第七十話 ギルド出張所の増築計画

 メルの遊び道具を作っていたりしていただけでは無くちゃんと大人たちへ算術を教えたり教師候補の二人に色々教えたりしていた。そして、二人がある程度教師としての順調に育ってきていたので、まずは子供たちの学習教室で実際に教壇に立たせて授業をさせてみたが(念のため俺か院長が見守ってはいたけど)、思ってた以上にうまくできていたのであと何回か子供たちの授業をさせた後に大人たちの方の授業も行って問題が無い様なら実際に教師として村で雇うという事が決まった。


 思ったより早く育ってくれたな、今のとこ問題はなさそうだしこれなら一人で授業をさせても問題なさそうだ。


 学習教室が順調に進んで行く中、村長から一応この村はライアスに属していることになっているので勝手に建物を建てたりすることはできないためライアスへ村に学校を開校するかもしれない事を連絡した所、もし開校するなら町からも希望者を通わせたいと返事が返って来たという事だった。

 

 ん、ライアスって結構大きな町だと思ったけど……学校とかないのかな?


 村長に聞いた所、今でこそ平和だが昔は紛争が多く大人の男は兵士として駆り出され子供たちは畑仕事などでとても勉強などさせている暇など無い状態だったらしい。そして、近年になってようやく紛争が収まり経済が安定した来たのだがいまだに学校などは大きな都市などにしかなく、地方の町や村などは学校などまだまだとの事だった。


「それにの。リンのおかげで我が村は今季の行商の売り上げがだいぶ良かったのもあって子供たちを無理して働かせなくてもよくなったと言うのも大きいんじゃよ。もしそうじゃなければ勉強させる事などできんかったかもしれん」

「役に立てたのならよかったですけど、それにしてもわざわざ村まで通うくらいならライアスはライアスで学校を建設した方がいいような気もするんですけど?」

「それがの――」


 一応、町の方でもそろそろ学校を建設しようかと言う話は上がっていたそうなのだが、既にライアスには校舎を建てるほどの敷地が残っておらず、かと言って学校を建てるために町の外壁を拡大すると言うのは莫大な費用が掛かるため現実的ではないと言う理由もあって、近くにあるコーレア村で学校を開校するならライアスで学校の建設費などの一部を負担しても町の子供たちも通わせて貰えれば損にはならないだろうと言うものだった。


「それでの、授業内容に関してもう少し種類を増やせないかと要望があったんじゃ」

「それでどんな授業がいいとか言うのはあったんですか?」


 とりあえずは識字、算術、法律(法律と言っても国が定めた簡単な決まり事)最低限の礼儀作法を基本として、他に狩り、農業、接客、薬学辺りも教えてもらえないかと言って来てるらしい。

 それならある程度の年齢別、もしくは学力別のクラスを作り教師も補充した方がいいし、授業内容も増やして専門的なことも教えていければと話しが膨らんで来たのだが、それだとそれに見合った専門的な知識を持った教師が必要になり、村にいる者たちでは役不足になってしまうため町などで教師を募集しないといけないと言う話となった。


「あ、あと、それなら教科書や専門的な器具や教材もあった方がいいですよね?」

「ふむ、確かにの……しかし、教科書となると皮紙が大量に必要となるじゃろうからその分授業料を上げねばいけなくなるから庶民が気軽には通えなくなってしまうの。

 教科書を安くさせるなら最悪木板と言う手もあるが、それだと大量の木板を使っての授業となるからかさばって邪魔になりそうじゃし、それにそんな大量に木を切ってしまうとそれはそれで問題じゃ」

「ままなりませんね」

「ままならんの」


 木や草を『錬金アプリ』で紙を作ってしまえば簡単なんだけど、それだと大量の神をどうやって作ったか聞かれる事になり、正直に話せばどう考えても面倒ごとになるのは明らかだから言うわけには行かない


 う~ん、パピルスみたいなのをここら辺に生える草で作れないか試してみたいけど……冬だから草が無いんだよな。

 あとは木の皮か魔物の皮辺りがよさそうだけど、そんな大量の木の皮を剥げば結局木板

 魔物の皮は町に卸せばいい金になるらしいから羊皮紙……ん? この場合は魔物なんだから魔皮紙か? ま、それはどうでもいいんだけど、とにかく紙にするには勿体ない材料ではあるな。


「ちなみに紙ってどんな種類があるんですかね?」

「さっきも話に出てきた皮紙が基本じゃな、ちなみに使うのは魔物の皮が多いぞ。他には布を紙代わりに使ったりかの?」


 そう言えばさっき言ってたな。てか、皮の紙だからただ単に皮紙て呼ぶんだな。布を紙代わりか、書き辛そうだな、何か他に良い材料は無いものか…………あ、わらを使った紙ってあったはずだな、確かわら半紙だったっけな? 麦わらならいっぱいあるしちょっと試作してみるか。


 わらで紙作りを始めたがわら以外に何が必要なのかをよく覚えていなかったので色々な材料を試し何度も作っていった結果、わらを細かく繊維状にし水と名前も良く分からない木の樹液、それと灰を混ぜて何とか厚めのわら半紙ができ上った。しかし、色はわらの色そのもので紙質は皮紙よりも悪く、かなり字を書き難かったのでとても成功とは言い難いものだった。


「ダイロさん。一応紙ができたんですけどもっと質を上げたいんですけど、どうにかできませんか?」

「また、いきなりだな。材料と作り方を書いたの置いてけばこっちで色々試してみてもいいが……どうだ? 作り方が秘密ってんなら無理にとは言わねぇけどな」

「別に秘密ってわけじゃないので試作をお願いします」


 わら半紙作りはダイロに任せる事にし、それ以外の作業を進めていると後日ダイロが何とか紙として使用できるまでわら半紙を仕上げてくれたのでこれを今後『わら紙』として教科書やノートに使う事に決め、教科書にするために印刷はどうすればいいのか、もしかして手書きで書いていくしかないのかという事を村長やダイロ達に聞いた所、この世界では木版印刷があるとの事でダイロもある程度作り方が分かるとの事だったので教科書に乗せる文字は村長と委員長で決め、印刷に関してはダイロに任せる事となった。

 

 そう言えばライアスからここまでどうやって移動するんだろ?


「村長、町の子供たちの移動手段はどうなるんですか?」

「それについては登下校の時間に合わせて犬車の朝夕定期便を新設するらしいぞい、それと街道にはそれほど強い魔物は滅多に出ないが一応定期的に巡回するように町からギルドの方へ依頼も出す予定だそうじゃ」


 なるほど、定期的に見回りしてくれるなら襲われることも少なくなるだろうから村としても移動の危険が減るから助かるな。


「それとの、これは学校とは関係ないんじゃが……村にリバーシ道場は無いのかと言う問い合わせが来ていての」

「…………は?」

「いや、じゃから『リバーシ道場』じゃよ」


 え、何リバーシ道場ってリバーシ道でも教えるところか? って、リバーシ道ってなんだよ!


「それでの、ルカに道場で師範代をやって欲しいのじゃが」

「まぁ、ルカに聞いて了承すれば構いませんけど……で、どこでリバーシ教えるんですか?」

「学校建設予定地の一角に道場を建てようかと思っとるんじゃが」


 既に計画進んでるじゃないかよ! もうルカが頷くと言うのは想定済みか。


 そんなリバーシ道場を開くことが決まった翌日、村長宅で話し合いをしているとギルド出張所のマルトからライアスからから村へ来る冒険者も増えそうだから小さくてもいいから宿屋を用意できないかと相談してきた。 


「ライアスから教師が足りない様なら何人か見繕って派遣させるから住むところを提供してくれと頼まれとったから教員用の宿舎として長屋でも建てようかと思っとたが、ついでに宿屋も建ててもいいかもしれんの。で、ギルドの方からはどの位援助してくれるのかの?」

「はっはっはっ、これは敵いませんね。もちろんちゃんとギルドの方から宿の建設費を一部負担させてもらいますよ。ただ、条件としまして――」


 ギルドとしては今ある出張所を増築して宿屋を増設し運営などもギルドの方でやりたい。この場合、村の方からは許可だけを出し、建設費などはギルドが全額負担する。もしギルドの方で宿屋をする事がダメだとしてもギルドの増築は行い、村で宿を建設する場合は費用の2割を負担すると言う話だった。

 

 ギルドが宿屋を経営してくれるなら村にとって宿屋で失敗するリスクは無くなるけど……成功した時のリターンはギルドが持って行ってしまうな。しかし、これだとギルドの方にはリスクが高すぎるんじゃないかと思うんだけど、宿屋を建てても成功すると確信する何かがあるのか?


「村の近くにある森は浅い所なら大して強い魔物も出ないのですが、一定以上奥へと進むと強い魔物が生息しているんですよ。そしてそれを狩る冒険者が増える事を見越してまして……」

「なぜ今になって冒険者がその森の奥に行くと分かるんですか?」

「実はですね――」


 今までは町から徒歩で6時間ほど先にある荒野でもある程度稼ぎになる魔物が出ていたのでその場所だけで十分だったのだが、最近はラウティア大陸から戻ってきた者などで特に冒険者が増えたためその場所だけでは狩場争いが起こったりして問題になってしまう危険性を危惧し村の森の奥に目を付けたと言う事だった。


 それって、ギルドがコーレア村へ『あそこならいい狩場に近いよ』とか言って冒険者を誘導するという事なのかな? 本当に誘導するとしたらもっとうまいやり方するんだろうけど。


「そう言う訳でして、既にここへ職員の追加を準備してるらしいです。宿屋の方は決まり次第従業員を準備する事になってます」

「条件付きでギルドでの宿屋の運営を許可しますかな」


 村長が出した条件は、ギルドの増築と宿屋の併設は認めるが宿屋は小さめに作り、様子を見つつ順調に宿泊者が伸び部屋数が足りなくなると想定された場合はまず村の方で宿を建設する。

 学校建設で町から職人を呼ぶ予定なので学校建設が終わるまでは宿を提供する。さらに、ギルドの方で教師として働けそうな人材を何名か紹介してもらう事なども条件に付けくわえられた。


「分かりましたその内容で町の方へ連絡してみます」


 やけにあっさりしてるとこ見るとこれくらいは想定内だったのかもしれないな。それにしても町へ連絡するって町まで行くのか……それとも他に何か通信手段でもあるんだろうか?


 どうやって連絡とっているのかと思ったら連絡用に伝書鳩みたいな鳥がいるらしい。ただし、重要な文書などは信頼の置ける冒険者などに依頼を出して届けて貰ってるとの事だった。

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