第三十二話 ラウ
案内された部屋に入り扉を閉めたところで何か悪寒がしたのですぐにシューティンググラスのサーモなどを使って扉の方を見てみると、案内してきた店員であろう者がしゃがんで扉に耳を当てている姿が確認できた。しかも興奮しているのか体温がちょっと高いようだった。
……宿、変えた方がいいかも知んないな。ともかく文句の一つでも言っておくか。
おもむろに扉を開けると店員がしゃがんだままの姿勢で固まっていたので「……何してるんですか?」と尋ねると「いえ、あの、その、し、失礼しましたー」と、どういう原理で動いているのかしゃがんだままの姿勢で階段の方へ滑るように移動して消えていった。
見なかったことにして部屋に戻ると、ラウとルカはフード付きローブを脱いだ姿でくつろいでお菓子を食べていた。奴隷だったということでちょっと気になって体とか毎日ちゃんと洗っていたのか聞くとラウが「ルカに何させる気だ!」と怒ってきたがもう言い返すのも面倒だったのではいはいといって相手にせず、ルカに聞くと「ちゃんと毎日拭いて清潔にしてます」と答えてくれた。ちなみに風呂はと聞いてみたが、風呂には入ったことはないとのことだった。
ま~、身体拭いてるなら問題ないかも知れないけど、一応『浄化』使っておこうかな? と、ついでに。
まずルカには風呂場の方に行って呼ぶまでそこに隠れていてもらい、ラウには静かにするようにいってから『浄化』を使い、そして「この能力のことは秘密にすること」と言っておいた。
何やら驚いていたが、うんうんと頷いていた。そこでラウをその場に待機させておき、風呂場の方にいるルカの所へ行き「ラウに何をされたのか聞いてみてくれ」と言って部屋へと連れて戻り、ルカがラウに質問するとラウは「いや、それがよ。兄貴がさ……あれ、なんだっけ」と忘れたようになっていた。
なるほど、守秘義務とはこんな感じなのか、これならうっかり秘密を漏らすようなことはなさそうだな。って言うか、ラウのやつ秘密にしろと言ったのにあっさり言いやがったな……。ま、秘密にしたい事は隠せれる事が確認できたんだからいいんだけどさ……ま、注意はしておこう。
安心したところで、身体を冷やすようなこの世界の風呂に入れるよりもこっちの方がいいだろうというのもあって、ルカにも『浄化』をかけるとラウが「あー! そうそう、それだよ。なんで忘れてたんだろ?」とか言っていた。そしてルカはというと、目を丸くして驚いていた。
確認も取れたところで、俺が落ち人であることとかスマホに関することを秘密にするように言い含めて置いてからある程度の情報を教えておいた。
その後、ルカの病気をスマホを使って治せないかと色々と試したが、残念ながらどのアプリを使っても治すことができなかった。
う~ん、病気を治すのはスマホじゃ無理だったか……とりあえずこっちの考えを伝えておくかな。
「えーと、俺は二人を奴隷として扱う気はない。とは言っても世間体もあるから人目のあるところでは奴隷扱いをするということを覚えておいてほしい。特にラウは言葉遣いや態度の切り替えをちゃんとしてくれよ」
「わかってるよ。さっきも聞いたし」
「お兄ちゃんは私が躾けます!」
ルカは何とも頼もしいな、撫で――そういえば撫でさせてもらおうと思ってたんだっけ。
ルカに許可を取って撫でさせてもらったのだが、撫で心地がよく猫を撫でるようにしていたら、ラウが睨んできた。構わず撫で進め、喉の辺りを撫でているとルカが気持ちよさそうにゴロゴロとまさしく猫のように喉を鳴らしてきた。
「リン様、凄いです~ふにゃぁ~」
「バ、バカな! あのルカがあんなにだらしない顔を……」
「俺の撫でテクを舐めてはいけない!」
やばい、ルカがだんだんただの猫にしか見えなくなってきた。
その後、ラウも撫でて欲しそうにこっちをじーっと見ていたので存分に撫でてやった。ちなみに感想は「これはダメになる気持ちよさだぜ」だった。
そんなことをしている内に夜も更けてきたので買っておいたダブルベッドなど寝具一式を『倉庫アプリ』から出して、ラウにはダメと言われたことやしてはいけないことなどを注意してから寝ることにした。
翌日、朝食を食べた後にラウはどんな武器が得意なのかと聞くと短剣の二刀流をよく使っていたらしかった。ルカに昼食用に柔らかいパンや冷めても美味しいスープを用意しておき、念のために自家製ポーションを数個渡して具合が悪くなったら飲むように言ってから、ラウと商店街に行き武器屋で短剣を二振り、それと防具屋で革鎧を一式買い、さらに狩り中に食べる昼食も買ってからギルドへ向かった。
「ラウは元ブロンズランクだそうだけど、ブロンズランクだったのはどのくらい前なんだ?」
「えーと、ずーーっと前だぜ、です」
「それじゃランク落ちてるかもしれないな」
「そうかも……です」
おお、ラウが頑張って敬語で話そうとしてるな、全然敬語になってはいないけど一生懸命なのが伝わってきてちょっとかわいいぞ。後で頭を撫でてやろう。てか、奴隷商で冒険者ランク落ちるのに依頼とかさせてなかったんだな。えっと、確か『一定期間内に依頼を受けなければ冒険者ギルドから登録を抹消され、再び冒険者になる場合は改めて新規の登録となり登録費・年会費が必要になりウッドランクからのスタート』って書いてあったよな。ラウのランクがどこまで落ちてるかをまず確認しないといけないな。
ギルドでラウの冒険者記録を確認して貰うと一年ほど前に登録抹消になっているとのことだった。再登録はできないか一応聞いたのだが『誠に申し訳ございませんが、規則ですので初回登録からお願いします』と申し訳なさそうに言われてしまったので、初回登録をして、とりあえず薬草の生えてる場所を聞き薬草採集に向かうことにした。
まさか登録抹消になってるとは思わなかったな。これはダンジョン攻略はしばらく先になりそうだ。
「ラウ、おまえ薬草採集はしたことあるか?」
「ん、ないぜ。あ! ないです」
「んん? おまえ、どうやってストーンにランク上げたの?」
「荷物運びとか、穴掘りとか――です」
あ、そっか。薬草採集だけがウッドランクの依頼じゃないもんな。そういえば、そんな日雇いバイトみたいな依頼もあったな。
職員に聞いていた北門を出てすぐの草原に移動し、ラウに薬草を実際に採集して見せて同じものを取るように言ったのだが、雑草ばかり取ってきやがった。仕方がないので、草原の情報でスライムやアルミラージが出ることも職員に聞いていたので、どうせストーンランクの依頼もそのうちすることになるんだしと、ラウには魔物を狩らせておき、俺が薬草採集をすることにした。
まさかここに来て俺が薬草採集の依頼をすることになるとは思わなかったな。あ、ついでにポーション用に多めにとって行こうかな。
手早く薬草を採集して午前中で薬草採集を終え、昼食後はラウの戦いぶりを観察してみると、さすがに元ブロンズランクだけあってスライムやアルミラージ相手に無双していて、詳しく戦い方を見てみると素早さを生かした一撃離脱の戦い方をしていた。ちなみに昼食は俺がサンドイッチでラウは肉がいいというのでアルミラージとボアの串肉が全部で十本だった。
夕方になったのでそろそろ戻ることにして、狩った魔物などを『倉庫アプリ』に入れながらラウに今日はどうだったか聞くことにしたのだが。
「ラウ、戦闘の方はどんな感じだった?」
「う~ん。久しぶりだった――でしたから」
「あ、今は他に人いないから普通にしゃべってもいいぞ」
「それじゃ。いや~久々だったから初めは思ったように動けなかったけど、最後の方は結構動けてたと思うぜ」
確かにうまく動けてたようには思うけど、闘気は使ってなかったように見えたな。ちょっと聞いてみるか。
「質問なんだが、ラウは闘気を使えないのか?」
「闘気か~、調子がいいときなら闘気を使えたりするけど、自在に使いこなすのは無理かな~?」
デイジーと同じ感じだな。なんか使いこなす方法とかコツなんかが分かればいいんだけど……レベル上げたり経験を積むことで使えたりしないものかな?
「何体の魔物倒せたんだ?」
「えーと、スライムがいっぱい、アルミラージがいっぱい、あとは……ボアがいっぱいだったかな?」
え……、俺は何体かを聞いたはずなんだけど、まさかこいつ……まさかね~、一応聞いてみるか。
地面に石を二十個置いてラウに「ここにある石は全部で何個だ?」と聞くと「いっぱいだ!」と、元気よく得意気に答えてきた。その後、石を一つずつ減らして個数を聞いていったら十個になるまではいっぱいとしか答えなかった。
おいおい! ラウのやつ数も数えれんのかい! 礼儀作法や言葉遣い以上にやばいな……これは教育が必要だな。てか、奴隷商で加減算くらい覚えさせとけよな。
結局、俺が数えたところその日の成果はミーリ草x156、ヨムガル草x131、スライム核x26、アルミラージx14、ボアx20で、ストーンランクにはなれそうだがアイアンランクに上がるには数が足りなかった。
ギルドに戻りラウに依頼の受注と報告させストーンランクに、さらにストーンランクの依頼の受注と報告もさせ、魔物をギルドに卸して宿に戻りルカも一緒に宿の食堂で夕食を食べた。
部屋に戻りラウが数を数えれなかったからルカはどうなのか聞いてみるとルカは数を数えることができ、さらに加減算まで出来るとのことだった。
「ラウ……妹に負けてるぞ」
「い、いや、俺はほら肉体派で妹は頭脳派なんだよ!」
「ラウ、今日から夕食後は勉強の時間にするからな、ルカもラウに教えるの手伝ってくれ」
「はい! お兄ちゃんがちゃんと読み書きできて加減算もできるようにしてみせます!」
「マジかよ……俺は魔物と戦ってる方がいいんだけどなぁ」
明日、勉強用にノートになるものとそれに書くのに使うペンのようなものを買ってこないといけないな。紙は高いだろうから黒板みたいなの売ってないかな? あ、石を『錬金アプリ』で石板に加工して、ろう石があればそのままチョーク代わりに、もしくは石灰と水を『錬金アプリ』でチョークに加工とかできないかな? とりあえず、明日の狩りのときにでも材料になりそうなもの探してみるか。
俺がそんなことを考えてる間にも、ルカによるラウへのスパルタ教育が開始されていた。
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