第四十三話 ルカ冒険者になる。そして採集職人に……

 ゴラウへと戻ってきた翌日、少し早めに起きて部屋で朝食を食べ、手早く身支度をしてから一人でギルドに行き会議室でギルドマスターや領主の代理、それとドラゴンの生態に詳しいというギルドの職員、さらに当事者としてシャルディアも同席し、俺がゴラウから出発して戻るまでの事を説明する事となった。

 説明と言っても、道中以外はミレイヤ村のときと同じ説明をしただけだったが。


「ほう、それじゃドラゴンはもう襲ってこねぇのか?」

「そうですね。彼の話が本当ならもうドラゴンが再び飛来する事は無いかと思います。それに説明と鱗から判断しますとまだ子供のドラゴンのようでしたから脅威レベルも多少は低いかと思います」


 どういう事か聞いてみると、ドラゴンは自らの棲み処から出ることは少なく、襲った場所の近くに住み着きでもしなければ再度襲われることはまずないということで、これは割と知られている話らしかった。

 さらにまだ子供ということで、好奇心から馬車を襲ったに過ぎないのではないかとのことだった。


 なるほどな。道理でドラゴンが出たと連絡があった時と比べて騒がないわけだ……それにしても、やけに簡単に信じてくれたな。魔人かなんかの強制力何だろうか?


 そして、とりあえずドラゴンに対して警戒を続けるが、まず問題はないだろうということになり以後この件に関してはギルドが受け持つということで解散となった。


「あ、シャルディアさん。これからレイの所に行ってみようと思うんですけど……レイの調子はどうですか?」

「う~ん、こっちが何か聞けば反応はするんだけど……まだ一言もしゃべらないわ、とりあえず食べ物はちゃんと食べれてるから身体の方は心配ないと思うわよ」


 ま~あんな怖い思いをして殺されかけもしたんだし、元に戻るまではしばらく時間がかかるかもしれないな。


「こんにちはレイ、調子はどうだ?」

「…………」

「ほらレイ、リンが来てくれたわよ」

「…………」

「レイ、俺の事は分かるか?」


 俺の問いかけに弱々しくではあったが頷いてくれた。しかし、その後はうつむいたまま微動だにせずにいたので「無理しなくていいからな」と頭を撫でたらこっちをじっと見て何やら言いたそうにしていた


「レイ、無理してしゃべらなくていいからな。今はゆっくり休めよ」

「ま~意識もはっきりしているし、私もちょくちょく様子見てるから心配しないで」


 レイの頭を撫でつつシャルディアと話をしていたらレイがじーっとこっちを見て来ていたのに気が付き、何となく気恥ずかしくなったのでお暇することにした。


「それじゃ、シャルディアさん。また明日の今くらいの時間に来ますね」

「ハイルの所にはもう行ったの?」

「い、いえ、これから行こうかと思ってます! それじゃ」


 やっば! ハイルもいたのすっかり忘れた! あいつが大ケガをしてまで伝えに来てくれた功労者だったのにな……ゴメン。


「よ、よう、ハイル。具合はどうだ?」

「何となくリンくんの態度が釈然としないんだけど……もしかして僕のこと忘れてたりしてたんじゃないよね? そんなことないよね?」


 なぜ分かったし! そんなに顔に出てたかな? こいつは変なとこで鋭いことがあるからな~。


「そ、そんな分けないだろ? こうしてちゃんと見舞いに来たんだし!」


 ハイルとたわいもない話をしてから病室をあとにして、ギルドの受付でシャルディア商隊救出の結果報告と依頼金の差額を返金してもらった。

 依頼内容は大人数だと街道を進む速度が遅くなり、現場で動きがとりにくくなると判断し5~10人を募集したということで、馬車などはギルドで用意し依頼を受けてくれる人を待っていたらすぐに銀牙旅団(8名)が依頼を受けてくれたらしく、できるだけ早く向かった方がいいだろうということで、この8名にギルドからも調査のために2名を出し(これは依頼とは別なので必要経費のみだったらしい)計10人ですぐにこちらへと向かってくれたらしかった。

 そして、必要経費と報酬を引いた差額が戻ってきて、さらにドラゴンの鱗(傷があったので商品としての価値はだいぶ下がった)の買い取り金(シャルディア達と分配した分)を受け取りギルドを後にした。


 あれ? そういえば現在の所持金っていくらだっけ? あんまりなかった気がするし、後で確認しといた方がいいな。


 既に夕方だったので商店街で足りない物などを買い足してから急いで宿に戻った。 


「ただいま~」

「「おかえり~」」


 夕食後、とりあえず現在の所持金をチェックすることにし、スマホを確認してみると、大金貨0・金貨2・大銀貨6・銀貨8・大銅貨18・銅貨23・鉄幣46で270,076ギリクとかなり少なくなっていた。そして、手持ちがさっき戻ってきたものを含めて大金貨1・金貨3・大銀貨6・銀貨7・大銅貨8・銅貨8・鉄幣12の367,892ギリク、所持金合計は1,637,968ギリク。


 普通に暮らすなら十分な金額だと思うけど……レオロイデ共和国かガウリィオ大陸へ行くとなるといくらくらいかかるんだろうな? てか、そんな事深く考えずにラウに金貨8枚渡して『俺が戻らなかったらその金でレオロイデ共和国かガウリィオ大陸へ行け』とか言っちゃってたな。ま、明日にでもシャルディアにどのくらい金がかかるのか聞いてみるか。

 ――あ、スマホで試してみたいことあったんだっけ。


「ラウ~、ちょっとスマホで試してみたいことあるから手伝ってくれないか?」

「分かった~」


 さて、『魔法アプリ』と『具現化アプリ』での差異の検証をしてみるか。


 『魔法アプリ』に『創水』と打ち込んで発動させ、木の桶に水を注ぎ、次に『具現化アプリ』に『水』と打ち込んで発動させて先ほどとは別の桶に水を注いで様子を見ていると『具現化アプリ』で作られた水は1分で消えたのだが『魔法アプリ』で作られた水は消えることなく桶の中に残っていた。

 次にもう一度それぞれのアプリで水を作りラウにも触らせてみると『具現化アプリ』で作った水には触ることができないようで、ラウの手が全く濡れていなかった。しかし、顔を付けると濡れはしないのだが何故回帰ができないようだった。そして俺が同じように水を触ると、どちらもちゃんと触ることができ、さらにその手でラウの手を触るとラウの手がちゃんと水で濡れ、1分たつとか沸いた状態になった。


 『具現化アプリ』で具現化された者は基本的に俺以外触れないって事だよな? でも、銃弾には威力がちゃんとあって相手に当たるんだから俺が触れると実体として固定されるとか何だろうか? 『具現化アプリ』ってなんか良く分からんシステムだな。

 あ、銃弾で思い出した! そういえばダンジョンの狭い通路でも取り回しがしやすいアサルトライフルがないか考えるの忘れてたな。

 狭い所でも取り回しやすいとなるとブルパップのP90あたりがいいか、それとも新しいのだとFAD辺りがいいか……ん~、弾数的にもP90の方がいいかな? 今度ダンジョンで誰もいなかったら試してみるか。そういえばルカも病気が治ったんだし普通に生活させてもいいんだろうけど、今までほとんど寝たきり状態だったからな~。


 ルカも病気が治り普通に動けるようになったので健康のためにもいいかと思って軽い運動をさせようと思ったのだが、ラウに「兄貴! ルカも戦わせる気なのか?」と詰め寄られてしまった。しかしそんなつもりは毛頭なかったので。


「前にも言ったようにルカは15歳までは基本的に戦わせる気はない。今回ルカに運動させようと思ったのは、あくまでも健康のためだよ。いままで寝たきりで筋力や体力も無いからね」

「リン兄さん。病気を治してもらったので、冒険者になって少しでもリン兄さんの役に立てるようになりたいです」

「まてまて、今まで病気で身体を余り動かすことができなかったからだろうけどルカは基礎体力が全然ないし、やっぱり年齢的にも幼すぎるよ」

「そ、そうだぜ。いくらなんでもルカが魔物と戦うなんて無茶だぜ」


 そうだよな~、いままでまともに運動したことないだろうからスライムにも勝てないと思うしな~、戦闘なんてさせられないな。っていうかルカのこの忠誠心は何なんだろう?


「ラウと違ってルカには戦闘系はさせれないし……この国とかだと人間族以外には厳しいだろうから店の手伝い的な依頼は受けれないかも知れないから薬草採集くらいしか依頼を出来ないと思うぞ」

「それでもいいです!」

「ルカ~、お兄ちゃんは心配だぞ」


 あ、ちょっとまてよ。そういえばギルドカードあるだけでもいろいろ便利だよな? それなら登録だけでもしておいた方がいいかも知れないな。


「ま~、まてラウ。ギルドカードあれば身分証にはなるんだから冒険者になっておいてもいいかもしれないぞ?」

「で、でもよ~――」


 それでもラウはルカが冒険者になるのに反対していたので、冒険者として登録はするが15歳になるまでは討伐依頼はしないのと冒険者ランクはストーンランクまでしか上げないこととし、15歳になっても俺が認めなければルカは絶対に戦闘に参加させないことを約束したことでラウも渋々ではあったがルカが冒険者になることを了承した。


 翌朝ギルドへ行き、ラウにルカの冒険者登録を任せている間に俺はレイ達の様子を見に行くことにした。

 レイの病室に行くと、そこにシャルディアの姿がありレイの世話をしているようだったので様子を聞いてみたが昨日と変化はないとのことで、ちょっとだけ会話をしてからハイルの病室へ行き様子を見てから、ラウとルカの所に戻ることにした。 


「お、兄貴――「お兄ちゃん!」リン様! ルカの冒険者登録終わりました!」

「まったく、お兄ちゃんは……リン様、無事冒険者登録することができました」

「それじゃ、ルカには薬草採集の依頼、ラウと俺はブロンズランクの討伐系の依頼を受けるか」

「「はい!」」


 その後、依頼を受注し西門の先にある草原でラウには狩りをさせて、俺はルカの護衛がてら薬草採集やり方などを教えることにした。

 ルカは物覚えがよく、すぐにどれが薬草なのかを覚えて今覚えたとは思えないような手慣れた手つきで迷いもせずに次々に採集していき、あっという間に依頼分の薬草採集を終わらせてしまった。


 なんか俺よりうまいんだけど、もはや採集職人? ……病気であんまり外出たことないはずなのになんでなんだろうな?


「む、この薬草は質が悪いですね。これはまだちょっと早い……。あ、この色つやは! これはいいものです!」


 どうしたルカ。これ、このままにしといて大丈夫なんだろうか? なんかルカが変な方へ進んでる気がしてならないんだけど? 後戻りできなくなる前に帰ろうかな? 


「よし、依頼分は取り終わったし軽く散歩してから帰ろうか」

「はい」

「っと、その前にラウを迎えに行かないとな」


 ラウのところへ行き、魔物を殲滅してから安全な場所で昼食を食べ、その後林の方を散歩してからゴラウへ戻りギルドで依頼の報告を終え、宿の食堂で夕食を食べ部屋に戻った。

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