第三十四話 病気の少女ルカ
翌朝、身支度を済ませて朝食を食べるため食堂に向かおうとしていると、ルカの息が荒くふらふらとしていて、とても具合が悪そうだった。
ラウもルカの様子がおかしいことに気が付き声をかけるが、ルカは大丈夫と言うがどう考えても大丈夫なようには見えなかったので、額に手を当ててみると熱があり肌も汗ばんでいたのですぐにベッドに寝かせて、『魔法アプリ』で『浄化』と『回復』をかけて様子を見たが、熱は下がらず息も荒いままで苦しそうにするばかりだった。
「ル、ルカ……最近はあんなに元気だったから病気が治ったのかもと思ってたけど、やっぱり……」
「おい、ラウ。今日は狩りを休みにするからルカを看病しててくれ」
「あ、ああ、わかったよ。兄貴ごめんな」
「リン様……私ならいつものことなので……」
「二人とも気にしなくていいから。ルカはしっかり休んで早く元気になってくれ」
ルカに何か食べるもの、消化にいいものならリンゴを買ってすりおろ……『倉庫アプリ』に入れて錬成すればいいか。ってなんか味気ないからやっぱりおろし器も一緒に買ってこよう。ラウにも串肉を買って来てやるか。
「それじゃ、俺はちょっと買い物に行ってくる。あ~、それと、一応ポーション置いていくから飲ませてやってくれ。ラウ、すぐに戻ると思うが後は頼んだぞ」
「あんがとな。兄貴」
雑貨屋で鉄板と器や皿をいくつか買って、その後に朝食と昼食用にルカにはリンゴ、ポタージュスープなどを買い、ラウには数種類の串肉を買い、あとは自分用にパンやスープなどを買って宿に戻り、ラウに串肉を数本渡し鉄板でおろし器を作り、リンゴのすりおろしをスプーンでルカに食べさせた。
「それじゃラウ、俺はこれからすることあるから、しばらくルカの看病頼むな。なんかあったらすぐに声をかけてくれ」
「わかった」
「奴隷なのに……すみません」
「ルカ、気にしなくていいからな。さっきも言ったが、しっかり休んで早く元気になってくれ」
リュースへのレポートを作成しつつたまにルカの様子を見て、『浄化』や『回復』をかけて昼食には朝食と同じものを食べさせた。昼食後は割と穏やかな寝息を立てて寝ていたが、まだ熱は下がらないようだった。
「なぁラウ、いまさらなんだが病院とか連れて行かなくてもいいのかな?」
「獣人だと嫌がられるから多分無理だと思うぜ……ま、どのみち病院で治せるとは思えなぇけどな」
獣人だと診てももらえないとかなのか? なんかこの国にいるのが嫌になってきたな。かといって獣人の大陸に移動したら人間が迫害されてたりしてな……そこら辺もそのうち調べてみるか、いいとこあったらそこに定住したいし……って、考えがそれてるな、今はルカのことだ。そういえばギルドにも治療施設あったよな?
「な~、病院がダメならギルドで診てもらうのはダメなのか?」
「それが……前に診てもらったことあるんだけど、ルカを治せるほどの治療魔法が無かったんだ」
「そうか、もう診てもらってたか。そういえば、ルカの病名って何なんだ?」
「原因不明の難病だって言われたぜ」
んー、病名が分かればもしかしたらこの世界では治療法を知らなくても俺なら元の世界の知識で治せたりするかもと思ったんだけどな~。
ラウにルカがいつから病気なんだとか色々聞くと昔からだったというので、ずっと一緒にいたラウが大丈夫だから伝染性の病気ではないと判断、それなら内臓系が悪いのではと思い臓器を個別に治すことをイメージして『回復』を使うことを思いついたのだが、これでは臓器の機能がある程度回復はしても病原体をどうにかしないと完治はしないと考えたが、それでもとりあえず楽にはなるだろうと『回復』をかけてみた。
「とりあえず夕方まで様子を見てみるか。ラウ、何ともないとは思うけど変化があったらすぐに教えてくれ」
「わかった」
ルカが汗をかいていたので『浄化』をかけておき、夕方までレポート作成を再開することにした。
夕食時になったので食堂で料理を部屋で食べる許可を得てみんなで夕食を食べ、ルカの調子を診てみると、熱もだいぶ下がり発汗も見られなかったのでとりあえず容態は回復しているようだった。
「ルカ、調子はどうだ?」
「はい、リンさ――ん。だいぶ楽になりました。ありがとうございました」
「俺からも礼を言うぜ、兄貴じゃなかったらルカは見捨てられてたかもしれねぇ」
あー、まぁ奴隷なら使えない者は見捨てられるのが普通だろうし、一々治療なんかしないか……俺には奴隷と言われてもピンとこないし、いまさら奴隷扱いする気もないけどな。秘密さえ守ってくれれば後は割と気にならないし。
「あ~、ラウ。念のために明日も休みにするから明日もルカの看病してやってくれ」
「あ、兄貴。本当にいいのかよ? 俺はその方がうれしいけどよ……」
「え、そんな! 私ならもう大丈夫です!」
ルカがかたくなに譲らなかったので「明日は二人とも休むように」と命令すると、渋々といった感じではあったが了承してくれた。
ルカの態度は奴隷としては正しいのかもしれないけど、もうちょっと年相応な感じになってほしいものだな。逆にラウはもう少しちゃんとしてほしいけどね。
それにしても、ルカの容態がこのままなら……便利に女神を使うようで気が引けるんだけど、リュースに病気を治す方法がないかメールしてみようかな。
ルカにはもう看病は必要ないといわれたが、夜はラウに俺のベッドで仮眠を取らせ時間が来たら交代でルカの看病をした。翌朝ザーッという音で朝を迎え、何の音かと窓から外を見ると雨が降っていた。
あ、何気にこの世界で初めて雨が降ってるのを見るな。前に道が濡れてたのは見たことがあるから夜にでも雨が降っていたんだろうけど、こうして直に雨が降ってるのを見るのは初めてだ。それにしても町の雰囲気と相まって雨が降っているのも中々いい景色に感じるな。
雨の街の景色から目を離しルカの方を見ると、ラウがベッドに突っ伏して居眠りしていたので俺のベッドへ運んで寝かせてやり、ルカの様子を見てみると穏やかな寝息を立てて気持ちよさそうに寝ていた。
それにしても、レポート作ってみて分かったけど改めて俺はこの世界のことをほとんど知らないということを再認識させられたな、これじゃ中途半端なレポートになりそうだ……かといって調べるにしてもこの世界のことについて書かれた書籍なんてあるのかな? 詳しい人にでも聞くというのも手だけど、詳しい人を俺は知らない。
あ~、もしかしたら王都とかに行けばそういうことが書かれた書籍とかあるかも知れないけど……人間族至上主義っぽいから内容が改竄されてそうだし、それに獣人のラウたちはとても連れていけないだろうしな、別に行かなくていいか。
「ん……んんー、おふぁようごじゃいます」
「おはよう、ルカ。調子はどうだい?」
「ふぁ、はい、えーと、「正直にな」……ちょっと身体がだるいですけど、具合はいいです」
「そうか。それじゃ、ちょっと朝食買ってくるからおとなしく寝てろよ。ベッドから起きちゃダメだからな」
「は、はい……すみません」
別に構わないとルカの頭を撫でてから食堂でサンドイッチセットを二つと肉たっぷりシチューを一つ買って部屋に戻り、まだ寝ていたラウを起こして三人で朝食を食べた。
「ラウ、昨日も言ったけど今日も狩りは休みだからな。だけど、おまえには少し勉強してもらうからな~」
「えー、マジかよ。それなら狩りの方がいいぜ……」
「それと話し方も、もう少し敬語でしゃべること……とはいっても一日中じゃきついだろうから夕食まででいいぞ」
「それでも結構きついぜ「敬語」きついです」
黒板に加減算の問題をいくつかラウに出し、レポートの続きをすることにした。その後、ラウが問題を解き終わったので、次に乗除算の問題をだしてラウが解く頃にちょうど昼食となったのでラウがちゃんと問題を解いたご褒美として串肉を買い与え、ルカには消化によさそうなスープが売っていたのでそれを買い、部屋に戻り昼食を食べ、昼からはラウには軽く筋トレと戦闘以外のこともいろいろ教えたかったので部屋の掃除などをさせて夕方となった。
「よし、ラウ。ここからは普通にしゃべっていいぞ」
「やっとか……勉強は苦手だけどこの敬語ってのはもっと苦手だぜ!」
「ラウ、ルカが寝てるんだからあまり大きな声出すなよ。それじゃ、俺は夕食買ってくるから留守番よろしくな」
「ああ、兄貴。肉頼むぜ」
片手を上げて振って見せ、夕食を買いに商店街へ向ったが途中で串の屋台の親父に「よ、兄ちゃん。今日も串肉買ってくのかい」と、呼び止められた。ラウのおかげでなんかもう顔なじみの常連になってしまっていた。
「それじゃ、いつもの十本だけもらおうかな」
「ボア串だな。いつも買ってくれるから一本おまけしてやるよ」
「お、ありがとうございます。それじゃ代金です」
「あいよ、ちょうどだな。また来てくれよー」
さて、他に何を買おうかな……ルカはまだ胃腸に優しいものの方がいいだろうな、ラウは、串肉だけもいい加減飽きるかもしれないから他の肉料理も買っていくか。
結局、果物をいくつかと、スープ二皿、柔らかいパンを四つ、アルミラージシチューを一皿、サラダを二皿、後はお菓子などを少々買って宿に戻り、店員に宿の宿泊延長を申し込み宿泊費を支払ってから部屋に戻り三人で夕食を食べた。
「明日はラウにブロンズランクになれるまアイアンランク依頼の魔物を狩ってもらうからな」
「魔物の狩りなんて勉強に比べれば楽なもんだぜ! すぐにブロンズランクに上がってやるぞ!」
「お兄ちゃん……あまり調子に乗ってリン兄さんに迷惑かけないでよね」
ルカはだいぶ回復したようだけど、病気が治ったわけじゃないからな……やっぱりリュースへのレポートを出すときにでもルカの病気のことも治せないか書いておくか。
翌日より狩りを再開、ブロンズランクになる分のアイアンランク依頼の魔物を狩るために森へ移動しゴブリンやサーペントをラウに狩らせて、俺は近くに他に誰もいないことを確認してから『魔法アプリ』や『具現化アプリ』などで様々な実験をすることにした。
さて、『魔法アプリ』だけど魔法と言いつつイメージでオリジナル魔法のバレット系が作れたことから具現化に近いのかもしれない発想力次第でいろんな魔法が使える可能性があるな。
試しに『ストーンバレット』をベースに石礫を大きい針になるようにイメージし『石針』と『魔法アプリ』に打ち込みタップして『ストーンニードル』と唱え発動してみるとイメージ通りに20cmくらいの大きい針が飛んで行った。次に何も考えず同じことをするとエラーとなり発動できなかった。
『具現化アプリ』ある程度構造を理解しイメージしないと具現化できない。逆に言うとある程度構造が分かっていれば大体のものは具現化できる可能性があるってことだな。
『具現化アプリ』で試しにロボット模型や美少女フィギア何かをイメージして作ってみたら成功した。ラジコンも試してみたがこちらは失敗。
ラジコンの構造はある程度分かってるはずなんだけどな……もしかしたらレベルの問題かもしれないな。さて、ラウの様子でも見てみるか。
そろそろ狩り終わったかとラウの聞いてみるとブロンズランクになるためにはまだ依頼の魔物の数が足りていなかったので、午後からはラウを少し手伝い早目に狩りを終わらせゴラウへと戻りギルドで依頼の受注と報告をすると、ラウは無事ブロンズランクへ上がることができた。
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