第四十二話 ミレイヤ村へ、そしてゴラウへ帰還

 馬に『回復』をかけて最小限の休憩だけで走らせたことで通常よりもかなり早く進むことができたのだが、それでもさすがに日が沈むまでに到着とはいかず、夜更けになってやっとミレイヤ村の近くにたどり着た。

 村の入り口で門番に基本的に夜間の立ち入りは禁止だしなんか怪しいからダメだと止められ困ってしまった。


「――だから、怪しいものじゃないですって。ちょっとはこっちの言うことも聞いてくださいよ?」

「いやいや、こんな夜中に村に来るなんて野党の類以外いねぇだろ!」


 だめだ、完全にこっちの言うことは無視だ。聞く耳を持ってくれさえしないな……どうしよ?


 こちらが何をいっても信じてくれず、ギルドカードを見せてもシャルディアがバルデス商会だと説明しても全く信じてもらえず、完全に盗賊の仲間かなんかだと思われて村へ入れてもらえなくて困っていたら何やら若い女性二人がこちらに歩いてきた。


「えっと、念のため門の方へ行ってくれと言われてきたんだけど何かあったの?」

「いや、なんかやたら怪しいやつが村に入れてくれって言って来ててな」

「なになに、撃退すればいいの? って、あれ?」

「あら? あの人はもしかして……」

「「リン?」」

「え……デイジー? それにリアンナさん? どうしてここ――あっ!」


 ああそうか、ミレイヤ村ってどこかで聞いた覚えがあると思ってたらデイジーたちの故郷だったか……すっかり忘れてたな、思い出せてればデイジーを呼んでもらって怪しいものじゃないと説明してもらえたかもしれなかっただろうな~……まぁ過ぎてしまった事は仕方ないな! これで村に入れてもらえるだろうから結果オーライだ!


「お、お久しぶり……っていうほどでもないかな?」

「うんまぁ、そんなにたってないかな?」

「あ、みなさん。安心してください、この方は私たちの知り合いで悪い人じゃないです。村に入れてあげてください」

「まぁ、二人の知り合いってんなら……ただ、こんな夜更けに何故村に来たのか理由だけは聞かせてくれ」


 デイジーたちの知り合いだという事もあり村人の態度が多少和らいだところで何があったかを簡単にドラゴンに襲われ商隊が壊滅した。ドラゴンは遠くに飛び去ったので脅威は無いからとりあえず村で休ませてほしいと状況説明し明日改めて詳しく話すということで半ば強引に納得してもらい『ドラゴンが?』と疑いの目を向けられたものの、何とか村に入ることができた。

 村には宿など無かったので空き地で野宿させてもらおうと思ったのだが、デイジーが「うちに泊まってよ」ということで、デイジーの家で休ませてもらえることになった。


「おお! あなたがリンさんか! 娘から色々聞いてます。本当にありがとう」

「あらあら、娘を助けてくれた方と聞いてましたからもっとこう……すごい方を想像してたんだけど、まさかこんな可愛らしい子だとは思わなかったわ。あまりたいしたことはできないけどゆっくりしていってね」


 デイジーパパさん、感謝してきてるのは分かるんだけど捕まれたてが手が痛いです。デイジーママさん……どんな人物を想像してたのかちょっと気になるな。


 そして食事まで出してくれて、夜も遅く疲れていたこともありデイジーたちとあまり話をすることも無くすぐに休ませてもらうことにした。


 明日の朝、詳しく説明しないといけないけど……魔人の事は誰にも言えないから何と言って説明したもんかね? まぁ、とりあえず疲れたし寝るか……。


 翌朝、レイはデイジーの家に残し、シャルディアやデイジーたちと一緒に村の集会場にもなっている村長の家の一室に行くと、村長と村の警護をしている若者の代表が話を聞くために待っていた。まずはデイジーにドラゴンに襲われた時の様子を話してもらい、その後に俺が助けに入ったとこからを魔人の事は伏せて『現着したらちょうどドラゴンが遠くの空に飛び去って行くのが見えた』『巣に帰った様だからもう安全じゃないか』と言うような当たり障りのない話をしておいた。


「ええ、ですからたまたま通った所に私たちの商隊が運悪く出くわしてしまったのではないかと思います」

「では、また村の近くを通るような事は無いと?」

「ドラゴンの習性に関して私には分かりませんから何とも言えませんけど、生き残った私とレイを見逃したり、近くにこの村があったのに襲わなかったことから考えますと、またドラゴンが飛来する可能性は低いと考えます」


 村長たちへの説明は基本的にシャルディアに任せ、俺はシャルディアに促された時だけ口を開くようにしていた。

 とりあえず村長たちへの報告と説明を終え、デイジーの家に戻りこれからのことなどを相談することにした。


「そういえばリアンナさんはもう大丈夫なんですか?

「ええ、おかげさまでもう普通の状態まで回復しました。その節は本当にお世話になりました。何か困ったことがありましたら何でもおっしゃってくださいね? それと私のこともデイジーと同じようにリアンナと呼び捨てで結構ですよ」

「それで、リンたちはこれからどうするの?」

「それなんだけど、シャルディアさんとレイの事をしばらく頼めないかな?」

「リンはどうするのよ?」

「救援隊が来る予定になってるんでちょっと迎えに行ってこようと思ってる」


 昼食を食べた後、デイジーたちにシャルディアとレイの事を任せ、救援隊と合流するため馬で街道をゴラウの方面へ進んでいると3時間程度で救援隊らしき一団が見えてきた。


「あの~、すみません」

「ん? なんだい、ちょっと急いでいるんだけど……」

「確認したいのですが、シャルディア商隊を救援する依頼を受けた方々ですか?」

「そうだが……何故それを知ってるんだ?」

「実は――」


 まずはギルドカードを見せて自分が依頼主だと言って挨拶すると、相手も依頼書を出し依頼を受けた銀牙旅団だと自分たちの事を説明してきて、さらにギルドからも数名が現地調査のために同行してきたらしかった。一応、既にドラゴンは飛び去り生き残りはミレイヤ村に避難していることを伝え、とりあえず一緒にミレイヤ村までついて来てもらい、時間的に今から戦闘のあった現場に行くと暗くなってしまうので明日改めて現地へ案内することになった。


「シャルディアさんたちはすぐにゴラウへ移動しますか?」

「リンはどうするの?」

「俺は明日戦闘のあった現場の調査に案内役として同行するので、ゴラウには明後日戻る予定です」

「迷惑じゃなければ私たちもリンと一緒に戻りたいんだけど……もう一泊いいかしら?」

「私の方は別に構わないわよ。リンの知り合いなんだしあと一日くらいどうってことないから遠慮せずに泊ってくれていいよ」

「悪いなデイジー」


 一応ドラゴンが出た証拠として、ギルドの調査員にドラゴンの鱗を見せておいた。翌日、戦闘現場の調査に同行しあらかたの調査を終えミレイヤ村に戻りその日は村で一泊し、早朝にミレイヤ村を出発する事となった。ちなみにレイはずっとシャルディアの側から離れようとはせず、一言も発する事が無かったのがちょっと心配だった。


「それではみなさん。大変お世話になりました」

「まぁ、リンには色々助けられたからこのくらいはしないと恩返しにならないから礼なんていらないわよ」

「そうですよ。リンさんにはこれくらいでは返せないほどの恩があるんですから」

「いやいや、今回ので貸し借り無しの方向でお願いしますよ」


 シャルディアとレイを救援隊の馬車に乗せてゴラウへと移動、道中多少は魔物が出たが銀牙旅団のメンバーが対処したので俺の出る幕は全くなかった。途中の野営のときに話を聞いてみると銀牙旅団はほとんどのメンバーがゴールドランクで、リーダーに至ってはプラチナランクということでかなり強いらしい。ちなみに野営に関しては俺は依頼主でシャルディア達は依頼の保護対象だったので見張りなどはしなくていいと言われていた。


「依頼主の自分で言うのもなんなのですが、よくこの依頼を受けてくれましたね」

「いや、たまたまゴラウを寄ったときにギルドマスターから受けてもらえないかと言われてな、あのギルドマスターとは昔ちょっと借りがあったんで、別にこれていって急ぐ用事もなかったから依頼を受けたんだよ」


 危機に陥ることも無く順調に街道を進みミレイヤ村を出発した翌日の夕方にはゴラウにたどり着くことができた。

 とりあえずギルドで簡単な報告をし、時間も遅かったので詳しくは翌日報告するということになって、シャルディアとレイは念のためにギルドの診療所で検査をしてからギルドで休ませてもらうことになった。


「それじゃ、シャルディアさん、レイまた明日来ます。おやすみなさい」

「わかったわ。リン、今回は本当に助かったわありがとう。おやすみなさい」

「…………」


 お、レイがこっちを見た気がする。ちょっとは回復してきてるのかな? とりあえず宿に戻るか、ラウとルカは心配してるんだろうな~……お詫びになんか食べ物、肉料理となんか甘いものでも買っていくか~。


 商店街で買い物をしてから宿に戻り、そういえばそろそろ宿泊期日が近かったことを思い出したので宿泊の延長を申し込み延長料金を支払ってから部屋に向かった。


「ただいま。二人とも元気にしてたか?」

「あ、兄貴ーー!」

「……リン兄さん! おかえりなさい!」


 二人とも俺に抱き着いてきて、目には涙まで浮かべていた。本当に二人ともかわいいなと思い、二人の頭を撫でて帰ってきたことを喜ぶことにした。


「リン兄さん。おケガはしませんでしたか?」

「なぁなぁ、ドラゴンと戦ったのか? 倒したのか?」


 夕食の準備をしていると、二人から質問攻めにあってしまい食事の準備だけで手いっぱいでこちらから説明をする間さえなかった。


「二人ともちょっと待て! ちゃんと順を追って説明するからとりあえず夕食を食べながらでも聞いてくれ」

「おう(はい)!」


 ラウとルカには俺がゴラウから発ってからいままで何があったのかを基本的にはミレイヤ村での説明と同じような内容の説明をしつつ久しぶりの三人での夕食を楽しんだ。


「――とまぁ、こんな感じで戻ってきたんだけど……俺は明日改めてギルドに説明のために出向かないといけないんだ。なので、二人とも明日は部屋でゆっくり休んでてくれ」

「なんだよ兄貴、ギルドでそんなに時間かかるのか?」

「お兄ちゃん! リン兄さんは忙しいんだから困らせちゃダメ!」

「ル、ルカ? なんか俺に対してちょっと冷たくないか? 兄ちゃん悲しいぞ」

「いや、多分ギルドでの説明は午前中で終わるんじゃないかと思うんだけど、他にもチョットすることがあるし助かった知り合いの様子も心配だから見に行きたいんだ」


 なんかラウがちょっと不満そうにしてたが肉を買って来てやると言ったら「仕方ねぇな」と言ってうれしそうにしていた。ルカには甘い菓子を買う事にした。

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