第五十五話 コーレア村

 ライアスの町を出発し無言で淡々とコーレアまで行くのも何だと思い、世間話ついでに商人に色々話を聞くことにした。もちろん周辺の警戒は怠っていない。


「コーレア村へ行くときはいつも護衛を頼んでるんですか?」

「ん~、最近はちょっと魔物の出没頻度が増えてきてるって話だったから念のために依頼を出したんだよ。以前なら魔物なんてまず出ない安全な街道だったんだけどな」

「兄貴、俺が村にいた頃はたまに町へ野菜とか売りに行くときに手伝いでついて行ってたけど、この道で魔物に会った事無かったぜ」

「村から町に行って野菜売りの手伝い? ……ああ、もしかして君はコーレアの孤児院にいたことがあるのか?」

「おう! 孤児院にいたぜ」

「いくら魔物が滅多に出なかったとはいえ野生動物とか出てくる事もあったでしょうから護衛も無しに子供が通るのは危険だったんじゃないですか?」

「いやいや、それが凶暴な野生動物さえ滅多に見ないほど安全な街道だったんだ。だから極端な話、子供が一人で歩いても問題ないくらいだったぞ」


 魔物や野生動物に関しては分かったが、なんで野菜売りの手伝いに来ていたのが村の子供ではなく村の孤児院の子供だと断定できたのか不思議に思っていると、商人からコーレア村の者がライアスの町へ野菜を売りに来ていた時に、孤児院の年長組の子が何人か手伝いでついてきていたんだと説明してくれた。


 最近は魔物が活発になってきたって事か? それとも生息域が変わったのかな? ……まさか、魔人が関わってるんじゃないだろうな? もう嫌な予感しかしないな――あれ? なんか来る。

 

 明らかにこちらに向かって移動してくる存在(おそらくは魔物)を感知しこのままでは追い付かれそうだったので迎え撃つことにした。


「すみません、止まってください! 魔物がこちらよりもはやい速度でこっちに向かって来てるみたいなんでこのままでは追い付かれそうなのでここで迎え撃ちます」

「お、おう分かった。た、頼むぞ!」

「了解しました任せてください。ルカは御者台の方へ移動して待機、レイは犬車と二人をを守っててくれ! ラウは俺と迎撃だ」

「はい!(……ん)(おう!)」


 やってきたのはウッドウルフという魔物3体、狼の身体に木の根のような足が生えてる植物型なのか動物型なのか見ただけだとちょっと判断が付かない様な魔物だったが、俺はライアスで周辺に出る魔物の情報は得ていたからそれが植物系魔物のトレントの亜種で知っていたし、地面を滑るように高速で移動し速さを生かした一撃離脱の戦い方をしてくるとも知っていたので慌てずに対処する事ができたのだが。


 あれ、おかしいな? ここまでの移動速度は結構早かったのに戦闘中の動きがなんか妙に悪い様に感じるな……冬は出ないとか聞いてたし植物系の魔物だからもしかしたら寒くて動きが鈍ってんのかな?


 戦闘中に深く考えすぎるのも危険だと切り替え、ラウと一緒に一気に攻勢に出るとあっさりと殲滅できた。倒したウッドウルフをこのままにしておけないし街道脇にまとめてから処理してしまおうとしたら商人がウッドウルフを欲しそうに見ていたのでルカには悪いが犬車の荷台から降りてもらい、空いたスペースに剥ぎ取った素材を積めるだけ積み込み、詰めなかった分はまとめて処理してから先を急いだ。

 ちなみにウッドウルフは毛皮を剥ぎ取るとその姿は大きな木彫りの狼。そして毛皮の方は動物の毛ではなく綿毛で出来ていた。


 なるほどな~、毛皮を剥げば確かに植物系の魔物と言った見た目だな聞いてた通りだ。目も樹液を固めた琥珀みたいな物質だな。しかし、こんな琥珀で目が見えてたんだろうか? 


 その後は魔物も出ず順調に進んでいたのだが、ウッドウルフを割とあっさり倒せたことでラウが物足りないからもっと出て来いとか不謹慎な不満を漏らしていた。

 そして小高い丘を越えるとコーレア村であろう村が見えてきた。


「お、あれがコーレア村かな?」

「ああ、そうだぜ。懐かしいな~、院長先生やみんなは元気かな~?」

「私は小さかったからうろ覚えです。でも、院長先生が優しかったと覚えてます」

「……」


 ルカはよく覚えていなかったようだが、どうやら以前住んでいたコーレア村で間違いないらしい。レイは……ま、知らないんだから何もしゃべらないよね。ま、コーレア村まで護衛と言う依頼で来たんだから違う村なはずもないんだけど。それにしても思ってたより大きい村だな、もっと小さいこじんまりした村を想像してたのに、てか村をぐるっと壁で囲んでるんだな。


 コーレア村は魔物の侵入を防止する高さ5mはある木壁(意外なことにラウが教えてくれた。ラウのくせにね)に囲まれた割と大きな村で、コーレアに入るための門にいたのは町などでよく見た衛兵みたいに金属鎧などではなく、質素な革鎧を身に着け槍を持った門番と言った方がしっくりくる中年の男が二人立っていた。


 ん? そう言えばラウティア大陸の村などは2m程度の低い柵しかなかったような気がするけど、あれで魔物の侵入防げてたんだろうか? それとも魔物が近づかない様な仕掛けでもあったのかな?


 そんな事を考えていると門番に身分証の提示を求められたのでギルドカードを渡し門番が問題ない事を確認しギルドカードを返してくれる時に忠告してきた。


「よし、カードに問題は無いな……それにしても人間族か、問題は起こすなよ?」

「兄貴なら問題なんてが起ったってすぐ解決してくれるぜ!」

「いやラウ、そういう意味じゃないと思うぞ? (俺が問題起こすことを危惧してるんだろう)」

「すみません。お兄ちゃんには後で説明しときます」


 まったくラウは……それにしてもちょっと意外だったな、人間族という事で注意されたり嫌な顔はされたが人間族でも割と普通に村に入れてくれるんだな、てっきり『人間族など村に入れん!』とか言われてひと悶着あるかもとかちょっと不安になってたのに。


 門番にギルドの場所とラウが知ってはいるだろうが念のため孤児院の場所も聞きくと、ギルドと言っても出張所が村の中心地にあり、孤児院はその出張所の裏手を少し行ったところにある大きい建物だと教えてくれた。

 門番に礼を言い村の中に入って依頼主である御者の商人から依頼書に完了のサインをしてもらい、往路だけの護衛だったから復路はどうするのか気になったので聞いてみると、俺たちが往路だけで依頼を受けた際にちょうどコーレアにいた冒険者にギルドから復路の護衛依頼を打診しそれを受けてくれたので今回の護衛依頼が成立したとの事で、もしコーレアに護衛依頼を受けてくれる冒険者が居なかったら今回の依頼は往復の護衛依頼となっていたらしい。

 商人に別れを告げて、まずは依頼完了の報告するべくギルドを目指した。


 コーレア村までの護衛って依頼だったから帰りはどうするんだろうと思っていたらそういう事だったんだな。しかし、ギルドはどうやってギルド間で連絡を取ってんだろう?


 村の中には畑にでも行っているのかあまり人気は無く閑散としていた。ギルドに入ると中は誰もおらず、受付にさえ誰もいなかった。


「すみませーん! 誰かいませんか? 依頼完了報告したいんですけどー!」

「あ、はい! 少々お待ちください」


 奥から狸っぽい中年のおっさんが出てきた。狸でいいんだよな? 太った犬とかじゃないよな?


「え……人間族? なんでこんな村に……」

「人間族だと依頼完了の報告はダメなんでしょうか? それなら仲間に獣人がいるので、その者に報告させますが……」

「え、あ、いや。す、すみません。別にどこの種族の方でも構わないですよ! ……ただ、こんな村に人間族の方が来るとは思ってなかったんで、ちょっと吃驚しただけです。人間族なんて久々に見たし」

「そ、そうですか、それじゃこれが依頼書です」


 受付のおっさんは狸人族で名前はマルトそしてなんと21歳だった。40歳くらいのおっさんだと思ってたのは言わずにそっと胸にしまっておく事にした。

 ギルドの事について聞いてみると、このギルドは出張所でギルドマスターは存在せず、職員が3人で初回冒険者登録、依頼の受注と報告の受付、素材買取業務をしているという事だった。ただし、魔物の解体などはこのギルドではしておらず自分で解体できないなら猟師をやってる村人に頼むか町まで行って解体してもらうしかない、ここでは冒険者ランクの更新はアイアンまでしかできないためブロンズになるためには町まで行かないといけないという事だった。

冒険者ギルドコーレア村出張所の説明を聞き、解体は『錬金アプリ』でやればいいから問題ないし、ランクも今の所上げる予定はない、ルカはランクを上げれるならすぐに上げたいと言ってたけど、そこはまぁラウと要相談かな?


「こちら報酬になります……あの~、差し出がましいのですが、この村人たちは人間族の方なんてあまり見た事が無いので警戒されてしまうと思いますが、あまり刺激しないようにしてくださいね?」

「なんだよ! 兄貴はすっげー優しくて強いんだぞ! 警戒する必要なってねぇよ!」

「お兄ちゃんはもう……」

「いや、ラウ。気持ちは嬉しいんだけど、大丈夫だからちょっと黙ろうか?」


 なんかラウが俺の事を妄信して来てるのがちょっと不安になるな。


「それであの宿屋って泊まれますかね?」

「正直言わせて貰えば難しいかと……ちなみに宿はすぐ隣の建物でこの村唯一の宿です」


 孤児院行く前に宿の確認しておくか……あんまり期待できなそうだけど、一軒しかないんだしそこに行くしかないよな。


 狸……もといマルトに礼を言ってギルドを出て隣の宿へ行くと『コーレアの宿』と看板に書いてあった。中に入り宿泊できるか聞いたのだが、人間族は泊めたくないという事を遠回りに言われ部屋をとることができなかった。


 やっぱりダメだったか……こりゃ野宿するか町に戻るしかないな。う~ん、考えても仕方ないし目的でもあった孤児院に行くか。


 とりあえず孤児院へ行ってみると、そこには古びた木造の大きな建物が建っていた。


 これが孤児院か? 孤児院って言うからもっとこう教会のようなものを想像していたんだけど、なんか田舎の廃校みたいだな。しかもかなり時間が経過して劣化したやつ、雨漏りしてて床板が腐っててなんか踏み抜いちゃったりとかし様な感じのやつ。って、思考が脱線してしまったな。


「えーと、なんか思ってたのと違うんだけどこれが孤児院なのか?」

「おう(はい)」

「へ、へぇ~。そうなんだ~」


 やっぱりこれが孤児院で間違いないらしい。お、なんかロップイヤーの様な垂れ耳の女性がいるけどここで働いてる人なのかな?


 孤児院の前でホウキで掃除している女性がいたのでちょうどいいから現在の孤児院の事聞いたりラウとルカの事を話すため声をかける事にした。

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