第五十九話 コスプレ?

 調理教室から数日後、村を歩いていると犬獣人のおっさんに呼び止められた。


「おい、最近村にやってきた人間族ってぇのはおめぇさんだろ?」

「え、あ、はい。多分そうだと思いますけど?」

「いや~、正直人間族が村にいるのはどうかと思ってたけど、狩りの肉は増えるし、嫁の料理が前より美味しくなるし大助かりだぜ! あんがとな」

「いえいえ、喜んでもらえてよかったです。でも、奥さんに前より美味しいなんてこと言ったら怒られますよ?」

「……ああ、わかってる。あいつに面と向かってそんな事を例え(物理的に)口が裂けても言えねぇよ。命は惜しいからな」


 ……命に係わるほどなんだ。


 その後も村の中を歩いていると最初のころと違って今までは目もあまり合わせてくれなかっ村人たちも挨拶してくれたりログウルフの肉の事や料理教室の事などでお礼を言ってくる人がいた。


 狩りの時の肉を譲ったり料理教室で料理を教えたりしたことで大分村の人たちに受け入れてもらえるようになった気がするな。孤児院にちょっと長居しすぎたからそろそろ村を出て行こうかと思ってたけど、これなら人間族に厳しい人たちが多い町の方よりこの村の方が雰囲気がいいし冬期間はここで過ごさせてもらった方がいいかも知れないな。ラウとルカもなんだかんだ言ってルブラ院長に再会できて嬉しそうだし……よし、ちょっとルブラ院長に相談と言うかお願いしてみるか。


「お話というかお願いがあるのですが……まずは数日だけのはずだったのにラウとルカならいざ知らず孤児院と関係ない自分とレイが断りもなく部屋をずっと借りたままですみませんでした。それで、改めて春になるまで部屋をこのまま借りたいんですけどお願いできますか? も、もちろん対価は払います」

「初めに春まででも構いませんと言いましたし、別に対価なんていいですよ? あ、でも孤児院の手伝いとたまにお料理作ってくれると助かるかな? あああ、春までとなると一応村長さんに話を通しておいた方がいいかも知れませんね。でもリン君が村の人たちにお肉分けてくれたり新しいお料理教えてくれたりしてるからみんな喜んでたから多分村に滞在する許可してくれるとは思いますけどね」

「ああ、確かに勝手に長期滞在と言うのもまずいですね。はい、この後村長の所へ行ってきます」

「あ、そう言えば昨日リン君が留守の間にレンゴさんが来てたわよ。何か用事があるとか言ってたけど、リン君が不在と知ってまた来ると言って帰っていったわよ」

「う~ん、何だろ? 村長のとこ行った後にレンゴさんの家に寄ってみます」


 その後村長の家へ行き春まで滞在したい事を村長へ伝えると快く春まで孤児院に滞在する許可をくれた。世間話の中で数日後、村から町へ薪や冬の手仕事で作った物などを売りに行くと言うの話を聞き俺も一緒に行ってかんじきを売っていいかと聞いてみたところ露店を手伝ってくれるなら一緒に販売しても構わないとの事だったのでついて行く事に決めた。


 よ~し、いくらで売るか値段を考えないといけないな~。あ、町へ商品を売りに行くのに一々フード被るのも面倒だし、第一人間族じゃ誰も買ってくれない可能性もあるな……なにか対処法を考えとかないといけないな。――――あ、そうだ! 獣人に変装するのはどうだろう? ちょっと院長の意見を聞いてみるか……って、レンゴの所に寄ってくんだったけ、危ない危ない忘れるとこだったな。


「こんにちはリンですがレンゴさんいますか?」

「――お、来たか。ま、入ってくれ」


 レンゴの家に入り何の用事だったのか聞いてみると、新しくソリを作って貰ったのにタダってわけにもいかないから代金を支払いたいとの事だった。

 元々ソリは村の共有財産に近い物なのだが主に狩りで使用するためレンゴが管理し、ある程度自由に使える事になっていたらしい。ちなみにソリの値段次第では買い取れないため俺に返すことになるかもしれないから村長にはまだ報告してないと言う事だった。


「って事であのソリはいくらなんだ?」

「う~ん、俺としては材料はダイロさんが出してくれたのでダイロさんがいいと言ってくれれば村へ寄贈と言う形でもいいですよ」

「いや、でもよ。あんなにいいソリを本当にタダで村にくれるってのか?」

「そうですね……じゃ、春まで村に住むことになったんで狩りに行くときたまにご一緒させて下さい」

「ん? それは構わねぇけどよ。てか、お前ぇやラウならこっちの方から頼みてぇくれぇだぞ?」


 元々孤児院出身のラウならいざ知らず、村に関係のない俺が村の仕事の一つである狩りをすると言うのは冒険者への依頼として逆に村から金を出してもおかしくない事だと言われたので、狩りで得た物を少しだけ多く貰うという事で半ば強引に納得してもらった。


 あ、ダイロの取り分忘れてたな。う~ん、今度の狩りでダイロの分を少し多めにしてもらうか。


 その後、孤児院に戻り院長に変装する事に関して相談してみると、耳と尻尾を付けただけじゃ耳と尻尾に魔力の流れが無いのが不自然ですぐにばれてしまうと言われたが、元々魔力が無い俺だったら耳と尻尾を付けても違和感を抱かれないかも知れないと思い、とりあえずログウルフの耳と尻尾と毛を村人たちから少し分けてもらってできるだけリアルな造りを心掛けて試作してみることにした。


「ラウ~、ちょっと変装道具作りたいから子供たちの面倒を手頼む」

「ん、別にいいけど……変装道具って、兄貴は何作るつもりなんだ?」

「俺が獣人っぽく見えるようにするものってとこかな? あ、ラウ。一応念のために行っとくけど、一緒に遊んでもいいがお前は他の子たちより力強いんだからケガとかさせないように手加減しろよ? あと、遊びに集中して面倒見るのを忘れたりするなよ」

「あ、兄貴……さすがにそのくらい分かってるぜ。兄貴の中で俺ってどんな感じになってるのか今度聞かせてもらうからな」


 本当はルカに子供たちの面倒を見てもらいたかったのだがレイに魔法を教えてもらっていたのでちょっと不安ではあったがラウに子供たちを任せ変装道具の試作に取り掛かった。切り取っただけの耳と尻尾ではそのまま付けただけだと腐っちゃうので皮を丁寧に剥ぎ、中の肉も丁寧に取り除き洗浄した。

 まずは尻尾の作製。肉の代わりに綿などの詰め物をして狼尻尾を作り上げたが、どうしても抜け毛が出てしまいやすかったので『倉庫アプリ』にいったん入れて『錬金アプリ』を使い毛を皮膚に固定するような加工を施した。

 次に耳の制作に取り掛かったのだが、綿などだとなかなかリアルな造り、感触にならず難航してしまったのでじっくり観察できる生きたケモ耳として半ば強制的にレイにモデルになって貰い何度も試行錯誤を重ねた結果やっと満足のいく仕上がりとなった。代償としてしばらくレイが口をきいてくれなくなったけどね。 そして実際に着けてみると自分本来の耳が丸見えだったため耳が4つあるように見えてしまいすぐに付け耳とバレてしまう状態となった。このままではいけないと改良を加えできたのが狼耳付きカツラとなった。


「や、やっとできた」

「兄貴……なんかいつも以上に力入れて作ってたな、ちょっと怖かったぜ? てか、何かすっげー違和感あるかっこだな」

「なんだよ、ちょっと集中して作ってただけじゃないか! そんなに変なかっこかな~? 結構よくできたと思ったんだけどな~……あ、ちょっと村の人たちにも感想聞いてくるな」

 

 実際に装着して村の人たちに見てもらった結果、これならかなり注意して見ないと偽物とはわからないから人間族とばれないだろうと言われた。ただし、動かないのはちょっと不自然だからせめて尻尾だけでも動けばよりリアルに見えるんじゃないか? と言うアドバイスがあったので尻尾内部に紐を数本取り付けベルトの辺りで操作すると動く仕掛けを施した。耳に関してはうまく作動させる方法が思いつかなかったので泣く泣く断念した。


 その後、耳と尻尾を付けた自らの姿を冷静静に見て、これってただのコスプレだなと思った途端に恥ずかしさに苛まれて膝から崩れ落ちてしまった。


 こんな恥ずかしいかっこで外歩けるか! ……いや待て、これならこの大陸でもあまり目立たず行動できるから必要なことなんだ仕方ない必要なことなんだ! それにこの世界にコスプレなんて概念あるわけがない! だからこれはコスプレじゃない、えーとなんだ? 言うなればあれだよあれ、変装だよ。そうだ、変装だよ! 断じてコスプレではない! 変装だから恥ずかしくないもん!


 自身に暗示をかけるように何度もこれは変装だと言い聞かせて心の平静を取り戻してその日は早めに就寝した


「Zzzz……コスプレじゃないよ? 変装だよ? Zzzz……」


 かんじきを作ったり子供たちの面倒を見て過ごした。ちなみにかんじき作りは町へ行く日が近づいてきたため、ダイロや孤児院の子たちも村の人たちと冬の手仕事として作る物があるため手伝ってもらえなくなっていた。

 一人で作るのもちょっと寂しかったので、レイたちにもかんじき作りを手伝ってもらう事にしたのだが……。

 ラウの場合は、とてもかんじきとは思えないような不気味なオブジェが出来上がりそれを見た子供が泣いてしまい、さらにたまたま通りかかった村人がその騒ぎに何事かと窓から覗いた時にラウの作ったかんじきを見て魔物と勘違いして『村内魔物事件』とまで呼ばれる騒動にまで発展してしまい説明に奔走する羽目になってしまった。


 ラウ、ここまでくるとある意味才能なんじゃないのか? とは言えこんな得体のしれない物をかんじきとして……いや、かんじきとしてじゃなくても売れないな。


 レイの場合は『……無理』と一言ってすぐにどこかへ消えてしまった。


 レイ……ちょっとくらい手伝ってくれてもいいんじゃないのかな~? 子供の面倒見てるか布団にくるまってるかのどちらか何だけど。


 ルカの場合は、すぐに作り方を理解し無難に一つ作り上げたのだが、完成したかんじきを眺めていたかと思うと突然なにかのスイッチが入ったらしく『こんなのじゃダメ!』と言ってせっかく出来上がったかんじきをほどいて作り直し始め、何度も作り直し最終的に一日かけて使うのが勿体ないくらいのかんじきを作り上げていた。


 ルカ、なんか頑固職人みたいな感じになっちゃってちょっと怖いんだけど……てか、もう出来が良すぎて額に入れてどこかに飾らないといけないんじゃないってくらいの国宝級のオーラを感じるぞ! 


 結局一人で作る事になり寂しさを紛らわすかの如く黙々と作っていたのだが、一人で作るなら誰も見てない事だし別に『錬金アプリ』で一気に作っても問題ないんじゃないかという事に気が付き誰にも見られない様に何度も確認してから『錬金アプリ』で作っちゃうことにしたのだが…………気が付くのが遅く予定の7割ほどを手作りで完成させてしまっていたのでなんかあんまり意味がなかった。


 それにしても、ラウとルカは最近俺と別行動なことが増えたな。ま~俺に依存しなくなってきてるならいい傾向なんだろうけど……これはこれでちょっと寂しいな。


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