第六十六話 第一回学習教室

 いよいよ第一回学習教室当日がやってきた。今回参加するのは孤児院の子供たちと、6歳以上15歳未満の村の子供たち。1~5歳は幼すぎるし、15歳は成人年齢だから大人であるという事で村長たちが協議の結果決めたらしい。

 初めは院長とルカに任せておこうとも思ったのだが、1回目の学習教室という事でちょっと不安だったので、教室となった部屋の外の廊下から中の様子を見守ることにした。

 教室を窓からのぞく男と言うのは、よく考えると不審者にしか見えないと思ったがあえて気にしない事にした。


 さて、村長には今回授業を受ける事になってる村の子供たちへ、孤児院の子たちの中には年下の子がいるけどバカにしたりエラそうな態度はしないように言い聞かせてもらってはいたが、それでもやっぱり心配なんだよな。


 1限目と2限目の院長の読み書きの授業は村の子供たちが授業というものをよく理解多少騒がしい所もあったが、大きな問題も起きずに終わった。


 ひと悶着あるかもって、思ってたんだけど……特に何もなかったな。ルカの授業もこの調子で順調に終われば早くに次の段階へ進めるな。


 院長が読み書きの授業が終わりルカの加減算の授業となり、院長も気になったのか一緒にルカの授業を見守る事になった。

 そしてルカの授業が始まったのだが、村の子たちの中には明らかに自分より年下なルカに勉強を教えられるという事が面白くないと言わんばかりに真面目に授業を受けずに遊びだしルカが注意しても無視する子が出てきたので俺が出て行こうとしたらルカが「静かにしなさい」と言う言葉と共に何とも言えない殺気が発せられ遊んでいた子はおろか俺までもが動けなくなった。孤児院の子供たちはそんな様子のルカに既に慣れているのか普通にしていた。


 こんなルカは初めて見るな。てか、孤児院の子供たちは普通にしてるんだけど、怒られなれたとかなのかもしれないな。てか、孤児院の子たちにちょっかい駆ける心配はしてたけど……そう言えばルカもまだ子供だったな。ルカを見てると確かに見た目は子どもだけど、大人顔負けの学習能力と礼儀作法で、しかも魔法もすごいからついつい子供だってこと忘れちゃうんだよな。


 結局その後は騒いでいた村の子供たちも見た目にはおとなしく授業を受けていた。ま、納得しておとなしくしていたようには見えなかったがとりあえず無事授業を終える事ができていた。

 授業終了後、ルカの授業での話を聞いたラウが「ちょっと行ってそいつらぶっ飛ばしてくるぜ!」と言って部屋を出て行こうとしたが、ルカが気のせいでなければ結構な魔力がこもった『ウィンドボール』をラウに向けて放ち沈黙させてしまった。


「……え。ラ、ラウ、大丈夫か?」 

「あ、リン兄さん。お兄ちゃんならこのくらいでどうこうならないので放って置いて構いませんよ?」

「え、いや、でも。結構いい魔法だったような……」

「大丈夫です。何なら後5発くらい撃ち込んでおきましょうか?」


 あっれ~? ルカってこんな子だったっけ? あの優しかったルカはどこに行ってしまったんだ……あ、なんかルカがこっち見て微笑んでる。微笑んでるのに目が笑ってない! 怖っ! ラウ、そんな助けを求めるような目をされても俺には何もできないよ。ラウ、強く生きてくれ!


 その後、ラウはルカに引きずられどこかへ連れていかれた。その後ろ姿を見ていたら頭の中でドナドナのBGMが流れ始めて何とも言えない気持ちになり助けてやりたくなってきたが、今回の学習教室で起きた事を村長に報告に行かなければいけなかったので、ドナドナされるラウの事は自分で何とかしてもらう事にして院長と村長の家へと向かった。

 

「孤児院の子供たちと村の子供たちの間でちょっとぎくしゃくした空気はありましたけど、とりあえず今回は大きな問題は起きませんでした。

 しかし……村の子供たちの内、年長の子供たちが自分たちより年下のルカに勉強を教わることが面白くなかったようでちゃんと授業を受けずバカにした態度をとっていましたけど」

「ふむ、そう言えばその辺りの事は忘れておったな」

「ま、ルカが睨んだらおとなしくなりましたけどね。ただ……その子供たちがこりて反省したのかと言われると、していないと感じますけど」

「ふむ……で、騒いどったのは誰なんじゃ?」


 よく考えると今回来た村の子供たちの名前知を知らなかったので困っていると、院長が説明してくれた。


 院長がいてくれてよかったな。俺だけだと騒いでた子供たちの名前わからなかったら村長に説明するのが大変だったな。


 騒いでいたのはガロル、リュスラ、ハガニ、コードの4人でガロルがこの村の子供の中でガキ大将的な存在で、ちょっとわがままなところが目立つ子供であるらしかった。


「なんかもう面倒なんで、もういっそ反抗的な子供たちを集めてルカと戦わせちゃいますか?」

「いや、戦わせると言うのはさすがにけがをするかも知れんし危険なんじゃないかの?」

「そこはルカに相手にできるだけ、けがをさせないように言っときますんで」

「ん?」


 おや? どうやら村長はルカとガロルたちを戦わせた場合、ガロルたちではなくルカがケガをするのではと心配しての発言だったようだが、ルカならあのくらいの子供たちなら魔法を使用すれば余裕で皆殺しにできるだけの実力があると思う。ま~ルカは余程の事が無い限りそんな事はしないとは思うけど……しないよね?


 とりあえず村長には『ルカなら皆殺しにできる』とは言わず、冒険者でもあるから結構強いから問題ないとだけ言っておいた。実際、ラウが許可しないからランクはそのままだけど、その気になればシルバーランクにすぐに成れるくらいの実力はある……と言うか十分な実力とちゃんとした礼儀作法はラウよりよほどシルバーランクにふさわしいと思うぐらいである。


「という事で、戦闘訓練の授業という名目で戦わせちゃいましょう。ケガなどはこっちで回復魔法とかでなんとかしますんで」

「う、う~む。ま、最近ちょっと目に余るところもあったのも事実ではあるし、本当にルカが任してくれるのならいい薬になるかも知れんの」


 その後、ルカと子供たちの戦いは今後の授業の参考にするための模擬戦という事にし、戦うのは縦横各15mの枠内、勝敗は降参、枠外に出る、気絶で決まる事とし、相手を殺すのは禁止、危険と判断した場合は即座に中止するとルールなどを決めた。


 模擬戦当日、冬の間それ程する事も無いからか村のほぼ全員が身に来ていた。そしてレイも珍しく外に出て来ていた。どうやらルカの事を心配して来たのではなく、ルカがどれだけ成長したかを見届けるためらしい。


 ま~、レイにとってルカは教え子って事になるんだし(魔法に関してのみだが)来てもおかしくないかも知れないけど……あんなに寒いからって出ないレイがわざわざ見に来るとは思わなかったな。


 試合の方は開始と同時にルカの魔法で相手が全員吹っ飛び、器用に頭から雪山に刺さってた。村人たちは何が起こったのか理解できずポカーンとしていた。勝敗についてはもちろんガロルたちの場外負け、ルカの勝ちである。


 あれ? あんなとこに雪山あったっけ? それにあんな器用に雪山に突き刺さるのって不自然だな。


「なぁ、レイ。あんなとこに雪山あったっけ?」

「……ん……それなら――」


 いつの間にかあった雪山を不思議に思って聞いてみると、レイがルカに頼まれて作った物だと言ってきた。ついでに試合で何が起きたのか解説してもらうと、ルカが対戦相手を吹き飛ばしたのは『ウィンドブラスト』でその後に雪山に刺さるように誘導したのは『ストリームアロー』で使っていた気流操作で吹き飛ばしたガロルたちを雪山に頭から突っ込むように軌道修正したらしい。


 何と言うか……ルカ凄すぎだろ! てか、魔法名すら口にしてなかったよな?


 魔法名を口にせずに発動させる事はかなり高度な方法で、これができれば一流だと言われているらしい。


「え、って事はルカは魔法使いとしては一流って事か?」

「……風に関してだけなら……私と同じくらい……」


 マジか! ってことは実力ならゴールドランクでもおかしくないくらいなのか?


「えーと、これからはちゃんと授業受けてくださいね?」

「へい、ルカの姉御!」

「いえ、私の方が年下なんですけど……」


 ルカがそう言うと『姉御は姉御っす!』とガロルたちが声をそろえて返していた。

 どうやらルカがこの村の子供たちの頂点『ボス』として認識されたらしい。単純な戦闘の力ならラウの方が上なのだが、戦闘時以外の普段のラウはルカに頭が上がらないので他の子供たちからはラウよりルカの方が上位と言う図式が定着していた。


 ガキ大将だったはずなのに、なんかもう下っ端臭がすごいな! まぁ、これでおとなしく授業を受けてくれるならいいんだけどね。

 ……あんまりルカにかまってるとラウにぶっ飛ばされちゃうかもしれないからほどほどにした方がいい事を教えておいた方がいいな。


 後日開かれた2回目の学習教室では特に問題も起きなかったので第二段階に進むかどうか、進むとしてどの様な授業を行うかなどの話し合いを村長の家で行う事となった。


「第二段階に進めるのは問題ないと思うんじゃが……大人たちが子供たちと混ざって勉強するという事に抵抗があるみたいなんじゃよ。ルカが教師という事に関しては問題ないらしいのじゃがな」

「自分の息子や娘、それと同じか下の子供たちと一緒に勉強すると言うのは大人のプライドが許さないとかですかね?」

「簡単に言えばそんなもんじゃな」


 う~ん、今でもそこそこの人数になっちゃってるし、大人だけ別で授業を受けてもらうのもありかも知れないな。


「大人だけの学習教室を開いてもいいんですが……そうなると院長やルカだけでは負担が大きすぎるので新たに教師を増やさないと行けなくなりますよ。一応俺が四則演算の方をを教えてもいいですけど、読み書きを教えてくれる人材が一人欲しいとこですね」

「ふむ、しばらくは大人たちの方は儂が読み書きを担当してもよいぞ」


 とりあえず大人たちにはしばらく俺と村長で教えて、孤児院の中でもうすぐ15歳となる者の中で教師となる事を希望する者を鍛え、その中から2名を教師として村で雇うという事が決まった。

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