第五十一話 ガウリィオ大陸に到着

 さて、何か有益な情報が得られるといいんだけどな……お、ここだな。


 目的の酒場はすぐに見つかり近づいていくと、入り口から喧騒が外まで聞こえていてずいぶん賑わってるようだった。とりあえず入り、中の様子を見ていると、カウンター席で一人で飲んでるいたいかにもベテラン冒険者と言った感じの中年男が居てちょうど隣が空いていたので、そこへ座り声をかけることにした。


「すみません、ちょっといいですか? あ、もうコップが空の様ですね。マスター、こちらの方におかわりお願いします。あ、自分には葡萄酒をお願いします」


 ちなみに、男が飲んでいたのはビールの一種でもあるエールで、俺が頼んだ葡萄酒はこの世界では比較的アルコール度数が低い酒だ。


「お、悪ぃな兄ちゃん。それで何が聞きてぇんだ?」

「えーとですね、なんか最近獣人や亜人に対して風当たりが強くなってきてる気がするんですけど何か知りませんかね?」

「ん、あああ。そいつぁな――――」


 男の話によると、この大陸にある国々の中枢にまでラミルズ教が幅を利かせてきていてラウティア大陸から人間族以外を排除した後、他の大陸との渡航封鎖し大陸間戦争をするのではないかと言う噂があるらしいという事だった。そして、港町に近いこの町は種族差別がまだ薄いけどそれも時間の問題でここら辺の町までラミルズ教が広まれば渡航禁止令が出るのはすぐだろうと教えてくれた。


 しかし、大陸間戦争とかずいぶん大ごとだな。そんな事が起きる前に向こうの大陸に渡りたいとこだな……とりあえず宿に戻るか。


 情報提供に礼を言い宿に戻り、町の中にフードを被っていない獣人が多いことに今更ながら気が付き種族差別がまだ薄いと言うのは本当なんだろうなと納得しつつ、遅くなってしまったので早く宿に戻りスマホの目覚ましをセットしてから寝ることにした。


 さて、目覚ましはセットしたし、明日は早いんだからとっとと寝てしまうか。


 翌朝、幸いなことに二日酔いになる事も無く時間通りに置きて身支度をし、みんなで宿の食堂で軽く朝食を済ませてからちょっと早めに駅舎へ行き無事にラガイを出てイライズへ向かった。

 イライズまでの道中は魔物と遭遇もせず順調に街道を進み予定通りに港町イライズに到着することができた。到着後すぐに港へ行き、ガウリィオ大陸へ行く定期船に空きはないか聞いたが、軒並み予約でいっぱいでしばらくは無理とのことだった。

 定期船がダメならギルドでガウリィオ大陸へ行く船からの依頼などはないか探してみたが見当たらず、職員にも聞いてみたがそう言う依頼は既に残っていないとの事だった。


 ……遅かったか、どうしたもんかな?


 手詰まりになり、いっそいかだでも作って自力で海を渡るのはだめかと聞いてみると、海は危険な魔物がいるので止めた方がいいし、正規の手続きでの渡航以外は禁止されていて、もしそんなことをして無事にたどり着けたとしても違法入国の犯罪行為とみなされ冒険者資格をはく奪され最悪は死罪となることもあり得るから止めるようにとと注意を受けた。

 他の方法で船に乗れないか聞いた所、護衛依頼などで乗船する以外は無いとの事だった。それならと、自分たちで商船(商船以外に荷運び船は無いらしい)と護衛依頼の交渉してもいいか聞いてみると、交渉してもいいが、依頼はギルドを通しておくように言われた。


 ラウティア大陸では大陸間を移動できる船と言うと、客船(人を運ぶ船)、商船(商品を運ぶ船)、戦船(戦闘用の舟)、貴族船(個人所有の船で王族と一部の上級貴族が所有できる)のみで、勝手に船を持つ事は許されていない。ただし、漁船などの近海航行できる程度の船は届け出を出せば所持を認められる場合がある。


 よし! とりあえず港に停泊している船に護衛として乗せてもらえないか片っ端から交渉していくか。あ、その前に宿を確保してレイ達はそこで待機してた方がいいだろうからおすすめの宿を先に聞いておくか。 


 職員におすすめの宿を聞き宿を確保してレイ達を宿で待機させてから一人で港へ移動すると、港に停泊していた船の中からできるだけ商船を選んで、ガウリィオ大陸行き大き目のアイテムボックスを持ってるし、護衛もできるから乗せてくれないかと交渉して回った結果何とか乗せてもらえる船が見つかったので事務処理担当の船員とギルドへ行き依頼書を作成してもらい正式に依頼を受けることとなった。


 出航は翌日の午前10時の予定だが荷物の積み込みなどあるので午前9時には来るようにと言われた。


 せっかく港町に来たので魚介類を買うために市場へ行ってみると様々な魚介が売られていてどれがいいか目移りして選べなかったので店員におすすめのものをいくつか見繕ってもらい、ついでに市場内の露店で売っていた魚介の網焼きなどもレイ達のお土産にいくつか買ってその後も町を散策していると、フードを被ってない普通の服を着た獣人が数多く見られ、その獣人達に尻尾があるのが見えたので、いまさらながらラウ達にも尻尾があるであろうことに思い宿に戻った時にレイ達に聞いてみた。


「いまさらなんだけど、皆は尻尾あるんだよな? 普段どうしてるんだ?」

「リン兄さん、ラウティア大陸では他種族だと迫害されることが多いから尻尾は目立たないように服の中で縛って固定してたんですよ」

「兄貴……ほんとにいまさらだな……それと、人間族の国だと尻尾を通す穴が付いた服もねぇんだよ」

「……リンは……常識が足りない」


 三人に常識が無いと呆れられてしまい恥ずかしくなり話題を変えるべくガウリィオ大陸へ行く商船の護衛依頼を受ける事ができたことを話し夕食時となったので露店で何種類か串焼きを買って食べることにした。


 翌日出港、航路は直線ではなく大型の魔物が出やすい深い場所を避けて進んだ事で時間はかかったが順調に進んで行った。

 それでも全く魔物出なかったと言うわけではなく、全長3mほどの蛇と魚を足して2で割ったようなマカラ、全長1mほどの背側が鎧のようになっていてとても硬い魚のロドンの2種の魔物と数度の戦闘をした。

 実際の戦闘なのだが、マカラは身が硬くて味が無くてどう料理しても美味しくなく、素材としてもたいして値段が付かないという事だったので素材取りを気にせずレイと俺が船の砲台と化し魔法の滅多撃ちで肉片に変えて倒していたのだが、血の匂いで他の魔物が寄ってくるからそういう倒し方は止めてくれと言われ調子に乗って魔法を撃ちまくったのを後悔し、その後は氷系統の魔法(俺のは『魔法アプリ』だけど)で血が出ないように氷漬けにして倒す様にした。

 ロドンの方は身に脂がのっていてしっとりとした歯触りが良く美味しくて、素材も硬い鱗がそれなりの値段で売れるらしかったので、できるだけ素材になる箇所に傷をつけない様に注意しつつ倒し回収しておいた。ちなみに取れた素材や肉などは半分は契約でこの船の取り分となっていた。

 

「お、港が見えてきたな」

「ああ、もうすぐ着くぜ。ここまでくりゃまず魔物も出ねぇから下船の準備でもして待っててくれや」


 ガウリィオ大陸の港町レイガスに無事到着。レイガスはガウリィオ大陸の北東部に位置し、ラウティア大陸との貿易のためにできた港町だった。


「別大陸の町だけど、これといって変わった感じはしないな。今までの町と大差ない感じだ」

「山でルカと一緒にさらわれてすぐに送られたからこの町の事はあんまり覚えてねぇんだよな」

「私は怖かった事しか覚えてません」

「……なんか……ちょっと……懐かしい感じがする」


 ガウリィオ大陸の玄関口という事もあるのか町には人間族もちらほら見受けられた。誰もフードを被っていなかったのでラウとルカもフードを取ったのだが、レイは自分はハーフだからとかたくなにフードを取るのを拒んだためいつもの姿のままとなった。

 指定された倉庫へ行き『倉庫アプリ』から荷物を出して依頼書に依頼完了の受領印を押してもらい、ギルドの場所を教えてもらいまずは依頼完了の報告をしに行くことにした。


「さて、まずは依頼完了報告をしにギルドへ向かうぞ」

「「「おう(はい)(……ん)」」」


 ギルドへ行き依頼完了報告を終わらせ報酬を受け取りついでに魔物の素材も買取にだし、おすすめの宿を聞いてから近くの食堂に入り昼食も兼ねてこれからの事を相談することにした。ちなみに食べたのは魚介スープとパンのセットで、スープは新鮮な魚介がたっぷり入っていてとても美味しく、パンも硬い黒パンではなくバターが練り込まれていた軟らかい白パンでとても美味しかった。


「とりあえずこっちの大陸に来たのはいいけど、これからどうしようか?」

「んー、兄貴に任せるぜ!」


 え、俺に丸投げ?


「そうですね、お兄ちゃんの言う通りリン兄さんに任せます」

「…………リン……任せる」


 二人も俺に丸投げですか……ま~、今後の事を少しは考えてはいたからいいんだけど、少しくらい話し合ってもいいのではないかと……ちょっと寂しい。


「じゃ、ラウとルカが以前いたと言う……えーと、確かコーレア村だったっけ? そこ行ってみないか? 孤児院の方でもラウとルカがいなくなって心配してるだろうから二人の無事を報告しにいった方がいいだろ?」

「兄貴……いいのか? 別に無理に孤児院へ行かなくても……てか、場所をよく覚えてねぇんだよな」

「そうですリン兄さん。私たちの事は別に……あと、私も小さかったのでよく道とか覚えてません」

「場所はこの町で調べてみよう。その後になるが青狼族が暮らしている所も探そうかと思う」

「……私は……別に……青狼族に…………会いたくない」


 別に遠慮なんてしなくていいのに……レイは青狼族の所へ行くのに乗り気じゃないみたいだな。


 気にする必要はないと言い、ラウに何か覚えてる事は無いか聞いたが村の名前くらいしかわからないという事で、レイにはもしかしたら母親の事を知ってる人がいるかもしれないからと説得し、他にも調べたい事があったのでこの町で少し情報を集める事に決めて宿に向かっていると、馬ほどある大きい柴犬の様な犬が馬車を引いているのが見えた。


 へ? あれって柴犬か? 柴犬にしては大きい……と言うか大型犬にしても大きすぎだな。あれって魔物なのか? それにしても、かわいいな……ちょっとモフりたい。


 ラウに聞いてみると、孤児院にいた時は村に来るのは犬車が普通で逆に馬が荷車を引いてるのを――と言うか、そもそも馬自体を見た事が無かったので初めて見たときは驚いたそうだ。ちなみに、その後宿の店員に聞いた話だと犬はライドドッグといって魔物ではなく牧場で育てられた動物らしく、性格は温厚で人懐っこく頭もいいから躾ければ芸も覚えるという事だった。


 なにそれ、一頭(数え方が頭だった)買いたい! ま、まぁ本当に買うかどうか別として一度ちゃんと見てみたいからどこで売ってるのか後で聞いてみよう。


 ギルドに聞いていた宿でとりあえず男女別に2部屋取ろうとしたのだが強い反対にあってしまい、4人で大き目の一部屋をとる事となった。

 とりあえず宿の確保もできたので獣人用の衣服や生活用品をいくつか買うために商店街へ向かう事にした。


「とりあえず尻尾が出せるように獣人用の衣服買うのが目的だけど、他にも何か必要な物があるなら買ってもいいからな?」

「じゃ、肉「いや、そう言うんじゃなく」……肉以外だと思い浮かばねぇや」

「私は今の服で十分満足で別に新しい服なんていらないですし、欲しい物も特に無いですよ?」

「……このまま……いらない」


 ラウは相変わらず肉か……他に興味はないのか? ルカはもう少し年相応のわがまま言ってくれてもいいんだが……子供らしさが無くてちょっと心配になるな。レイは良く分からんな……元はいいんだからフードをとってもうちょっとかわいい服着ればいいのにとは思うんだけど……前から思ってたけどレイって女子力低すぎないか? ……あ、そうだ! レイの服はルカに見繕ってもらおう! ルカは幼いけどレイよりしっかりしてるし大分ましな気がするし、変なものは買わないだろう。

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