第八十一話 難民問題?

 コーレア村ギルドにやってきた新職員の三人も仕事をだいぶ覚え(なぜか指導しているのがルカと言う不思議)村になじんで来て本格的にギルドが動き出すという事もあり追加で備品などをライアスのギルドから輸送する指名依頼を受け向かうと、荷物の他にライアスの町長からコーレア村の村長へ宛てた書状を一緒に届ける事に、こちらの依頼料は別件で支払われるとの事だった。


 ライアスの町長からコーレア村の村長への長どうしの書状とか俺程度の冒険者が扱ってもいいような依頼なのかな? ま~、俺みたいなそんなにランクの高くない冒険者に任せるくらいだから重要度は低い書状の可能性の方が高いか。


 コーレア村へ戻り先に村長宅へ寄ってライアスからの書状を渡し依頼書に依頼完了のサインをもらってからギルドへ行って指示に従って持ってきた荷物を倉庫へ持って行き書状配達の依頼完了報告もして2つの依頼の依頼料を受け取ってから孤児院へ戻った。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい。ちょうどいい所に来てくれたわ、ちょっと一緒に村長の所へ一緒に来て欲しいんだけど」

「村長の所にですか? 今行ってきたところだったんですけど……」

「なんかライアスからの頼まれごとがあって、それが孤児院に関係する事だから来て欲しいと言われちゃって」


 これって、多分あの書状が関係してるんだろうな。てか、俺はただの居候で直接の関係者って訳じゃ無いんだから別に一緒に行かなくてもいいのでは?


「リン君も一緒に来てくれるわよね?」

「え? いや、孤児院に関する事なら別に俺が「来てくれるわよね?」……はい」


 俺が断ろうとしたら院長がとてもいい笑顔で一緒に来る様に頼んできた。しかし、その目はちっとも笑ってはおらず、有無を言わさずついて来いと言う思いがその目に宿っていたので、その頼みと言う名の脅しに俺は頷くしかなかった。

 村長の話と言うのはやはり書状に関する事で、ライアスから援助金を出すから孤児院で子供を引き受けてくれないかと言う内容だったらしい、院長が何人引き取って欲しいと書かれていたのか聞くと、できれば5~10歳の子供を6人引き取って欲しいと書いてきているらしかった。

 ちなみに、何年か前から孤児が出た場合は基本的に孤児が出たその町で対処するようになった為よほどの理由が無い限りは(亡くなった両親の親類縁者などが他の町などにいる場合など)他の町や村へ孤児を移動させる事は出来なくなっているらしい。


「村長、その子たちは直ぐこちらへ来るのでしょうか?」

「受け入れて欲しい時期についても書いてあったぞ」


 引き取るのは早くても雪が解けて犬車が問題なく通れるようになってからだからもう少し先になるそうなので今日明日にでも引き取って欲しいという事ではないらしい。


「あら、それならもうすぐ成人を迎える子たちが卒院するから何とか引き取れそうですわね」

「卒院者より引き受ける数が多くなるが大丈夫かの?」

「ええ、多少は余裕ありますしちょっとくらい増えても大丈夫です」


 成人(15歳)を迎えた孤児院の子供は春には孤児院を出て行かなくてはいけない決まり(孤児院で働く場合もある)になっていたので、卒院のタイミングを見て引き取る事にしようと決まった。


「ライアスで孤児が出た理由とかは書いてあるんですか?」

「うむ、書いてあったぞ。まぁ、大体予想しておった通りじゃが」


 港町のレイガスやライアスに人間族の大陸から多くの獣人族が流入して来ていて、さらに雪のため他の地域へ行くことも困難なためライアスと港町に人が集中していて問題になり始めているらしい。そして、無理してこちらの大陸へ来た者たちの中には借金で奴隷落ちになる者まで出始めており、その中には個人だけでなく家庭を持っている者もおり、本来なら未成年の子供は奴隷となる事はほとんどないのだが、両親が奴隷落ちとなると残された子供は一人で生きて行けるものはほぼいないため奴隷となるか孤児になるかしかない状態になっている。


「そんなに悪化してたんですか」

「ま~ガルラスよりはまだましの様じゃがな」


 ガルラスと言うのは ラウティア大陸とガウリィオ大陸の間にある海に作られた大陸を結ぶ大きな橋がある町で、反対側にはレオロイデ聖国(クーデターにより共和国から聖国となったらしい)のレダと言う町があり、通行料に関しては船を使う訳でもないので非常に安くなっていると言う事だ。


 あれ? 『人間最高!』のラミルズ教が支配したような国なのに獣人が勝手に移動とかできるのか?


「獣人族でも橋を使えるんですか?」

「問題ないらしいぞ。逆にこっちの大陸へ追い立ててる様になっとるらしいの」


 こちらから向こうのへ行くと追い返されるのだが、向こうからこちらへ来るのは問題ないらしい……と言うかラミルズ教的には人間族の大陸から獣人族などの他種族が出てってくれるならせいせいすると言った感じらしい。ただ、通行料はきっちり取られるという事だった。

 これはレオロイデ聖国が元々他種族に寛容だったため、下手に他種族を殺してしまうと国民の反感を買い、せっかくクーデターで聖国としたのに、たかが獣のために台無しにするくらいなら追い出してしまった方がいいと判断したようで、人間族はその橋を使ってはいけないとなっている。

 ちなみに、現在ラウティア大陸から出る全ての船舶は渡航禁止となっているのでこれ以上増える事は無いとの事だった。そして、船と言っても一回で何百人も運べるような物では無く、一回で五十人くらいしか運べない(荷物を積まなければもう少し人数が増えるが)今まで流入してきたのは多くても三百人程度だろうからそのくらいの人数なら短期的には町がパニックになるほどではないとの事だった。


「えーと、それだと余計にガルラスの方へ人が流入してるんじゃ?」

「そう……じゃろうな。さすがに国も静観するわけにもいかず支援する計画を練っていると言う話も聞くが……ガルラスやその周辺の町や村がそれまで持つかどうか競争じゃな」


 それって、ラウティア大陸にいる獣人族や亜人族が難民状態となってどんどん流入して来て近隣の町で限界が来て受け入れ拒否、ガルラスから出る事を禁止される、不満を持った住人と衝突、暴動、大混乱とかになる未来しか見えない……ガルラス、マジでヤバいんじゃないか? 特に亜人族とか――ん? そう言えば奴隷以外で亜人族を見た事ないような……。


 村長にライアスで亜人族を見た事が無いのはどういう訳か聞くと、亜人族は自分の住む地域から離れる者が少なく、友好関係があり亜人族がいるジャイレフィン大陸のすぐ隣でもあるこのガウリィオ大陸ならまだしも、人間族の住むラウティア大陸とはかなり離れているのでラウティア大陸へ行くような者は変わり者か奴隷くらいで奴隷の方が比重が多いらしい。しかも昔人間族による大規模な奴隷狩りに合った事もあり余計にラウティア大陸に行く者はいなくなってるとの事だった。


「奴隷から解放された亜人族が船に乗ってこっちの大陸にくる者もいるんじゃないですか?」

「あくまで儂が知っとる範囲でじゃが、亜人族を見たと言う話は全く聞いた事が無いの~、それに奴隷解放じゃが――」


 亜人の奴隷に関して、エルフは男女問わず見た目が良いと言う理由、ドワーフは鍛冶の技術があると言う理由、他の亜人だと見た目が人間族とかけ離れている亜人族などは奴隷と言うより珍しいペット扱いで、まず奴隷から解放される事は無いと、それぞれの理由で亜人族の者が奴隷解放して貰える確率はかなり低いし、あ狩りに奴隷から解放されても船に乗るための金を作る事が難しいだろうからこちらの大陸にくるならガルラスの方へ向かうだろうとの事だった。

 獣人族についても聞いてみると冒険者が七割、奴隷が二割、移住その他が一割くらいの割合で、ある程度稼げている冒険者が船を使うはず、そう言う事もコーレア村にギルドをと言う計画の背中を押す理由の一つとなっていたらしい。


 なるほど、冒険者って粗暴な者が多いイメージだし(偏見です)仕事にあり付けなくなったりして下手したら盗賊になってしまう可能性だってあるかも知れないし、多少危険があってもコーレア村の森の奥の魔物を狩る依頼を出せば命の危険と引き換えではあるが生活費は稼げるか……いや、燻製の材料となる魔物を取ってくる依頼とか出せば森の浅い所でもそれなりに稼げるかもしれないな。


「でも、それだと卒院する子供たちとかライアスで仕事を探すのは無理っぽいですね」

「そこは問題ないぞ」

「ええ、村長の言う通り問題無いわよ」


 孤児院の子供たちは以前なら成人になると子供のいない家族の所で養子となって働くか、働き口を探してコーレア村を出てライアスなどの大きな町へ向かう事になっていたのだが、成人となる孤児院の子供たちは既にコーレア村でギルドの清掃員や燻製づくりの作業員、特に優秀な子は建設予定の学校の教員となる事が決まっているらしい、とにかく全員働き口が決まっていて、現状では既にライアスでは働き口はほぼ埋まっている状態であったため院長は子供たちが孤児院を去って路頭に迷う事が無くなったと喜んでいた。


「何と言うか逆に働き手が足りないくらいじゃな」

「そうは言っても小さい子にはまだ無理ですからね?」

「わかっとるわい。儂も小さい子に無理に働けとは言わんぞ! それに現状を考えればライアスに仕事を求めとる者が多いじゃろう」

 


 村長は、今後ライアスから人が流入してくる可能性に期待している様だ。その期待通りになりそうではあるがあまり流入されてもそこまで村が大きいわけじゃないから住む場所や仕事が足りなくなるのではと思っていたら、村長が数枚の羊皮紙を出して来た。


「実はの、ライアスの町長から支援するから村を拡大しないかと言う書状が来とるんじゃ」

「えーと、それは院長はまだしも俺が見てもいい物なんですか?」

「ま~おまえさんはよそ者じゃが世話になったし、そこまで秘密にせんといかんものでも無いから構わんぞ。それにおまえさんなら儂たちが考えつかないような提案してくれるかもしれんしの」


 信頼は嬉しいんだけど、変にハードル上げてくるのは止めてもらいたい。


 俺は村に来てからちょっとやらかしすぎたかと反省し、基本的には村長たちの話を聞くだけでおかしいと思った所だけ口を出すだけにしておいた。


 異世界知識を披露し過ぎて変な奴に目を付けられるのも嫌だし……手遅れ感は否めないけど、今からでも自重して行こう。

 目指すのはどっか片田舎でひっそりのんびり暮らす生活だ! ……そう考えるとこのコーレア村も結構いいとこだよな? 米や醤油などが無かったりするがちょっと残念だけど候補には入れとこう。


 後日話し合いの結果、まずは診療所、食堂、雑貨屋の誘致、特に診療所は今まで村に無かったのでライアスから医療従事者を一人送ってもらう事とし、状況を見て村の規模を拡大する事も視野に入れるという事になった。

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