第五十六話 ルブラ院長
孤児院の前で掃除をしている女性(よく見ると結構若い感じ)に声をかけようとするとラウがその女性を指をさして声を上げた。
「あ、院長先生だ!」
「へ?」
な、なんですと! あれが院長だと……若! 院長先生若! てっきり年配の人が院長やってるんだと思ってたよ! しかも垂れ耳兎だし! 結構かわいい感じだし! 兎だし! ウサギだし! ロップイヤーだし! う~ん大きくて垂れてるうさ耳もいいな~、昔飼ってたホーランドロップを思い出すな~。キャベツ出したら食べるかな?
などと失礼なことを考えていると、ラウの声に院長先生がこちらに気づき目を見開いて驚いて
「え……も、もしかして、ラウくんにルカちゃん……なの?」
「おお(はい)!」
「え、え、えええ~~! な、ほ、本当に……よく無事で、夢じゃないわよね? ん? 隣にいるのは……え、に、に、人間族ーーー! な、なんでここに人間族が、早く子供たちを逃がさないと! ま、まさかラウ君とルカちゃんはこの人間族の奴隷に……もしかして私も人間族の毒牙にかかる運命? くっ、せめて子供たちだけでも守って見せるわ! そう、そして子供たちを逃がした私はこの悪の人間族に捕まって言葉では言えないような目に合って最後に売られちゃうんだわ……このケダモノー!」
あ、なんかこの人妄想世界に行っちゃってないか? そして俺って悪者認定されてない? それにしても、人聞き悪いからちょっと黙ってくれないかな~? 一応、失礼かもと思ってフード取ってたのが裏目に出たな。『ケダモノー』って獣人のあんたの方がケダモノなんじゃないの? ってツッコミはしない方がいいんだろうな。
「何言ってんだよ院長先生。確かに俺は兄貴の奴隷だけど兄貴は酷いことなんてしないぜ!」
「ラウ君がすでにこの悪魔の餌食になって洗脳されてる!」
ラウ……そこで『兄貴の奴隷だけど』って言っちゃうか~。院長は院長でなんかすっごい理不尽な言いがかりなんですけど! 人聞き悪いからちょっと黙ってて欲しいんですけどー! ……そして、ラウとルカが俺の奴隷だという事をちょっと忘れてたな。奴隷のまま連れてくればあらぬ誤解を生むくらいちょっと考えれば分かったはずなのに……失敗したな~、どうごまかせばいいものやら。
「リン兄さんはとても優しい方です」
「こんな小さな子にまで手を出すなんて……この変態! 性犯罪者ー! ま、まさかラウくんもすでに……私はラウくんにまで先を越されたの?」
いや、マジでちょっと黙ってくんないかなこの人……誰かに聞かれて誤解されたら捕まっちゃうから本気で黙って欲しい。てか、その『ラウくんにまで先を越されたの?』ってのは何の事だ? 気になるが聞いてはいけない気がするな。
「小さい子なら男の子でも女の子でもどっちでもいいんですか! この変態悪魔ー!」
「……プッ…………フフフ」
この院長妄想が凄いな、ここまでくるといっそどこまで行くのか見てみたい気がしないでもないんだが……なんか今までにないくらいに精神にダメージを負ってる気がするし早目に止め……てか、レイは何故に笑ってるんだ? 俺が変態扱いされてるのを見るのがおかしいとでもいうのか? あ、レイのやつ睨んだら目をそらしやがった! くっそ、後で尻尾をモフモフし倒してやるからな! てか、マジでいい加減止めて説明しないと変質者として捕まりそうだな。
「あ、あの、ですね。俺は一応人間族みたいな者ですが決して怪しい者ではありません」
「う、嘘よ!人間族はそうやって安心させておいて攫っていくのよー!」
「兄貴はそんなことしねぇよ! 美味しいご飯くれるし、ふかふかのベッドに寝かしてくれるし、美味しい肉食べさせてくれるし。それにルカの病気――」
あ、奴隷制約に引っかかったな、なんかタイミング悪いな~。てか、ラウよ、お前の中ではご飯と肉は別物なのか? それとも大事なことだから2回言いました的な何かなのか?
「ふかふかのベッド……ラウくんとふかふかのベッド、やっぱりそういう事なのね……そうよね、私みたいなおばさんなんかよりラウくんの方がましよね」
「えーと、院長先生は十分若くてかわいいと思いますよ?」
「え! わ、私まで狙われてるーーー! や、やっぱり人間族なんてケダモノだわ!」
「どうしろってんだよ!」
「リン兄さんは私の病気を治すために手を尽くしてくれて……えーと、貴重な薬をいただき病気が治りました」
さすがルカ! 言葉を選んだナイスフォローだ! ラウとは違うなラウとは。そしてレイは少しは俺を擁護するとかしてくれんもんかね? 笑ってないでさ!
「え、本当に? 本当にこの悪魔……変質者……えーと、変態がルカちゃんの病気を?」
「いや、言い直せてませんからね! まぁ、とりあえずそれは横に置いといてまずはこちらの話を聞いてはもらえませんか?」
さすがに黙っていられずツッコミを入れてから一通りこちらの事を話すと何とか分かって貰えたようで兎の院長先生の事も教えてくれた。
名前はルブラといい年齢は29歳、元々この孤児院の子供で成人してからも孤児院に残りずっと手伝いをしていたのだが、前の院長が病気で亡くなる際に院長を引き継いだそうだった。
この孤児院はどこかから融資があるわけでもなく自分たちで稼いだり村の人たちから食べ物を貰ったりして暮らしているそうだった。
ちなみに、一般的な獣人族の婚期は25歳くらいまでであった。
「さて、それじゃラウとルカは孤児院に残っていいぞ。俺とレイは町に戻る……って、もう結構いい時間だな。どうしよ?」
この後どうしようか悩んでいるとルブラ院長から思わぬ提案が示された。
「泊るところが無いのでしたらここでよければ泊って行きませんか?」
「え、人間族だけどいいんですか?」
「う~ん、ラウくんやルカちゃんの様子から危険な人間族ではなさそうですので変な事をしないでおとなしくしていただけるのでしたら構いません」
警戒はされてるようだが泊めてくれると言うならありがたいな。今から町に戻るとなると真っ暗な中の移動になっちゃうだろうし、野宿するにもちょっと寒すぎるしな。
ただで泊めてもらうのも気が引けたのとちょっとでも印象をよくするために町でも手に入る様な食材を使って料理を振舞う事にした。
さて、何を作ろうかな? 下手にこった物よりいつでも食べれるように安価な食材で作れるものの方がいいだろうな……野菜を切って出た野菜クズを使って野菜スープを作りそれに切った野菜とイモを加えてポタージュスープ、それだけじゃ物足りないからパスタと肉も加えてポタージュパスタを作るか。
作った料理を子供たちは「おいし~」「うめぇ!」「うま~い」と味については好評だったのだが、うまくフォークを使えない子たちが食べづらそうにしていた。
う~ん、これならパスタよりラビオリとかワンタンにした方が小さい子には食べやすくていいかもしれないな……なんかテーブルや服が汚れてえらいことになってるし。
「う、嘘……わ、私が作る料理より美味しい……あんな材料でなんでこんなに美味しいものが」
「……よければ後でもうちょっと食べやすいようにしたレシピ教えます」
「ぜひお願いします!」
打ちひしがれていたルブラ院長、そして教えて欲しそうにこちらを見ていた年長組の数人に食後片づけをした後にレシピを教えてから、ここを使ってと言われた物置にしていたと言う部屋を片付け『倉庫アプリ』からベッド(大)を2つ出し真ん中に衝立を立てて男女に分かれて寝ることにした。
このベッドどこから出したのかとか不思議に思われるかもしれないけど、地べたで寝るには寒すぎるしここは自重しないぞ!
翌朝、外を見ると雪が積もいり一面銀世界となっていた。
「平地でこれだけ積もってるならライアスの駅犬車は春になるまで休業になるでしょうね」
「ライアスから他の町までは遠いんですか?」
「ええと、ライアス周辺にある町と村はこの村と港町だけですね、他となると峠越えをした先に大きな町があります。峠なのでここより大分雪が積もっているはずなので普通の犬車は通行禁止になってるはずですよ」
となると春までは足止めか……ライアスに戻った方がいいかな? でも、この孤児院やたらみすぼらしいし子供たちも何か元気がないような感じでちょっと気になるんだよな……昨日の料理とか今朝出した朝食とかの食べ方見てるとまともなもの食ってなかった感じもするし……ラウとルカが育った場所だしこのまま見て見ぬふりするのもなんだし何日か泊めてもらえないか聞いてみるか。それに、ラウとルカをどうするかも決めないと……って、もう答えは出てるような物なんだけどな。
「あの、食材とかある程度提供するのでしばらく泊めていただくことは可能でしょうか?」
「えーと、その食材の提供と言うのはどこまでの事でしょう?」
全部出すと言ってもいいんだけど……あまり頼られ過ぎるのもな~。夕食くらいならいいかな?
「孤児院全員分の夕食分をこちらが出すと言うのでどうでしょう?」
「全員の夕食分の食材ですか、こちらとしては助かりますが……そんなに荷物をお持ちには見えないんですけど」
ま~、見た感じそんなに荷物持ってるようには見えないよね? さて、大容量と言わなければアイテムボックス持ってると言って問題ないはずだし、それでいくか。
「そこそこの容量があるアイテムボックスを持っているので……」
「そうなんですか、それは羨ましいですね。分かりました、どうせなら春になるまでいてくれて構いませんよ。……正直、冬を越せるか心配だったので食材を分けていただけるのは助かりますし……」
んんん? 冬を越せるか分からない? なんでだ? この村は毎年そんななのか孤児院だけが特別貧しいのか……どうなんだろ?
「冬の季間の収入ってどうなってるんですか?」
「え、えっと、それがですね――」
本来冬は手仕事で作った物や狩りに出る村人と一緒に林へ行き薪拾いなどをして狩った魔物などと一緒に薪をソリに乗せて村まで戻り、その薪や手間仕事で作った物などを載せたそりをライドドッグに引かせてライアスまで売りに行っていたのだが最近は魔物の出没頻度が多く村人だけでは多くの子供を守り切れないため年長の子だけで薪拾いをしているので収入が減ってしまい、冬を超すために節約しないと行けなくなったので子供たちにちゃんとしたものを食べさせる余裕が無くなっていたそうで、それは孤児院だけの問題ではなく村全体の問題でもあるらしい。
「そうなんですか……」
後でライドドッグ見せてもらおうかな……いや、見るだけじゃなく触らせてもらおう! てか、ライドドッグソリって語呂が悪いし犬そりでいいな。
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