第八十話 青狼族目撃情報

 メープルシロップの作り方をひととおり今回参加した村人たちに教えた。ちなみに白樺に関してもメープルシロップと同じ様にちゃんとシロップができたので村長に報告して、報酬として今回作ったメープルシロップと白樺シロップ、そして道中邪魔になって切った木を受け取った。


 木はまだしも、2種のシロップは『倉庫アプリ』にしまって院長たちにはバレないようにしておいた方がいいな。ばれたら強請られそうだし。 


 メープルシロップに関しての指導を終え、今回は何度目かになるライアスへ行商に行く。今回は薪などのストーブの燃料と少しでいいから食料品も売って欲しいとライアスから頼まれたという事で燃料は少量の薪とブリケットを、食料品に関してはメープルシロップは村長にもまだ一般販売は見送って欲しいと言われていたので各種燻製と干し肉を持って行った。

 ギルドで青狼族についての情報が無いか聞いたが、やはり何の情報も得る事ができなかった。しかし、青狼族に関する事ではないが、まだ街道には雪が積もっているのにこんな時期に珍しく他の町から商人が来ていていると言う情報を得た。


 なんでまたこんな時期に他の町から来たんだろうな? 確かこの時期は他の地域から人はあまり来ないと聞いてたんだけどな。ま、いいや、とにかく露店開いてとっとと商品売って帰ろう。


 露店を開くとすぐに町の人たちがやってきて燃料と食品はすぐに売り切れた。リバーシもそこそこ売れていたが、かんじきやスノーダンプは既に欲しい人にはほとんど行きわたっているようで、あまり売れなくなっていた。


 ん~、除雪道具とか売れなくなってきたな、こりゃ今度持ってくるのは燃料と食料品を中心にして他の物は少量にした方がよさそうだな。でも、雪が解けて商人が多く来るようになればリバーシはなら季節関係ないから売れそうだし生産は続けてもらった方がいいかな?


 客が途切れたので今後の事を考えていたら、いつの間にか初めて見る服装をした糸目の青年がいて、俺と目が合うと声をかけてきた。


「へぇ~、見たことない変わった商品を売ってるね。これは全部コーレア村で作った物なのかい?」

「あ、はい、そうですよ」

「僕は数日前にこの町に来たコドルオ商会のレミスって言う者なんだけど、ちょっと何に使うのとか、どう使うのとかを教えてもらえるかな?」


 あれ? もしかして、この人がギルドで言ってた珍しい商人なのか? しかし、いかにも狐って感じがするけど……狐人族でいいんだよな? それとまたダメが細い犬人族か?


「あ、もしかして君は店番だけで詳しい使い方は知らなかったかな?」

「いえいえ、ちゃんと使い方知ってますよ。えーとですね――」


 レミスは俺が黙っていた事で、説明ができないから黙ってしまったと考えてしまったらしい、それに気づいた俺は慌てて聞いてきた物の商品説明をしていった。


「いや~、どれも今までに見たことも無い物だね~。こんな商品があると知ってたらもっと早く来てたのにな~。除雪道具は今更仕入れても他の町に持って行く頃には雪解けちゃってるだろうしね」

「それなら、道具じゃないんですけど……こっちの『燻製』なんてどうですか? 干し肉などの乾物と同じ様に保存食としても使えるものですけど、また一味違った味わいのものなんですよ、よければ試食してみませんか?」


 町の人たちの反応を見るに悪い商人ではなさそうだからコーレア村のためにもお近づきになっておいて損は無いだろう、大口取引になったら村長に任せてしまってもいいしな。


「それじゃ遠慮なく――ほぅ、これはいいね。保存食として使えるなら干し肉より断然いいね」

「これ……他の町でも売れると思いますか?」

「ん~、どのくらいの量を用意できるかにもよるけど、この味なら全く売れないという事は無いと思うよ」


 なるほど、ある程度まとまった量が無ければ取引してもらう事は出来ないという事か。


「値段については今売ってる値段を参考に多少は勉強してもらえると思ってもいいのかな? あ、何だったら製造法を売って貰うと言う方法もあるけど」

「それはちょっと……最低でも数年間は村で秘匿する事になってると思うんで……用意できる数量や値段交渉なんかは自分では判断できないので、コーレア村の村長と交渉して貰わないといけませんね」

「そっかー、製造法は秘密か~、そいつは残念だね。できれば今からでも販売交渉に向かいたいとこなんだけど、別の商談もあるから一旦商会本部に戻らないといけないからあんまりゆっくりしてる時間無いんだよ」


 機会があればコーレア村までよろしくお願いしますととりあえず話を終わらせ、なんでこんな時期にわざわざやってきたのかが気になってので聞いてみると、最近人間族の大陸からこちらへ来る獣人族が増えていると言う事を知り、ちょうどアイテムバックのいい物をが手に入ったこともあり商機と見て他の商人は来ない冬にあえてやってきたそうだ。


「いいアイテムバッグなんて持ってたら盗賊なんかに襲われたりする危険があるんじゃないですか?」

「こんな寒い冬にじっとこっちが来るまで耐えて待ってるような根性がある者なら盗賊なんてしませんよ。冬に盗賊が出たなんて聞いた事も無いですしね」


 確かにそうかもしれないな、冒険者なんかでも町の中だけならまだしも寒くて雪が積もって歩き難い町の外で魔物の狩りなんてやりたがらないみたいだし。

 ……そうだ。他の所から来た商人なら青狼族がどこに住んでるのか何か知ってるかもしれないな。聞いてみるか。


 商品を値引きするから青狼族がどこに住んでるのか、住んでる場所が分からなくても見た事とかないのか聞いてみた。


「青狼族ね~……そう言えば、どっかで聞いたことあった気が」

「え、本当ですか?」

「ちょっと待ってよ。あれは確か……あのむら町は違うし、あの村にいたのは青狼族じゃ無く普通の狼人族だったよな、となるとあっちの町だったかな……えーと」

「分かりませんか?」

「ちょ、ちょっと待って! もう少し、もう少しで思い出せそうなんだ。ここまで出て来てるんだよ……んー、んー、っあ! そうだあそこだ! あの町、ベイラだよ~。いや~、思い出せてすっきりしたな~。そう言えば君は青狼族の事に詳しいのかい?」」

「いえ、詳しいと言うわけでは無いんですけど、教えてもらえませんか」

「ん~? 詳しくも無いのに探してるのかい? ん~、ま~、君は悪い人には見えないから別にいいか」

「初対面なのにそんな簡単に信じていいんですか? って、当人が言うのも何ですけどね」

「あははは、これでも人を見る目はあるつもりだよ。アイテムバッグの事も心配してくれたし、うん、君は大丈夫な人だ!」


 大丈夫な人と言う言い方は止めていただきたいな~……なんか『頭が大丈夫』的に思えて凄く嫌です。


「それで話の続きなんだけど……なんか、ベイラに青狼族の青年が数年前から住んでるって話だったよ。青狼族って結構珍しいから頭の片隅うに残ってた。いや~残っててよかったよ、うんうん」

「……あの~、良かったら青狼族について教えてもらえませんか?」


 青狼族は狼人族の一種で、正式には青狼人族って言うらしいが、他の赤毛とか他の色の狼人族は赤狼人族とは呼ばずにただ狼人族となっているのだが、これは青狼族が他の種族の血が入らない限り目と髪の色が青以外の色を持つ事は無い珍しい種族であるのと、魔法の才能に秀でた種族で獣人では珍しいという事もあり『青狼族』と別格の扱いとなっているそうだ。この青狼族はかなり閉鎖的な種族で集落の外で暮らす者はほとんどいないらしい。


「青狼族ってさ、自給自足の生活で家や生活に使う道具も自分たちで作るらしいんだよ、集落の外に買い物に出る事もめったに無いらしいから商人としてはうまみが無いんだよね」

「青狼族の集落がどこにあるか知りませんか?」

「う~ん、ちょっとわからないかな? と言うか、青狼族以外で知ってる人はいないと思うよ。集落から出て集落から出て他で住んでる青狼族に聞いたとしても、死んでも教えてくれないらしいしね~。だから、ベイラにいる青狼族に聞いても教えてくれないと思うよ?」


 ん~、レイなら半分は青狼族の血が流れてるんだからレイが聞けば教えてくれないかな? 今のところ他に有力な情報も無いし、とりあえずその青狼族がいるって言うベイラへ行くのを第一目的としておくか。


「それじゃ、この燻製とそっちの燻製をお願い。おっと、あとそっちの薪の代わりになるとか言うのも一つね」

「えっと、ブリケットですね―――はい、ありがとうございます」


 代金を受け取り確認してから商品を渡した。


「おっと、そうだ。一応、僕が本当にコドルオ商会のレミスだって言う証としてこのコインを村長さんに渡しといてよ。夏になるまでには一度伺う予定だから」

「はい、分かりました。村長へ渡しておきます」


 コーレアに戻る前に兎の憩い亭へあいさつによったのだが、サースちゃんが『なんだ、ルカちゃん来てないんだ』と言ってすぐに宿の奥へ引っ込んでしまったのにはちょっと悲しい思いをしてしまった。

 その後コーレアに戻るまでショックが抜けきらず、どうやって戻ってきたのかもあまりよく覚えていなかった。


「ん? リン、ぼーっとしてどうした? メルも何か元気ないみたいだし、何かあったのか? もしかして持ってた商品があまり売れなかったのか?」

「え、あ、いつのまに。あー、除雪道具の売れ行きがちょっと悪かったですけど、他は全部売れましたよ」


 俺が気落ちしてたからメルに気を遣わせてしまってたみたいだ……今度時間ある時遊んでやらないとな。

 

 門番にギルドカードを見せて村に入りほいつもと同じように村長に行商の報告をし、そしてレミスの事を話すことにした。


「それと、コドルオ商会のレミスと言う方がこの村と商談したいって言ってましたよ」

「何っ! コ、コドルオ商会じゃと! それは本当何か!」

「え、ええ、本当ですよ。コドルオ商会って有名なんですか?」

「コドルオ商会じゃぞ? コドルオ商会と言えばこの国で一二を争う様な大商会じゃぞ!」


 そんなこと言われても知らんもんは知らんのだが……それにしても、そんな凄い商会の人に見えなかったけどな? もしかして、商会の名前聞き間違えちゃったりしてないよな?


「それに、レミスと言えば近年頭角を現した変わり者ってもっぱらの噂の人物じゃぞ!」


 あ、これ間違いじゃなさそうだ。名前を騙ってるんじゃ無ければ本物だな……あ、そういえばコイン!


「村長、すみません。村長に渡すようにって、コイン預かってたんです」

「何! ――こ、これは……ふむ、本物の様じゃの。これはいよいよ間違いない様じゃな」


 村長が小躍りして喜びだした。


 爺さんの不思議な踊りなんて見てて楽しくないから心底辞めて欲しい! それにしても、この世界では名刺代わりにコインを作る文化でもあるんだろうか?


 村長がいつまでも小躍りしてたんで、そーっと孤児院へと戻らせてもらった。

 孤児院に戻り、レイに狼族についての情報を得た事を伝えたところ一見するとレイはあまり興味はなさそうに見えたが、よく見ると微妙に尻尾が動いていた事からそれなりに気にはなっていたようだ。

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