第二十二話 ホラブからゴラウへ

 ホラブの町から小都市ゴラウへの輸送依頼を受注することを窓口へギルドカードと依頼木板を提示して告げると、ちょうど依頼者が来ていたのでギルド内の一室で依頼主の面接を受けることになった。

 面接は不正が行われないように見張るためにギルドの職員が一名つき、依頼者のベガルという恰幅のいいおっさんの質問に俺が答えていくという形で行われた。質問は名前、年齢、冒険者ランクの確認、さらにアイテムボックスについての質問をされた。


「えーと、リンさんは『アイテムボックス』の能力は持ってないようですが――」

「お待ちください、ベガル様。そちらについてはギルドから捕捉説明させていただきます。リンさんは『アイテムボックス』と同様の能力を有する『スマホ』という魔道具をお持ちですので、輸送依頼に支障が無いことをギルドが保証いたします」


 ベガルはギルド職員の説明に納得しきっていないようで、実際にどのくらい入るのかこの目でみないことにはギルドの保証だけでは信用できないと言ってきたので、ギルドの倉庫に移動してたくさん積んであった大人一人は入れそうな大きさの木箱をを実際に『倉庫アプリ』に入れて見せることになったのだが。


 あれ? そういえば『倉庫アプリ』に容量のことは書かれてなかったし、容量がいっぱいになったことなんて一度もなかったな。そう考えるとここらの荷を全部入れれちゃいそうなんだけど、前のこともあるし……程々にしとかないと面倒なことになりそうだから適当に木箱をが十個くらい入れて様子を見るか。


 ぱぱっと木箱十箱を『倉庫アプリ』に入れて見せると、二人とも口を開けて呆然としたまま固まっていた。


「あ、あの~……どうでしょうか?」

「え、あ、ああ、これだけ入るんなら申し分ない。というより、ぜひとも頼みたいですな」

「マスターから聞いてはいましたが、実際に見るとすごいですね」


 あれ? これでも大容量になっちゃうのか? 前にゴブリンやらなにやらを100体以上出したらレドラスに驚かれたからその時より少なめに入れて見せたつもりなんだけど……、これからはこのくらいしか入らないという方向で行こう。てか、アイテムボックスについて誰かに聞いておけばよかったな。


 その後もいくつか質問が続き、最後に何か質問はあるかと聞かれたので「何故この時期にゴラウへの輸送を?」と聞くと、どうやらゴラウでシルバーランク昇級試験があるからこの町にも受験するアイテムボックス持ちの冒険者がいるかもしれないと思いランク不問で依頼を出していたらしかった。


 あ、そういえば、バルデス商会のコイン見せてなかったな。見せれば信用度は上がるだろうから一応見せておくか。

 

「あの~、これ持ってるんですけど、身元の証明かなんかになりますかね?」

「これは我が商会のコインですな。これを持っているという事は商会に信用されている証ですぞ」


 どうやら信用を得る役に立ったようで、先に見せてくれればよかったのにとまで言われてしまった。


「さて、本来なら明日に面接の結果をとなっていたんですが……商会につてがある人物のようだし、何よりあれほど大容量の『アイテムボックス』を持つ人物なんて他にいないだろうからぜひともお願いしたい」

「それではリンさん、最終確認させていただきます。この依頼を受注なさいますか?」

「はい、お願いします」


 正式に依頼受注の契約を交わし、ついでに演習場でスマホのレベルが上がったことで『具現化アプリ』や『魔法アプリ』でどれだけのことが出来るようになったのか試してみることにした。


 まずは『具現化アプリ』今回試した銃系は、ショットガン(レミントンM11-87)、アサルトライフル(SCAR-H)、スナイパーライフル(M24A3)、アンチマテリアルライフル(XM109ペイロード)全て具現化に成功しアンチマテリアルライフルは試射するにはここは狭すぎるし発射音の問題もあるため見送り、他の銃器も大きい音を出してしまいそうだったので試射は見送った。

 他にもいくつか重火器の具現化を試してみた。

 ロケットランチャー系などもいくつか試すとRPG-7・RPG-29・パンツァーファウスト3・カールグスタフM4 (無反動砲)は具現化はできたのだが、本体のみで弾頭がついてなかった。

 重機関銃はブローニングM2が具現化に成功。


 ……ちょっとした軍隊の兵士の装備を超えてしまった気がするな。もうこれドラゴンもいけるんじゃね? って、調子に乗ってると碌なことにならないな……自重しよう。武器以外も何か試してみるかな?


 元の世界で乗っていた軽自動車を具現化しようとしたができなかった。他にはテレビ、PC、など色々試したがどれも具現化ができず、どうやらある程度複雑な、特に電子製品は具現化が難しいのかもしれないということに思い至った。

 単純なものならと石壁とか鉄壁、刀や薙刀などを具現化したのだが。


 石壁、別に『魔法アプリ』でもできるよな。鉄壁、これは防御力高そうだな。

 刀、薙刀、一分で消えちゃうからな~つばぜり合いしてる途中に消えちゃったら。そのまま斬られちゃいそうで怖いな~。てか、具現化していられる時間っていくらレベル上がっても伸びないのかな?


 石壁って城壁みたいだなと思っていたとき、城壁や崖を登ったりするのに階段を具現化するのはありかもと思い試すと具現化に成功し目の前に石階段が現れた。


 明日、魔物相手に色々試してみるか~。さて次だ。


 『魔法アプリ』はシューティングラスのマルチロック機能を使い六つの目標をマークし『ウィンドショットx6』をそれぞれの目標に同時に当てる。

 他にも合成魔法でアイス+ウィンドでブリザードなんかも試してみた。ちなみにスマホがレベルが上がったことにより氷系や雷系など使える魔法の系統が増えていた。

 槍や短剣による近接戦闘をして修行を終わらせ、夕食を食べていたときに、宿の宿泊の事を思い出した。


 あ、宿の宿泊の延長はしなくてよくなったから、宿に帰ったらマーセルに言っておかないといけないな。


 宿に戻り、シルバークラスの試験受けにゴラウに行くから宿泊の延長はしないことをマーセルに伝え、カギを受け取り部屋に戻った。


「あらリン。おかえり」

「ただいま、マーセルさん。三日後にゴラウへ行く商隊の荷運びの依頼をけたので宿泊の延長はなしでお願いします」

「そうかい。ホラブには戻ってくるのかい?」

「いえ、ゴラウでちょうどシルバーランク昇級試験があるようなので受験して、合否にかかわらずそのまま旅に出ようかと思ってます」

「そうかいそうかい、がんばんなよ。そして、いつでもここに帰って来な」

「ありがとうございます」


 カギを受け取り部屋に戻り、就寝準備をしていたときに、最近メールを確認していなかったことを思い出し見てみた。


 何のメールも来てないな……リュース、出張長引いてるのかな? そのうちこっちからメール送っておくか。何も送らないでいるとまたいじけそうだしな。


 翌日はギルドで依頼を受注して、北門から岩場の方へ移動し、崖の上に行くために石階段を具現化して崖の上まで登り『倉庫アプリ』からゴブリンの死体を出して崖の下に落とし魔物をおびき寄せた。

 すぐに血の匂いを嗅ぎつけてワイルドコヨーテが13体ほどゴブリンの死体に群がってきた。それを確認してから無反動砲|(カールグスタフM4)と、その砲弾(HEAT751)を具現化して撃ち込んでみた。

 結果、思っていた以上の威力で地面が抉れてちょっとしたクレーターができ、魔物は跡形もなく吹き飛んでしまっていてた。


 ……なんかもうね本気でドラゴン退治とか行けるんじゃないか? って感じだね……って、これじゃ素材はおろか依頼達成のための証明部位の回収すらできないじゃないかよ。狩りで使えないし、この武器は基本封印だな。


 音を聞きつけてきたのか魔物がいろいろと集まってきたので崖の上からアサルトライフル(SCAR-H)を具現化して撃ち倒していったのだが、銃声のせいで魔物がどんどん集まってき始めたので、『魔法アプリ』に切り替え『マルチロック』で6体にマーカーをつけてからの『ウィンドショットx6』というのを繰り返して倒していったのだが、マーカーがついた相手が動いてしまうと『ウィンドショット』は的に飛んで行く事は無くそのまま直進して進み地面に突き刺さってしまった。どうにか軌道を変えて追尾するようにできないかと試してみたがうまくいかず、まっすぐにしか飛ばなかった。

 かなりの数の魔物を狩ったのだが、能力を持った魔物はいなかったようで何の能力も得ることはできなかったが依頼木板分の魔物は狩り終わっていたのでこれで終わりとして町に戻ることにした。


 今日はこんなもんか、能力は得れなかったけど今後レベルが上がればできるようになったりするのかな?


 途中で薬草を摘んでからギルドに戻り、依頼報告も終わりギルドを出ようとして、そういえばホラブを出る日時が決まったら挨拶に行くとレドラスに言っていたのを思いだし、受付でレドラスに連絡してもらい、そしてギルドマスターの部屋まで案内されレドラスに出立の日時が決まったことを伝えた。


「そうか、一言相談してくれればよかったのにの。そうすれば多少の便宜は「マスター!」できんか」


 レドラスが俺のために依頼に関して便宜を図ると言おうとしたのを職員がたしなめた。


「お気持ちだけでうれしいです。それでは、今までお世話になりました」

「道中気を付けての。またホラブに来ることがあれば顔でも出しとくれ」


 依頼の当日まで狩りや旅に必要な物などを買って日々を過ごしていた。


 いよいよ以来の当日。商隊と駅馬車合同での移動で護衛はシルバークラスの冒険者が五人、護衛人数としては少ないんじゃないかと思い聞いてみると。


「先日、ここらの盗賊団が壊滅したらしいから、道中に盗賊に襲われる可能性が低くなったんで」

「どこかの商隊を護衛していた冒険者パーティーが倒したって話だぞ」


 あ、それって……シャルディアの商隊にいたときに倒した盗賊たちのことだな。


「あの~、一応戦闘もできるんですけど」

「いやいや、万が一死なれでもしたら荷物を運べなくなるから、荷物優先を肝に銘じて行動してくれ」


 旅の途中、幾度か魔物との戦闘になり、アイテムボックス持ちに死なれると困るから前戦には出ないで欲しいと言われていたので荷台に座っていたのだが、俺も戦った方が早く終わるだろうと思い聞いてみると後方から魔法くらいなら構わないと許可を得たので『ウィンドショット』と『ストーンショット』で援護射撃をした。

 これといって特別なイベントが起るでもなく、逆に夜なのに魔物もほとんど出ないくらい平和で予定通りに進んでいき、そして小都市ゴラウが見えてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る