第七十一話 熊? との遭遇

 ギルド出張所の改築や、学校建設計画など小さな村にとってはかなり大きい話が続いている中、何度目かになる狩りの日、最近では薪より稼げる商品が色々とあるためライアスへ薪を持って行く量が減ったため、村で使う分は十分にあると言う理由で薪拾いが不要となった事で子供たちが狩りに付いてくる事が無くなっていた。

 ただ、薪拾いが無くなったからと言って子供たちが何もする事が何も無くなったと言うわけではなく、籠やかんじき作りなどの冬の手仕事、そう言う事ができなくても家事などの家の手伝いなど、自分たちのできる範囲で様々な手伝いなどを行っているらしかった。


 冬の手仕事でやってる事なんかを工作の授業として取り入れてもいいかもしれないな。ライアスの子供たちなんかは余りこういったものを作った経験無いかも知れないし……今度ライアス行った時にちょっと調べてみるか。あ、でも、ライアスでそう言うの作るようになっちゃうと村の物が売れなくなっちゃうかもしれないか……村長に聞いてからの方がよさそうだな。


 とにかくそんな訳で狩った獲物を載せるソリを引いて狩りに来ているのはレンゴと俺とラウの3人、狩りと言っても相変わらず獲れるのはそのほとんどがログウルフで運が良ければ雪ラビット。ちなみに雪ラビットとは冬期間に出る保護色のホーンラビットの名前で勝手に命名したがこれといって反対が無かったので村限定の正式名称となっていた。


 もう結構な数の魔物|(ほぼログウルフだけど)狩ってるけど、弱い魔物じゃもういくら倒してもスマホのレベルを上げるのは難しいのかな? 一向にレベル30にならない……ま~、焦って強い魔物と戦うのも危険だろうしじっくりと安全マージンを取ってやってくしかないよな。


 そして、これだけログウルフを狩ればそれは肉も大量に手に入ってるって事で、もう村民全員が冬を越すには十分な量となっていて、今は雪があり気温も低いから保存にはそれほど困らないが春になり気温が上がって雪が無くなれば肉を腐らせてしまう事になりそうだかこれ以上は干し肉などの保存食に加工していかないといけないと村長が言っていたのを思いだした。


 う~ん『肉は十分にある』そう考えると、今回が最後の狩りになるかもしれないな。もっとも、村の近くに魔物が出れば肉がどうこうではなく出てきた魔物を駆除しないといけないんだろうけどな。

 それにしても、この前食べたけどあの干し肉美味しくなかったんだよな……あ、それなら『燻製』なんてのを作るのも悪くないかも知れないな、幸い木はいっぱいあるんだからチップを作るのには困らないし、たんに干し肉にするより燻製にした方がいいだろう。


 ログウルフの肉がいっぱいになってきて保存に困り始めたと言うのでその内に木製の燻製器でも作って燻製肉にしてしまおうかと考えていると、いつのまにか今日予定していた狩場に到着していた。

 狩場に到着し、辺りを索敵したのだが獲物の反応は無かった。ただ、魔物の反応がないだけならよくあることで驚きはしなかったのだが、どういう訳か魔物だけではなく他の生き物の反応までもが全く無かった。違和感を感じつつも仕方ないのでいつもの狩場から少し奥に進むと一体のログウルフや冬ラビットとは違った魔物の反応があった。


「レンゴさん、この先に魔物がいるようですがログウルフやホーンラビットとは違うみたいなんですが……」

「どんな感じの魔物か分からんのか?」

「うーん、ログウルフよりもかなり魔力反応が強くて強そうという事しか言えないですね」

「ログウルフよりかなり強い……ま、まさか、あいつか?」

「何か心当たりがあるんですか?」

「あ、ああ、もしかしたらここら辺で一番強いクマ型の魔物のバスターベアかもしれねぇな。しかし、本来もっと奥の方にいるはずなんだが……でも、もしバスターベアなら魔物や動物が全くいない理由になるか」


 ここら辺で一番か……念のためここは俺とラウで戦うか、状況次第じゃ逃走も視野に入れとかないとな。


 バスターベアは本来冬には姿を見せる事が無く、大体もっと奥の山の方に生息している魔物でこんな所で見たのは初めてとの事だった。

 レンゴが『グゥァァァァ』と威嚇の声を上げ出てきた魔物を見てバスターベアで間違いないと断言した。そのバスターベアは象かと思えるほど大きな体躯に六本足で頭に大きいサイのような角まで生えている黒毛のクマ。


 あれをクマと言っていいんだろうか? でも、バスター『ベア』なんだからクマでいいんだろうな……


「レンゴさんは安全な所へ退避してください」

「し、しかし、お前らを置いて俺だけ安全な所へ行くわけには」

「俺とラウなら何とかできますから、ここは引いてください」

「……わかった」


 動きやすいように周囲の雪を吹き飛ばし足場を形成しバスターベアを迎え撃つことにした。


「ラウ、しばらくあいつの注意を引いて押さえといてくれ。ただし、危ないと思ったら引けよ」

「おう!」


 さて、急いで準備しなきゃな。


「『ピットフォール』それと『石板』」


 『魔法アプリ』で落とし穴をイメージた『ピットフォール』と言う魔法を唱え、次に『具現化アプリ』で薄めの石の板をイメージして作った『石板』で落とし穴の上に置き蓋をし、とりあえず準備が終わったのでラウを呼ぶことにした。


「ラウ、こっちだ! そのまま走り抜けろ!」

「了解!」


 ラウは俺の横を通り過ぎて行きそれをバスターベアが追ってきて石の板の上に差し掛かったところで『シールド』を展開しバスターベアの突進を受け止め『ロックショットx3』を撃ち込んで『石板』破壊しバスターベアを落とし穴へ落とすのに成功した。


 よし、上手くいった! って、本当はバスターベアが石板を踏み抜いて落ちる予定だったんだけど……ちょっと石板を丈夫に作り過ぎたみたいだな……ま、結果オーライって事で。

 さて、宗寛太院に穴から出てこれないとは思うんだけど、問題はどうやって倒したものかだな……いい感じの毛皮になりそうだからあまり傷めない様に傷を最小になる様に倒したいんだけど、この位置だと喉狙うのきついし、かと言って下に降りる様な危ない真似はしたくないし……よし、片目を諦めるか。


 落とし穴の上からこっちを見上げたバスターベア右目を狙って『魔法アプリ』で炸裂弾を参考に、威力強めのロックバレットの中に威力弱めのファイヤーボールを加え、着弾後爆発するようにイメージしてできた魔法の『エクスプロージョンバレット』を撃ち込むと、狙った通りにバスターベアの頭の中で炸裂しその1発で倒すことに成功した。


「な、なんでこんなとこに穴が?」

「えーっと、魔法でちょちょいと落とし穴作っちゃいました」

「『ちょちょいと』っておまえな……まぁいい、それでバスターベアに目立った傷が見えねぇけど倒したんだよな?」

「はい、ちゃんと死んでますよ」


 ん~、ツーヘッドウルフよりはちょっと弱い感じだからぎりでゴールドランクかどうか程度の魔物ぽかったな。主とか言うからもっと強いかと思ってたけどこれくらいなら罠とか張らずに普通に戦ってもよかったかもしれないな。 

 ――おや? まだ反応あるな。もう1体いたのか……さっきはちょっと焦って慎重に戦ったけど、このくらいならラウ一人でも行けそうだし任せてみるかな? 危なくなったら演技すればいいしな。


「あの~、なんかまだ1体いるっぽいです」

「なに! まだいるのかよ……」

「それじゃラウ、今度はお前に任せるから素材になりそうな所にあまり傷をつけないようにうまく倒してくれ。危なそうならこっちから援護するけど、できるだけ自分で何とかするようにな」

「う~ん『素材に傷つけないように』ってのはちょっと面倒だけどやってみるぜ!」

「は? 素材がどうこうとか言ってる場合か? それにラウ一人って、おい、ちょ――」


 レンゴが何か言ってたが、とりあえずさっき倒したバスターベアをそのまま置いとくと鮮度が落ちちゃうだろうと思い『倉庫アプリ』に入れ、ラウと新たに出てきたバスターベアの戦いを見守ることにした。

 ラウはバスターベアの攻撃を危なげなくかわすがいくらでも斬りつける隙があるのに俺が素材にあまり傷つけないように言ったため一撃必殺のすきを窺っている様だった。


「ラウ、無理なら多少傷つけても構わないぞ」

「……大丈夫、何となくタイミングつかめてきたからもうちょいで行けるぜ」


 周りをちょこまかと動き回られ自身の攻撃が一切当たらないことに苛立ったのかバスターベアが苛立った感じで吠え、四つ足で大地を踏みしめ右手を大きく振りかぶり正に渾身の一撃と言った攻撃ををラウに放ったが、ラウにそんな大ぶりの攻撃が当たるはずもなく、最小の動きでかわし攻撃して来たその右手が地面に当たると同時にその右手を足場にして駆け上がり右ののショートソードを下顎の喉元から頭頂部の方へ突き刺した。しかし刺さり方が浅く倒すまでに行かなかったのでラウは剣の柄を蹴りあげてショートソードを深々と押し込んだ。すると、バスターベアの動きがピタリと止まり数秒の痙攣の後あおむけに倒れ完全に動かなくなった。


「やったかな?」

「……ラウ、今回は多分大丈夫だとは思うが、そのセリフは死んでないフラグだからあまり言わないようにな」

「…………こんな子供があのバスターベアをこんなに簡単に……俺、狩人辞めようかな」


 なんかレンゴがまだ子供のラウがあっさりバスターベアを倒した(もしかしたら俺も子供と思われてるかもしれないが)のを目の当たりにして自信を無くしている様だったがとりあえずそっとしておくことにして2体目のバスターベアの運搬をどうするか考える事にした。


 さて、さすがにこのサイズを2体も『倉庫アプリ』に入れれるって言うのは問題かな? でも、一旦村へ行ってバスターベアを出してから戻って来るって言うのも面倒だし、それに鮮度落ちちゃうし……んー、やっぱりこのくらいならいいか。

  

「レンゴさん。落ち込んでるとこ悪いんですけど、この後どうしますか? 予定通りにログウルフを狩っていくか、狩りを切り上げて村に帰るか、どっちにしますか?」

「ん、ああ、そ、そうだな~。バスターベアに関してはログウルフと訳が違うから扱いをどうするか村長に相談しなくちゃいけねぇ……でも、バスターベアが無くても今期はおめぇさんたちのおかげで肉には困ってねぇから、村の安全のために軽く辺りを周ってログウルフがいたら狩り、居なかったらそのまま村に帰ることにすっか」

「はい、分かりました」


 結局ログウルフとは出会う事が無かったので、ちょっと早かったが空のソリを引いて村へ帰ることにした。

 門番をしていた村人に、早い時間に空のソリを引いて戻ってきた俺たちを不思議に見ていたが、とりあえず詳しい事は先に村長に報告した方がいいとレンゴに言われ村長の家に向かう事にした。


「あ、ソリ片づけてくっからおめぇたちは先に村長の家に向かってくれ」

「はい、分かりました」

「レンゴのおっちゃん、俺がソリ引いてこうか?」

「あー、俺は今回何もしてねぇんだからこんくらい任せとけ」


 あ、戦う前に『鑑定』すればよかった……最近ログウルフばっかりだったからちゃんと確認してから戦うの忘れてたな。


  【 名 前 】 ――

  【 魔物名 】 バスターベア

  【 種 族 】 魔物

  【 性 別 】  男

  【 レベル 】 12

  【 能 力 】 風の爪、威圧、剛体

  【 魔 法 】 ――

  【 称 号 】 ――

  【 備 考 】 ――


 風の爪なんてのがあったのか……見る事も無く倒してたな、多分ウィンドカッターみたいな感じの爪版ってとこだろうけど……にしても、ここら辺じゃそれなりの魔物って言ってたからなんか能力が得れるかもと思ってたけど、取れそうも無いな。


 村へは魔物に襲われることも無くたどり着き、途中でレンゴと別れ村長の家へ向かった。

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