第三十八話 ダンジョンにある集落

 翌日のダンジョン探索は『地図アプリ』のおかげで道順は分かっていたので地図上の最短距離で一気に地下18階層への階段まで駆け抜けラウは階段に待機させて、地下17階層のゴーストの魔法に対してタクティカルグローブの耐魔法と魔力吸収を試してみることにした。

 ゴーストを見つけ身構えるとすぐに魔法攻撃『マジックアロー』を撃ってきたので、左手を前に出し受け止めてみると『マジックアロー』が左手に触れた瞬間に霧散した。次に飛んできた『マジックアロー』に対してタクティカルグローブの魔力吸収を試してみると『マジックアロー』をタクティカルグローブで吸い込むことが予想以上に難しく、10回中2回しか成功しなかった。


 う~ん、飛んできた魔法をこの手袋で防ぐ事はできたけど……吸収するのは結構難しいな。常時吸収を発動してるんじゃ吸収できないから魔法がグローブに触れ、弾かれるまでの一瞬のうちに吸収しないといけないからタイミングがシビアだ。これは実戦で使うのはちょっと無理だな。


 とりあえず、試したかった実験は終了したのでゴーストをさっくり倒して階段へ戻ってラウと合流し、地下18階層へ向かった。


 地下18階層は石造りで行き止まりの通路が多い迷路フロア、『地図アプリ』を使ってマッピングしていき、時間はそこそこかかったが次の階への階段を発見できた。

 出てきた魔物は、宝箱に擬態していて開けようとしたときに襲ってくるミミック、ゴブリンの上位種であるホブゴブリン、前にも出たきたオーク、スライム。基本危なげなく出てくる魔物を倒せていたのだが、ラウが宝箱を見つけ躊躇なく開けようとしてミミックに襲われてびっくりしていたのが唯一危ないと思ったくらい。そして軽く昼食を食べて次の階へ向かった。


 地下19階層は迷路というほどでもない普通の石造りの地下通路で、罠もそれほどないこれといって特徴のないフロア。

 出てきた魔物はゴブリンナイト、コボルトナイト、ボーンナイトとナイト尽くし、これといって苦戦することもなく割と楽に倒すことができたが、フロアが普通すぎて逆に不審に思い慎重になり過ぎて攻略に時間が無駄にかかってしまった。結局、次の階への階段まで罠すらない普通のフロアだった。


 地下20階層は地下16階層のようなフィールド系のフロア。ただし森林地帯ではなく、見渡す限りの砂漠地帯で上を見ると太陽のようなものがあり、本当の砂漠地帯のような暑さで、オアシスの蜃気楼まで出ていた。

 出てきた魔物は、保護色と[気配遮断]で砂漠に溶け込み攻撃してくる大きいコブラのようなサンドバイパー、砂を潜って移動し地面から突然出てきて砂を吐いたりして攻撃してくる2mほどの巨大なミミズのサンドワーム、表面が硬い岩で覆われた身長2mくらいある石人形のロックゴーレム。

 魔物と戦いつつ『地図アプリ』で降りてきた階段からの位置を確認しつつ探索を続けていると、蜃気楼で見えていたオアシスと思われる場所を発見。オアシスにある湖の一角にはテントが多数あり、ちょっとした集落のようになっていて、出店なんかもあった。店の商品を見てみると、こんな場所だからなのかどれも地上での価格の倍近くするもの、特に食品は3倍はするものばかりだったのだが、情報を聞くためにいくつか買って気になる事を色々と教えてもらった。

 このオアシスの周りは魔物が寄り付かない安全地帯であり、ここでは騒ぎを起こしてはいけないと暗黙のルールとなっている。もしルールを破るとオアシスから追い出すことになっているから騒ぎは起こすなとの事だった。

 さらに質問しようとしたら「おっと、これ以上はダメだぜ」と言われ、情報量として銅貨を3枚渡しさらに聞いてみることに。

 この地下20階層は昼は暑く、夜になると寒いとう言う砂漠そのものの環境で、魔物の素材的にもあまり良質の物が手に入らず、これだけだとここにこんな集落のようにテントが集まることは無いのだが、ここより下の階には安全地帯が存在しないため、ここを拠点にしている冒険者が結構多かったので『レアス』と呼ばれる集落が形成されたとのことだった。そして次の21階層からはいい素材が取れる魔物が出るという情報も教えてもらった。


 集落に名前まであるのか……てか、ここの人たちってここでずっと暮らしてるのか? ま~、魔物に襲われることが無いし、なんか畑っぽいものもあるようだし、水はオアシスから組めばいいし、肉は魔物を狩ればいいし……もしかしたら地上より安全に暮らせるんじゃないのか?


 木陰で小休止をしてから探索を再開したが、その日はボス部屋を発見することはできず宿に戻った。


 フロアが砂漠だから歩き難いし、太陽っぽいやつの日差しが強くて体力削られる……砂漠用の装備を整えないとだめだな。


 翌日、雑貨屋で砂漠用装備を買ってからかなり急いで進み6時間かけて地下20階層に着き、急いでボス部屋を探したがなかなか見つからず

 ボス部屋は地下20階層を体育館のサイズまで小さくしたような部屋で、そこにサンドワームの倍はあるボスのビックワームが2体と、砂の下にもサンドワームらしき反応が数体あった。


 さて、基本は砂漠地帯と同じ闘い――あ、あれを使えばちょっとは闘いが楽になるかな?


「ラウ、扉のとこで待機しててくれ」

「ん、ああ。分かったぜ」


 ラウを入り口近くに待機させ『魔法アプリ』に大量の水をイメージして『水』と打ち込み『ウォーター』と唱えるとドバーッと水が出て、ほどなくして辺り一面の砂が水で固まり、自由に地面を動けなくなったことでビックワームたちの動きが鈍った。


「よし、うまくいったな。ラウ! 攻撃開始だ」

「OK、兄貴。やるぜー!」


 ビックワームの動きが鈍なり、サンドワームに至っては砂の中を移動できないでいるようだったおかげでビックワームに集中することができて、攻撃を避けたり逆にこちらの攻撃を当てたりするのが簡単になり、危なげなく一方的に倒すことができた。とはいえ、地下20階層のボスともなるとハンドガンの攻撃くらいじゃ簡単に弾かれてしまいノーダメージだったので、燃費は悪いのだが『魔法アプリ』でキャノン系を使わなければ倒せなかった。


「なぁ、兄貴。なんでこいつら動き鈍くなったんだ?」

「こいつらって砂の中移動するだろ?」

「ああ、そうだぜ。それがなんなんだよ?」


 口で説明するのが面倒だったので実際に体験させることにし、地面の一部を火で乾かしてそこに腕を突っ込ませ「簡単に砂に手が埋るだろ?」と言うとラウが頷き、次にそこに水をかけて砂を固めてから手を抜くように言うと「……なるほどな。それにしても兄貴は変なこと考えつくもんだぜ」とか言われてしまった。ちなみにビックワーム2体を倒した時点で残っていたサンドワームの反応が忽然と消えていた。


「さて、今日はここまででにして帰ろうか」

「おう! 腹減ったぜ、肉食いてぇー!」


 それにしても、これ以上下の階に行くにはこの階で1泊しないと無理だな……まだルカを何日も一人にするっていうのも心配だし体調をみつつ判断するか。


 ボス部屋を出て、転移魔法陣で地上に戻りいつものように出張所で依頼の受注と報告、素材の買い取りなどをしてもらって、ついでにスマホの魔力充填用に魔石をいくつか購入してギルドを後にした。

 宿に戻り、部屋で夕食を食べた後ラウはいつものようにルカと勉強、俺はスマホのレベル上げや能力獲得できないかのチェックをする事にした。


 スマホのレベルは24までしか上がらず、これといって新しくアプリが追加されることも無く、能力についても新しく得れた能力はなく、新たな能力は得られなかった。


 翌朝、ラウにちゃんとした休日を与えていなかったのでルカと一緒にどこか遊びに連れて行こうかと思い、休みについて聞いてみることにした。


「なぁ、ラウ。ずっとダンジョンとか狩りで魔物と戦ったりしてるけど、休みとか欲しくないか?」

「リン兄さん……一応、私たちは奴隷ですから休みなんて普通有りませんよ。大体私なんてベッドで寝てばかりで何のお役にも立てていないですし……」

「ルカは病気なんだから仕方ねぇにしても、奴隷は休みなんてないのが普通だって俺にだって分かるぜ」


 んー、奴隷だったら当たり前と言われてもね~。二人をただの奴隷とは見たくないんだよな……。


「えっとな、俺の感覚の方がおかしいというのは分かってるんだけど……二人を奴隷のように扱う気はないって初めに言っただろ?」

「兄貴……兄貴は奴隷として俺たちを買ったんだろ? なのに奴隷扱いしないってのは……今なら兄貴の事多少は理解してっから騙す気で言ってるんじゃないって分かるけどよ。普通こんな扱いされたら逆に警戒しちまうぜ」

「リン兄さんは優しすぎですよ。この大陸に来てこんなに大事にされたのは初めてです」


 う~ん、秘密を洩らせないということさえなければ奴隷解放してしまいたいくらいなんだけどな。


「はっきり言って、すでに二人のことは本当の弟と妹のような感じに思っちゃってて、秘密のことと獣人の問題さえなければいっそ奴隷解放して親御さんのとこに戻したいくらいなんだけどな」

「あー、あのな。兄貴、実は――」


 前に家族と言ったのは実の家族ではなく、二人は孤児院育ちで他にも親のいない子供が結構いたそうだ。

 どうして孤児院に預けられたのかは、ラウがまだ幼いころで妹もまだ赤ん坊だったので分からず、実の親の顔もよく覚えていないが、ルカとは実の兄妹というのは覚えてるということだった。


「その孤児院には帰りたくはないのか?」

「いや、どのみち15になったら孤児院を出ることになってたから戻ることはできないけど、顔だけは出しときてぇかな」

「私は……どこにいても病気で迷惑かけるので……」


 自分の病気のせいで迷惑をかけてると気落ちしているルカにもしかしたら病気が治るかもしれないことを伝えることにした。


「えっと、ルカの病気のことなんだけどな。スマホのレベルが上がったら治せるようになるかもしれない」

「あ、兄貴、それって……ルカの病気を兄貴が治せるってことか?」

「いや、まぁ、うん、だけど『かも』だからな。治せないかも知れないから過度の期待はするなよ。

 それで、初めの休日の話に戻すんだけど、今日は休みにして三人で外に出かけないか? ルカもたまには外に出た方がいいと思うし」


 ラウがルカのためにもダンジョンや狩りに行って一刻も早くスマホのレベルを上げるべきだと主張してきた。


 う~ん、ラウのやつちょっと焦りすぎだな……こんな状態で狩りをしたら取り返しのつかない事にもなりかねないだろうから、ここは一回ちゃんと休みを取って落ち着かせた方がいいな。

 それに、ルカもずっと部屋に閉じこもっていては気分が滅入って悪い方に考えが行ってしまうかもしれないから、たまには外の空気を吸わせた方がいいだろうしな。


 俺の考えをラウに伝えるとしぶしぶではあったがルカが冒険者となるのを了承し、明日は休日として午前中は三人で外出する事とのした。


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