第五十四話 ウサギの憩い亭

 宿に戻り、ちょうど余り客もいなかったのでサラサに宿の手伝いをする代わりにルカとサースちゃんが一緒遊ぶ時間を作って貰えないかと言う事を相談する。ちなみに『ウサギの憩い亭』は店主のサラサ、調理担当として旦那マウル、その補佐の長男マルト、フロアと洗濯担当の長女サレン、雑用担当の三男マルン、そして次女サースちゃんはまだ幼いのでお手伝いと言った感じの家族経営で、次男であるマウダは別の町の食堂に住み込みで料理修行しているとの事だった。ただ、忙しい時間帯だと手が回らないのでその時間だけ人を雇っていた。


「――で、話は分かったけど……あんたらはどんな手伝いができるんだい?」

「それに関しては考えてあります。えーとですね――」


 サラサとの相談からの交渉の結果、宿泊日数は一週間追加でその間ラウは薪割りや荷運びなどの力仕事を中心に手伝い、レイは食堂で接客と掃除を担当、ルカはサースちゃんと遊ぶ以外にたまに接客(これもサースちゃんと一緒にする事に)をし、俺は料理の手伝いと掃除をする事に、さらに追加で三食賄いを出してくれるという事で話がまとまった。ただし、あまり問題があるようならこの話はすぐに取り消しと言われたけど、まぁそりゃそうだな。

 ちなみに夫であるマウルも同席していたのだが、何か言おうとするたびにサラサに睨まれて黙って最期の方は完全に空気と化していたのが不憫すぎて直視できなかったよ、強く生きて欲しいものだ。


 何とか話がまとまったな。とは言え、ちゃんと宿の仕事ができるかどうか……特にレイがね。


 宿の手伝いは翌日から始まったのだが、基本的に一名を除いてちゃんと仕事をこなせていた。そしてその一名はやはりレイ、洗い物くらいの作業ならたどたどしくはあったがまだできていたのだが、接客となると注文を取るのも……と言うか注文を取りに行くことさえできずにいた。それでも次第にたどたどしくではあったが接客できるようになってきて、レイの容姿もあってたどたどしさが逆に愛らしいと男性客に人気がで出していた。


 レイも何とか接客できるようになって来たな……っていうかたまに俺が接客に行くと男性客から睨まれるのは納得がいかん! おまえら飯食いに来てんじゃねぇのかよ! ま、俺も男なんかよりレイに接客して貰いたいとは思うけど、それはそれだ! あ、あいつらレイにいやらしい目を向けてないか? もしレイに手を出したら即撃ち殺そう……。


 ルカとサースちゃんの方はどうかなと思って心配していたが、ルカも年の近い子と遊ぶことが楽しかったようで嬉しそうに二人で遊んでいた。

 ルカが年相応にはしゃいでいるのを見てちょっと安心したが、ルカの事だから俺に気を使って楽しんでるふりをしているんじゃないかと思い直接聞いてみることにした。


「ルカ、サースちゃんと遊ぶのは楽しいか? もしいやいや遊んでるんなら言ってくれ」

「サースちゃんと遊ぶのは本当に楽しいです! なんかリン兄さんに申し訳ないくらいです」

「別にそんな申し訳ないとか思わなくていいから。楽しんで遊んでくれてた方が俺も嬉しいから」

「は、はい……ありがとう、リン兄さん」


 接客に関してはルカの学習能力が高くすぐに宿の誰よりもうまく接客できるようになっていた。しかし、相手をする客に合わせた接客法まで披露しチップまで貰う……と言うか、せしめてるのを見たときはちょっと怖さを感じてしまった。


 なんかもうルカの子供らしい態度が素なのか演技なのか分からなくなってきたな……で会った頃は純真な子だと思ってたのに……こんな風になったのって、もしかして俺のせい? 


 宿の仕事にも慣れ、これといった事件も起こらず(ルカが上手に接客しているのを見たレイが落ち込む事件はあったけど)約束でもあった一週間が過ぎ、ルカとサーラちゃん仲良く遊んでいるのを見てもうちょっとここにいてもいいかと思いサラサに相談したら今後は一週間毎に更新する事に決定した。(サラサの独断で)

 更新の際サラサに全員同時に休まれると困るけど一人ずつ休日を取るよう言われた。情報収集以外これといってする事も無かったので、人間族が一人でという事に不安を感じつつもギルドへ行き魔物討伐依頼を受け狩場で狩りをしていると後から来た獣人たちに絡まれた。しかしその獣人たちは嫌味を言うだけでそれ以上の事はせず、ちゃんとこちらから離れたところで狩りをし始め、こっちの獲物を横取りするなんて行為も無かった。


 獣人族って俺が思ってたよりは理性的なのかもしれないな人間族よりましだな。シューティンググラスにも反応ないようだから殺意や敵意が無いって事みたいだし……何かたまに子供がこんなとこに居ると危ないとか言ってくるのもいるし、割といい人多い?


 そんな感じで宿の手伝いとたまに魔物の討伐依頼をこなし情報集めもする生活を続けていたある日マウルにジャガイモが安く大量に手に入ったからなんか面白い料理を知らないか相談を受けた


 ジャガイモか……ポテトチップやポテトフライは揚げるための油がそれなりに高価だから避けた方がいいよな……う~ん、あとはポテトサラダ……はマヨが無いし、作るにしても玉子がちょっと高いんだよな。あ、ジャガイモ使ったサラダで変わったの思い出した!


 思い出せたのは千切りじゃがいもサラダ、試しに実際に作って見せてみた。


 レシピは――。

 1.きれいに洗ったじゃがいもの皮を剥いて千切りにして10分水にさらす。

 2.鍋に水を入れて沸騰させて、先程のじゃがいもを約1分間茹でる。

 3.茹でたじゃがいもをザルにあけ流水で冷やしてから水を切る。

 4.水を切ってる間にボールにオリーブオイルとブコショウを混ぜておく。

 5.水を切ったじゃがいもに塩をふり軽く揉むようにしつつ良く混ぜる。

 6.最後に5を4に入れて良く混ぜて、お皿に盛り付けたら完成


「――こんな感じで割と簡単にできる故郷のじゃがいも料理なんですがどうですか?」

「う~ん、面白いくて美味くはあるが……ちょっとこれじゃ物足りねぇかな? もっとこう見た目とか味にもインパクトが欲しいな」

「それじゃ、これをベースに人参もじゃがいもの様に千切りにして茹でて加えるとか焼き魚の身をほぐして入れたりハムを細切りにして入れるとかのアレンジしていくのはどうですか?」

「成程な、どんな食材が合うかとか色々試してみるみるか」


 マウルは茹でるのではなく焼いたりといろんなアレンジを加え試していき結局何種類かを試しにメニューに加え人気のある物を正式採用する事にしたようだ。


 コーレア村の情報はもう十分集まっており、他の情報は今の所得れそうにもなかったのでそろそろコーレア村へ行こうかと思っていたちょうどその時、ギルドで3日後にコーレア村へ行く荷犬車の護衛依頼が出ていたのでちょうどいいからその依頼を受注する事にした。

 

 宿に戻り、サラサに3日後に商人の護衛依頼を受けてコーレア村へ行くので宿代の精算をお願いし、差額金を受け取った。


「そうかい、行っちまうのかい」

「はい、コーレア村に用があるのもありますけど、あまり長くここにいると離れるのが辛くなっちゃいそうでしたし丁度いいかと思いまして」

「そうか、ま~無理に引き留めても何なんだけど……サースが悲しむね~」


 次の日の夜、サラサ一家がいつもよりちょっと早めに食堂を閉店しささやかなお別れ会を開いてくれてた。


「で、コーレアに何か用事でもあるのかい?」

「ラウとルカがコーレアにある孤児院の出身なので里帰りのような感じですね」

「そうだったのかい。で、あんたは……人間族だからコーレアの孤児院の出身なわけないね、そっちの嬢ちゃんは違うのかい?」

「レイはラウティア大陸で冒険者として生活していたらしいんですが、こっちの大陸出身って以外あまり詳しい事は覚えてないみたいなんですよ」


 お別れ会はコーレア村がこの町から近いから会おうと思えば割とすぐ会えるという事もあり、それ程しんみりした空気にはならず楽しい雰囲気のまま進んで行ったが、サーちゃんがうとうとし始めルカも眠そうにし始めたところで結構な時間になっていたこともありお開きとなった。

 ラウとレイにルカを任せて俺は後片付けを手伝おうとしたのだがサラサにいいからゆっくり休みなと断られたのでお言葉に甘えて休ませてもらう事にした。


 さて、夜更かしして明日寝過ごしちゃまずいしとっとと寝るか。


 翌朝、宿の仕事があるから門まで見送りには行けないからという事で宿の前でサラサたちと軽く別れの挨拶をしていると、ルカとサースちゃんが手を握り合って別れを惜しんでいた。


「それじゃ、お世話になりました」

「「元気でね(な)」」


 別れの挨拶も終え、荷犬車護衛の依頼者との待ち合わせ先であるギルドへう事にした。


「で、兄貴どこ行けばいいんだ?」

「あれ、言ってなかったっけ? ギルドで待ち合わせとなってる。時間的にはまだ余裕はあるけど寄り道しないで真っ直ぐ向かうぞ。だ・か・ら、ラウ、屋台の方を気にしてるようだが諦めろよ?」

「お、おう。わ、分かってるよぉ……」

「お兄ちゃんはもう……なんか色々台無しだよ」


 ギルドに到着し、どんな依頼が出ているか眺めながら待っていると10分もしない内に依頼主である商人がやってきた。


「それじゃ今日はよろしくお願いしますね」

「はい、これでも一応ゴールドランクとシルバーランクがいるんで安心して任せてください」


 荷を大量に積んだ荷犬車を徒歩で護衛、荷物を『倉庫アプリ』に入れてあげてもよかったんだけど、依頼はあくまでも護衛だけだったので依頼通り護衛だけをする事にしていた。ちなみに、犬車の荷台に空きがあったのでルカだけ乗せてもらう事ができた。

 ――町を出るのとほぼ同時に雪が降ってきていた。

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