第十一話 獣人の職員と獣人の子供
冒険者ギルドの扉を開け中に入ると、多くの冒険者がいて受付にも長い列ができていたのだが、三つある受付の一ヶ所だけ列のできていない場所があったので、何故そこだけ誰も並ばないか不思議に思ったのが空いているんだしと、そこで依頼の受け方などを聞いてみることにしたのだが。
「え! えっと、本当にこちらの受付でいいんですか?」
受付にいた職員は黄色と黒色の斑な髪の猫っぽい獣人の女で、何故か驚かれてしまった。何をそんなに驚いてるんだと聞いてみると、普通だと人間は獣人のいる受付には近寄らないと言う事で、混んでるから仕方なく来る人はいても、自ら進んで獣人がいる受付に来る変わり者なんて初めてだと言われた。
「ああ、そういう理由でしたか、俺は落ち人なんで獣人だからと言って嫌いませんよ」
「え! そ、そうなんですか? 私は始めて見たんですけど、普通の人間にしか見えませんね」
普通以下の人間ですけどね。…………自分で自分に精神攻撃してしまった……鬱になりそうだ。
頭を振って気を取り直し、獣人の職員を見てみるとレイと違って口の横に猫髭が生えていたり、顔も猫というか獣っぽかったので、気になって色々と質問してみるとすぐに答えてくれた。
獣人の職員は、名前をライラと言い、年齢は二十三歳で種族は豹人族との事だった。
ライラによると、自分は純粋な獣人で、俺が見た獣人|(レイ)は恐らくハーフだから見た目が違うということで、人間の大陸では純粋な獣人は見た目から忌避感があり、ハーフは見た目が人に近くても混ざりものということで精神的に忌避感があり、さらにハーフと言うのは獣人からもあまりよく思われていないということだった。
獣人のことでもっと詳しく聞こうとしたのだが、ライラがオロオロしてここであまり獣人に関することを話すのにためらいがあるということだったので無理に聞くのも悪いかと思い、とりあえず本来の目的でもある依頼についてどうすればいいのか聞くことにした。
簡単な説明をライラに聞き、詳しい依頼に関する説明は依頼に関する説明書を見せて貰い、一応スマホで写真を撮っておいた。
「じゃ、依頼書のよなものはどこに行けば見れるんですか?」
「あ、それでしたら。後ろの壁の所にある棚の中に依頼木板という依頼の書かれた木の板がランク別に置かれてありますので、そちらをご覧ください」
へ~、テンプレな掲示板に紙が張り出されてるとかじゃないんだな。紙が貴重だからなのか?
そんな事を思いながら教えて貰った棚の木板から自分が受けれる依頼にはどんなものがあるのかとウッドランクのものを見てみることにした。
薬草採集
・ランク:ウッド
・報 酬:銀貨一枚
・内 容:ミーリ草x10の採集
・期 限:当日限り
・依頼主:薬屋『バルド』
・備 考:一日の買い取り上限10セット、収集したものをカウンターにそのままお持ちください
薬草採集
・ランク:ウッド
・報 酬:銀貨一枚と大銅貨七枚
・内 容:ヨムガル草x10の採集
・期 限:当日限り
・依頼主:薬屋『バルド』
・備 考:1日の買い取り上限5セット、収集したものをカウンターにそのままお持ちください
清掃員
・ランク:ウッド
・報 酬:銀貨二枚
・内 容:閉店後の店内清掃
・場 所:食堂『暁の月亭』
・期 間:PM20:00~PM:22:00
・期 限:要相談
・依頼主:食堂『暁の月亭』
・備 考:余り物でよければ夜食付き
倉庫整理
・ランク:ウッド
・報 酬:一時間大銅貨八枚
・内 容:倉庫の整理作業
・場 所:道具屋『ラディウ』
・期 間:要相談
・期 限:整理終了まで
・依頼主:道具屋『ラディウ』
・備 考:倉庫整理でいらなくなったものを格安で譲ります
調理補助
・ランク:ウッド
・報 酬:銀貨一枚と大銅貨七枚
・内 容:食器洗いなど
・場 所:食堂『暁の月亭』
・期 間:AM11:30~PM14:00
・期 限:要相談
・依頼主:食堂『暁の月亭』
・備 考:賄いあり
期間従業員募集
・ランク:ウッド
・報 酬:時給銅貨8枚
・内 容:店内全般の作業
・場 所:食堂『青の海原亭』
・期 間:要相談
・期 限:要相談
・依頼主:食堂『青の海原亭』
・備 考:賄いあり
え~と、これだけか……それにしても、討伐系はないんだな。最後のに至っては完璧にバイト募集じゃないか。なんかもう、冒険者ギルドがバイトの斡旋所のようにも思えてくるな。それにしても、ギリクで表現したり硬貨で表現したりと、金額表示が統一されてない世界だな。ま、今日は依頼はいいかな? とりあえず宿でも探す――あ、ライラに聞いてみるか。
「あの~、ライラさん。この町でおすすめの宿とかありませんか? それと、ちょっと獣人の事とかギルドの利用法なんかを知りたいので仕事終わりにでもお話し聞かせてもらえませんか?」
警戒されていたので、怪しい者じゃないよと身分を証明するためにギルドカードを見せると。
「ああ、あなたがリンさんでしたか、少々お待ちください」
ライラは奥に行き、多分上司であろう中年男と何やら話、小さな袋を持って戻ってきた。
「こちらシャルディア様よりのお預かり品で、リンさんがいらしたら渡すように言われていたものです」
そう言われて小袋を受け取り中を確認すると、大銀貨が二枚と銀貨が十六枚それと羊皮紙が1枚入っていて、羊皮紙には、『先立つ物もいるだろうから少ないけど取っておいてね。シャルディアより』と書かれていた。
シャルディアのやつ、別によかったのに……今度会う事があったら礼を言わないといけないな。
その後、ライラに16時に仕事が終わるからその後だったらと言われ、その時間に俺が迎えに行く事を約束し、宿は宿屋街にある『向日葵亭』というところが食堂も兼ねていて味もいいからおすすめだと言われ、ギルドを後にした。
宿屋街に移動し、ライラに教えて貰った宿屋を探して歩いていると、前方に人だかりが出来ていて騒ぎが起こっていた。
気になったので「なにかあったんですか?」と近くにいた男に尋ねてみると、男は何やら言いにくそうにしながらも答えた。
「それがな、どうやら子供が馬車に轢かれたらしくてな、しかもその轢いた馬車って言うのが……貴族の馬車だったみたいなんだ」
答えた男が言いにくそうに貴族の馬車と言っているのを聞いて、よくある話だと平民が貴族の馬車の前に出るのは轢かれたとしても重罪とか何だけど……嫌な予感しかしないなと思った。
「しかも轢かれた子供って言うのが獣人らしいんだよ」
それを聞いて、どおりで誰も助けようとしないなと思い、なら自分がと轢かれて血を流し全く動かない子の元へ行き状態を確認してみると、身体の方は複数ヶ所の骨折が見られ、呼吸をしているのか確認するため口元に耳を当ててみると呼吸が止まっているようだったので、次に脈を測ってみると脈はまだあったので、すぐにスマホを出し魔法アプリで回復魔法をかけた。
すぐに回復魔法の効果が現れ子供の指がピクリと動き、喉の奥にたまっていた血を吐き出した。意識は戻らなかったが弱いながらも呼吸が回復したので、念のために回復魔法を追加でかけておいた。
そのとき、馬車から鎧を着た男が下りて「邪魔だ! とっとと退けろ!」と、怒鳴ってきたので、俺は子供が獣人だと分かれば何されるか分からないと思い、後ろに隠し「すいません。今退けます」と言って、子供を男から見えないように身体で隠しつつ路地の方へ移動した。
するとすぐに馬車は勢いよく通り過ぎて行き、それとほぼ同時に野次馬たちは獣人と関わりたくないからなのかほとんどの者が蜘蛛の子を散らすように消えていった。
改めて子供の状態を見ると、呼吸がだいぶ落ち着いてきていたようなので、とりあえずはこれで何とかなっただろうと思い子供の姿を見てみると、5歳くらいの、黒髪で猫のような獣人の男の子だった。
これからどうしたものかと思い悩んでいると、背後から突然声をかけられた。
「あんた。その子はうちに泊まってる客の子だよ。こっちについてきな」
振り返って見ると、小さ目の頭巾をかぶった恰幅のいい40歳くらいのおばさんがこっちだと手招きしてきたので、とりあえずついていくことにした。
少し歩いて「ここだよ」と言われた宿屋の看板を見ると『向日葵亭』と書いてあった。
あれ? ここって、確か……探してた宿屋じゃないかよ!
「ほら、こっちだよ。早くしとくれ」
せかされて宿屋の中に入り、食堂を抜けて階段を上がり2階の奥の部屋へと入り、男の子をベッドに寝かせた。
何が何だかわからずここまで来てしまったが、あなたは誰なんだとかこの子との関係はと言う事を聞くことにした。
おばさん改め(おばさんと言ったら怒られた)マーセル、38歳(38は十分おばさんだと思うんだが)の話によると、この男の子の名前はライネルと言って、両親と3人でこの部屋を長期で借りているとのことで、今日はマーセルの買い物に一緒についてきていたのだが、市場に行った帰りにちょっと目を離したらいなくなっていて、見つけたときにはもう馬車に轢かれた後で、俺が回復魔法をかけているときだったらしい。
「いや~、それにしても……兄さん。名前なんだっけ?」
「俺はリン・クスノキ。冒険者です」
「そうかい。じゃ、リンでいいね。で、リン。あんたよく獣人の子供なのに助けてくれたね」
あ~やっぱり獣人だと子供が轢かれてても見捨てられるんだな。
貴族の馬車に轢かれると言う事がどういう事なのかとか色々と聞くと、貴族の馬車の目の前を横切ったりすることは、不敬ではあるが注意されることがあるくらいで罪にはならない。貴族の馬車が平民を故意に轢かない限りは罪には問われなく、轢かれた方が悪いのでそのまま放置して通り過ぎても問題にはならない。
ただ、獣人の場合は話しが変わる。王族や貴族など身分の高い者の多くは特に獣人を蔑み嫌う傾向にあり、今回の様な事があればその場で斬り捨てられかねないと言う事だった。
ちなみにマーセルはなんで獣人なのに普通に接してるのかと聞くと、客に獣人も人もないと言われた。
「それじゃ、私はそろそろ宿の仕事があるから戻るよ。その子のことは頼んだね」
俺にライネルの世話を任せてマーセルは部屋を出て行った。ふと、部屋にあった時計が目に入ったので何時かと見てみると『16時25分』それを見て、ライラとの約束を思い出した。
あ、やばい! 約束の時間過ぎてたな、ライラを迎えに行かないと行けなかったんだよな……でも、この子をこのまま置いて行くのもな~。もう大丈夫そうではあるんだけど……どうしたもんかな?
俺が男の子が安定した寝息を立てていたのでもう大丈夫そうだから、遅くはなったがライラを迎えに行こうかと椅子を立ったとき、部屋の扉が勢いよく開き、フードを目深に被った人物が入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます