第五十七話 冬の狩り
俺と院長が話しをしているとラウが院長の話の中で出た『狩り』という言葉に反応してきた。
「なぁなぁ兄貴、俺達も狩りに行こうぜ!」
「あ、まった。ルブラ院長、ここら辺って普通に狩りができるくらいの雪しか積もらないんですか?」
「いえ、今はまだそれほどでもないですが、数日もすればまともに歩けないくらい、そうですね……私の腰くらいまでは積もりますよ。あ、それと『ルブラ』もしくは『院長』でいいですよ……できれば『ルブラ』の方がいいんですけど、この村だと誰も名前呼んでくれないし」
「え、えーと、とりあえず院長で。そ、それで、そんなに積もるなら薪拾いや狩りは無理なんじゃないんですか? 後どんな魔物が出るんですか?」
薪拾いは雪が降る前に一気にやるのだが町で需要があるため冬でも多少は薪拾いに行っており、まず狩りに行く大人が雪を踏み固めて狩場まで道を作り、その後を子供たちがついて行き狩場に到着したら辺りを踏み固めてある程度足場を確保してから狩りや薪にできそうな枝拾いをする。狩りは基本は弓で行い薪拾いは狩りをする村人の目の届く範囲で行わせる。
この辺で出てくる魔物はログウルフと言うちょっと大きい狼型の魔物とホーンラビット。特にこの地域のホーンラビットは冬になると真っ白な毛に毛変わりして雪の上だとどこにいるか分からなくなるから厄介なのだそうだ。
それだと移動が大変そうだな。なんかいい方法ないかな? ……あ、かんじきでも作ってみるか。ホーンラビットは保護色みたくなるんだな……ま、俺の場合はスマホとシューティングゴーグルの機能使えば効果範囲に魔物とかいれば見つけれるだろうから問題ないな。
かんじきは『錬金アプリ』を使えば簡単に作れるのだが、あまりスマホ関係の能力を見せたくないのとどうせなら孤児院の子たちにも作らせてみようかと思い手作りしてみることにしたのだが、これが思いのほかうまくできたので『これなら売り物になるんじゃね?』と思い、手先の器用な村人にも作り方を教える事ができないか院長に相談すると村長に相談した方がいいと教えられ村長宅へ行き話をする事になった。
「これが『かんじき』とかいうものかの?」
「はい、これを靴に縛り付ければ雪の上を歩きやすくなります」
「ほう、これは中々――」
商品になるか村長などに意見を聞くと売れると思うからある程度数を揃えて町に売りに行こうと提案されたので村の中でも手先が器用なものを数名集め集会場でかんじきの作り方を教えることになった。
村人の中でも特に上手に作っていた(俺より上手に作ってた)農機具なんかを作ったりしているというダイロという青年に5足のかんじき作りを依頼し、他の仕事があまり滞らない様に孤児院の子供たちも何人か工房で手伝わせる事で話がまとまった。ちなみに、かんじき作成の依頼料は元より孤児院の子たちへのお手伝い賃も俺がちゃんと出したよ。
「それじゃダイロさん。かんじきつくりの方は頼みますね」
「おう! 農機具の修理とかいつも変わり映えしない物ばっかりでなんか変わった物作りたいと思ってたとこなんだ、喜んでやらせてもらう」
翌日、雪が20cmくらい積もっていた。このくらいなら普通に歩けそうだったが、かんじきの使い心地と耐久度などを確かめるため、あえてかんじきで村を歩いて回ってみたが概ね問題は無いようで十分満足のいく出来だった。
かんじきの有用性が確認できたところで、後日狩りに行く村人のレンゴとラウと孤児院の年長の子を数名連れて薪拾いに行くことになった。
ちなみに、狩った獲物を運ぶためのソリを持って行くことになったのだが、何故犬ソリじゃないか聞いたところラウドドッグは貴重な輸送の要なのでわざわざ危険な魔物がいる所へは連れていけないと言う事だった。
このソリ……ソリって言うか犬車の幌と車輪とって滑走部の丸太を取り付けただけの物だから無駄に大きくて無駄に重いんだよな~、滑りも悪いし……こんなの人の手で引くとか勘弁して欲しいんだけど……今は時間がないか仕方ないとして、後で改良してやるかな……あ、あああ! かんじき作りやら何やらでライドドッグを触らせてもらうの忘れてた……不覚。
村から少し離れた林の中を索敵系の機能を使いつつ周辺を警戒しながら進んだが道中魔物の反応はまったく無かった。とりあえずいつも狩りしている場所だと言う木々が開けた所で止まった。
「よしゃ、俺ぁここで魔物が出るのを待っとるから目の届く範囲で薪拾いしとってくれ」
「はい、それじゃ子供たちと一緒にちょっと行ってきますね。ラウはレンゴさんと一緒にここに残って警戒しといてくれ」
「おう」
いつもは俺が警戒厄をしていたのでたまにはラウにも戦うだけじゃなくこういう経験させるのもいいかと思い、レンゴとラウに魔物の警戒を任せて俺は子供たちと一緒に薪拾いをしていたのだが念のために切らないでいた索敵機能に何かが引っかかった。
あれ、いつの間にか魔物の反応があるな。目で見ただけだとどこにいるんだか全然わからないけど前方にある木の下あたりに反応がある……あれかな? あの雪の塊のように見えるのが魔物かな? ちょっとレンゴに聞いてみるか。
「あ、すみませんレンゴさん。あそこの木の下の雪の塊ってホーンラビットですかね?」
「ん、どこだ? ――お、あれか! 良く分かったな。ありゃ確かにホーンラビットだ」
レンゴはすぐに弓を射掛け、見事に矢が目標に命中すると雪の塊が赤く染まった。
おお、さすが普段から狩りしてるだけあって見事なもんだな。しかし、保護色のホーンラビットって本当に雪と見分けがつかないな。こんなのラウじゃみ付けられないだろうな~……ま、俺もスマホが無けりゃ見つけれなかったんだけどな。
そんな事を思っている間にラウが倒したホーンラビットを持って帰って来て『これだと戦う時に思うように動けなくなりそうだぜ』と不満を漏らしていた。
ま、普通に歩くならまだしもやっぱり戦闘だとかんじきをはいたままじゃ戦い難くなるのは当然だよな。ここは雪を踏み固めて戦闘場所を確保した方がいいようだ。かんじきは狩場までの移動とかに使う感じがいいかな~? ま、俺は『魔法アプリ』で固定砲台みたいなもんだからかんじきのままでもいい気もするけど。
周りを踏み固めて足場を作り、基本的に今通ってきたところなら魔物もほとんど出ないとの事だったので子供たちは後方の目の届く範囲で薪拾いをしてもらう事にした。
「それじゃ俺が子供たち見とくんで、レンゴさんは狩りの方に集中してて大丈夫ですよ。あ、ラウはレンゴさんの護衛を頼むな」
「お、そうか。んじゃ、こっちは任せるな」
「肉いっぱい取って来るぜー!」
……ラウよ俺は『護衛を頼む』て行ったのであって『肉を頼む』とは言ってないぞ? 本気でラウの教育考えないとダメかも知んない。
結局、薪拾いの最中子供たちが魔物に襲われることも無く、狩場の方ではレンゴがほとんどの魔物を一矢で倒しラウがつまらなそうにしていたので最後の方はレンゴに頼んでラウに魔物の相手をさせてもらった。
ちなみにログウルフは狼と言うより大型犬と言った見た目の魔物だった。
「兄貴―! 肉いっぱいだぜ!」
「そんじゃ、そろそろ血もある程度抜けただろうし獲物をソリにのっけて帰ぇるか」
「レンゴさんお疲れさまでした。ラウもお疲れさん。それじゃ積んじゃいますね」
倒した魔物と薪をソリに積んで村へ帰る事にしたのだが、ソリが重くて進むのに苦労した。
このソリ重い! もう無理! こんなの村まで引いて帰るなんて勘弁して欲しいな。村に戻ったら改良しよう……とりあえず、少しでも軽くするために狩ったログウルフを何体か『倉庫アプリ』に入れていくか、全部入れるんじゃなきゃ問題ないだろ。
「あ、あの~、アイテムボックスに空きがあるんで何体か入れていきますね」
「なんだよそんな便利な能力持ってたのか。今日はちょっと獲り過ぎちまっていつもより重かったし頼むわ」
多少軽くなったそりを引きながらの帰り道、周りを眺めながら歩いていると一つの木に目が行った。
「レンゴさん。あの木って楓ですか?」
「ん、どれだ? ――ああ、あれか。確かにありゃ楓だな、別に珍しくもない普通の木だぞ?」
「やっぱり楓でしたか」
「ん、兄貴。あの木が気になるのか?」
ラウ……『木が気になる』と言うダジャレじゃないだろうな? って、異世界言語の変換のはずだからそんなわけないのか? ま、それはいいとして。楓ならメープルシロップが取れるんじゃないか? えーと、確か雪解け間際に採るとかTVで見た気がするな。こっちの世界でも同じか分からないけど道具作って試してみるか。
「うん、ちょっとな。もしかしたらあの木から採れるもので美味しいものが作れるかもしれないんだけど……多分採集時期がまだ早いと思う」
「なんだ兄ちゃん。あの木の実食えんか? この村にずっと住んでっけどあの実が食えるなんて聞いたことねぇぞ?」
「いや、欲しいのは実じゃないんですけどね……多分春前くらいが採集時期だと思うんでその時に採集して試してみます」
狩りと薪拾いも終わったので村へ帰ることになったのだが……ふと、いままで倒してきた狼系の魔物は味が良くないと聞いていたので、食べることなく(他に美味しい魔物の肉があったため)全て売却処分していたから実際食べた事が無かった事を思いだした。
そこで、ログウルフの肉は他の狼系の魔物より美味しいのかと気になったのでレンゴに聞いてみると、ログウルフの肉は他の狼系の魔物の肉よりは多少質がいいのだが、それでも猪系などと比べると筋張っていて硬く味の方もあまりよくないという事だったが、それでもこの村では冬の間の貴重な肉だという事だった。
ただし、それは冬の間の事で雪解けと共にログウルフとホーンラビットの数が減り、強さ的には大差がないがより肉質のいい猪系や鳥系の魔物が出て来くるらしい。他にも冬眠明けの野生動物なども出るのだが主に魔物を狩るらしい。
へ~、季節によって出る魔物が違うのか。野生動物を主として狩らないのは野生動物保護かなんかなのかな?
村に着きまずは村長宅へ向かい村長へ猟の成果報告をしたのだが、分配の話になった所で肉はまだ『倉庫アプリ』に大分残っていたのでわざわざおいしくない肉を貰うことも無いかと自分たちの取り分はいらないから村の人たちで分けてもらいたいことを告げると村長にすごく感謝された。
それにしても、あのソリは使いにくかったな~、もうちょっと軽量化して滑りもよくしたい……『錬金アプリ』を使えば簡単にできるんだろうけど……村の人でも作れるようにしたいから『錬金アプリ』は使わずにダイロと相談しながら改良してみるか。
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