良く分かんないのよね」
自分が住んでるダンジョンなのになぜ分からないのか聞くと、ダンジョンからは出ることができないので現在地がどこかと言うのは確認したことが無いそうだったが、ここがどの大陸かという事は分かるらしかった。ダンジョンマスターは妖精がしているのは絶対なのだが、その姿かたちはさまざまであるという事だった。
「あ、そう言えば、魔物って倒して問題ないのか? 特にダンジョンなんて故意に魔物作ってるみたいだし、それを倒してしまったら不具合とか出るんじゃないのか?」
「倒してくれて問題ないわよ。魔物って――」
ダンジョンで倒された魔物は一部の魔力をダンジョンに吸収され、同時に倒されることによって悪意も薄まるから倒してくれた方が助かる。そして、魔物を倒して貰うためにダンジョン内に宝箱などを設置して冒険者などをダンジョンに呼び込んでいるという事だった。ちなみにダンジョン内にいる者から微量の魔力を吸収しているらしかった。
まだいろいろと聞いてみたくはあったが、あまり遅くなると二人が心配するのでそろそろ戻ることにした。
「色々勉強になったよ。そろそろ行くな」
「あ、ダンジョンの事や魔物のことも誰にも話せないからね~。それと、今度来るときは甘いお菓子をお願いね~」
なんだろう……こんなとこに居るから特に甘いものが食べたいんだろうか? てか、ダンジョンの外の世界のことよく分かるな。
「あー! 忘れてたー! そう言えばあんた砂持って行ってたわよね? 穴埋めるの面倒だから返してよ!」
「あ~、そう言えば『倉庫アプリ』に入れてたっけな。どうせ『倉庫アプリ』圧迫するからどっかに捨てなきゃいけないから返すのはいいんだけど……どこに出せばいい?」
ここに出してとラディが虚空に出した穴の中へ『倉庫アプリ』から砂を出して流し入れた。
今、どうやって穴を出したんだろ? 魔法なのかな?
「ん? 何か不思議そうにしてるわね。これはダンジョン機能の一つよ。詳しいことは面倒だから秘密で」
「面倒なだけかよ! まぁいいや、今度こそ行くからな」
「はいは~い、まったね~」
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