第七十二話 熊肉で宴会

 俺とラウが村長の家の前まで来た時、ちょうどレンゴがこちらへ走っている姿が見えたのでレンゴを待ってから一緒に村長へ報告する事にした。

 村長に狩りに行ったが付近に動物の気配すらなかった事、その後にバスターベアが2体出没した事を報告すると驚き今後の対策を考えないといけないと慌て始めたので、既に2体とも倒したことを話すと先に言えと怒られたが直ぐに冷静さを取り戻してバスターベアを討伐した事にお礼を言ってきた。


「――それで、バスターベアについてなんじゃが……そちらはリン君たちの物とする」

「え? でも、一応村の狩りで得たものですから……」

「いや、正直言ってバスターベアなんて魔物を村の者ではどうする事も出来んかったはずじゃ、どうにかするには町まで行ってギルドに討伐依頼を出して冒険者に倒して貰う必要があった。

 そう考えれば、むしろこっちからリン君たちへ討伐報酬を出してもおかしくないくらいじゃぞ?」

 

 ラウはこの村出身でこの村の村民と同等だとしてラウの倒した分を村へ渡すという事を言って見たが村長は中々了承してもらえず話し合いは続いていった。

その話の中で村長がバスターベアの肉はここらで手に入る肉の中では圧倒的に美味しいという事を聞いたので、どうしてもこちらにバスターベアを譲ると言うならラウの倒した分だけでも村のみんなで食べる事にしてもらい、残った素材は売って村の役に立てるという事ではどうかと提案してみた。


「う~む、それじゃお言葉に甘えるとするかの……実は勉強が多少問題もあったが概ね好評だったので春には校舎を建設する計画を立てていたのだが、建設費が幾分足りなくなりそうだったのじゃが今回のバスターベアの毛皮などの素材を売ればなんとか補えそうじゃから正直助かるの」

「そう言う事ならぜひ、学校建設の足しにして下さい」

「うむ、ありがたく使わせてもらうぞい。それに……バスターベアの肉と言うのも久しぶりじゃからちょっと楽しみでもあるの~」


 集会場では全員は入り切れないので、幸い天気もいいので屋外の中央広場でたき火をしてそこで夕方から宴会をする事に決まった。ちなみに、たき火の薪はブリケットの作製と普及により薪に多少の余裕が出ていたので今回の宴会で暖を取るために使っても問題が無くなっていた。


「さて、ラウは孤児院へ行って皆にこの事を伝えてくれ。俺はバスターベアの解体とか宴会の準備を手伝うから頼むな」

「おう! 美味い肉が食えるって話だろ?」

「……ラウ、そうじゃない。夕方から村人是認参加の宴会を中央広場で行うって話だ!」

「わ、分かった。ま、俺はうまい肉食えるってことに変わりがないんならなんだっていいんだけど、とにかくちゃんと言っとくぜ」


 こういう時にルカがいてくれればといささか不安に思いつつ、ラウがちゃんと宴会があることを伝える事を祈ってその後ろ姿を見送り、俺は俺で準備を始める事にした。


 う~ん、血抜きと毛皮を剥ぐの面倒なんだよな~……下手な剥ぎ方すれば毛皮に傷つけちゃうしな『錬金アプリ』を使えば簡単に解体と言うか分離させることができるんだけど……どうやって解体したか聞かれると困っちゃうんだよな~。


 悩んだがあんな大きいのを解体とか面倒だし『錬金アプリ』なら血抜きしても劣化もしないんだからと考え、なにか理由を考え『錬金アプリ』を使って血抜きと毛皮を剥ぎ取る事だけをする事に決め村長と交渉する事に。


「と言うわけで、ちょっとバスターベアを解体する場所を貸してもらいたいんですけど」

「いや、何が『と言うわけで』なのかが全く分からんのじゃが……ま、それはよいとして。バスターベアと言うとかなり大きいはずじゃが裏の倉庫でもなんとかなるじゃろうから貸してもよいが、何人で解体するんじゃ?」

「あー、それなんですが、解体は一人でします。それと、ちょっと秘密の解体技があるので誰も覗かないようにして欲しいんですよね」

「う~む『秘密の解体技』と言うのはちょっと気になるが……まぁ、よいじゃろ。分かった、倉庫の扉を閉めれば外からは見えないから大丈夫じゃろ。せんと灯りは入り口に天井にある照明のスイッチがあるからそこに魔力を流せば点くはずじゃ」

「決して覗かないでくださいね」


 村長に礼を言ってすぐに倉庫で『錬金アプリ』によるバスターベアの解体作業を行った。当初は血抜きと毛皮萩の身にするはずだったが、どうせならと完全に解体してしまう事にした。


 なんか鶴の恩返しみたいだな――――よし、結構な肉の量になったな……村の人口を考えると三割もあれば十分だな。解体時間数十秒……解体時間としては早すぎるよな~、これで村長に『解体終わりました』なんて言ったらどうやって解体したの思いっきり怪しまれそうだ……これといってする事も無いし仮眠でも取るか。


 『倉庫アプリ』からベッド(小)、布団、それだけだとまだ寒かったので野営用の寝袋を出してスマホの目覚ましを2時間後にセットし仮眠をとることにした。


『ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ――』

「ん~、もう朝か? って、そう言えば仮眠してたんだっけ」


 スマホの目覚ましを止め、ベッド(小)などを『倉庫アプリ』にしまい、村長へバスターベアの解体が終わったことを伝えに行き、その後すぐに宴会の調理班と合流し解体したバスターベアの肉を必要な分だけ出し、そのまま調理の手伝いなどをした。

 調理って言ってもある程度の作業は進めていたみたいだから俺はバスターベアの肉を焼き肉用とシチュー用に切り分けるくらいだったけどね。

 中央広場へ行くと、そこにはたき火を中心に少し離れた所にかまくらがいくつか作られていた。そして、そんなかまくらの中に他とは作りの違うものがいくつかあった。


 おおお! あれってかまくらと言うよりイグルーってやつに似てるな、一体誰が作ったんだろ?


「よう、リン」

「ダイロさん、これって、ダイロさんが作ったんですか?」

「ああ、おまえさんとこの嬢ちゃんたちにも手伝ってもらったけどな」

「そうだったんですか。それにしても、よくこの作り方思いつきましたね」

「ああ、レンガの家みてぇなのを作れねぇかと考えたんだが、普通にレンガの形に雪を固めて壁を作って行っても、どうにもそのままじゃ天井が抜けちまいそうだったんで、かまくらってやつみたいに丸い形にしてみたら何とかうまくできたんだ」


 初めは普通にレンガの家の様なものを作ろうと思ったらしいのだが、それでは天井が抜けてしまうと言う結論に至りかまくらの様な半球型の物を雪レンガで作り、強度を確保するために最後に魔法で水を薄くかけ、そしてそれを凍らし補強して強度を確保したらしい。


 魔法って、つくづく便利だな……。


 ルカやラウはまだしも、寒いのが嫌いなレイがなんで協力したのかについては、かまくらの中が温かいという事を知って積極的にダイロに協力したらしい。

 そんなレイがどこにいるのかと思ったら一つだけ扉が付けられていた一番作りのいいイグルーの中で毛布にくるまって休んでいた。


 と、とりあえず、気温が低いから簡単に溶ける事も無いだろうし安全なのかな? レイが実験台として中に入って試してるようだしなー。

 ……こたつ、作ってみようかと思ってたけど……作ったらレイがこたつの住人になっちゃいそうだから止めておくか、こたつは人をだめにする呪いの道具だからな!

 あ、そうだ! たき火の灯りだけじゃ弱いし、かまくらまでの道にスノーランタンとか設置するといいかも知んないな。


 かまくらやイグルーの中には一応、魔道具のランタンが設置されてはいたが溶けてしまわないようにするためかたき火からの距離が少しあったので、中間点の何ヶ所かにスノーランタンを設置してみることにした。


「ほぅ、こいつぁきれいなもんだな」「幻想的な雰囲気ね」「きれー」

「リン兄さん。柔らかい光がきれいですね」

「明かりがあるから歩きやすいぜ!」

「……zzz」


 若干一名寝ていたが村人たちにも概ね好評だった。そんな寝ているレイを起こしていよいよ宴会が開かれる。


「それじゃ、こんな寒い御馳走を前に中長々と話をしてもしかないじゃろうから簡単に行くぞい。今回バスターベアを狩ってしかも我々に振舞ってくれたリンたちに感謝して乾杯!」

『乾杯』


 その日の夜は村のみんなでクマ肉祭の宴会が開かれた。、美味しいとは聞いていたが聞いていた以上にとても美味しかった。

 肉は強い弾力があるが噛んでいる内にほぐれて柔らかくなっていきいつの間にかあふれ出た肉汁で溶けたかのように口の中から無くなった。


 美味い! こんな肉生まれて初めて食ったぞ! すっごい濃い味なのにあっさり食べれていつまでも口の中に余韻が残る、残るのだがそれがいつの間にか全く無くなり、口の中がスッキリするんだよな。これ食ったらもうログウルフの肉なんて食べれなくなっちゃいそうだな。

 しかし、クマ肉って言うと硬くて臭みが強いって思ってたけど異世界だからか魔物だからか分かんないけど……いや、魔物だからなんだとは思うけど、それにしても美味い! そう、とにかく美味い!


「兄貴! 俺、生きててよかったぜ……」

「お兄ちゃんったら……でも、私もそれが大げさじゃないってくらい美味しいと思います」

「……ふふふ、これはいい肉! リン、美味しい肉獲ってきたのを褒めてもいい!」


 レイ、美味しい肉のせいか、いつもより饒舌だな! いつもこのくらい流暢に喋ってくれればいいんだけどな~。


 夕方から始まった宴も、既に宴会場所は集会場に移り子供たちは家に帰り大人たちは酒盛りの真っ最中、酒は好きでは無かったが付き合いという事で一杯だけ飲み、その後はとりとめのない世間話などをしていたが、そろそろ日付が変わりそうな時間になっていて眠くなってきたので帰ろうかと席を立とうとしたら何かに引っ張られて立つことができなかった。振り返るといつの間にかレイに服の裾を掴まれていた。


「おい、レイ。そろそろ俺は寝たいから手を離せ」

「うみゅ~、まだ~……いる」

「さっきから饒舌になってると思ってたらお前酒飲んでたのか?」


 誰だ、レイに酒飲ませた奴! あ-もう、こりゃもうダメだな。こんなに酔った状態のままここに置いてくのもちょっと心配だし、どうせ孤児院に戻るつもりだったんだからついでに連れて帰るか。


「すいません。レイが限界っぽいんで俺たちはここでします。ほらレイ、しっかり立って自分で歩けよ」

「……地面、揺れてる、無理~」


 お姫様抱っこは自分にはレベルが高すぎたのでソリを借りてレイを孤児院へ運び、レイの止まっている部屋まで肩を貸して何とかたどり着きベッドへ寝かせたのだが、寝かせたレイに腕を引かれてベッドへ倒れ込んでしまい、さらにれいにだきかかレイに腕を抱きかかえられて身動きできなくなってしまった。


「おい、レイ! 離せ! ……レイ?」

「……」

「な! もう寝たのかよ。てか、俺も結構限界なんだけど」


 どこからこんな力が出るのかってくらいがっちりと腕を掴まれていてどうやっても脱出できなかったので、眠さで意識が朦朧して正常な判断をする事も困難になってしまい、そのまま眠についてしまった。



 翌朝、目を覚ましたレイが俺と一緒に寝ていたことに大混乱し魔法まで撃ち込まれそうになったが状況説明して何とか大惨事にならなくて済んだ。

 誤解を解いた後自分の部屋へと戻って着替えようとして、昨日は身体も吹かずにそのまま寝てしまう事になっていたのが気になったので『魔法アプリ』を使って自分自身へ『浄化』をかけてからバスターベアは結構強かったからスマホのレベルが上がってるかもしれないと期待しつつスマホを確認する事にした。

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