第十九話 誕生デイジー先生?

 今日のギルド食堂のランチは蕎麦のセット(肉蕎麦・ミニ天丼・漬物)で、みんなそれを選んで食べた。

 肉蕎麦は蕎麦自体は同じものだったが、つゆの味が何か変だなと思い聞いてみると、鰹節が存在せず、キノコと昆布で出汁をとっているらしかった。

 ミニ天丼は、米は粘りが足りずパサついた感じだったのでそれほど美味しくなかったが、上に乗ってる天ぷらの方はシイタケ、シシトウ、エビみたいなものがサクサクの衣に包まれていて食感がよく、さらにあんかけ風の丼つゆがかかっていて結構美味しかった。漬物に関しては普通のおしんこだった。


 こうも元の世界の料理が続くと、この世界特有の料理も色々と食べてみたくなってくるな。


 ちなみに食事代は全額レドラスが払ってくれました。さすがギルマス!

 食後はギルドマスターの部屋へ移動し、ブロンズクラスのギルドカードとブロンズプレートを受け取り、昨日の依頼報酬と、素材などの買い取り金、さらにゴブリン集落せん滅の特別ボーナスの合計からゴブリンの処理代を引いた金額を受け取ることになった。


「それではこちらが合計の金貨五枚500,000ギリクになります」

「それじゃ、デイジーたちの分金貨四枚ね」


 ライラから金貨五枚を受け取りそのうちの貨四枚をデイジーに渡すと、とても受け取れないと言ってきたが、いいからと半ば強引に受け取らせた。


「リン……おまえさんは欲が無いのぉ~、無さ過ぎてちょっと心配のなるの~」

「まったくですね。冒険者の方は貪欲の方が多いのですから騙されたりしないように気を付けてくださいね?」


 うーん。ちょっと人が良すぎたかな? でも、現状そんなに金に困ってないし、デイジーたちの方が金に困りそうだからな……特にリアンナとかこれから先どうなるか考えるとね。ま、ライラのアドバイスは素直に受けておこう。変な奴らによって来られてもうざいしな。


「はい、気をつけます。でも、今回は山分けということで」

「分かった。リン、ありがたく貰っておくわ」

「それでなんじゃがな――」


 レドラスが言うにはライラがゴブリンロードを解析し魔石を調べた結果、あのゴブリンロードは特殊個体であることが判明したという事だった。特殊個体とは何なのか聞くと、通常種では持っていない能力を持っていたり、特別ステータスが高かったりすると体色が違ったりと見た目などにも変化があり、あのゴブリンロードだと右目の色が他とは違い金色であったのと能力に闘気が有ったらしく、魔物のランクとしてゴールドランクに成りかけのシルバーランクの魔物であると教えられた。


 闘気か、なるほど道理で硬かったはずだ。あれで鎧を強化してたんだろうな。それにしても、あれでシルバーランクの魔物か~。

 今思い返すと倒せたのは多分あいつが大剣の一撃で俺が死んだものと油断してたからだと思うんだよな……じゃなきゃ、いくら肌が出ている所を撃ったとしても闘気に阻まれてあそこまで傷を負わせれなかっただろうしな。俺も闘気使いたいな……。


「あの、俺には闘気は使えないんですかね?」

「魔力が無ければ無理じゃろな」


 ん~、やっぱりダメか~。ってことは、俺には近接戦闘はきついってことになるのかな~? 


「あの、闘気が使えないと接近戦は危険なんですか」

「闘気が使えんと攻撃は通りにくいし、闘気を使った相手の攻撃をまともに防げんから危険じゃろうな」

「それじゃ、この魔道具|(スマホ)があれば魔術師としてやっていけるでしょうか?」

「ふむ、ま~初め見たときは驚きはしたがな……あの程度じゃとゴールドランク相手にはちときついと思うが……ま、戦うだけが冒険者の仕事でもないし、それだけのアイテムボックスを持っとるなら荷物の運搬などで金が稼げるぞ」


 確かにそうなんだけど……自分の身を守るくらいの強さは欲しいからな~……そうだ!


「そこら辺はおいおい考えますが……デイジー、しばらくの間俺に槍術、短剣術や接近戦での戦い方を教えてくないかな?」

「私でいいの? 基本はある程度分かってるけど我流だよ?」

「うん、構わない。ま~デイジーが嫌じゃなかったらだけどね」


 なかなか答えないデイジーに嫌なのか聞くと、こういう家庭教師的なことはシルバークラスくらいの冒険者に依頼を出すのが普通なのだそうだった。


「それじゃ、俺個人がデイジーに依頼するっていうではダメかな?」

「いやいや、さっき金貨まで貰っちゃったんだから依頼でお金なんて取れない! 依頼じゃく教えるよ!」


 そのくらいじゃ全然恩を返せないとかいっていたので、討伐系の依頼も手伝ってもらうことにした。 


「あ、レドラスさん。ここ貸してもらっていいですか?」

「ま~滅多に使う者もおらんので空いてる時なら使ってよいぞ」

「それじゃ、デイジー先生よろしくお願いします」

「リン……先生は止めて」


 その後、夕方までデイジーに基礎から鍛え直してもらう事にしたのだが……これが結構きつくて、腕立て、腹筋、スクワットを各100回をして、夕方までの残り時間はひたすら走り込んだのだが……デイジーには冒険者としては全然体力が足りないと言われてしまった。

 帰り際、レドラスにライラの送迎会やるから参加しないかと誘われたが、部外者ですからと断り、明日の朝に見送りだけすると伝え出立時間だけ教えてもらい宿に戻ることにした。


 今日の夕食は、昼が元いた世界の料理だったからマーセルにこの町に昔からあるような郷土料理のようなものがあればそれを食べたいというと、ビーフシチューによく似た煮込み料理、硬いパン、サラダが出てきた。

 パンとサラダは昨日のシチューセットについてきたやつと同じものだったが、今回のビーフシチューっぽいものは、ボアの香草煮込みとでもいうような料理で、ボアの肉を香草、山菜、水と塩で煮込んだだけの物で、すごく美味しいというわけじゃなかったが素朴で家庭的な美味しさという感じがして何だかほっとした気分になった。そんな食事を一通り楽しみ、代金を支払ってカウンターに行き、カギを受け取って部屋に戻ることにした。


 部屋に戻って身体を服ごと『浄化』してから部屋着に着替え、メールを確認してみるとリュースから返信が来ていた。


 お、昨日送ったメールの返信きてるな。どれどれ。


『メールありがとうございました。もう忘れられているのかと思ってましたよ』


 リュースのやつ、もう女神のかけらも感じなくなってきたな。


『まず年齢の事ですが、クスノキさんが何故魔力が無いのかというのも関係していまして――』


 内容を読んでみると、こちらの世界の魂が別の世界で身体を得て20歳まで生存するということはまず起こりえず、そもそも魂が別世界でまともに身体に定着できるはずがなく、生まれる前に死ぬか生まれたとしても数年で死に至るのが当たり前で、今回の事例は全くのイレギューラーであり、リュースも困惑しているらしい。

 20歳で世界がどうこうというのは前例があった訳ではなく、魂が別世界で身体を持って生まれたまま20年経過すると、世界に大災害などの異変を巻き起こし、そのまま存在し続けると最後には次元災害と言う世界そのものが消滅することにまで発展してしまうという言い伝えであるらしかった。


 なんか初めに聞いた話しとちょっと違うぞ? それにしても、神の世界でも言い伝えとかあるんだな。


 20歳になるまでに魂が消滅するか魂側の世界へ移動すれば災害などは起こらなくなるとなってはいたのだが、念のため15歳にして世界への干渉があるかどうかを検証することにしたということが書かれていた。 


 俺は実験動物か! ……ま、念のためってのは分かるんだけど、初めに説明してくれてもよかったんじゃないの?


 魔力が無いのは魂と身体が同一世界のものでないために整合性が取れないためなのだが、このまま死ぬまで体内に魔力が生まれないかは初めての事なので分からないらしく、だからこそ魔力を使えるようにスマホを持たせたという事だった。ちなみに、魂と身体が同じ世界の物であれば、どんな世界の者でもこの世界に来れば魔力を得るとのことだった。 


『宗教の事に関しては――』

 ラミルズ教という名前に関しては聞き覚えが無く、この世界にリュース以外の女神や神が来訪したということも記録にないから人間が独自に作った宗教ではないかとの事で、念のために色々調べておくとのことだった。


 神とか女神って結構存在するのかな? 神に関係ない宗教か……なんか人間に都合がいいような宗教みたいだし『人間が独自に作った宗教』と言う予想は当たりかもな。


『クスノキさん。申し訳ないのですが、そのうち世界の事をレポートとしてまとめてメールして欲しいです』


 ……俺は現地調査員じゃないぞ! とはいえ、俺もこの世界のことは色々と知っておきたいから調べてもいいんだけど……ただで現地調査員やるのも癪だし、レ―ポート送る見返りが欲しいとこだな。


『それから、私はしばらく出張で不在になるので何かあったらメールおいてください。戻りしだいメール確認して連絡します』


 出張? 女神が出張って、どこの会社員だよ! 


『それと、不在にする代わりと言っては何ですが精神を病んでる娘の治療のための治癒魔法を魔法アプリに送っておきました。ただし、これはその娘限定で一回しか使えませんし、使ったとしても必ず治るかは分かりませんので、一ヶ月ほど様子を見て何の変化も無い様でしたら残念ですが一生治る事は無いでしょう』


 リアンナ限定で一回だけか……明日デイジーに相談して、許可がでたら使ってみるかな? さて、明日はライラたちを見送るために早目に起きたいからそろそろ寝ようかな~。


 寝坊しないようにスマホの目覚ましをセットして就寝することにした。


 翌朝、スマホの目覚ましの音で起き、手早く身支度してライラたちの部屋へと向かった。ライラたちはすでに起きてこれから朝食を食べに行くところだそうだったので一緒に朝食を食べ、その後そのまま馬車の発着場まで見送りに行く事にした。


「ライラさん。色々お世話になりました。それではお達者で」

「いえ、こちらこそライを助けてもらったのに、なんのお礼も満足にできませんでした」

「そうだな。もし、こっちに来るような事があったら頼ってくれ」


 ガウリィオ大陸のライナス村だからなと念を押されバシバシと肩を叩いてきた。力加減をして欲しいと心底思った


「おにぃちゃんありがと。またね」


 うんうん。どこの世界でも子供はかわいいね~。しかも獣人だし……子供+動物、どんな名優でも『子供と動物には勝てない』って言われるぐらいの二つが合体した存在だし無敵だな。 


 ライラ一家はガウリィオ大陸に向け旅立っていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る