第二十九話 ダンジョンで絡まれた

 ダンジョンから地上に戻るとすでにギルド出張所は閉まっていたので、急いで宿に戻り食事を食べて部屋に戻り今日のことを思い返していた。


 結局、地下10階層まで攻略するのに10時間くらいかかったな……特に地下8階層の罠にかからないと先に進めなかったのが、時間取られて痛かったな。

 でも、通った道は『地図アプリ』に記録されてるはずだから次から迷わず進めるだろうし、今度はもう少し先まで行けそうではあるけど……それでも地下25階層までとなると何泊か野宿しないといけないだろうな~。

 安全地帯があるらしいから魔物はいいけど一人だと寝ている間に他の冒険者に襲われないかの心配があるな。一応シューティングゴーグルで警戒はできるけど、気が付いた時には手遅れとかの可能性もあるしな~。てか、よく考えたら俺一人でダンジョンに潜ってるだけでも傍から見たらいいカモに見られてそうでちょっと怖いな。なにか方法を考えないといけないな。


 今回の魔物から新たに得られた能力は。

 ジャイアントバットから[超音波]

 クレイゴーレム[魔力操作]

 コボルトロードから[身体強化][統率]

 と、思ってたより得ることができず、その中で使えるものは[魔力操作]だけで、他の能力は使用者に魔力が無ければ使えないものだった。


 なんか、俺自身が魔力が使えないとほとんどの能力が使えなさそうだな~。あ、スマホのレベルもあげなくちゃな。


 スマホのレベルを20に上げたが、追加アプリに『能力アプリ』と言うのがあるくらいで他は変わり映えしないことが書かれていた。


 『能力アプリ』をポイント交換し、能力はどうやったら使えるのか『能力アプリ』の説明を読んでみた。


 ・この機能は『能力複写』と違い、『倉庫アプリ』内に入っているもの以外から能力を確率で得る『能力獲得アプリ』です。

 ・このアプリの使用者が理解できない能力は獲得することができません。

 ・対象の能力を理解できたとしても確立により獲得できない場合があります。

 ・確立を上げるには、スマホのレベルを上げる・対象の能力に対しての知識を深める・実際の見たり体験するなどで確立を上げることができます。

 ・能力獲得を使用する場合、同対象に対して24時間に1回使用となっておりますので、一度失敗した場合は24時間待たなければいけません。


 便利なようなそうでもないような……微妙なアプリだな~。


 翌日、昨夜思ってたことがフラグだったかのように地下4階層で冒険者の集団に襲われた。


「おい! そこのガキ!」


 話しかけてきた男の方を見ると、モヒカンや刺青の入ったスキンヘッドで装備といえば質素な革鎧や上半身裸に肩パットとズボンを革のベルトで繋いだだけという意味の分からないカッコの筋肉男が五人いた。


 えー、マジか! てか、こいつら本当に冒険者なのか? 見た目は完璧に某世紀末に出てくるあの雑魚にしか見えないぞ? やだな~、完璧に絡んで来てるな~。


「おら! ガキィ、兄貴が呼んでんだからさっさと返事しろい!」

「えーと……俺のことですか?」

「他に誰がいやがるってんだよ! 舐めてんじゃねぇぞ、ガキが!」

「おい! お前らはいいからちょっと黙ってろ。ガキ、命が惜しかったら持ってるもん全部置いてけや」


 ――――おっと、ちょっと感動してしまった。まさかこんなきれいなテンプレな脅し文句が聞けるとはな。やっぱここはあれか? 『おまえらに渡す物など無い!』ってキメ顔で答えないとダメなのか? もしくは、こっちも対抗して『ヒャッハー!』とか言った方がいいのか? なんかもう、おもしろくなって来たぞ。なんかバカっぽいし腹立つからちょっとからかってみよう。


「別に殺してから奪ってもいいんだぜ?」

「あーー! ゴ、ゴーレムがーーー!」


 バカどもの後ろを指さして叫ぶとバカどもは一斉に後ろを振り返った。『こんな手に引っかかるとか、こいつら本物のバカだろ』と思いつつ一気にその場から離脱し[気配遮断]を使った。


「あのガキ―! 騙しやがったな。どこ行きやがったー! おら、おまえら探してこい!」

「「へい!」」


 このまま逃げてもいいんだけど、いっそ殺し………………俺ってこんな物騒なこと考えるやつだったっけ? とはいえ、放っといたらまた狙われそうだし……どうしたもんかな~? 周りに他の冒険者はいないみたいだし、少し痛い目にあってもらうか。


 『スモークグレネード(M18発煙手榴弾)』を具現化して床の端に固定し、その安全ピンに紐を通して紐が床と平行になるように反対側の壁にしっかり固定しておき、離れた所から小石を紐の辺りに投げて、「カツン」という音で雑魚ども、もといバカどもをおびき寄せた。

 狙い通りバカどもが「ん、そっちか! ぶっ殺してやるから動くんじゃねぇぞ!」とか言って罠の方に向かってきたのだが、思わず『いやいや、そんなこと言われたら逃げるだろ!』ってツッコミたくなった。


 まったく……そういうセリフってよくあるけど、殺すって言われてるのに普通はその場に留まるわけないんじゃないかと思うんだがな……様式美なのかな?


 そんな事を考えてたらバカどもがやっぱりバカなのか三人まとめて罠に引っかかり、煙に巻かれて苦しんでいた。期待を裏切らないバカっぷりだった。


 多少は気も紛れたので、気を取り直して地下5階層へ降りてボス部屋の前まできたときに、後ろからバカどもの声が聞こえてきた。


「ガキ―! どこ行きやがった! ぜってー許さねぇからな! ぶっ殺してやるからとっとと出てきやがれー!」


 しつこいやつらだな~。てか、ツッコミたい『殺すと言われてるのに出てくわけねーだろ』とツッコミたい! このままじゃどこまでも追ってきそうだし……今日はここのボス倒して地上に戻るか。


 ちゃっちゃとボスを倒して地上に戻るとすぐに出張所に向かい、相談窓口の兄さんにバカどもに襲われたことを報告したのだが。


「あ~、またあの人たちですか……えーと、一応聞きますが、証拠とかはありますか?」

「いえ……これといったものはないです」

「……でしょうね。実は――」


 どうやらあのバカどもは常習犯で、自分たちより下のやつ(バカの目線でそう見えるやつ)特に一人でいるやつを狙って、金品を巻き上げているらしかった。だが、バカなのに、他の冒険者に見られないように気を付けていたり、バカなのに証拠などを残さない狡猾さがあるため中々捕まえることができないということだった。バカなのに。


「一応、前に囮として一人で潜って貰い彼らに襲わせたのですがにごとに盗めば証拠となる物だけ見事に残していったんですよ。他に、別の日に囮として若い冒険者の方に協力してもらい、ギルド職員と数名の冒険者で実際に現場を押さえようとした時は、襲ってこなかったんですよ」


「実力は三流なんですが、危機察知能力は一流みたいで中々捕らえることができず、ギルドとしても困っている次第で……」

「それはまた……面倒なことですね。バカなのに」


 あれ? あのバカどもよりは俺の方が強い気がするんだけど……俺は危険と思われなかったって事かな? あ、もしかして俺に魔力がないからか?


「もういっそどなたか始末してくれれば――これは失言でしたね。一応、証拠がないので犯罪者として認定されていませんからダンジョン内とはいえ殺すわけにもいかないんです……死ねばいいのに」 


 いや、俺も最初に殺そうかと思っちゃったよ? 思いとどまったけどね。バカのためじゃなく自分自身のために。


「あ、以前に反撃した冒険者がいたんですが、そうしたら攻撃されたと言って逆にその冒険者を訴えたことがあったんですよ。しかも証拠まで用意して……なので、下手に反撃せずに逃げることをおすすめします。ギルドとしては情けない話ですけどね……死んでくれないかな~」


 ちょくちょく本音の漏れてる職員と話しているとバカどもが捕まったという知らせが入ってきた。


 あれ~? てっきり俺が倒すことになるようなイベントが発生するのかと思ってたんだけどな~。ま~、捕まったんならそれでいいんだけどさ。


「よ、よかったですね。捕まったみたいですよ?」

「そ、そうですね~。あははは、これで安心してダンジョンに潜ることができますよ」


 今回のことで、この年齢でソロでダンジョンに潜るのはいいカモに見られて危ないのかも知れないと思いダンジョンパーティ募集掲示板を見てみたのだが条件の厳しいものが多く、かといって条件に何も書かれていないものは何か怪しく感じた。

 職員に相談してみるとダンジョン初心者は騙されることが多いので、信頼のおける人を見つけることから始めるのがいいと言われたのだが、そんなのいつになったら見つかるのか分からないので、すぐにどうにかできる方法はないかと聞くと「金に余裕があるのでしたら、主人に対して騙すなどの行為ができない戦闘奴隷を買うということもできますが」と教えられる。


 んー、奴隷か~……生き物を殺す事には忌避感をあまり感じなかったけど、奴隷にはちょっと忌避感を感じるんだよな~。


「リンさんくらいの年齢で奴隷というのもどうかとも思わないでもないんですが、奴隷なら基本的に主人の命令には逆らえないので安心ではありますよ」

「それじゃ、買うかどうかは別としてとりあえず見るだけ見てこようと思いますので奴隷を売ってる場所を教えてもらえますか?」

「奴隷商の場所ですか? それなら――」


 職員に教えてもらった場所は出張所の裏手の目立たない所にあった。

 店にいたのは黒のシルクハットに黒のタキシード、モノクルをかけている長身痩躯の色白の変な中年男だった。そして、護衛なのか両隣にはプロレスラーのようなマスクを被ったマッチョな大柄の男が二人立っていた。


「おや? これはこれは、また可愛らしい。奴隷になりたい方ですかな?」


 ま~、金持ってそうには見えないだろうけど……いきなり『奴隷になりたい方』ってのは、あんまりじゃね? 『また可愛らしい』というのは聞かなかったことにして。


「えーと、奴隷を見せてもらいたいんですけど」

「おやおや、これは失礼いたしました。お客様でしたか、私は店主のビズと申します。それにしてもお若いように見えますが、そのお歳で奴隷をご所望とは……いやはや、それではまず身分を証明できるものをご提示ください」


 ギルドカードを渡すと「ご確認させていただきます」と店員らしき女性にカードを渡し、とりあえず奴隷を見せてくれることになった。

 案内された場所にいたのは20代の綺麗というよりエロい感じの美女ばっかりがいるところだった。「この人たちは何ですか?」と聞くと「性奴隷です」と答えられてしまった。なにか誤解があったらしい。


 いや、俺の中身は19歳だし興味がないと言えば嘘になる、というか大いに興味はあるんだけど、今探しているのはこれじゃない! てか、おねぇさんたちの誘惑の視線がすっごいな。あれか、この人たちの正体は実はサキュバスとかなのか? やばい、ここにいると買っちゃいそうだ。 


「あ、あの……こういう奴隷ではなく、戦闘のできる奴隷が見たいんですけど」

「ああ、戦闘ですか……う~ん、実は現在戦闘奴隷の在庫で質のいいのがあまりいないのですが」

「とりあえず見せてもらっていいですか?(ここにいると色々やばいんで)」

「そうですか……では、こちらの方へ」


 ビズの案内で戦闘奴隷を見ることになった。


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