第四十四話 新メンバー

 数日後、バルデス商会から迎えがきてシャルディアたちがその翌日にゴラウを立つ事とになった。

 迎えに来た商会の人たちに今回のドラゴン襲来の件でバルデス商会には多大な損失をでたので、シャルディアはその責任を取らないといけないから商会内での発言権が下がるらしいという話をしているのを聞き、少しは足しにしてくれとシャルディアに大金貨を一枚渡すと『本来なら助けてもらったこっちがお金を払わないといけないくらいだからとても受け取れない』と言われたのだが、これは投資だと言って半ば強引に受け取らせた。

そして、ハイルとレイはシャルディアがバルデス商会に連れていくことに「ハイルなら細かいことによく気が付くし算術もできるから商人としても有能だから」と帳簿付けなどの事務仕事をさせることにしたらしい。レイは魔術師としては有能だから護衛として雇う形にしようかと思っているらしい。


「リン君、君のおかげで僕の頑張りが無駄にならなかった。本当にありがとう、またね

「リンがいなかったら私とレイは死んでたと思う。それに大金まで……本当に感謝してるわ、いずれお礼させてもらうからね。ほら、レイもなんか言いなさいよ」


 シャルディアに言われて俺の側まで来たレイは、何も言わずに俺の腕をつかんで離そうとしないでいた。


「おい、レイ。どうしたんだ? ほら、そろそろ馬車に乗らないと」

「……シャル……その……わたし……」

「んーと、リン。実はね、商会でも最近は人間族以外には風当たりが強くなってきてるのよ。正直言って今の私の立場ではレイを守ってあげれないかも知れないのよね。それに……なんかレイもリンに懐いてるようだから……レイの事はリンにお願いするわレイの事を守ってあげて」


 レイ……そんなすがるような目でこっちを見るなよな。ま~、シャルディアもああ言ってるんだし、仕方ないな~。


「わかりました。レイの事は俺が責任をもって守りますよ」

「お、リン君かっこいいね」

「ハイル、茶化すなよ!」


 シャルディアとレイが抱き合って別れを惜しんでいた。

 こうしてレイも俺とと共に行動することになり、一緒にシャルディア、ハイル見送りレイの今の状態(戦闘に耐えられるのか)が気になったので聞くことにした。


「なぁレイ、今のおまえちゃんと戦えるか? 無理そうなら宿で留守番してもらう事にするけど」

「……ううん……まだちょっと……怖い……がんばる」

「無理はするなよ?」


 ん~、この様子だといきなりダンジョンというのは危険かもしれないな。まずはどこかで狩りをしてある程度戦闘に慣らしてからダンジョン攻略するか。前の様に戦える様になってくれれば結構な戦力になるしな。


 宿に戻り、レイも加わったことで今の部屋ではちょっと手狭だろうと思い、もう少し大きい部屋に移動したい旨を店員に伝えるとちょうど大部屋が空いているということだったので追加料金を払い移動させてもらうことにいした。


 普通なら男女に分かれて2部屋とかなんだけど、今の精神状態のレイを一人にして置くのも心配だしな……俺さえ変な気を起こさなければ一緒の部屋でも問題ないだろう。ラウとルカも一緒だし!


 そして、カギを交換する際に『お盛ん何ですね』と言われてしまった。


「おい店員ちょっと話し合おうか?」

「え! まさか私まで! で、でもちょっと興味があるかも……」


 意味不明なことを言って、なんかクネクネしだした店員の頭にこの宿の女店主の鉄拳が降り注いだ。


「うちのバカ娘がごめんさいね」

「母さんひどい……」


 えええ! ちょっと待て、この腐った店員この宿の娘だったのかよ!


「このバカは娘のメリアだよ。ちなみに私はこの宿の女将ラスティだよ。娘がまたバカの事したら私に言ってくださいな」

「ちょ、ちょっとー! お母さんそれは酷いんじゃないの?」

「わかりました。その時はお願いします」

「えええー! お客さんまで! 私の味方はいないのか」


 うん、残念ながら君の味方はいないよ? いられると俺が困るよ? そんな事よりちゃんと仕事して欲しいものだ。


 腐った店員改めメリアに鍵を交換してもらい大部屋の場所を聞いて、ラウたちのところへ向かった。 


「ただいま~。ちょっと部屋移動することになったから自分たちの荷物をまとめてくれ」

「「おかえり」」

「わかった。って言ってもたいして荷物ねぇけどな」

「リン兄さんなにかあったんですか? それに、そちらの方は……」

「……………ぁ……」

「部屋を移ってから説明するからとりあえず荷物まとめて移動しよう」


 部屋を移動してから説明するからと言いつつ『倉庫アプリ』にベッドなどをしまい、今までの部屋より一回り大きい部屋に移動し、まずはレイを紹介することにした。


「えーっと、これから一緒に行動することになったレイだよろしく頼むよ。レイ、挨拶して」

「……レイ…………よろしく」


 ……あいかわらずだな。言葉のキャッチボールが下手すぎるぞ! 二人が戸惑ってるじゃないかよ。


「あー、その、無口なやつなんだよ。悪く思わないでくれ」

「新しい奴隷ですか?」

「……リン? ……奴隷って……何?」


 『奴隷って何?』って奴隷の意味が分からない事じゃないよね? 俺が奴隷を買ってることに対しての『何?』って事だよね? ですよね? ……事前に説明しときゃ良かった。


 レイが俺から少し距離を取ったのでラウとルカの事を説明し、ラウとルカにはレイは前に知り合った魔術師でちょっとしたトラブルがあって所属していたパーティが解散したので俺と一緒に行動することになったんだと説明しておいた。


 さて、レイにどこまでスマホの事とか話していいものか……とは言えある程度は説明しないと一緒に戦うことができないしな~…………てか、レイはいつまでフード被ってるんだ?


「おいレイ、お前いつまでフード被ってるんだよ。部屋の中なんだからいい加減取れ」

「いや……半獣人だし……このまま……」

「いやいや、ラウやルカも獣人だけどフード被ってないだろ? いいから取れ」


 いつまでもフードを取らないから何故なのかと、問い詰めたらいまさら顔を出すのが恥ずかしいから常にフードを被ってるということだった。


 割としょーもない理由だったな。ま~、レイが素顔を晒すと別の意味で目立ちそうだしとりあえず普段はフードでもいいか、だけど他に人の目もない宿の部屋でぐらいはフードを取らせよう。


「とりあえずこの部屋では基本フード禁止な!」

「……リン……イジワル」

「なんか変わったねーちゃんだな?」

「お兄ちゃん!」


 レイがフードを取り素顔を見せると……『お姉さんきれい』『ねーちゃんすっげーな!』と二人が騒ぎ出した。


 ま~確かに美人なんだけど……まともにしゃべれないしちょっと残念な感じがするんだよな。見た目はいいのにもったいない。おっと、そう言えばレイにスマホの事とか話すかどうか考えてたんだっけ。ま~、レイだし口は堅いだろうから信用してもいいか……よし、決めた! レイを信用してある程度はしゃべろう! って、その前に昼だな!


 レイを信用し、スマホの能力などをある程度教えることに決めた。その前にとりあえず先に昼食を食べることにしたのだが『倉庫アプリ』を見ると買い置きしてあった料理が大分減ってきていた。


 う~ん、魔物の肉が『倉庫アプリ』に結構あるから節約のためにも料理して作り置きをしとくか。


 部屋で昼食を食べてからレイに落ち人であることは既に教えていたので、スマホのことなどをある程度説明した。


「――って感じなんだけど……まぁ、レイは俺がスマホを使って戦ってるとこを前にも見てる。って言うか一緒に戦ったことあるし、少しは知ってたよな?」

「……うん……でも…………そんなに色々できるなんて……知らなかった」


 まぁ、あの時はそこまで詳しく説明しなかったからな~。


「レイ、レイのことは信用してるけど、この事は秘密にしてくれよ? 絶対に人に言っちゃだめだからな」

「……うん……言わない」


 さて、レイへの説明も終わったし、料理の下ごしらえをしちゃおうかな。


「なぁなぁ兄貴、それじゃ俺たちを信用してねぇみたいじゃないかよ」

「いやいや、お前たちとは初対面だったしな。だいたいルカはいいけどラウは今でも無意識にぽろっと言っちゃいそうだから信用はしてるけど安心はしてないぞ?」

「ひでぇ! けど反論できねぇ……」

「お兄ちゃんですからね……」


 まったくラウはお調子者のとこあるから安心できないんだよ! さて、今度こそ下ごしらえだ。


 『倉庫アプリ』内でボアなどの食用に適した魔物を血抜きをして皮を剝ぎ部位別に分けて、さらに各料理用に切り分けて、まずは『倉庫アプリ』からボアのステーキ用に切った肉を取り出して下ごしらえをすることにした。

 ボア肉の脂身と赤身の間の筋に切り目を入れ、ハチミツを少々塗り、塩胡椒を振って30分程置く、待ってる間にシチュー用の野菜を切り、出た野菜クズでブイヨンを作り始め、30分置いた肉と切った野菜類をとりあえず『倉庫アプリ』にしまってブイヨンづくりを再開、そしてできたブイヨンを布でこしてとりあえず完成。

 完成したブイヨンの一部を使ってコンソメを作ることにした。ブイヨンにホーンラビットのひき肉と卵白を加えて一時間ほど煮込む。

 煮込んでる間に余った卵黄を使って自家製マヨネーズを作り、他に各種のひき肉を使ったハンバーグの種を作った所で時間となりコンソメが完成。


 下ごしらえはとりあえずこんなものでいいかな? あとはデザートやお菓子なんかも作っておきたいとこだけど……何がいいかな~、ドライフルーツでも買って来てパウンドケーキでも作ろうかな? 

 あ、そういえばダンジョン行ってる間は料理を置いていってもルカは冷めた料理を食べることになるんだよな。それに、数日ダンジョンにこもるとなると料理置いて行くわけにはいかなくなるし……ま~、宿の食堂で食べてもらってもいいんだけど……冷蔵庫と電子レンジ――って冷蔵庫は何となく似たようなの作れそうな気がするけど、電子レンジはちょっとどんな構造なのかわからないから作るのは無理だよな~。う~ん、オーブンなら何とか作れそうな気がするからそれで妥協しておくか。よし、ちょっと買い出しに行ってくるか。


「みんな~、ちょっと買い出しに行ってくるから留守番頼んだ」

「任せとけよ!」

「リン兄さん、いってらっしゃい」

「……ぁ…………」

「レイ……すぐ帰ってくるからそんな顔するなよ」


 まず、町の外の林で木を切り倒して木材を確保し、次に岩山に移動し石材を確保、その後商店街に移動して必要なものを買い揃えてから宿に戻り夕食を食べてから明日の予定などを話し合って就寝することにした。


 さてと、そろそろ寝るか……あ、ベッド……。


 部屋にはダブルベッドが一つだったので『倉庫アプリ』からダブルベッドを追加で出して男女に分かれて寝ることにしたのだが、深夜レイに揺り起こされて一緒に寝て欲しいと言われてしまった。そんなの無理だと言うと自分は床でいいから手だけ握っていて欲しいと言われたのだが。


 おいおい、さすがに女の子のレイを床に寝せて自分がベッドで寝るとかできないぞ! そんなことするくらいなら俺が床に寝た方がましだ!


 そんなことはできないからおとなしくルカと寝るように言ったのだが、震える手で俺の手を取りお願いと言われたので仕方なくラウをルカの寝てるベッドへ運びレイと一緒に寝ることとなった。


 ダメだこんなの落ち着いて寝ることができない! シングルベッドを追加で一台とパーテーションも買ってこよう……。

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