第三十話 奴隷商

 戦闘奴隷を一通り見せてもらったのだが、見た目が到底堅気の人間には見えないような強面の奴隷ばっかりで、お近づきにはなりたくなかった。それに、何処かこっちを見下しているような目をしている気がした……奴隷なのにね。

 ビズにそのあたりを聞いてみると、家事など一般生活で使う生活奴隷なら質がいいのを揃えているのだが戦闘奴隷となると変にプライドの高いものが多く調教に時間がかかるとのことだった。

 さすがにこれだといくら奴隷だから裏切れないといわれても側にいたら安心して寝ることもできないということを告げると、一応出来るだけ条件に沿う奴隷を見繕ってみるので待合室で待っていて欲しいといわれた。

 なんで待合室なのかは分からなかったが、なんか強面ににらまれてて居心地が悪かったので、言われた通りに待合室へ移動して待つことにした。

 ビズが奴隷たちを連れてくるまで待合室でお茶をいただいていた。お茶を持ってきてくれたのはメイド服の美女で生活奴隷としてここで働いているということだった。

 待っている間する事もなかったので、奴隷について書かれた紙を読んでみることに。


 ・奴隷というのは大きく分けて四つ、護衛やダンジョンなどで使う戦闘奴隷、一般生活の家事手伝いなどをこなす生活奴隷、農業、建築、店舗の労働力としての労働奴隷、性行為を目的とした性奴隷がいる。

 ・奴隷との契約は奴隷紋を奴隷に焼きつけることで完了する。

 ・基本的に奴隷は契約した主人には逆らえないが、その役割以外の事を命令されても拒否する権利を持っている。(例として、生活奴隷に性奴隷のような事は強要できない)

 ・奴隷は最低限の人権を有しているので、主人になった者は過度な虐待を与えてはいけない。

 ・奴隷は自分の命に係わるようなことに対して拒否する権利がある。

 ・奴隷を犯罪に使ってはいけない。

 ・奴隷の開放をするときは奴隷紋に主人の血を垂らし『(奴隷の名前)を開放する』といえばその奴隷は解放され奴隷ではなくなる。


 奴隷メイドにも色々聞いてみると、奴隷とは人でありながら所有の対象となるもの即ち所有物とされる者のことで、基本的に人としての名誉、権利・自由などは認められず、主人の所有物として取り扱われる人で、主人の全的支配に服し、労働を強制され、譲渡・売買の対象とされている。

 基本的に奴隷にも多少の人権はあり、一般には奴隷だからといって差別されることはあまりないが、貴族相手だと差別される。他に性奴隷には男もいるということが分かった。

 

 もしかして、さっきのビズの『奴隷になりたい方ですかな?』ってのはまさか男娼……いや、考えるのは止めておこう、不幸になるだけだ! 主に俺の精神が!


 考えるのを止めて紙に目をやると他にも何やら色々書いていたので、一応スマホで写真を撮っていたらビズが部屋に入ってきた。


「いやいや、お待たせしてすみませんでしたね。まずは、ギルドカードに問題はありませんでしたのでお返しします。これでリン様は正式に奴隷の購入が可能です。それで、四人ほど見繕ってまいりましたので、これから戦闘能力の高い順に一人ずつ面談してみてください」

「分かりました。お願いします」


 ギルドカードを受け取り、ビズの連れてきた奴隷たちと面談することになった。

 まず、一人目は筋骨隆々の目つきの鋭い2mはある大女だった。入ってくるなり舌打ちをしてこっちを殺気のこもった目で睨んできた。おかげでシューティングゴーグルの警戒音が頭の中で鳴っていてうるさかった。


 これ、オーガとかじゃなく人なんだよな? てか、どんだけ殺気込めて睨んできてるんだか……警戒音がうるさいから止めていただきたい!


 とりあえず色々と質問したんだけど『ガキに買われるほど落ちぶれたくない!』と一言いった後はこちらを完全に無視して口を開かなかった。俺は客でこいつは奴隷なのにね。


 これ以上何を聞いても無駄だとなって大女さんにはお帰りいただき、二人目との面談となった。

 二人目はトカゲ男という魔物じゃないのかと思えるような姿をしたトカゲの亜人の男で、こっちを見るなりがっくりとうなだれていた。


 トカゲの亜人というか、悪の軍団の怪人といった感じだな。魔物ですとかいわれても納得できてしまいそうな見た目だな。てか、何気に亜人を見るのはこれが初めてだったな~、どうせ同じ亜人ならこんな二足歩行のトカゲじゃなくエルフ、エルフのおねぇさんが見たかった! ……ま、奴隷にエルフいたとして、戦闘奴隷にはいないか。


 無理だろうと思いつつも質問してみたのだが『ガキのお守りなんざ免だ』と吐き捨てられた。その後、質問しても横柄な態度で話にならなかった。


 あれ、何でさっきから俺の方が『ガキ』だとか値踏みされてるみたいになってるの? 俺は奴隷を買う客でいいんだよね? 買われる方じゃないよね? いい加減泣くぞ。


 三人目はガタイのいい隻腕の中年の男、なんか生気を感じない目でぼーっと中空を見つめていた。


「あの~」

「………………」

「もしもーし」

「……………………………………」

「えっと、ビズさん。この人はいったい何ですか?」

「この男でしたら反抗したりすることもないですよ」

「反抗どころか何もできそうにないんですが?」


 どう考えてもただの廃人だろうと聞いたのだが、戦闘になればちゃんと動いてくれるらしいのだが、普段はぼーっとしているだけで何もできないとのことだった。

 そして、その後いくら質問しても終始ぼーっとしていて無反応で会話が成立しなかった。


 できるだけ希望に沿うの連れてくるっていってたのに、こんなのしかいなかったのか? 未だに自己紹介すらまともに聞けていないんだが……次で最後だけど期待はできないな……てか、こっちの精神がガリガリと削れていってる気がして限界に近いんだけど、もう泣いてもいいかな? ……最後にとんでもないのとか出てこないだろうな?


 いよいよ最後の四人目。見た感じ同じ年(15歳)かちょっと下くらいの男の子、良くいえば元気いっぱい、悪くいうと生意気なガキだった。見た目は青と黒の虎縞模様の髪、背丈は俺よりちょっと低く、割と筋肉質な身体をしていた。顔はライラみたいに獣っぽかったところから純粋な獣人だろうと思っていると、ビズが青虎族の獣人だと説明してきた。


 青い虎って……元の世界だとマルタタイガーとかいう珍しいやつじゃなかったか? 赤や黒とか他の色の種族もいるんだろうか? 五色揃えば戦隊ものになるな。って、それはどうでもいいか。


「俺の名はラウディルだ」


 お……おお……おおお! じ、自己紹介だ! って、ただ名前を言われただけというのは、しかも奴隷なのに言葉遣いが悪いというのは分かってるんだけど、それでもこれまでのやつらは名前さえ言わなかったから、それだけでも嬉しいものだ。


 初めてちゃんと名前をいってくれたことに別の意味で泣きそうで、ちょっと感動しているとラウディルが話しかけてきた。


「なぁおい聞いてんのか?」

「ん、ああ、ごめんごめん。聞いてる聞いてる。ラウディルくんね。少し質問させてもらってもいいかな?」

「ああ、別にいいぜ」


 態度が奴隷としてはあれだが、一応会話は成り立ちそうだな。意思の疎通ができるのはいいことだ! 


 青虎族のラウディル・ツィーラ、十四歳男、元ブロンズランクの冒険者ということを粗雑ながらもちゃんと答えてくれた。

 さらに聞いて行くと、ガウリィオ大陸で家族から離れて森で妹といたところを人間族の奴隷狩りにあい、妹と共に捕まってラウテイア大陸に連れてこられ奴隷商を転々としていて、妹と離れ離れにされそうになっていたところをビズに妹と一緒に買われたということだった。

 人間に対して恨みとかないのか聞くと。襲ってきた人間のことは今でも殺したいくらい恨んでいるが、だからといって人間族全体を恨むようなことは無いといわれた。


 う~ん。態度や言葉遣いには多少問題があるけど、思ったよりしっかりした考えを持ってるようだし、悪いやつじゃない感じだからこいつなら買ってもいいかもしれないな。


「えっと、俺に買われることに抵抗とかないかな?(俺は奴隷を買うことに微妙に抵抗あるけどね)」

「そんなの無いから別に買われてやってもいいけど……ただ、条件がある」

「どんな条件なんだ?」


 ラウディルの出してきた条件は、妹と一緒なら買われてもいい、妹は病気なので働かせたくない、妹を虐待したり(物理的な意味で)手を出したり(性的な意味で)しないこと。


「とりあえず、その妹さんに会わせてもらってもいいかな?」

「ああ、いいぜ。ビスさん「ビス様だ!」ビス様。妹を連れて来てく「連れて来て下さい!」ださい……」

「まったく、おまえはいつまでたっても礼儀を覚えないな・まぁよい、それではリン様すぐに連れてまいりますのでしばしお待ちください」


 ビズ……なんで俺のときはラウディルの言葉遣いを注意しなかったんだかな。やつとはちょっと話し合う必要があるかもしれないな。


「なぁなぁ、おまえはなんで獣人を見ても嫌な顔しないんだ?」


 別に俺が落ち人だっていってもいいような気もするが、無駄に自分の情報をいう必要もないだろう。


「ま、それは俺がおまえを買ったら教えてやるよ」

「なんだよ、ケチだな~」


 ラウディルと色々と話しているとビズがラウディルの妹を連れて戻ってきた。


「は、はじめましゅて、ルカリス・ツィーラです。かんじゃってすみません……」


 ルカリスと名乗った少女はラウディルに比べると頭一つ分小さく、青の部分がちょっと色素が薄く水色っぽい色をした髪で肩くらいまでの長さで、なんかおどおどしていて小動物を連想させた。


 何このかわいい生き物! 俺は犬派なんだけど、それでもこのかわいさは何というか……なんかもう……あれだ……とにかく、なんというか父性本能のようなものが刺激されて守ってあげたいと思ってしまう儚げなかわいさだった。あと、仔猫みたいでかわいい。


「十二歳です。えっと、あまりできることはありませんけど、お役に立てるようにが、がんばります」

「ルカ、おまえは病気なんだからおとなしくしてればいいんだぞ」


 こいつって、重度のシスコンなんじゃないのか? てか、俺はラウディルにこんな子供に手を出すようなやつに見られてたんだろうか? ま、かわいいとは思うけどね。


 一応ビズに兄妹のことを聞いてみると、ラウディルの方は戦闘能力もそこそこでアイテムボックス持ちだが礼儀作法がなっていなく敬語も不自由。それでもいいという客もいたのだが……妹と一緒でなければ買取られる気はないと、妹思いすぎて離されることを嫌うためなかなか売れない。

 ルカリスの方は年齢的に幼すぎて性奴隷にもできない、貴族の中にはたまにこういう幼いのがいいという者もいるのだが病気持ちなので相手をする事も出来ず役に立たないし、生活奴隷にしようにも病気のため役に立たない、唯一のとりえはちゃんとした礼儀作法や敬語が使えるということぐらいだということだった。

 ちなみに性奴隷にしようかと考えた時にはラウディルが暴れたらしい。しかし、奴隷紋とかいうので罰を与えておとなしくしたとか。

 ビズが最後に「妹の方は病気持ちですが、兄の方は身体的に問題ないし多少はお安くしますので結構お買い得だと思いますよ?」といわれた。


 んー、どうするかな~……別に今焦って無理に買う必要もないんだけどな。





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