第五十二話 獣人冒険者と遭遇

 種族差別があまり無い町のようだったので、夕食までは自由時間として時間になったら広場にある噴水の南側に集合する事にして各自必要な物の買い出しをすることににした。


 さてと、軽く町を見て回ってからあのでっかい犬を見に行くかな。


 俺は珍しいものは無いか雑貨屋などを中心に見て回り、その後に駅犬車に行きライドドッグを育てている牧場や販売している場所を聞いた後に待機中のライドドッグをモフらせてもらった。ちなみにライドドッグは理由は判明していないが他の大陸だと長く生きられないため大陸外への輸出禁止動物に指定されていてバレれば死罪になるそうだった。


 いや~、いいモフっぷりだった! モフ死にするかと思ったぜ! なんだろう、こっちの世界にきて一番うれしい出来事だったかもしれない! こっちの大陸で暮らせるならライドドッグを飼いたいな~……さて、ちょっと早いけど集合場所へ行くか。


 噴水前でみんなが来るまで暇だったのでスマホのメールチェックすると、リュースからのメールが来ていたので確認する事にした。


『クスノキさん、メールありがとうございました。ちょっとごたついていまして返信が遅くなり申し訳ありませんでした』


 ん? ごたついてたって……何かあったのか? まさか魔人関係とかだったりしてな。ま、確認のしようがないけどな、俺に関係ないことであることを祈っておこう。


 その後は愚痴のような事が延々と書かれていて、大分ストレスが溜まっているであろう事がうかがえた。そして、最後の方になってやっと有用なことが書かれていた。


『そうそう、スマホのレベルが30になれば交換できる物にいい物が出ますから期待してがんばってくださいね。それとラミルズ教に関してですが、その名前に該当する宗教、神の存在は確認できませんでした』


 お、後1レベルで30なるんだし暇を見つけて魔物の討伐依頼こなそうかな? ラミルズ教の情報は無しか……おっと、こっちの大陸に着いたことを一応リュースに報告しておくか。


 リュースへラウティア大陸に無事到着したと言うメールを送信した所でちょうどレイ達がやってきた。そして、ラウが聞いたと言う美味しい肉料理があると言う食堂で夕食を食べてから宿に戻り、明日の予定を伝えることにした。


「明日はギルドへ行って情報を集めと、なんか依頼をこなそうと思ってるんだけど……どうかな?」

「俺は情報収集なんてめんどくせぇもんより魔物と戦う方がいいぜ! 船じゃ戦えなかったからちょっと暴れたい気分だし」


 ……なんでこんな脳筋の肉好きバカになってしまったんだ? どこで育て方間違ったんだろ?


「わ、私もレイ姉さんに魔法を教わってるので少しは戦えます」

「な! ルカは戦わなくていいんだぞ!」

「……大丈夫……ルカは……優秀」

「ま~、レイが大丈夫って言うならレイにルカの事を任せる」

「……うん」


 ルカはラウの様にならずに、そのままのルカでいて欲しいと切に願うぞ。


 翌朝、起きてすぐに身支度を済ませ宿の食堂で朝食を食べてから、まずはギルドへ行きレイガス周辺の情報、現在のラウティア大陸の情報、ガウリィオ大陸にあるダンジョンの情報、さらにラウとルカが以前暮らしていたという孤児院のあるコーレア村の場所とそこまでの交通手段、青狼族が多く暮らしている場所の情報などを聞いたのだが、情報もただでは無いので対価が必要と言われたので一つ一つの情報を聞くごとに情報料を支払うことになった。

 まず、レイガス周辺なのだが、この辺りの魔物は強くてもシルバーランク程度の魔物しか出ず、群れで行動する魔物もあまり多くない、件数は多くないが稀に盗賊が出るから徒歩で街道を行く際は注意した方がいい、近辺にある町などは北に徒歩4時間ほど行くとコドル村、西に犬車で1日ほどの所にライアス町があるとの事だった。


 現在のラウティア大陸の情報は、これといって目新しい情報は無くほぼ知っている事しかわからなかった。


 ん~、これといって新しい情報は無しか。ま、別大陸の事だしこんなもんか?


 ガウリィオ大陸にあるダンジョンの詳しい情報はそのダンジョンのある町か、町が無ければ最寄りの町にあるギルドで聞くように言われ、ギルドが把握しているダンジョンの名前と場所など、当たり障りのない情報だけを得た。


 場所の情報だけか~、魔物の強さや種類なんかの情報も欲しかったんだけど……ま、近くを通りかかったらそのダンジョンの情報を改めて集めてから行くかどうかの判断するか。


 コーレア村の場所とそこまでの交通手段については、途中にあるライアスと言う町までの便が駅犬車から出ているが、そこからコーレアへは自力で移動するしかないとの事だった。ちなみに、レイガスからライアスまでは駅犬車が出ているのだがコーレアまでは駅犬車が出ていないので犬車を借りる、もしくは徒歩で行くしかないのだが、徒歩で行くとしても4時間程度の距離なのでよほど荷物があるとかでなければ徒歩で向かった方がいいと言われた。


 ラウとルカが居たって言う孤児院ってレイガスの近辺にある村かと思ってたのに結構遠いとこにあったんだな。 


 青狼族についてはこの町では聞いた事は無いが、ライアスなら内陸部との交易も盛んなので情報も集まりやすいからもしかしたら何かわかるかもしれないとの事だった。

 

 ま、どうせコーレアへ行くためにライアスまで駅犬車で行く方がいいだろうし、急がなきゃならない旅でもないんだからライアスで色々と情報収集してもいいか。


 その後、どんな依頼が出ているのか見てみるとシルバーランクの依頼で手頃なのがいくつかあった。


 出てくる魔物の強さも手ごろな様だし、懐具合も寂しくなってきたから明日にでも依頼を受けようかな? スマホのレベル上げたいってのもあるし、それにあまり依頼を受けない期間が長いとギルドランク落ちちゃうってのもあったしな、手頃な依頼があるならこなしておいた方がいいだろ……っと、その前に。


「ところでさ、みんなは獣人用の新しい服着ないのか?」(尻尾が見たいだけ)

「あ~、まだこのままでもいいや」(面倒くさいだけ)

「次の町へ出発するときに着替えようかと思ってます」(貧乏性なだけ)

「……いい」(恥ずかしいから今までの服でいたいだけ)

「そ、そっか~……」(ちょっと期待してたのでがっかりしているだけ)


 翌日は朝食後すぐにギルドへ向かい近場の魔物討伐と薬草採集の依頼の薬草がある場所が依頼の魔物が出る場所に近いところで採れると聞いたのでちょうどいいから両方の依頼を受注した。


「さて、とりあえずレイとラウで魔物討伐しててくれ。俺はルカと薬草採集をして、依頼分が終わったらそっちと合流する」

「……ん」

「おう! で、でも、ルカは別に魔物と戦わなく「お兄ちゃん!」……待ってる」


 目当ての魔物が出ると言う草原への分かれ道でレイ達と別れ、ルカと薬草が生えている場所へ向かった。


「さて、サクッと終わらせてラウ達のとこへ行こうな~」

「はい! 私の魔法が魔物にどのくらい通用するか早く試してみたいです!」


 ルカの向上心は凄いな。最近だと朝晩にしっかり筋トレと柔軟をして身体作りもしてるし……。


 薬草採集はやる気を見せたルカの凄まじい採集速度で依頼分がすぐに終わり、ルカに引っ張られるようにラウ達の所へ向かった。

 合流してからは、ルカの魔法練習のため弱めの魔物を探してラウと俺が魔物を押さえ、レイの指導の下ルカが魔法で攻撃と言うのを繰り返した。


 いや~ルカの魔法が思ったよりすごかったな。てっきりホーンラビットを倒せる程度だと思ってたのに、ボアを一発で倒せるほどとは思ってもみなかった。さて、ある程度戦えるのは分かったし、魔物の討伐依頼終わらしちゃうか。


 依頼にあった魔物を狩るべく移動した先には、既に数人いるようだったので魔物の取り合いになる様なことが無い様に距離を取って狩り始めたのだが、何かが近づいてくる反応を感じ警戒してそちらの方を見ると3人の獣人族の冒険者(こちらの大陸ではまだ人間族の冒険者は見ていない)が近くまで着てその中でも一際大きいクマのような大男がレイに向かって声をかけてきた。なんか耳もクマっぽいからクマ男(クマの獣人)なのかもかも知れない。


「やぁ、こんにちは」

「……」


 レイが対応に困ってなにも発さずに立ち尽くし……と言うか、いつも通り無口で突っ立っていると、狐っぽい線の細い獣人の女性がクマ男の頭をバシッと結構な勢いで叩き、レイに向かって話しかけてきた。


「こら、あんたみたいな図体のでかいのがいきなり声かけるから警戒されてるじゃないの! ごめんね~、そんなに警戒しなくていいのよ? 子供が狩りしてるからちょっと気になっちゃって声かけさせてもらったのよ」


 ん、なんか『子供』って言った時にレイ以外に視線が動いてる気がするんだけど……その『子供』ってのには、俺も入ってるのか? 一応、獣人族の大陸だし年齢的にいってもレイが対応するのが良いんだろうけど……レイだし、無理だな! ラウ……は論外だし、ルカ……は、しっかりはしてるけどまだ幼いし……人間族に見えるけど俺が対応するしかないか。


「あ、あの~」

「ん、何だい坊や?」

「一応、このパーティーの代表は自分なんで、こちらでお話を聞かせてもらいますね」


 獣人冒険者の3人が3人とも『え! 子供がリーダーなの?』って顔で見てきたので自分の年齢を伝えることにした。


「えっと、自分は人間族の15歳なんですけど?」

「マジか! これで15歳……」

「え、うそ! てっきり10~12歳くらいかと……ごめんね」

「!」


 どうやら俺はラウと同じくらいの歳に見られていたらしい事が分かり一人精神に大ダメージを負ってしまった。しかし、ここで落ち込んでても話が進まないので何とか気を取りなおして話をすることにした。 ちなみに、もう一人いる獣人は黒豹を思わせる獣人で、一言も発することなく俺が年齢を言った瞬間目を大きく見開いた後はただ状況を見つめているだけだった。もしかしたらレイと同じように無口なだけかもしれないけど。


「それで、何の御用でしょうか?」

「いや~、本当にごめんね。こんなところで子供が狩りなんてしてたから危ないんじゃないかと思って、お節介かな~とは思ったんだけどついついね」


 敵意は感じないし本当に心配してくれてる感じがするな。ただのいい人なのか? と見せかけて騙そうとしてると言う線も捨てきれないから警戒だけはしておくか。


 その後、冒険者たちと軽く雑談(途中ちょっと腹の探り合いみたいになったけど)していたら昼になったのでついでに昼食に誘って一緒に食べ、飯代替わりにいろんな話を聞いた。


 ん~、この人たち人間族(の様に見える異世界人)の俺にも普通に接してくれるな、裏があるようにも感じないけど……人間族に対して思うとこは無いんだろうか?


「人間族(本当は違うけど)である自分に対して態度が普通なのはどうしてなんですか?」

「人間族にもいい奴はいるし、獣人族にだって悪いやつはいる。何が言いたいかってぇと――――」

「種族なんて関係ないって言いたいんでしょ? まったくあんたは回りくどい言い方ばっかりなんだから」


 それにしても……俺って、そんなに幼く見えるのかな? まさかラウと同じくらいの歳と思われてたとはな…………てか、前に酒場行った時は子ども扱いされなかったんだけどな~。


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