第十二話 ライラさんに聞いてみた

 部屋に入ってきた人物の姿を見て、俺は一瞬レイかとも思ったのだがレイにしては身長が高い事に気がつき警戒して、一応スマホを出して注意深く見ていたのだが。

 その人物がおもむろにフードを後ろに払った。すると、そこには見覚えのある顔があった。


「ライ! ……あれ? リンさん。どうしてここに?」

「ライラ……さん? え、あ、そうだ。迎えに行かなくてごめんなさい」

「え、は、はぁ、いえいえ、そんなことより、何で私たちの部屋にいるんですか?」


 ん? 私たち? もしかして……この子の母親って……ライラ……なのか?


「へ~ライラさんって子供いたんだ~(ってそこじゃねぇー!)……えっと、この子の母親ってライラさんだったの?」

「え、は、はい。ライネルは私の息子です。はっ! そ、それで、ライは大丈夫なんですか! 馬車に轢かれったって、下でマーセルさんに聞いて、私は、私は……」


 混乱するライラにライネルの怪我などはもう回復魔法で治したので、今はただ寝ているだけだと説明し落ち着くように言って、これまでのことを話した。すると、何度もしきりに「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べて頭をさげてきた。

 大きな声を出していたせいかライネルが目を覚まし、ライラを見つけて抱き着いて泣き出していた。それをライラが泣き止むまであやし落ち着いたところで、ライネルのお腹が可愛く鳴ったのでとりあえず夕食を食べることになった。

 一階の食堂で夕食を食べることになったのだがその前に宿をとることにしてマーセルに部屋はあいてるか聞きに行く事にし、宿のカウンターへ向かった。


「おや、兄さん……確かリンだったっけ? うちに泊まるのかい?」

「はい、リンです。それで、空いてる部屋はありますか?」


 希望などを聞いてきたが、宿泊は一人で希望は昨日の宿の様なものを説明すると、ライラの向かいの部屋が希望に合い、ちょうど空いてるということで、それに決めて宿泊日数はとりあえず一ヶ月とし、金額は一泊につき1,200ギリクで食事は別という事だった。

 ちなみに、この世界のカレンダーは元の世界に近いもので、一年は十二ヶ月で一ヶ月は固定で三十日、さらにちゃんと一週間が存在していて、どういうわけか月曜~日曜がそのまま存在したが、自動翻訳でそう見えているだけだったのかもしれない。


「それじゃ、一ヶ月だから36,000ギリクになるけど支払いはどうするんだい?」


 支払いをどうするとはどういうことか聞いてみると、ギルドカードなど身元がはっきりわかる物を提示すれば長期間の滞在なら一部前金さえ払えば残りは後払いでいいのだと説明されたが、別に金に困ってるわけでもなかったので全額前払いで払うことにし、マーセルに金貨一枚を渡した。


「リン、あんた。金貨をポーンと出すなんて結構金持ってたんだね、全然そんな風には見えなかったから、前金すら出せないんじゃないかと思ってたよ。でもさ、できればせめて大銀貨で払っておくれ」


 俺って、そんなに貧乏そうに見えるのかな~?


 そう思いつつ大銀貨三枚と銀貨六枚をマーセルに渡して部屋のカギを受け取り、ライラ親子と一緒に食堂で夕食を食べたのだが、ライラがライネルを助けてくれたお礼に少しでもと夕食の代金を払うといってきたのだが、元々の予定では俺が夕食をおごる代わりに色々と話を聞こうと思っていたので、夕食代はいいから代わりに話を聞かせてもらうということでかなり強引に納得してもらい、ライラの部屋で話を聞くことになった。

 部屋に戻るとすぐにライネルはベッドに横になって眠ってしまった。


「リンさん。それで、何をお聞きになりたいのですか?」

「えーとですね――」


俺は、獣人の事、この世界の事などを色々とライラに質問していった。

 

 まず、この世界の基本の種族は獣人は獣人族、亜人は亜人族、魔族はそのまま魔族、人は人間族という四つの種族で、ラウティア大陸は人間種至上主義の国が多く、他の種族には住みづらい場所で獣人や亜人の奴隷も多く、魔族は特に人間族と仲が悪く、この大陸にはまずいないし、いたとしても奴隷になることさえなく殺されることが多い。

 ラムディオ王国は特に顕著で奴隷でさえ少ない。この国で他種族が外に出るにはローブやフードなどで姿を隠さないと危険。

 表立っては言わないがこの国で他種族を殺しても罪になることは少ない。ホラブのような商業の町なら他種族だからと殺されるようなことはまずないが上級貴族が多い町などはかなり危険で、他種族と分かれば殺されかねない。

 ギルドでは他種族同士が普通に違和感なく働いている。ただし受付などの接客は基本的にその大陸の種族が行うのだが、ライラが受付に居たのは病欠の職員の代理で、他に受付のできる職員がいなかったので仕方なく受付にいたということで、普段は奥で書類整理や帳簿などをしている。

 昔はここまで人間種至上主義なことはなかったのだが、三十年ほど前に極端な人間種至上主義で他種族排斥を掲げる『ラミルズ教』がこの国の国教となり、現在のようになってしまったということだった。

 このラミルズ教は初代教皇ラミルズによって興された宗教で、人間こそ神の子とし、特に魔族は神に背く悪魔としている。さらに他の種族は、人に使えるべきとし、奴隷化や家畜化などを推奨している。今ではラミルズ教がラウティア大陸にあるほとんどの国で国教となってきている。現在、南西にあるレオロイデ共和国だけが獣人族と亜人族が人間族と安全に暮らせる国となっていが反対にジプター帝国は過去に獣人族の国と戦争したことがあるので獣人族に対しては宗教など関係なく特に排他的な国となっている。


「成程、基本的にこの大陸は人間族が支配してると言っていいいようですけど、大陸ごとにそれぞれの種族が支配してる感じなんですか?」

「人間族ほど支配欲が強い種族はいないんですけど、一応は大陸ごとにある程度分かれている感じです。詳細は――」


 ここ、ラウティア大陸が人間族、ガウリィオ大陸が獣人族、ジャイレフィン大陸が亜人族、バウティウス大陸が魔族で、アザバスは氷に閉ざされた大きな島で、フォマルは火山と岩山の大きな島、この2島は生物が生息してないとされている。

 ラウテイア大陸にはラムディオ王国、レオロイデ共和国、ジプター帝国、ジャフリン連合王国の4つの国があり、ラミルズ教の教えの元『この星は人間の管理のもとに統一すべき』という過激派が増えてるらしい。

 ガウリィオ大陸にはバスティオン連合国とギリバイアス連合国があり、亜人族とは友好関係にある。人間族の動向には注視していて、亜人族と同盟するのではないかという噂があるらしい。

 ジャイレフィン大陸には国といえるのはリアード国のみで他は亜人族の種族ごとに各部族が国といえない小規模の町を作って暮らしている。この大陸はラウティア大陸から一番離れているため人間族の動向にはあまり関心がないらしい。

 バウティウス大陸はギリバイアス帝国のみで、これは魔族というのが基本的に他人に束縛されるのを良しとしない自由を求める者が多いためらしい。人間族が攻めてくれば叩き潰すということくらいしか考えてないらしい。さらに、この大陸には数名の魔王がいるらしいが、これは悪の化身的なものでは無く、魔族の中で力や魔力が強い者が魔王と呼ばれるらしかった。

 隣り合った大陸同士は海路もしくは大橋があり、大橋なら割と安全に移動できるのだが、海路となると海にいる魔物に襲われる危険があるということだった。そして大陸の位置は、ラウティア大陸の右隣にガウリィオ大陸さらに右にジャイレフィン大陸そして右に行くとラウティア大陸となる。ちなみに、レオロイデ共和国が他種族に対して偏見が少ないのはガウリィオ大陸に一番安全で一番近い港があることが要因である。

 この大陸の貨幣についても聞いてみるとこんな感じだった。


 鉄 貨一枚  一ギリク

 銅 貨一枚  十ギリク  

 大銅貨一枚  百ギリク

 銀 貨一枚  千ギリク

 大銀貨一枚 一万ギリク

 金 貨一枚 十万ギリク

 大金貨一枚 百万ギリク 一般流通はここまで


 他の大陸では別の通貨が使われていて、冒険者ギルドで手数料さえ払えば両替してくれるらしいが、規模の小さい冒険者ギルドだと両替は行っていないギルドも有るとうことだった。

 ギルドのことでついでにと、依頼についてアドバイスしてくれた。依頼は必ずしも受注してから採集や討伐に行かなくてもよくて、逆に採集や討伐を先にして依頼品をそろえた状態で依頼を受注してそのまますぐに報告を行っても構わない。

 ただし、依頼は早い者勝ちなので帰ってきたら依頼がなくなっている場合もあるし、意地の悪い先輩冒険者が依頼を根こそぎこなすと言う、新人いじめもたまにあるから注意が必要との事だった。ウッドランクの依頼なら同じような物が毎日更新されているので、アイテムボックス持ちならその中に保管しておけば翌日に報告ということも可能ということだった。

 ちなみに、若い初心冒険者には特に多いのだが、依頼を受けまくった挙句に期日までに報告できなくて違約金を支払うといケースがたまにあるらしかった。


「ありがとうございます。勉強になりました」


 もう日が沈んでいるのに旦那がまだ帰ってこないことが気になり聞いてみると……なんと、ライラの旦那は俺がこの町で初めて見たネコミミガチムチ男だったらしい。

 ライラは『そういえば自己紹介をちゃんとしていませんでしたね』といって、家族のことを話してくれた。

 まず、ライラはギルドで言っていた通りで、息子がライネル四歳、旦那はガリウルといい二十六歳で今はギルドの牢屋にいるということだった。『何故牢屋に?』と尋ねると、毎回ちゃんと服を着て、フードを被れと言っているのに忘れて上半身裸で歩き回るから反省させるためにライラが入れさせたらしい。


「そいえば、リンさんは落ち人でしたね。落ち人のことに関してはどのくらいご存じなんですか?」

「そうですね……この世界では珍しいと言うことくらいですかね」


 その後ライラから聞いた落ち人の話は思っていたものとはと少し違ったものだった。

 まず、大昔に大量に落ち人が発見されたことがある。落ち人の中には特殊な能力を持ったものがたまにいるが、ほとんどの者はこの世界の人間族とあまり変わらない。ここ百年くらい落ち人の発見報告はない。ただし、発見されてないだけで、魔物や獣に殺されて食べられてる可能性はあるとのことで、百二十年ほど前に魔物の森で見た事も無い服が大量に発見され、おそらくは落ち人の所持品だという事例があるらしかった。


 あれ? 俺が落ち人だっていってもあんまり驚かれなかったけど、この話を聞くと落ち人ってかなり珍し存在のように思えるな。


 時計を見るとすでに日付も変わりそうな時間だったので、最後に薬草の生えている場所を聞き、ライラにいろいろ教えて貰った礼を言い、自分の部屋へ行くことにした。


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