第三十三話 ラウには肉を・黒板作製

 翌日、狩りに行くのに昼食用になにか買おうとしていると、ラウが串肉を買えとうるさかったのでどうせならと数を覚えさせるのと計算を覚えさせるのに利用することにした。


「ラウ、一串に肉は三個刺さってる。おまえは刺さってる肉、何個欲しい?」

「じゃ、十く「串で答えるなよ」……いっぱ「いっぱいもダメ」うぅぅぅ」

「う~ん、難しいか。それじゃ、一串で肉が三個だから二串なら三個足す三個で六個となる。これを十串になるまで足せばいい」

「んーと、三串なら二串の六個に一串の三個を足して九個か?」

「うんうん。その調子だ」


 さて、ここまでは数字が一桁だからよかったけど次からは二桁になるけど……一応数え方はルカと一緒に教えたんだがちゃんと数えれるだろうか?


「えーとえーと、次は四串だから三串の九個に三個を足して……じゅう……に個?」

「おお、そうだ! あってるぞ」

「やったぜ! じゃ、次は十二個に三個を足して、えーとじゅう……さん、し、ご、十五個だ!」

「よし、それで五串だから半分だ。五串足す五串は十串だろ? じゃ、十串の肉はいくつだ?」

「そっか! 十五足す十五か! じゃ、さん……三十個!」

「おお! 正解だ。偉いぞ~」


 正解したラウの頭を撫でてやり(フードの上からだけど)昼食用の串肉十本とは別にご褒美として今食べる分を二本を買ってやった。


 それにしても……こいつは食い物関係、特に肉が絡むとやる気が違うな。元々頭は悪くはないようだし、ルカに肉で釣って教えるように言っておこうかな。


 その後、昨日と同じところでラウにスライムなどのストーンランクの依頼の魔物を狩らせておき、その間に俺はポーションの材料集めとして薬草の採集をし、たまにラウがどれだけ倒しているかを確認した。


「ラウ~、もういいぞ。依頼分は十分だから他に移動するぞ~」

「分かった~。で、どこ行くんだ?」

「ここから東に行ったところに岩山があるらしいからそこに行く」


 北門の衛兵に近くに岩がたくさんあるところはないかと聞いたところ、草原から東にちょっと行ったところに岩山があるということを聞き、ついでに魔物の情報も聞いておいていた。


「俺は岩山で目当ての石を探してるから、ラウは岩山に生息するロックリザードを狩っていてくれ」

「あー、あれか……あいつ硬いんだよな~」

「短剣ダメになっちゃうから、ちゃんと隙間を狙えよ。っと、その前にどこかで昼食にするか」


 見晴らしがよくどこから魔物が来ても分かるところへ移動して昼食を食べることにし、ラウに串肉を出してやったらすぐにがつがつと食べ始めていた。


 この肉を見ると飛びつくように食べ始めてるの見ると何か虎というより猫に見える。なんというか『猫まっしぐら』って感じだな。


 昼食を食べ終り、岩場の方へ移動してラウにはロックリザードを狩らせて、その間に俺は目的の石を探すことにしたのだが、ほどなくして黒っぽい石はすぐにみつかったのだが、ろう石が中々見つからずそれでも諦めずに探し続けたぼだが一向にみつから無かったので息抜きにラウの様子を見に行くと、ラウはロックリザードに苦戦していて中々倒せないでいた。


「おーい、ラウ~。ちゃんと関節部とか軟らかい箇所を狙えよ~、特に首のあたりとかな」

「そりゃわかってんだけど、中々うまくいかねぇんだよ」

「そういえば、ラウは魔法を使えないのか?」

「無理! あんな長い詠唱呪文覚えれねぇ!」


 脳筋というか、ただのバカというか……実にラウらしいといえるな。ん、何か別の反応が近づいてるな。


 反応があった方を見ると、なんか他とは違う真っ白なロックリザードがいたので『鑑定』で確認してみるとプラスターリザードというロックリザードの特殊個体であることが分かった。


 ん、プラスターって確か……石膏って意味だよな? 石膏ね~…………あ! 石膏があればチョークが作れるはずだ!


「ラウ、おまえは目の前のロックリザードにだけ集中しとけ、あっちの白いのは俺が殺る」

「兄貴? 何か良く分かんねぇけど、どっちみちこいつの相手で手一杯だぜ」

「ラウ、そいつは頭の後ろの継ぎ目に剣を突き刺せば楽に倒せるぞ! ってことでそっちは任せた」


 ラウがいつまでも倒せないでいたのでアドバイスをしてプラスターリザードの頭を上から『アクアバレット』で撃ち貫き、一撃で倒した。ラウの方はと見てみると、ちゃんと倒せたようだった。

 石膏も手に入ったので早目にゴラウへと戻り、ギルドでラウに依頼の受注と報告をさせるとラウはアイアンランクになることができた。


「これでやっとアイアンランクまで来れたな」

「兄貴……やっとって、俺はこんなに早くランクが上がっていくとは思わなかった、ですよ」

「ま~ウッドランクなら薬草採集以外だと時間のかかる依頼ばっかりだったろうけど、ストーンランクなら討伐系や収集系もあるからアイアンランクになるのも早かったんじゃないのか?」

「魔物を何体倒せってのは10より少ないのばっかり、ですです。素材を集めろがたまにいっぱいだですから難しくて足りなかったりで、また狩りにいったりしてたんだです」


 ラウが無理に敬語使おうとしてるから変なしゃべり方になってるな。ま~、なんというか……聞き取りにくいな。


 ギルドを出る前にアイアンランクの依頼書を確認し、その中からゴブリンとサーペントに目をつけ、どのあたりに生息しているのか窓口で聞いておいた。

 欲しい情報も聞き終わったのでギルドを出て、黒板の材料などを買いに商店街にある雑貨屋へ向かい、木板、木材、布、綿、ビス、などを買い、さらに捨てられていた革の切れ端をもらったところで、黒板代わりの物を作るのに石板じゃなく板へ黒の染料を均一に塗れば黒板になるかもしれないと考え、黒の染料を追加購入してから宿に戻ることにした。


「「ルカ、ただいま~」」

「二人ともお帰りなさ~い。今日は早かったんですね」

「ああ、ちょっと作りたい物があってな」

「なんか兄貴がいろいろ買ってたぜ」

「俺は夕食まで少し作業してるから、ラウはルカに勉強を教えてもらえ」

「うー、ロックリザードより苦手だぜ」

「お兄ちゃん! 文句言ってないでこっち来て」


 ラウが助けを求めるように捨てられている子猫のような目でこっちを見ていたが、完全無視で作業をすることにした。

 まず『倉庫アプリ』内で今日拾って来ていた黒っぽい石を板状に、プラスターリザードの石膏部分の一部を粉状に、板や木材は試作分を『錬金アプリ』で錬成で大きさや形を揃え、そうした作業が終わるころには夕食時になっていたので、とりあえず宿の食堂で夕食を食べることにした。


「よし、二人とも。そろそろ夕食にしようか」

「や、やったー! 飯だ肉だ」

「お兄ちゃん。ごはんの後はまた勉強だからね!」

「…………はい」


 ラウは本当に勉強とか頭を使うの苦手なんだな。ま、ルカが教えるんだから逃げることもないか。


 夕食後部屋に戻ってラウはルカに教えてもらって勉強を再開、俺は作業を再開した。

 まずは石膏粉と水を『錬金アプリ』で錬成してみるとチョークもどきを問題なく作ることができた。次に木材を長方形に成形し、布で小さい袋を作りその中に綿を詰めて四角く成形した木材にピン止めして革の取っ手をつけて黒板消しを数個作った。

 問題は黒板で、まずは試験的にノート代わりのミニ黒板を作ることにしたのだが、黒っぽい石の板だと字は書けるのだがザラザラしすぎていて黒板消しがすぐにだめになってしまい、さらに結構重くて使いにくく成功とは言えなかった。、次に板に黒の染料を塗っただけでは表面がきれいすぎてチョークがノリにくくうまく字が書けず失敗。そこで板に石を砂に錬成したものを黒の染料に混ぜて塗ってみたが粘度が足りず砂が定着しなかった。

 他に黒板の材料に使えるものは無いかと『倉庫アプリ』の中を漁っていたとき、粘度が足りないなら魔物の血を混ぜてみたらどうかと試してみたらこれが意外とうまくいき、ミニ黒板が完成。それに合うミニ黒板消しを数個追加で作ってからいよいよ大きな黒板の作成に取り掛かった。

 ミニ黒板で作り方は確立していたので、大きい黒板は思いのほか簡単にでき、それを置く台を作り、キャスター脚付き回転型両黒板(縦90cm、横120cm)試作一号が完成したのだが、重心が高くて安定しなかったので下の部分に棚を増設し、そこに石板を置いて重心を調整し安定させた。

 試しに実際にチョークで黒板に字を書いてみたのだが、チョークをそのまま持つと手が汚れるので木材を使ってチョークホルダーを作って再度試してみたところ手を汚すこともなく、黒板も特に問題なく使うことができたので一応成功だ。


「よし、完成だ!」

「兄貴~これはいったい何んだ?」

「黒い板――少し表面がザラついてますね」


 二人に使い方を説明し、実際に使ってもらったんだが、何を聞いていたのかラウは肉の絵を描いていた。てか、どんだけ肉好き何だか。ルカはちゃんと字や数字を書いていたので、もちろん撫でてやった。


「リン様! こ、これはすごいです! 売れると思いますよ」

「あー、それな……確かに紙とか高価だからこういうのは結構売れそうではあるんだが」


 ま~黒板なんかじゃなく、和紙や洋紙なんかも『錬金アプリ』ならあっさり作れそうだし、半透明な紙なら大根とかの皮剥いてから茹でて、繊維が細かくなるくらいにすりつぶしたものを真っ平な鉄板に敷いて乾燥させればセルロースナノファイバーもどきが『錬金アプリ』を使わなくても割と簡単に作れるんだよね。

 ただ、こういった異世界の技術で作ったものとか広めると碌なことが無い気がするから隠しておきたいんだよな……なにが戦争に利用されるかわかったもんじゃないし。


「リン様? どうかなされましたか?」

「兄貴、腹でも痛ぇのか?」


 ルカは優しいな~、後で撫でてやろう。ラウは……心配してくれてるんだよな? 信用するよ? てか、『リン様』というのはやっぱり慣れないな~。


「ルカ、もうちょっと話し方をラウと話してるときのようにできないか? あとリン様も人目の無いとこではやっぱりやめて欲しい」 

「そ、そうですか、それじゃ……リン兄さん?」

「うん、(兄ちゃんではないんだな)それでお願い。それでな――」


 それから黒板などの技術は秘匿事項だから絶対に他言しないように言い含め部屋からの持ち出しも禁止として、さらに黒板消しが汚れたら俺がきれいにするからそのままにしておくように言っておいた。その後はラウロルカは勉強、俺はミニ黒板を追加で数個作ることにした。


「北から魔物が三匹、南から魔物が六匹、さらに西から魔物が七匹来ました。魔物は合計何匹来ましたか?」

「えーと……」


 あー、ラウには肉が絡んだ問題がいいとルカに言うの忘れてたな。ちょっとやって見せるか。


「ラウ、北に肉が三個、南に六個、西に七個あった。肉は全部で何個だ?」

「肉十六個!」

「え、なんでいきなりそんな簡単に……リン兄さん。これはいったい……」


 ルカにラウは肉が絡むと覚えやすいということ教えていたとき、いまさらになって北とか方位が存在することに気が付きルカに質問してみると、どうやらこの世界にはちゃんと東西南北が存在し、方位磁針なども存在していて、地磁気があることがわかった。


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