第六十九話 ライドドッグ

 リバーシを作ったり大会を開いたりしていたが、その裏でちゃんと大人たちの学習教室の準備の方進めており、その準備がやっと終わってやっと大人たちへの学習教室の日程が決まったのでホッとしていたら院長から『イスとか机が子供用しかないけど、大人には小さくないかしら?』と言われて急いで大人用にいすを作り、机の方は低さだけで大きさはそれほど問題なかったので机の脚の下に足のはまる溝を掘った角材を置いて高さの調整をした。

 ちなみに1回目は俺と村長が教師で、現在教師となるべく勉強しているもうすぐ十五歳となる孤児院のラビル君とエレカちゃんの二人を今回は生徒ではなく教育実習生としてこちらの補佐をさせた。


 何とか間に合ったか、それにしても院長もそういう事は早く行って欲しかったな……って、気が付かなかった俺も悪いんだけど。


 その後行った大人たちの学習教室は問題なく終わった。そして授業の後にアンケートを取って今後の参考にする事にしたが、知ってる事を教えてもらうのに金を出すのは嫌だと言う意見が多く、他にも知りたい事だけ教えて欲しいなんてのもあった。


「読み書きの方は、読みは全員が問題なく出来、書きの方はほとんど同じレベルだった様なので不満は少なそうですけど……算術がちょっと問題ですかね? 算術については結構ばらつきがあるんで個別に教えていくことになっっちゃいますね」

「ふむ、ある程度学習レベルが一律になる様に、分からない者を先に教えた方がよいかも知れんの。あと『知りたい事だけ教えて欲しい』と言うのは無視でよいな」

「じゃ、とりあえずそういう方向で行きましょう。とは言っても、私は子どもたち担当なので大人たちの方はお二人にお任せする事になるんですけどね」


 大人たちに関しては学習レベルがある程度揃うように教えて行って、揃ってから授業料を取る形にする事に決まった。


 ま、不満は出るだろうけどとりあえずこんなもんだろうな。


 大人たちへ定期的に算術を教える事になり、村での生活リズムが少し変わった。以前は朝起きて除雪、その後ラウと朝の稽古をして体を拭いてから朝食、その後は除雪の手伝いや孤児院の手伝い、相談者が来たら話を聞くなどをしてすごし、さらに一週間に一度は小一時間ほどライドドッグのメルと遊んでいた。



−−−−ライドドックとの日々−−−−


 ライドドッグは雌で名前はメルと言い、雌だと聞いた時には勝手に雄と思ってたので驚いてしまった。

 最初の頃はメルの所へ行っても、これといって反応してくれなかったが次第に懐いてきて、最近では俺が行くと尻尾を振って駆け寄ってきてくれるようになった……なったのは嬉しいのだが、あの巨体で突進してくるのはこっちとしては軽自動車に轢かれるのと同意なので命の危険を感じクティカルグローブのシールドを展開しないと危ない場面があった。しかも何だか段々突進力が増してるような気がする。


「こら、メル! こら、上に乗っかんな! つ、潰れる……いや、マジでどいてください。本当に限界何で早く! 中身出ちゃうからーーー!」

「わう!」


 分かってくれたのかメルは一つ吠えるとどいてくれた。


「……メル、俺はお前のおもちゃじゃないからな?」

「クゥ~ン?」


 う~ん、首傾げて鳴いてるけど分かってんのかな? それにしても、じゃれて俺にのしかかって来てる姿は傍から見たら俺が襲われてるように見えているかもしれないな。


 メルと駆けっこもしてみたがメルが速すぎて(全然本気で走ってないようだったけど)こっちは常に全力で足場の悪い雪上を全力で追いかけると言うのが体力的にきつかったのでメルに乗って駆けまわろうとしたのだが、犬って駆け足状態だと体を思いっきり伸び縮みさせて走るから揺れて上に乗っていられなく、何度も落馬……いや、馬じゃないから落犬か? ま、とにかく振り落とされて痛い思いをしてしまい、じゃれて来るのを構うのもあの大きさなので結構大変で気を抜くとこっちがケガをしてしまいそうになる。なので、じゃれられることなく、かつこっちが走らなくても済む様に棒を投げてメルに走って取ってこさせる遊びをしたのだが、メルがすごい反射神経で投げた瞬ジャンプして間空中で棒を咥えてしまい思っていた遊びと別の遊びになってしまった。


 えー、投げた瞬間に『パシッ』と咥えられると棒拾いとは違う遊びになっちゃうぞ。


 いろんな方向に棒を投げるのだがことごとくメルに空中キャッチされてしまったので、飛び出さない様に左手で首輪を掴んでから右手で棒を投げた所……そのままメルに引きずられ、ジャンプするのと同時に首輪を離してしまい空中に放り投げられた。結構な高さに放り投げられた格好になったのでいくら地面に雪があったと言っても結構痛かったです。


「メ、メル、待てを覚えような?」

「わうん?」

「うん、いや『わうん?』じゃなくな? その首をかしげる仕草はかわいいけど、ちゃんと棒を投げきるまで待ってくれ」

「わん!」


 何とか待てを覚えさせ投げた棒を取ってこさせたのだが、棒をあまり遠くに投げる事ができなかったためメルがすぐ帰ってきてしまい、休む間もなく何度も投げ続ける事になってしまった。


 棒拾いとして成功ではあるんだけど……これじゃこっちの身体と言うか腕が持たないな、もう腕ちぎれそう……なんかこうもっと遠くへ投げれる遊び道具って何かなかったっけな?


 何かないかと考えた結果、フライングディスクに行き付きまずは木でざっくりとした形を作ってから遠くに飛ぶように調整をしていき幾度目かの調整でやっと満足がいくものができ上った。ついでにメル専用にブラシも作って遊ぶ前にブラッシングをしてやることにした。


「メル~ブラッシングするからそこに伏せてくれ」

「わふん」


 冷たくないようにあらかじめ藁を敷いた上にメルが言ったように伏せてくれたので丹念にブラッシングをしすると、気持ちよくなったのかメルはうとうとしだしそして眠ってしまった。


 お、意外とブラシの通りがいいな、あんまりブラシが引っ掛からないや……誰かブラッシングでもしてたのかな?


 一通りブラッシングを済ませ眠っていたメルを起こした。


「ほーら美人――いや犬だから美犬か? ともかくきれいになったぞ~」

「わうーーん!」


 メルは嬉しいのか頭を摺り寄せてきたのでまんべんなく撫でてやる事にした。


 う~ん、ブラッシングしたら滅茶苦茶毛触りが良くなったな! なんかもうずっと撫でてたくなってくる。って、フライングディスクで遊ぶんだったな。

 これでメルと楽しく遊べるといいな。ま、メルは棒拾いでも楽しそうだったけど……俺が楽しくない、必死で棒投げ続けるだけだし、何と言うかもうメルのための棒を投げる機械の様な感じもあったし疲れるだけでこっちはあんまり楽しくなかったんだよ!


「よーしメル、今からこれを投げるから『よし』って言ったら取って来るんだぞ? あ、咥える時に力入れすぎて壊さないようにな」

「わうん!」


 早速メルとフライングディスクで楽しく遊んでいたのだが……何度目かのフライングディスクの投擲の時、メルの横を何かが通り過ぎたかと思ったらフライングディスクをメルより早く取ってしまった。その影は取ったフライングディスクを手に持ちこちらに近づいてきたのだが、その影の正体は……ラウだった。

 最近は不意打ちなどされないようにするための訓練としてある周囲の気配に気を配るようにしていたのだが……メルと遊ぶのに夢中だったので近づいていたことに俺は全く気が付かなかった。


 いやいや、フライングディスクで遊ぶのって犬ってイメージだったんだけど……猫系も遊ぶものなのか? ラウが特殊なだけって気もするけど……てか最近、ラウが犬系でレイが猫系に見えて来て仕方ないんだよな。

 いや、もしかして礼もフライングディスクを喜んで追いかけ――無いな、全く想像できない。むしろフライングディスクを投げても『それが何?』って顔で孤児院へ戻って行きそうだ。


 ラウにお前も投げてみろと言ってみたが、自分で投げるのよりも俺が投げたのを取りに行く方が楽しいから嫌だと断られてしまった。そして俺が投げたフライングディスクをメルと一緒に追いかけているのだが……メルの速度に早々勝てるはずもなく、ラウはたまにしか取れないでいた。

 ラウが何故たまにでも取れていたかと言うと数回に1回はメルがあえて手を抜いてラウに取らせてやると言う大人な対応をしていたからなのだが、ラウはその事に全く気が付く様子は無かった。


「兄貴ー、また取れたぜ!」

「……ラウ、メルを見習ってお前も、もうちょっと大人になろうな?」

「うん?」


 なんかフライングディスク以外にもメルと遊ぶ方法は無い物かな? もっと言えば、ラウが来てもメルが気兼ねなく遊べて俺に負担がかからないそんな都合のいい物がな。


 色々考えた結果、除雪で出た雪を運び込んで(『倉庫アプリ』に入れての運搬)ドッグウォークに見立てた雪山、藁束でスラロームのポール、低めの雪壁などを作り障害物コースを作り上げた。


 よし、これなら俺はほとんど見てるだけでいいし、メルにもいい運動になるだろう。


 今日もメルと遊んでいたのだが、冬の間は雪があるからいいけど雪が無くなったらここら辺を駆け回るかフライングディスクくらいしか遊ぶ種類が無くなってしまうと思い、木製ドッグウォークなどの作製を行う事にしたのだが材料が不足していたという事もあり手作りでは十分な強度のある物を作れなかったので手作りする事を諦めた。


 う~ん、手作りだとちょっと限界あるから安全性最優先で『錬金アプリ』で作っちゃうか『錬金アプリ』なら端材を繋ぎ合わせるのも楽だから今ある木材でもなんとかしけそうだし、暇な時にでも作っておこう。


−−−−−−−−−−−−



「兄貴~! ちょっと手合わせしてくれよ」

「……おまえな。外見てそれ言ってんのか?」


 外は1m先も見えない程に吹雪いていた。こんな日に外に出るなど、ましてやその理由が手合わせのためなんだから普通なら考えもしないと思う。


「こんくらいの雪どうってことないぜ!」

「どこが『こんくらい』だよ! あ、こら戸を開けるな!」


 戸を開けようとしたラウがルカとレイによって氷漬けにされて床に転がった。


 ……うん、平和な日常っていいな~。

 とりあえずラウは氷漬けのままお湯を張った桶にでも突っ込んでおくか……。


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