第五十三話 ライアスに到着
獣人冒険者たちと別れた後もしばらく狩りを続けてから町へ戻り、その後の予定を考えギルドで依頼達成報告だけをした。宿へ帰る前に駅犬車に寄って翌日のライアス行きの犬車に空きがあるか聞くと朝8時に出る1便に空席があるとの事だったので犬車の予約をしてから宿に戻り食堂で夕食を食べて軽くミーティングしてから就寝した。
翌日、予約していた犬車に乗りレイガスを後にしライアスへと向かった。ちなみに、二頭の馬に乗った冒険者が4人護衛についていたので今回は普通の客として犬車の旅を楽しむ予定だ。
道中、一度野営などもしたが盗賊が襲ってくる何て事も無くたまに弱い魔物が数匹出るくらいで護衛の冒険者が簡単に倒し危なげなく進むことができた。ただ、魔物が出る度にラウが戦いそうにしていたけど、今回はのんびりと犬車の旅をしていたかったので我慢させた。
ラウにはちゃんと我慢できたご褒美として後で肉を食わせてやろう。お、町が見えてきたな。
ライアスは高い壁に覆われている城塞都市と言った感じの大きな町で顔を出し呆然と街を見ていた俺に御者が『ライアスの町は王都に次ぐぐらい大きな町だよ』と説明してくれた。どんな街なのかさらに聞くと、住人はほぼ獣人族で占められていて他種族はあまり住んでおらず、居てもそのほとんどが亜人族で人間族は嫌われているのでフードを被って身体を隠して歩いているのが普通という事だった。ちなみに、俺は犬車を降りる時にフードを被っている。
なるほどね、人間族だけが嫌われていると……あんまり目立たないように気を付けないとな……シューティンググラスもサングラスモードにしておくか。
駅犬車の停留所でギルドのある場所を聞き、まずはギルドへ行くことにした。そして、ギルドの中に入ったそうそうからまれた。
「おいおい、いつからここは人間族のガキが遊びに来るようになったんだ?」
「…………」
「おい! 何とか言えよ!」
俺が人間族(何故俺を見てガキと思ったのかは気にせず)との事で厳ついケモ耳のおっさんになんか絡まれたが、無視して素材買取カウンターへ向かいレイガスで狩った魔物の素材を買取してもらうことにした。
「あの~、素材買取お願いしたいんですが?」
「え、えーと。あ、あの、その」
「おい! 無視してんじゃねぇぞ! 群れなきゃ何もできねぇ人間族風情がよ!」
「てめぇ! 兄貴が聞いてんだろうが―! なめてんじゃねぇぞクソガキが!」
俺は何を喚かれても気にしないでいたのだが…………ラウが絡んできた奴らにくってかかって、しまいにはおっさんに殴りかかろうとしたので絡んできたおっさんの相手よりラウを押さえつけてなだめる方が大変だった。
ラウを押さえつけながら絡んできたのがケモ耳のきれいなお姉さんならよかったのにとかくだらないことを考えていたらレイとルカに睨まれた。何故バレたのか不思議だ。
絡んできたおっさんは興ざめしたのか『人間族はとっとと自分の大陸に帰りやがれ!』という捨て座リフトともにギルドを出て行った。
冗談はさておき、なんか変に目立っちゃったな~……これは早くコーレア村へ向かった方がいいかも知れないな。あ、てか、ラウに命令すればおとなしくでき……あまり奴隷扱いしたくないからこの考えは却下だな。
どんな依頼があるのか見たかったのだが、なんか居づらくなったので素材の買取だけしてもらいギルドを出て宿を探すことにした。あまり安い宿だと安全面が心配だったのでそれなりの宿を取ろうとしたのだが……どの宿も直接、もしくは間接的に人間族は泊めたくないと断られてしまった。
「なんかラウティア大陸での獣人族以上にこっちで人間族が嫌われてないか?」
「レオロイデの件のせいかも知れませんね」
「…………」
「まったく、兄貴は他のやつらと違うのに! 兄貴はすげぇのに!」
いやいやラウ、個人に対してじゃなく人間族ってことに対して嫌いって言われてるんだから凄いとか言った所で意味ないだろ。嬉しいけどな、後で肉を買って撫でてやろう。って、レイまた無言か……フォローしてくれとまではいわないけど一言くらい何か言ってくれてもいいんじゃないか?
宿の確保ができずに町の中なのに野宿しないと行けなくなりそうだと困っていたら可愛らしいウサギ耳のついた少女に『お兄ちゃんたち、宿を探してるならうちに泊まればいいよ』と言って半ば強引に手を引かれて一つの宿へ連れ込まれた。
「お母さーん! お客さん連れてきたよー!」
「サースあんたは、また無理やり連れてきたんじゃないだろうね!」
「そ、そんなことあるわけないじゃない。ね、ね~お客さん」
サースと呼ばれたうさ耳少女は上目遣いで俺に助けを求めてきた。
ま、宿に困ってたのは確かだし、見た感じまともな宿屋っぽいから宿泊できるならここでもいいんだけど……人間族は大丈夫なのかな?
「え~と、はい。宿泊希望ではあるんですが……その、俺は人間族なんですけど……大丈夫でしょうか?」
「ん? 何族だろうと別に構わないよ。ただし! 暴れたり悪さをしたら神様でも叩き出すからね」
サースの母親はこの宿屋『ウサギの憩い亭』の店主で名前はサラサといい、何族に対しても別に差別感情を持っておらず客は客というスタンスらしかった。他の宿を探しても宿泊できるところを見つけれるか分からなかったのでこの宿に宿泊する事を決め食事はいろんなとこで食べて見たかったので別にしてとりあえず三泊する事にした。
部屋に行く前についでに食堂で夕食を食べたのだが、どの料理も美味しかった。そしてなぜかサースちゃんも同じテーブルに自分用のイスを持ってきて一緒に食べていた。ちなみにうさ耳が気になってサースちゃんの耳をプニプニしてたらサラサさんに頭をトレーで叩かれた……横じゃなく縦でね。
「今度やったら叩き出すよ」
「……はい、すみませんでした」
殺意や敵意が無いとシューティングゴーグルの防御機能が働かないんだな……部屋に戻ったら『魔法アプリ』で回復しておこう。
部屋に入りそれぞれ獣人用の服に着替えることになった。レイも強制的にね。だって、ルカに聞いたところハーフだと尻尾やケモ耳のどちらかが無かったりするのが普通だが、レイは特殊で両方あるから普通にしてれば大丈夫だろうとの事だったし。髭とかなくても平気なのか聞いても見たが獣人族でも髭が生えない体質の人もいるらしかった。どうやらと言うかやっぱりと言うか……レイはただ恥ずかしいからフードを被っていたかっただけのようだ。
そして、寝る前にみんなのブラッシングをする事にしたのだが、香りのあるオイルだと魔物とかにバレる可能性もある事を考慮して無臭のオイルを使ってブラッシングをすることに、もちろん俺がみんなにね! ラウとルカは頭だけで尻尾はブラシでは無く、手にヘアオイル少量をつけてオイルが均等に馴染むように撫でた。
ちなみにレイはハーフだからフードをとれないと言ってだました罰として俺が満足するまで尻尾をたっぷりモフってからブラッシングした。
――至福のひと時でした。特にレイのモフモフ尻尾がライドドッグに負けない程手触りもよく何とも。って、この後の事を相談しないとな。
「さて、とりあえずコーレア村に近い町まで来たけど、この後どうしようか? 一気にコーレア村へ行くかそれともこの町で情報を仕入れてから向かうか」
「そうですねコーレア村にまだ孤児院がまだあるのかもわからないですしね……」
あ、そこまで考えてなかったー! 孤児院はコーレア村に今も存在してるもんだと思ってたからコーレア村に行ってみたら孤児院潰れましたとか言われるなんて事は考えもしてなかったよ。ルカはこの中で一番年下のはずなのに、なんでこんなにしっかりしてるんだろうな?
「う~ん、俺はどっちでもいいぜ。兄貴が決めてくれよ」
「…………」
それでいいのかラウ、孤児院はお前が長年過ごした場所じゃなかったのか? レイは……うん! 相変わらず無口だね!
「ルカの言う事ももっともだと思うんで、取り合えずコーレア村に関して、特に孤児院に関しての情報を中心に他にも色々情報を集めてからコーレア村へ向かう事にしよう」
「「「はい(おう)(……)」」」
「あ、それとレイは今まで着てただぼっとしたフード付きローブは没収ね。買った獣人用の服とローブ着ろよ」
「え……ひどい……鬼……悪魔……リン」
「なぜ俺の名前が鬼や悪魔と同列になってるか問い詰めたいとこだが、とにかく新しく買った服を着ろよ。あ、ちなみに新しく同じようなフード付きのローブを買ってきて着るとかは禁止な!」
翌日、サースちゃんが『今日はお手伝いお休みだから遊んで~』って部屋に来たのでどうせなら病気だった事もあり孤児院でもあまり他の子と遊んで無かったと言うルカと遊んでもらう事にした。一応心配だったのでずっと見守っていたんだけど、ちょっとぎこちなさはあったがこれといって大きな問題もなく二人とも楽しそうに遊んでいた。
へ~、ルカでもあんな無邪気な顔ができるんだな。いつも大人びた顔ばっかりだったからちょっと新鮮だな。
ん~、元の世界の常識と照らし合わせていいものかとも思うんだけど……ルカくらいの歳の子なら遊びたくて当然だよな。俺もルカにちょっと頼っちゃってるとこあったかもしれないし、少しくらい子供らしく遊ばせてやりたいな。サースちゃんと会えたのはいい機会だし何とか考えてみるか。
考えた結果、俺たちが宿の手伝いをする代わりにサースちゃんとルカを一緒に遊ぶ時間を作って貰えないかサラサに聞いてみることに決め午前中から昼食の時間は忙しそうだったのであとで聞いてみることにし、とりあえずギルドへ情報収集に行くことにした。
みんなには後で相談しないとな。ま、相談というか言いくるめる事になりそうだけど。
ギルドに到着し青狼族の多く住んでいる町などに心当たりはないか、この辺りのダンジョンについての情報、コーレア村に孤児院はまだ存在しているか等を聞いた。
青狼族は割と閉鎖的なのでどこかの森の深い所に集落でも形成して住んでるのではと言われた。
ダンジョンは犬車で3日ほど行った町の近くにあり、難易度は普通で詳しくはその町で聞いて欲しいと言われた。
コーレア村はラウ達がいた頃からこれといって変わった事は無いようで、孤児院は今も存在しているという事が分かった。
いまさらながらみんなで一緒にくる必要なかったな。あ、でも俺一人だと話も聞いて貰えない可能性もあったしこれでよかったと思っておこう。
その後、町の食堂で昼食を食べ宿の手伝いをしたい件をみんなに話してみた。
「あの、やはり宿の手伝いに関しは、リン兄さんは休んでいてくれても……」
いやいや、それじゃ意味ないだろ!
「ん~、俺は宿の手伝いより兄貴と狩りとかしてた方が……でも、ルカのためってんなら手伝っても……でも俺なんかに宿の手伝いできるかな?」
さすがにルカの事が絡むと折れるか。
「…………人前に……出るなんて……死ねる……かも?」
ちょっとは人前に出ることに慣れろ。
手伝いに関しては確かに手伝う事でサースちゃんがルカと遊べる時間を作りたいと言うのが本来の目的なのだが、ラウが俺に依存しすぎている気がしたので宿の手伝いをさせて他の人と交流を持たせるようにしたいと言うと、レイは人見知り過ぎるから食堂で接客させる事で慣れさせたいという事もあって今回の件に巻き込んだのだが、三人とも納得してくれなかった。しかし、何とか説得し(半ば強制的に)最終的には宿の手伝いをすることを了承して貰えた。
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