第十七話 スマホのレベルを上げてみた

 ギルドの診療所は一階通路の奥にあり、中はそれほど広くはなく、ちょっとした村の診療所といった感じで、恐らく医者であろう白衣を着た30半ばくらいの優男と、デイジーたちがそこにいた。


「デイジーさん! 奴隷になるとかやめてくださいね? そんなことで得た金銭を受け取る気はないですからね!」

「で、でも、他にどうすればいいのか……」


 別に見返りなんていらないんだけど……それじゃ納得してくれないんだろうな~。そうだ! いろいろ情報とか欲しいからその辺りを教えてもらうってことで手を打ってもらうか。


「そうですね……それじゃ、お金はいいですから、こちらのお願いを聞いてもらえませんか?」

「私にできることなら何でもするよ! それでお願いってなんですか?」

「それはですね、お願いというより条件に近いかも知れませんが――」


 俺がデイジーに頼む願いは。

  ・スマホの能力(具現化武器や大容量なアイテムボックス)のことを詮索と他言しないこと。

  ・この世界のことで聞いたことに分かる範囲で答えること。

  ・魔法や武器を使った技を可能な限り教えること。

  ・魔法実験に付き合い、その内容を他言しないこと。


「――以上の条件を飲んで欲しいんですが、どうですか? あー、あと、お互いに溜口でいいですか?」

「え、あ、はぁ~、別にいいですけ……いいよ。てか、そんなので本当にいいの?」

「うん、知りたいことや試してみたいことあったから相手してくれる人がいると助かる」


 一応、俺が落ち人だってことは言っておくかな。それにしても溜口になるのに躊躇とかないんだね……自分から言ったことだけど、ちょっと複雑な気分だな。


「えっと、俺は落ち人でこの世界の常識とかが良く分からないから色々聞きたいんだよ」

「え、落ち人だったの? じゃ、あの武器とかアイテムボックスは……って、詮索禁止だったね。それで何が聞きたいの?」


 魔力の事を聞くと魔力はどんな生物にも宿ってるものだと言われたが、それだと良く分からないので詳しく聞いてみると。

  ・魔力の元は魔素といい、大気中にも存在する。

  ・魔素を変換したものが魔力であり、生き物にしかない。

  ・どうやって魔素を魔力に変換しているのかは、意識してしているのではないのでよく分からない。

  ・魔力は魔法を使用するときや、闘気の使用に消費する。

  ・適正により魔力の消費量が変わる。

  ・魔法に適性がある場合は、魔法に使う魔力は少なくて済むが闘気にの使用に多くの魔力を使い、逆の場合は魔法の使用に多くの魔力を使う。

  ・魔力が減り過ぎると意識が遠くなり、気を失ってしまう事がある。

  ・魔力が体内に無ければ生命活動を維持するのが困難になり、多すぎてもまた困難となる。


 ま~大体予想通りのよくある設定といった感じかな? 闘気か~、そんなのもあるんだな~。


 魔素については。

 ・魔素は空気や水のように自然界にあたりまえに存在するものだから説明のしようがない。

 ・魔素が濃いと魔物が生まれることがある。理由は不明。

 ・魔物や生物の死体を放っておくと体内の魔力を放出し魔素が濃くなりやすくなる。

 ・魔法などを使った場合は、その魔法が消えるときに魔力は魔素となり霧散し大気に還元される。

 ・魔素が濃すぎるところは普通の人間などにとっては人体に有害。

 ・魔素が極端に薄い地域では生き物は植物を含め生命活動が低下する。

 ・理由は分からないけどダンジョンでは魔素が濃い場所でも人体には無害。

 

 闘気の事も少し聞いてみた。

 ・基本的な使い方として魔力を直接纏うのではなく闘気と呼ばれるエネルギーに変換して身体に纏う。

 ・武器に纏わせて攻撃を上げたり、防具に纏わせて防御力を上げたりもできる。

 ・自身の体に纏えば身体強化ができる。

 ・自分の闘気を他人に纏わせることはできない。


「ありがと、大分分かったよ。さて、もう18時だし今日はこれくらいにして、明日も頼むね」

「うん、了解。待ってるね」


 デイジーはギルドの空き部屋に、リアンナはそのまま入院という形になった。

 ギルドから出る前に、依頼の報酬は明日受け取ることにして、さらに報酬の金額からデイジーとリアンナの宿泊費や治療費を引いておくように言っておき、デイジーに俺が払ったなんて言ったら、また奴隷になるとか言い出しそうだったので、レドラスからデイジーには『ギルドから特別に部屋を無料で貸す』と言っておいてもらった。

 宿に帰り夕食も宿の食堂で食べることにし、シチュー・パン・サラダのセットを注文し食べていると、ライラたちが食事をしているのが目に入ったのだが、フードを被っているのが一人多かった。


 ん? あれってライラの旦那かな?


「こんばんは。えーと、そちらはガリウルさんでいいんですよね?」

「おにいちゃん。こばわ」


 ライネルが可愛らしく挨拶してきたので頭を撫でてやった。フード越しだったけどね。


「こんばんは。ええ、旦那のガリウルです。ほら、こちらがライを助けてくれたリンさんよ」


 ガリウルは「そうか、あんたが息子を助けてくれたのか」と言ってハグしてきた。正直おっさんのハグはいらなかったよ。ちなみに、今日のガリウルはちゃんと服を着てフードもかぶっていた。

 その後、話をしていたらライネルがうとうとしてきたのでライラたちの部屋で話をする事になり、食事代を払い移動した。

 部屋に入りフードを取ったガリウルは、ライラと同じ髪の色をした短髪で眼光が鋭く見た目は三十代半ばといった顔つきでとても二六歳には見えなかった。

 ライラたちの部屋で二人に魔法や魔素のことなどを聞いて、デイジーの話との相違点はないか確認したみた所、概ね違いは無かったのだが、魔物は魔素によって生まれるがその強さは核になる魔石の質で決まるのが一般的な説だということが新たに分かった。


「あ、リンさん。実は……私のホラブでの仕事が明日で終わり、家族と一緒にガウリィオ大陸に帰ることになりました」

「え、そうなんですか! 寂しくなるけど息子さんや旦那さんのことを考えたらその方がいいですね」

「いやー、息子を助けて貰ったってぇのに何も恩を返せねぇで悪ぃんだけどな。いや~それにしても、話には聞いてたんだけど、この大陸の人間がここまで他種族に対して嫌悪感を持ってるとは思わなくてよ、正直言ってライを連れてきたのは間違いだったと今更ながら後悔して、ライラの言ってた通り向こうの大陸におとなしく残ってればよかったかもと思ってたんだよ」


 ライラは元々は短期の単身赴任でこっちの大陸にくることになっていた所を、ガリウルがライネルを連れて半ば強引にライラについてきたらしく、こっちの大陸の事をあまり理解せずにきていたために町でフードをかぶらずに歩いてしまって、ライラにひどく怒られたという事だった

「ま~なんです。もう会えないと決まったわけじゃないですし、もしかしたらそちらの大陸へ行く事もあるかもしれないので、その時に色々と頼むことがあるかもしれません」

「おう、こっちに来たらギルド経由で知らせてくれよ」

「そうですね。何かわからない事があれば教えることができるかもしれませんし頼ってくださいね」


 そして、あまり長いをして家族の時間を奪うのもなんだしと、自分の部屋に戻ることにした。

 自分の部屋に戻りスマホを確認してみるとホーム画面の通知領域にLvUpと出ていたことに今更ながら気がつき、なんで今まで気が付かなかったのか不思議に思いつつ早速タップしてみると。

『スマホのレベルを上げることが可能です。

     レベルアップしますか? YES/NO』

 と出ていた。


 これって、YESでいいのかな? でも、NOを選ぶとレベル上げる以外に何かができるのかな?


 悩んでいても分からなかったので、何かないかと見ていたら説明があるのを見つけタップし読んでみると。

 レベルアップでYESを選ぶとスマホ本体のレベルが上がります。NOを選ぶとレベルの上昇を保留します。尚、レベルを上げるとポイントが獲得できそのポイントを使って様々な特典と交換することができ、5レベル毎に本体やアプリなどの機能が上昇します。(魔法アプリなどの魔法の威力などは1レベル上げるだけでも多少効果があります)


 現在のポイント交換特典。

 ・新規アプリの追加。(タイマーアプリ)

 ・ランダム獲得。


 項目は3つだけか……スマホ本体のレベル上げれば増えていくのかもな。てか、ランダム獲得ってなんだ? 

 NOにする意味もないだろうとYESをタップしてさらに確認をタップすると、スマホが光りだした。レベルアップの音? が鳴ると光が収まったので、レベルアップで何が変わったのか見てみると、全てのアプリのレベルが2になっていた。内容を見てみるとこれと言って変わりがなかったので、まだスマホレベルを上げれるようだったのでとりあえず上げれるだけ上げてみた。すると、スマホのレベルが7にまでなり各アプリが少しだけ強化され、さらにスマホポーチの変更というのが表示された。まず各アプリなのだが。

 ・魔法アプリは魔法の消費魔力の減少、威力の強化、魔法制限解除。

 ・具現化アプリは具現化の消費魔力の減少と具現化できる物質の制限の緩和。

 ・倉庫アプリは収納できる対象の大きさと重さの制限の緩和

 ・カメラアプリは画像登録可能数の増加。鑑定の強化。

 ・地図アプリはルート検索ができるようになった。

 ・他のアプリは変化なし。


 スマホ本体のレベルアップ効果は。

 ・最大魔力量の増加

 ・最大アプリ登録可能数の増加。

 ・フォルダ容量の増加。


 ポイントは14Pと表示されていたので1レベルで2P得たと言うことだろう。


 スマホポーチの変更は、スマホを入れていても魔力を消費しなくなるらしかった。


 これでいちいちスマホを消さず、常に出していてもスマホポーチにさえ入れていれば魔力減らないっていうのは便利かもな。とりあえずポイントはまだ貯めておくか。あれ? メールきてる。


 メールを確認するとリュースからだった。


 『クスノキさん誠に申し訳ありませんがスマホのレベル設定を忘れていましたので設定しておきました。これでスマホのレベルを上げることが可能になっているはずですのでご確認ください』


 ……リュース……こういった抜けてるとこあるからおれがこんなめにあってるんじゃなかろうか? ……残念な女神だな。


 そしてよく見ると下の方に『メールください……』と書かれていた。


 寂しがり屋かよ! あいつは一応女神だよな? 何をメールなんか待ってんだかな……ま、いいや、聞きたいこともあったしメールしておくか。


 メールに、19歳のはずが15歳になってるのは何故か、ラミルズ教という宗教が人間の大陸で広まっているが心当たりはあるか、何で俺には魔力がないのか、リアンナの精神を治すことはできないかということを書いて送った。


 そういえばちゃんと自分の姿を見てなかったな。ちょっと自撮りしてみるか。


 自分の姿を見ると、確かに若返っていた。理由はリュースからのメール待ちだし考えても仕方ないと思い着替えてとっとと寝ることにした。


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