第九話 レイディシス・ラグディド

 酒場『黒き雌鳥亭』を出て、レイに肩を貸して宿に向かい歩いていたのだが、レイが気持ち悪くなったと言うので店の裏路地へ移動した。するとレイはすぐにリバースし、俺はその背中をさすって落ち着くまで待ってからやっと移動を再開し、目的の宿『黒猫のひげ亭』にたどり着いた。


「ほらレイ。宿に着いたぞ、しっかりしろ」

「リ~ン、助けれ~、もうむりゅ~、具合わりゅぃ~、もう死ぬぅ~」


 何だこいつは、俺の前にいるこいつは本当にレイなのか? ろれつが回って無い気はするが、それでも普段より流暢にしゃべりやがる『……』はどうしたんだか……まるで別人だな。


 宿に入るとすぐ受付に行き、二人の名前を言って部屋の説明を一通り聞き(レイはぐったりしてたから主に俺が聞いてたんだけどね)それぞれのカギを受け取ってから、とりあえずレイの部屋へと移動した。


「ほらレイ、明かりをつけてくれ」


 部屋の明かりのつけ方は聞いていたので、レイに部屋に入ってすぐの壁にあった明かりをつけるための魔道具の装置に魔力を流すように指示し、明かりをつけさせた。


「レイ、ほら水だ。慌てるなよ、ゆっくり飲めよ」


 そう言って、テーブルの上にあった水差しからコップに水を注いでレイに渡した。

 するとレイは、慌てるなと言ったのにコップを受け取ると一気に水を飲んだ。そしてすぐに、部屋にあったトイレへ直行し、またリバースし、水を飲んではリバースと言うのを何度か繰り返した。


「おいレイ、そろそろ落ち着いたか? あんまり繰り返してると喉を傷めちゃうぞ」

「う~飲みすぎたよ~頭痛い~喉もひりひりずる~」

「もー、だから言ったんだよ」


 トイレでぐったりしているレイを引き起こして口元を拭いてやり、部屋にある椅子に座らせると、テーブルに突っ伏して苦しそうにしていた。


「おいレイ、魔法で酔いをどうにかできないのか?」

「うー、状態異常を治す魔法はあるけど酔いには聞かないはず、だいたい頭が痛くて集中できないからまともに魔法なんて使えないよぉ」


 気休め程度かも知れないが、魔法アプリを起動して回復魔法をかけてみた。


「回復魔法をかけてみたんだが、どうだ?」

「う~ん、喉の痛みと少し頭の痛みが和らいで楽になったかも」


 お、効果あったか。これって乗り物酔いにも効かないかな?


「それでレイ、ちょっと聞いたんだけど、おまえは酒に弱いらしいじゃないか、なのになんでそんなになるまで飲んだんだよ?」

「だって、リンが…………」

「ん? 俺が何だって言うんだよ」


 俺は一度もこいつに酒を飲まそうとはしなかったはずだぞ?


「リンとはここでお別れだって聞いたから……だからお酒飲んで……だからリンが悪い、だからリンのせい!」


 レイは自分の大声が頭に響いて、またテーブルに突っ伏した。


「ん? レイは俺と別れるの悲しいとか思ってくれたのか? 俺はてっきりレイに嫌われてるもんだと思ってたぞ?」

「リンは……私と普通に話してくれたし、仲良くしてくれた」


 は? あれが普通に話してたことになるのか? 一緒に魔物や盗賊と戦闘とかはしたが、まともな会話をした覚えがないんだが……そんなに仲良くしてた覚えもないぞ?


「私なんかと話してくれる人なんて……他にいないよ」

「それなら今みたいな感じで皆と話せばいいじゃないか? 大体そのフードが悪いんだよ、取っちゃえよな」

「フード取った姿なんて人に見せれないし、見られたらリンにも嫌われちゃうよぉ」

「なんだ? 顔にコンプレックスでもあるのか? 俺はそんなこと気にしないぞ、試しに今見せて見ろよ」

「わ、分かった。見せるけど、嫌いにならないでね?」


 レイはおもむろに立ち上がり、フードをうしろに払い、ローブを胸元近くまで開けて顔をあらわにした。


「っな…………」


 俺はレイのフードを取った姿を見て驚き、言葉を失ってただ見ていた。

 レイのフードの下、そこにあったのは、蒼銀のきらきらとした綺麗な髪が肩まで伸びていて、顔は陶磁器のような白い肌に酔っているからなのか、それとも恥ずかしさからなのか頬にほのかに朱が刺していた。

 他は長いまつ毛にぱっちり二重の蒼銀の瞳と小さい口と言う、色々と言ったが簡単に一言で言ってしまえば美少女だった。ただ、美少女だったから俺が驚いたわけではなかった。

 俺はその蒼銀の頭の上に目が釘付けになっていた。そして、視線の先には三角一対の犬か狐の様な耳があった。


「レイお前獣人だったのか! で、どんな獣人なんだ?」


 犬だろうな、なんか昔飼ってた犬みたいな感じがするし! 


「え、えーと、私は青狼族で……名前は『レイディシス・ラグディド』って言うんだ」

「あ、やっぱり犬だったんだ。てか、レイは愛称だったんだな」

「犬じゃないよ! 青狼、狼だよ! ……リンは獣人を見ても嫌な顔しないんだね」

「それってどういう意味なんだ?」

「そっか、リンは落ち人だったもんね、えーとね」


 それからレイは色々と話してくれた。内容については、だいたいこんな感じだった。動揺しててちょっと聞き逃してたことがあったかもしれないけどね。

  ・人間は他種族と、今は争うほどではないがあまり仲良くない。

  ・ここはラウティア大陸といって、人間族以外はほとんど住んでおらず、人間族以外はフードなどを被るのが普通。

  ・ここはラムディオ国といって、獣人はどちらかと言うと嫌われている。

  ・獣人は人目のある所ではフードを被ったりして獣人である姿を見せないようにするのが普通。

  ・レイは正確には青狼族ではなく半獣人で、母親が青狼族で父親は知らないが他種族ということは聞いてるということだった。


「なるほどな、だからフード被ってたのか。それで、他のメンバーはその事を知っているのか?」 

「いつもフードを被ってるから私が獣人だということはたぶん気が付いてるはずだけど、半獣人だと言う事と本名を知ってるのは、リーダーとシャルディアだけだよ」


 ん? ちょっとまてよ、俺がおっさん獣人見て打ちひしがれていた時に、シャルディアが『今更獣人なんて』とか言いかけてたのはレイのことだったんだな。


「で、何で普段はあんなしゃべり方だったんだ?」

「まだちょっと人間が怖くて……」


 ん『まだ』? 人間となんかあったのかもな……あまり深く聞かない方がよさそうな感じだな。


「そうだレイ、ちょっと耳とか触っていいか?」


 不思議そうに小首を傾げながら「え? 別にいいけど……」と言ったレイの狼耳を触ってみた。

 その耳はふにふにして程よい弾力と髪の毛とはまた違った柔らかい短毛がとても手触りがよかった。

 

 いや、ほんと手触りいいな~ずっとふにふにしてたくなるぞ。


「リン……しつこい」


 いつまでも耳を触ってる俺にレイは少しむっとして睨んで来た。


「悪い悪い、手触りがよかったもんでな」

「耳は結構敏感な所だから……乱暴にしちゃダメ」


 レイは上目遣いでそんなことを言ってきたので、思わずドキッとしてしまった。


 なんか誤解を招くような言い回しは止めて欲しいものだ。てか、その表情でその言葉は卑怯じゃないかね? 欲情しちゃうよ? ……まてよ、ここで襲うとなんかシャルディアの狙い通りな感じがして腹が立つな……いやいや、俺が腹を立てて襲わないということこそシャルディアの狙いだったり、いやいや、でも――――いやいやいや――――。


 俺がそんな思考の迷宮に入っている内に、レイがうとうとと眠そうにしていたのが視界に入った。


「レイ、もう寝た方がいいんじゃないか?」

「うー。で、でも……」

「明日の朝、ちゃんと見送りには行くからさ。今日はもう寝ろよ(これ以上ここにいると俺の理性もやばいんだよ!)」

「う、うん、分かった。ほんとは結構限界……おやすみ」

「じゃ、俺は自分の部屋に行くからな。おやすみ(よし! 凌いだ! 俺偉い!)」


 レイの部屋をあとにし、自分の部屋に入ったのだが、部屋に明かりをつけようとした時になって自分に魔力が無い事を思い出し、どうしたものかと思っていた。そして、ふと魔力吸収の説明のとこに魔力を送信できるとあったのを思い出して試してみると、ちゃんと魔力を装置に送り、灯かりをつけることに成功した。


 お、ちゃんとついたな。あれ? よく見たらスマホにメール来てるな。


 水を飲んで落ちついてからメールを開いてみるとリュースからのメールだった。

『楠凛さん。無事に暮らせているでしょうか? 実はスマホやアプリの説明に不足している箇所がありましたので説明の追記としてメールしました』


 追加説明ってことか、どれどれ。


 スマホ・各アプリの補足説明

   1・スマホの各文字入力は所持者のいた世界の言語に準じ、その他の世界の言語は使用できない(言葉はその限りではない)

   2・スマホ、アプリにもレベルが存在し、アプリを使用した戦闘などで経験値を得てレベルを上げていくことができる。

   3・スマホのレベルが上がると、アプリが増えたり、ウェアラブル端末を得たりすることができる。

   4・レベルいくつで貰えるかは、レベルが上がった時のお楽しみ。

   5・各アプリはそのレベルを上げることによりできることが増えていく(強力な魔法が使えるようになるなど)

   6・具現化アプリについて、具現化したい物の構造や性能がある程度イメージできていれば足りない部分は補完される。(楠さんの今いる世界と元居た世界の物に限ります)

   7・生物は具現化できない。

   8・魔道具などは具現化できない。

   9・倉庫内は時間の停止した空間であり、入れた瞬間にその物体の時間は停止する。(腐るなど劣化する事・氷が溶けるなど熱変動などは起こらない)


 とりあえずここまでで、他に修正や追記が必要な事がありましたらメールします。

 そして今回の件に関し、お詫びとしてシューティンググラス(多機能)を倉庫に送っておきました。


 説明が抜けてたことのお詫びって事か、それにしてもシューティンググラスか~、多機能って何がついてんだろう? ちょっと出してみるか。


 倉庫からを出してみたシューティンググラスは、サングラスの様な色付きの物だった。試しに装着してみると、色付きのはずなのに視界は何もつけていないのと変わらず、装着感も全く感じない不思議な物だった。使い方はどうすればいいのかと、スマホに書いていないか見てみると、ホーム画面に新たにウェアラブルアプリが表示されていたので見てみることにした。

 

 ウェアラブル端末シューティンググラスの説明


  1・この端末は常時起動型で装着しているだけなら魔力を必要としません。尚、自分で外さない限り勝手に外れることはありません。

  2・機能としては鑑定・ターゲット・望遠・地図表示・防御・暗視・警戒があり、機能を使う際にはスマホの魔力を消費します。(一部機能は起動しただけでは魔力を消費しません)機能は音声入力方式ですです。

  3・各機能を使うには、使いたい機能名のあとに『ON』とつける。機能を修了したい場合は機能名のあとに『OFF』とつける。(一部機能は常時発動で切り替えはできない)

  4・ターゲット機能は、目標物を意識して見るだけでロックすることができロックマーカ(緑色)が目標につきます。マーカーがつくことで魔法や、投擲攻撃などの命中率が向上します。

  5・鑑定はターゲットとセットで利用してください。(ターゲットでロックしたものを鑑定)

  6・望遠機能は遠くのものを大きく見せたり、近くの物を拡大して見たりできます。

  7・地図機能は現在地を中心とした場所のみを地図表示する機能です。

  8・防御機能は常時発動型で、魔力を消費しません。光や物質より目を守る機能です。

  9・暗視機能は暗く光の無い場所でもある程度視界を確保できます。

 10・警戒機能は常時発動型で、魔力を消費しません。敵意あるものが使用者に近づくと特に強く反応し、そのものの距離と方向を知らせる機能です。『索敵』と言うと索敵モードになり敵意が無い場合でもある一定の魔力を持った生物がいればどの方向にいるか分かりますが、距離は意識を向けないと分かりません。索敵モードは魔力を消費します。

 11・各機能の詳細説明は別途参照。


 へ~、便利そうだし、これなら常に装着しててもいいな。とりあえず細かい説明は後でもいいな。

 それにしても、このシューティンググラスって、昔やってたサバイバルゲームで使ってたやつに似てるな。


 眠くなってきたので時計を見てみると、すでに日付が変わりそうな時間になっていたのでシューティングラスは『倉庫アプリ』にしまって、スマホのアラームを朝六時半にセットして寝ることにした。


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