第六十五話 学習教室・準備

 行商から帰ってきた翌日、今回はなぜか院長も一緒に呼ばれて村長の家で今回の行商の詳しい報告をする事になった。行商の報告に関しては問題なく進み、初期設定の価格で完売できたと言う事を村長は喜んでいた。 行商の報告も終わり、なんで院長を呼んだのか不明だったが他に話すこともこれと言ってなかったので孤児院に戻ろうと席を立とうとしたとき、村長が何やら相談があるから待ってくれと言ってきた


「いや、相談と言うのは、この前言っとった村の子供たちにも勉強を教えると言う件なんじゃが、そちらに問題ないのであればすぐにでも進めて欲しいと思っての」

「あ、だから私も呼ばれたのですね?」

「うむ、孤児院で開いて貰うのじゃからちょっと詳しく話をしようと思っての」


 村長と協議の結果、次のようなことが決まった。

 ・まずは必要な筆記用具や教材などの作製と、孤児院での教室の整備をする。

 ・第一段階として、村の子供たちを交えて子供たちに勉強を教える。

 ・第二段階として、他の村民の中から希望する者にも勉強を教える。

 ・最終段階として、春にでも孤児院の近くにある空き地に校舎を建て村営学校として正式に開校する。

 以上の様な計画になった。ただし、各段階で重大な問題が発生し解決できないと判断した場合はこの学校計画は中止し無理のない範囲で子供たちに勉強を教る勉強会を開く程度とするという事で話がまとまった。

 筆記用具などに使う材料に関してはダイロと相談、木材が足りない場合は村長の名のもとにダイロと一緒に村の外で木材を伐採する事を許可も貰った。

 筆記用具や備品などの制作費は村の人たちの話し合いの結果、積立金の中から出す事になったので、後日費用の請求をするように言われ、孤児院の一室を教室として借りる事に対しての賃料と院長とルカが教師として教える事に対しての報酬については1回目は村の積み立てからだし、後日1回目の学習教室が終わった後に内容はどうだったか、何か問題は起きなかったかを話し合いう時に授業料についても決めて、その中から賃料と教師への報酬などを支払う事となった。


「とりあえずはこんなもんじゃな。ああ、ダイロには儂の方から話を通しておくんで取り合えぞ今日はここまでにして休んでくれてよいぞ」

「分かりました。院長と相談して何が必要になるか話し合って明日ダイロさんのとこへ話に行きます」


 さてと、まずはノートと筆記用具がいるんだけど……今は板をノート代わりに使ってるんだけど、かさばるんだよな。う~ん、もしミニ黒板作ったとしてもかさばるし書き留めるには向いてないしな~、紙があればいいんだけど……羊皮紙、木の皮、木札、木簡、どれも何かいまいちだな。あとは、そうだな~……あ! そうだ経木なら木が有れば作れるだろうし、薄くてそんなにかさばんないな。あとは、人数が多いし大型黒板はあった方がいいな。


 黒板くらいなら使う素材も安く作り方さえわかれば割と簡単に作れるだろうし、どうかと院長に相談した所、似たようなものがこの世界にある事が分かったので作ることに決定した。


「それからね、リン君。孤児院の子たちの他にも村の子たちもってなるとイスや机が足りなくなるんじゃないかしら?」

「ああ、そうですね。第二段階だと希望する村人もってことでしたし……少し多めにイスと机を作った方がよさそうですね」

「ええ、もし学校を建てたとしたらそっちで使ってもらえばいいでしょうし、多めに作っても問題なさそうね」


 翌日、ダイロに作りたい物を相談してみると、イスと机も作るとなると圧倒的に木材が足りず、チョークに至っては使える素材が無いとの事だったのでチョークは『倉庫アプリ』にまだ大量に残っていたのでそれを提供し、足りない木材については村の外の林で木を伐採すればいいとした。

 

 それじゃ、とりあえず木材の調達に林へ行くか……ってダイロの付き添いだか立ち合いだかがいるんだったな。


「――ダイロさん、これから外に木を切りに行きたいんですけど」

「ああ、そう言や村長から伐採許可貰ってたんだったな。しっかし、これからすぐ行くのかよ……犬そりや斧なんかを準備しねぇと――」


 ああ、木を切る道具と運ぶ道具か……スマホがあるからいらないな。


「いや、切るのも運ぶのもこっちで何とかしますから、どの木を切っていいのか……そうですね、今回の準備で使うだけなら多めに見繕って2本もあれば十分だと思うんで切ってもいい木を指示してください」

「まぁ2本まぁもあれば十分だろうな。そんじゃ一緒に行って切っていい木を2本指定するだけでいいんだな? 結構でけぇ木を切り倒すことになっけど本当にソリ無しで2本も運べんのか?」


 う~ん、そう言われると大木を2本も入れれるアイテムボックスってかなりレアもの扱いになっちゃうのか? でも、前に狩り行った時面倒だったから買った獲物全部『倉庫アプリ』に入れる所見せちゃってるいまさら隠す事でもないし……ま、いまさらだけどなんかやっちゃ感あるけど、それはそれとして、割り切って、諦めてしまおう!


「はい、大丈夫です、それでお願いします。ただ、学校を建設する事が決まればもっと大量の木材が必要になるかもしれないですけど……そこの所どうですか?」

「村の近くの木をあんまり大量に切られると林が無くなっちまうから困るな。もっと奥の方なら構わんが……狩りとかにも影響あるかもしんねぇから村長やレンゴ辺りに話聞いといた方がいいと思うぞ」

「分かりました」


 ダイロと一緒に林へ雪を漕いで行くのは大変だったので『魔法アプリ』の魔法で雪を吹き飛ばして道を作り行き、木を2本伐採して木材を確保し後日きちんと製材してから大量の経木や大黒板などを作成し足りなかったイスや机も作成した。羽ペンやチョークなども余裕をもって多く作成したちなみに、黒板消しに関しては村の各家庭に余っていた布の端切れを提供してもらって作った。


 やっと準備が終わったな……あとは一回目の授業内容とか相談して詰めて行かないといけないな。


 一通りの準備が終わり授業内容に関しても村長や院長と相談した、孤児院の子供たちにとっては繰り返しの内容となってしまうから今回初めて授業を受ける事になる村の子供たちだけに勉強を教えてはどうかと言う案も出たのだが、孤児院の子供たちと村の子供たちが一緒に授業を受けて何が問題が起きないかという事も確かめておいた方がいいと言う意見が多く出たので、孤児院の子供たちにも復習と言う意味でも無駄にならないだろうし、一緒に授業を受けるという事で話がまとまり3日後に一回目の学習教室を開くことが決まった。

 授業内容については読み書きと加減算としたが、中には数字が分からない子供もいると言う意見が出たので加減算ではなく数字と数え方を教える事となった。

 

「それじゃ今回参加する村の子供たちの家にはこちらの方から話をしとくから、孤児院での教室の準備を頼んだぞい」

「はい、分かりました。って言っても大体の準備は――あ、教科書みたいなの作って無かったけど大丈夫ですか?」

「う~ん、今回は読み書きと数字と数え方を教えるだけになるだろうし……ルカちゃんなら大丈夫だと思うわよ」

「院長は?」

「ちょっと不安かな?」


 院長の不安を無視する形で孤児院に戻り、ルカに3日後に決まった1回目の学習教室について話していると、それを聞いていたラウが何かやたらとやる気になっていたが今回は読み書きと加減算だけだと伝えると一気にやる気をなくしたので、授業中は俺達が他の事ができなくなるので除雪や巻き割りなどの肉体労働系の仕事を頼んだ。

 1回目の授業は今までちゃんと勉強してこなかった子供たちに長い時間集中して授業を受けさせるのも無理だろうと考え各時限の授業時間は30分、授業間の休憩時間を10分と決め、授業内容は1時限目と2時限目が院長先生が読み書きを教え、3時限目と4時限目がルカが数字と数え方を教える事としたのだが、ここで時計も無いのに時間をどうやって計るのかと言う問題が発生した。

 置時計とかないのか聞いた所、普通は時計と言えば時計塔の事を指しギルドの建物にあることが多いという事で、小さい時計(小さいと言っても持ち運べるような大きさのものでは無い)などあるにはあるのだがとてつもなく高価で普通の人には手が出ない代物であるという事を今更ながら知る事となった。


 あー、俺ってスマホで時計見る事がほとんどだったからな……時計のこと気にしたことなかった。う~ん、時間確認の方法どうしようかな……一々村にある時計塔を見に行って確認するってのも面倒だし……俺がスマホで時間確認ってのもな~、この世界に携帯できるような時計が無いのにスマホで時間が分かると知られると問題だろうな……あ、別に現在時刻が分からなくても時間を計れればいいんだし砂時計なら問題ないか。


 砂時計を使う事に決めたものの、今から材料を一から揃えて作ると言うのも面倒だったので偶然持っていたという事にして『倉庫アプリ』内にある材料を使って『錬金アプリ』でそれぞれの砂時計を作って出した。


 一回目の学習教室を明日に控え、院長に孤児院の子供たちに繰り返しの今度の授業内容は前にやった所の繰り返しになってしまうが一緒に勉強する事になる村の子供たちはにとっては初めての授業で分からない事も多いだろうけど、それをバカにするような真似は決してしないように説明しておいてもらった。


「――さて、いよいよ明日だけど……何か足りない物とかないかな?」

「う~ん、大丈夫だと思うけど~……ルカちゃん、何か足りない物とかあった?」

「いや、院長。一応は一番年長者なんだしそこはルカに聞かないでしっかりして欲しいんだけど」

「……一番の年長者……『一番の』年長者……一番年上……年上……年、年齢、一番年を……お・ば・さ・ん……ちがう! 私はまだおばさんじゃないわーーー!」


 なにやら院長に変なスイッチが入り錯乱し始めたのでなだめる事にした。


「あ、いや、院長。そう言う意味じゃないから落ち着いて欲しいんだけど。院長は十分若いから! お姉さんだから! 落ち着いて!」

「そ、そうですよ。リン兄さんの言う通り院長先生はまだ若いです」

「そ、そう? 結婚できる?」

「「…………」」

「な、何でそこで二人とも黙っちゃうのよー!」

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