第十五話 リトルウィング

「私は槍士のデイジー、隣にいたのは弓士で明るくいつも笑顔のリアンナ、この人(胸に抱いた生首の男性)は剣士で正義感が強いリーダーのダルク、そしてもう一人、魔術師で大食らいのドルド、4人は幼馴染で、半年前にパーティー『リトルウィング』を結成して冒険者になったの。

 割と順調にランクを上げていき、先月ブロンズランクになって、今日は早朝にギルドで依頼を受けてレッドボアを狩りにこの森に来たんだけど、見つかるのは普通のボアばっかりだったからもっと奥の方にいって探そうって事になって奥の方で狩りをしてたの、何とか依頼分のレッドボアを狩り終えて森の入り口を目指して歩いていたらゴブリンを見つけたんだ。

 そうしたらダルクが、ついでに狩っちゃおうっていって、みんなもそれに賛成したんだけど、ゴブリンが逃げ出して、なんかおかしいと思いつつそれを私たちが追って行ったんだ~。そして、やっと追いついたと思ったらいつの間にか周りをゴブリンの群れに囲まれちゃってて、それから……あれ? んーおかしいな、何かよく思い出せないや……あー、そうそうゴブリンってメスが少ないから他種族のメスを捕まえて繁殖しようとするんだよね~、そしてオスは餌にするんだよぉ。怖いよね~。

 ああ、そうそう、ゴブリンに囲まれたってところまで話してたんだっけ、初めに逃げたゴブリンは私たちをおびき出すための囮だったみたいなんだよね。私たちってバカだよね、まんまと罠にはまっちゃってさ、それでも最初の内は何とかしのいでたんだけど、途中でゴブリンナイトまで出てきちゃってさ~、ブロンズランクの冒険者相手に囲んだ上にゴブリンナイトまで出すなんてずるいよね? そう思うでしょ?」 

「………」

「あれ? 答えてくれないんだ。まぁいいや、そしてさ、私とリアンナは女だからその先の展開が分かってたからさ、死ぬよりつらい辱めを受けるくらいならと思って、死のうとしたんだけど……ダルクとドルドがさ、命がけで突破口を開いて逃がしてくれたんだ~、私たちは必死に走ったんだけど、それすら罠だったみたいでゴブリンたちはわざと女だけを逃がして狩りを楽しもうと思ってたみたいなんだよね。

 逃げてる時に私はさ、ああ、狩られる立場ってこんな感じなんだなって思っちゃったよ。それにしてもゴブリンって思ってたより頭よかったんだね、私たちが逃げた先にすでにゴブリンが待機して待ってたんだよ? 全部ゴブリンの作戦道理ってわけだね。そして私たちは捕まっちゃって、そして、そして、よく分からない薬のようなものを強引に飲まされちゃってさ、そしたら目が回ってわけが分からなくなって……ゴブリンにめちゃくちゃにされちゃったよ。

 途中まで隣にいたリアンナは聞き取れないほどの悲鳴を上げてたんだけど、しばらくしたらそれも聞こえなくなって、私も何だかどうでもよくなっちゃって……そしたらもう何をされても何も感じなくなって、目の前も真っ暗になって、気がついたらここにいて、そして、そしてそして――――ダルクを見つけた。

 やっと見つけたのにダルクったら首だけになっちゃって、何やってるんだかな~ダルク、早く起きなよ~、ね~、ゴブリンいなくなったみたいだよ? ダルク~ドルドはどこ?」


 デイジーは突然目を見開き、ダルクの首をがっしり持って話しかけていたのだが、話し方が片言になっておかしくなっていった。


「ドコニイルノ? リアンナとダルクハ見つケたタノに、ドルドだケミツからナイノヨー、ダルク一緒ニサガシニイこ? アれ? ダルク、カラダはドどこニ置イテキたの? ……ダルク? 聞イテるルノ、だぁルく? だルクぅ、だ、ルくぉ、ダルクダルクダルク――――――」

「……デイジーさん」


 どんどん様子がおかしくなってきたので呼びかけたのだが、こちらの声は全く耳に入っていないようだった。


「ダルク……どうしてこんな事に、あ、ア、うぁあああ――ア、アア、アっ……」


 デイジーはひとしきり叫んでひきつけを起こし気を失ってしまった。一応、脈と呼吸を確認したが共に問題はなく、とりあえず命に別状はないようだった。ただし、精神が無事かどうかは起きてみないと分からなかったが……。


 さてと、どうしたもんかな。まず、これからのことを整理して考えてみるか……まさかあの二人をここに置き去りにするのわけにもいかないし、町へ連れて行くのは確定だな。問題はどうやって連れていくか何だけど――。


 ・とりあえず町まで助けを呼びに行く。

 あんな状態の二人をここに残して助けを呼びに行くなんて、呼びに行ってる間に魔物とかに襲われたら終わりだよな。


 ・二人を町まで運ぶ。

 どうやって? 俺はそんなに力持ちじゃないし、仮に二人を抱えれたとしても、そこを魔物に狙われたら対処できない。


 ・もういっそ見捨てて町に戻る。

 これはないな! そんな後味が悪いことはできない。


 二人が気が付いた時にまともな状態なら問題ないんだけど……あんまり期待はできないよな。


 とりあえず、移動するにしても裸のままじゃ不味いと思い、服かそれに代わるものと裸足じゃ歩くこともできないだろうと靴も探すことにした。

 まず、デイジーを元いた小屋へ連れていき床に毛皮を敷き、そこに寝かせておいた。リアンナの様子を見てみると、意識は戻っているようだったのだが、虚ろな目をして口は半開きで涎を垂らし壁にもたれかけていた。


 これは、自力で歩くのは無理そうだな……これで、デイジーまでこんな状態だったらどうにもならないな。


 そんなことを思いつつ、小屋の中を探していると、恐らくデイジーたちの服であろうものはあったのだが、びりびりに破けていてとても着れる状態のものでは無かった。ただし、デイジーたちの物と思われる靴は問題なく履ける状態で見つけ、他にも二人のギルドカードとブロンズプレートも見つけた。

 そのあと他の建物などもいろいろ調べて探した結果、服は見つからなかったがダルクの首のある建物でダルクのギルドカードとブロンズプレートが見つかった。ちょっと抵抗はあったが、ダルクの首とカード・プレートをスマホの倉庫アプリに入れた。

 それと、ドルドも見つかった。いや、ドルドだったであろうものが見つかったと言った方が正しいだろう……おそらくは狩りでとらえた獲物を解体する場所なのだろう血まみれの場所に人の半壊した胴体だけがあり、その胴体が着ていた服のポケットにギルドカードがあり、ドルドと書いてあった。プレートも近くにあったので、二つとも倉庫に入れておいた。

 結局、服は見つからなかったので麻袋の底と側面に穴をあけて頭と腕を通すところを作り、布で簡単にふんどしとブラっぽい物、後は余った布で腰巻という服のようなものを用意して小屋に戻るとリアンナがこっちを見てきた。


「リアンナさん。聞こえてますか? 聞こえてたら返事をして下さい」

「アー、ウー? アァーウァ」


 リアンナに話しかけてみたが、まともにしゃべる事すらできていない、とても普通の精神状態には見えなかった。


 これは、もうダメかもしれないな……せめてデイジーの方だけでもまともな状態ならなんとか町まで行けると思うんだけどな。


「うぅぅ、うん? ここ……」

「あ、デイジーさん。気がつきましたか」

「え? なんで私の名前。それにここは……きゃ! なんで私裸に! あなた私に何する気よ!」


 デイジーは俺が襲ってきたものと思ったようで、激しく罵りそこらにある物を投げつけてきた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいデイジーさん。ちゃんと説明するんで」


 その後何とか誤解を解き、さっき作った服もどきを着てもらい落ち着いたところで、言っていいものかと思いつつ今までのいきさつを話した。すると、デイジーは目を閉じてしばらく何やらつぶやいた後に謝罪してきた。そして、リアンナを抱きしめ泣き出した。

 泣き止んだのを確認し、リアンナへ服を着させてもらい、心苦しくはあったのだが、どこまで覚えているかを聞いてみると、ここにゴブリンに連れられてきて色々あって気を失い、気がついたらゴブリンが見えなくなっていて、そこから意識が曖昧だったけどふらふらと外に出て歩いていたら近くの建物から物音が聞こえてきたので覗いてみたら……ダルクの首を見て、その後は覚えていないという事だった。一応、俺がダルクを殺したわけではないことを言うと、捕まった時にもうダルクたち男はゴブリンに殺されてしまってるような気はしてたと悲しげに語っていた。


「デイジーさん。町まで移動したいのですが、動けますか?」

「私は何とか歩けるけど、ちょっと戦闘は無理かな? リアンナは……この状態だし、あなただけで――」

「いやいや、ここで置いてくくらいなら俺は今ここにいませんよ。大体そんな後味が悪い事はしたくない!」


 とはいえ、大分体力が低下してるっぽいからな~。あ、食べ物あるからそれで少しは体力回復できないかな?


 倉庫アプリから今朝買っておいたサンドイッチなどを出しデイジー達に食べてもらった。リアンナは食べることができるかな? とも思っていたがサンドイッチを渡すとすぐにかぶりついていた。


「食べ物まで貰っちゃってありがとうございます。……えーと、お名前は何でしたっけ?」


 あ、そう言えばまだ名乗ってなかったな。


「俺はリン・クスノキと言います。一応冒険者で、まだウッドランクです。デイジーさんたちは先輩ですね」

「えー! ゴブリンの集落をせん滅できる人がウッドランク……噓でしょ?」 


 ギルドカードを見せると「え、まだ15歳」と驚きつつも納得してくれたが、先輩は照れるから止めてと言われてしまった。大分血色もよくなってきていて、精神も安定しているようだったので、これなら何とか町まで行けるかなと思い、防具もあった方がいいなと考えていたとき、そう言えばゴブリンの中に女性用っぽい革鎧が二つあったのを思い出し倉庫アプリからゴブリンごと出すと。


「あ、それ私たちの革鎧! やっぱりゴブリンに取られてたんだ。って、私たちが使っていいの?」


 元々デイジー達の装備なんだから使っていいもないだろうと聞いてみると、その革鎧を装備したゴブリンを倒した俺に所有権があるといわれ、これは普通のことだと教えられたが、移動中に魔物と出会うこともあるだろうから装備は整えて欲しかったので、俺からデイジーたちに譲渡という形にすることで納得してもらい革鎧を装備してもらった。リアンナはデイジーが手も引いて補助すれば何とか歩いてついてきてくれるようだった。とはいっても意識がはっきりしていない状態なのでそれほど早くは歩けそうになく、ましてや戦闘なんて無理そうだったが。


「魔物は俺が何とかするんで、デイジーさんは戦闘はいいのでリアンナさんをお願いします」

「ごめん。そうさせてもらうよ」


 そして、町へと移動を開始した。ちなみにゴブリン集落のめぼしいものはすべて『倉庫アプリ』に入れておいた。


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