第三十一話 奴隷兄妹購入

 今日のところは買わないで帰ろうかどうしようかと思ってたんだけど、ここぞとばかりにビズが「今なら登録料もサービスしますよ」と畳みかけてきてさらに、ルカリスのウルウルした純粋な瞳で見つめられたら買わないとは言えなかった。


 ルカリス……その目はずるいぞ、買わない俺が悪いみたいに思っちゃう。てか、その瞳はわざとじゃないよね? その瞳は計算なんかじゃなく、純粋なものだと信じてるよルカリスちゃん!


 それでも一応最終確認として、ダンジョン探索に行くのは構わないかとラウディルに聞くと「妹はだめだが俺だけなら構わない」ということだったの買うことに決定した。ちなみに代金は金貨5枚500,000ギリク、安いのか高いのは良く分からなかったけど、向こうの言い値で買うっていうのもね~。


「ビズさん。さすがにそれはちょっと高くないですかね~?」

「いえいえ、二人分ですのでこれくらいが相場かと?」

「いやいや、二人分とはいっても妹の方には仕事をさせれないんだから、その分の生活費などを考えると実質一人分以下ということになり、そして金貨五枚は二人分の値段だというんだったらその半額以下の金貨二枚くらいが相場なんじゃないですかね~?」

「さすがにその値段は厳しいですね~、ま~もろもろ考えまして金貨四枚でどうでしょうか?」


 その後も激しい値段交渉バトルが続き、途中で『そういえば獣人は街中だとフードとか被らないと行けなかったな』と思い出し、二人分のフードや服をつけて金貨二枚と大銀貨五枚でどうだと提案してみると、登録料に加えて奴隷契約料も込みで金貨三枚ではどうかときたので、このくらいが限界かなと思いその金額で了承した。


 ビズのやつ、マジで二人分の金額いってやがったんだな。


「それで、どうやって契約すればいいんですか?」

「まず契約書を書いていただいたのちに、契約書に主人、奴隷、双方のサインをしていただくのですが、その前に代金の方を先にお願いいたします」


 金貨三枚を支払い、契約書を受け取って一通り目を通してから奴隷に対する項目から主人に対して襲い掛かる、主人の命令に逆らうという所にチェックを入れ、チェックした項目を奴隷がした場合の罰則の設定を二番目に軽い、身体が動かなくなり苦痛に苦しむに設定し、追加項目の守秘義務の設定を主人が秘密にしろと命令したことは主人の許可なく他人に言うことができなくなる。主人が死ぬなどで契約が破棄された場合は命令されていた秘密のことは記憶から消去されるという設定にしておいた。

 他には奴隷の名前の変更などもできるようだったが、変えることなく本名のままにした。


「書けましたよ」

「はい、それでは奴隷登録、奴隷紋を刻む儀式を始めます」


 ビズに言われるままに、インクに主人である俺と奴隷であるラウディルの血を一滴ずつ混ぜた。そしてラウディアの胸の上部あたりにビズが血が混ざったインクで円を描きそこへ奴隷契約書を押し当て何やら唱えると契約書が光となって消えて先ほどの円に吸い込まれていった。


「ぐぅぅ、つぅぅ」

「ラウディル、大丈夫か?」

「あ、ああ、ちょっと痛いというか熱い感じがしたけどすぐに収まったぜ」


 インクで描いたただの円だったはずのものが不思議な紋様に変わっていた。


「はい、これで奴隷紋の完成です。命令するときは魔力を込めて奴隷の名前を呼んで命令してください」

「あの~、俺って魔力が弱いんですが……どうすればいいんでしょう?」

「そうでしたか、それなら奴隷に触れて命令してください。それならたとえ魔力が無いとしても命令できます」


 その後ルカリスにも奴隷紋を刻んだのだが、終始ラウディルが心配そうに見守って……というか、騒いでいてえうるさかった。


「きゃっ! ……つぅぅう」

「ルカ! 大丈夫か! おい! ルカに酷いことするな!」

「いやいや、これはさっきおまえにしたのと同じやつだぞ!」


 そうはいってもルカリスが苦しそうだったので、念のため一応回復魔法をかけておいた。


「え? あ、ご、ご主人様。あ、ありがとうございます」

「いや、これくらい別にいいんだけど。それより大丈夫か?」

「は、はい。苦しいのはいつものことですから……えーと、大丈夫です」


 それは大丈夫とはいわないんじゃないかな~? ま、契約については無事終わったみたいだからそういう意味なら大丈夫であってるのか?


 二人の奴隷契約も無事終わり、身支度のために奥に引っ込んでいった。


 あ、そういえば奴隷って宿でどういう扱いになるかわからないから聞いといた方がいいな。


「あの、奴隷って宿では別部屋とかは不味いんですかね?」

「町にもよりますが、奴隷だけで一部屋を借りるというのはまずないかと――」


 教えてもらったのは、奴隷は外の家畜小屋に入れられることもあるが、理由をつければ主人と同室なら構わないことが多い。ただし、奴隷はベッドではなく床で寝るのが普通だが布団くらいは出してくれるが、ベッドを含めて汚せば弁償となる。ちなみに、性的なことで汚れることが多いらしいと、いらぬ説明をされた。

 ルカは病気なんだしベッドに寝かせてやりたいから何とかならないか聞いてみたが「一緒に寝れば問題ありませんよ?」といわれた。


 別にあんな小さい子に手を出す気もないんだが、ラウがうるさそうなんだよな。ま~俺が床で寝てもいいんだけど……あ、そうだ! 『倉庫アプリ』に入れればいいんだしいっそどこかでベッド買っちゃうか? 、


「いや~、それにしましてもリン様はお若いのになかなか商売上手だ。私も久々に値段交渉で熱くなってしまいましたよ」

「いえいえ、こちらとしてもいい取引ができました」


 ビズと謎の堅い握手を交わしていると準備ができたラウディルがやってきたので奴隷商をあとにした。あー疲れた。


「あ、そうだ。ラウディルのことをラウ、ルカリスの事をルカって呼んでもいいかな?」

「いや、いいも何も俺らは買われたんだから好きに呼べばいいんじゃねぇのか?」


 ま、こんなことを一々奴隷に聞くご主人様なんていないのか。 


「それでよ、俺らはおまえを何て呼べばいいんだ?」

「ん、ああ、そうだな~。とりあえず、好きに呼んでみてくれ」


 別にこう呼んでほしいというリクエストもなかったので、好きに呼ばせてみることにしたんだけど。


「う~ん。『兄貴』かな?」

「ご主人様――「ご主人様以外で」それでは、『リン様』でいかがですか?」


 奴隷がご主人様と呼んでくるのは当たり前なのかもしれないけど、俺としては何か抵抗あるんだよね。正直いって『様』って呼ばれるのすらちょっと照れるんだが……ま、とりあえずはこれでいいか。それよりラウだな、もうちょっと礼儀とか色々どうにかしてくれないと困るな。


「あ~、それとラウ。他に人がいないとこならまだいいんだけど、さすがに人の目があるところではも少し礼儀と言葉遣いに気を付けてくれ」

「そんなこといわれてもな~」

「ま、礼儀は分からないならとりあえず姿勢を正して、おじぎをする程度してくれればいい、言葉遣いは覚えるまでは『ハイ』『イイエ』『分かりました』『分かりません』くらいで後は何もしゃべらない方向で行こうか。というか、ルカの方が礼儀作法や言葉遣いがちゃんとしてるからそれをマネてみればいいかもな」


 そんなことをラウと話してたらルカが「わたしがお兄ちゃんの先生みたいだね」といって、くすくすと笑っていた。


 いやはやルカはまったくもってかわいい子だ。後でお菓子でも買ってあげよう。頭も撫で……あ、そういえばまだ頭撫でてなかったな。後で撫でさせてもらおう。とはいえ、まずは二人の生活用品を買いに行くのが先だな。


「いまから二人の生活用品を買いに行くんだけど、くれぐれも騒いだりしないようにな。特にラウ」 

「いや、さすがに俺だって人間の多いとこで騒ぎを起こすほどバカじゃないぜ」

「ルカ、ラウがバカしないようにしっかり見張っててくれ」

「アハハ、分かりました。ちゃんとお兄ちゃんを見張ってます」


 二人のこれからの生活用品と替えの服などを色々買い揃え、ついでに俺も欲しいものをいくつか買って、さらに二人専用のダブルベッドなどの寝具一式を買ってから宿に向かった。ちゃんとルカに(ついでにラウにも)お菓子を買ってやったが、もうすぐ夕食時だったのであまり食べすぎないように注意しておいた。主にラウにだけどね。


 あー、でもこれだとあの部屋じゃちょっと狭いかも知れないな、後で宿の店員に相談するか。ま、それはそれとして、まずは飯だな。


「なー、ラウたちは食事のマナーとかはわかるか? 箸もしくはスプーンやフォーク、ナイフなんかはちゃんと使えるか?」

「兄貴……それはさすがにバカにしすぎだぞ! ナイフやフォークくらい使えるぜ!」

「わ、わたしは箸も使えます」


 なるほど、ラウは箸は使えないっと。そしてルカは箸も使えるのか、兄より優秀で偉いな~。


 食堂に行く前にどんなものが食べたいかと聞いてみると、ラウは肉肉とうるさく騒いだ。ルカはというと、ラウがルカは少食で、消化のいいものがいいと口をはさんで来てルカはそれに頷いていた。


 肉のラウにはステーキと肉たっぷりシチュー、さらに肉の串焼きを注文してやり、ポトフのようなスープ、サラダ、柔らかいパン、肉野菜炒めのようなものを注文し、取り皿をもらってルカに取り分けてやり、残ったものを俺が食べることにしたのだが、ルカに「これじゃ、ご主人様と奴隷が逆ですよ」と注意されてしまった。全くしっかりした子だ、ラウなんて許可もなく食べ始めてたのにね。



 宿で奴隷と一緒に宿泊したいから大きい部屋と交換して欲しいことを告げると受付の店員の女はフードから覗くルカの顔を見てからあからさまに蔑んだ目で俺を見てきたよ。ここで『いやいや違いますよ』というのも墓穴を掘りそうなので言えず、非常に気まずい空気のまま一回り大きな部屋に移るための追加料金を支払った。ラウもいるんだからそんなことするわけは無いだろうと店員を再度見ると、今度はラウを見てから俺を見て熱い視線を送ってきた。


 俺の予感が正しければだが、この店員は腐ってる! ロリ展開も、BL展開も絶対ねぇよ! 夜に部屋の前で聞き耳とか立ててたら訴えてやる! 

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