第七話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドへは、シャルディア、ガイラル、レイそして俺の四人で行くことになり、他のメンバーは宿の手配、商人たちは商会に属している店への挨拶回りなどをするらしかった。

 冒険者ギルドに入り、シャルディアが受付で盗賊の事を話すと、すぐに職員のお姉さんにギルドマスターの部屋まで案内される事になった。

「へ? 俺も行くの?」

「うん、リンも一緒にきてちょうだい」


 俺はただの落ち人で、会った頃なんて怪しんで置いてこうとしてたのに、そんなやつをギルドマスターなんて偉そうな人に会わせていいものなのかね。


 いつまでも話している俺たちに職員が、申し訳なさそうに話しかけてきた。

「あの~、そろそろご案内してもよろしいでしょうか?」

「ああ、ごめんなさいね。この四人でいくわ」

 俺の意見は聞かれる事も無く、なし崩し的に一緒に行くことになった。そして相変わらずレイは無言。

 案内されたギルドマスターの部屋は二階の大きな扉の部屋で、職員がその部屋の扉をノックして確認を取った。

「失礼します。マスター、バルデス商会の方々がお見えになりました」

「おお、来たか! 入って貰いなさい」

 そう言われて職員が扉を開け、俺たち四人はギルドマスターの部屋の中へと入って行った。

 部屋の中は広く、色々な調度品やソファやテーブルも置いてあり、応接室も兼ねているような場所だった。そして扉の向かいの窓の所にある大きな机の所に、白髪白髭で痩躯の、顔を見た目は六十代と言った感じで眼光の鋭い爺さんが立っていた。

「久しぶりじゃのう。シャルディア嬢ちゃん」

「もう、いつまでも子ども扱いしないでください。今や私は商隊を率いる立場になったんですから、嬢ちゃん呼びはやめてくださいよ! それより、ギルドマスターとしてちゃんと挨拶してください」

「おっと失礼。お初にお目にかかる、儂はこのギルドのギルドマスターのレドラスじゃ、よろしくの。ま、立ち話もなんじゃ、座ってくれ」

 そしてソファーに座り、職員が持ってきたお茶を飲みながら話をする事となった。


 それにしても、この二人は知り合いだったんだな。てか、レイが無口なのはいつもの事として、ガイラルまで無口だな、何かガチガチだし緊張してるのかもな。 


「しかし、よくぞあれだけの盗賊を…しかも、あの悪名高いエラルやその幹部クラスのやつまで捕らえてくるとはのう」

「ええ、まぁ成り行きで」

「成り行きなんかでどうこうできる相手じゃないはずなんじゃがのう」

 聞くところによると、エラルたち盗賊団は最近になって活動を活発化させて、ホラブ町に入るために並んでいる人たちにまで被害が出ていたらしく、この町の領主と冒険者ギルドはこの事を重く受け止め、エラルたちの手配書の金額を上げて、盗賊討伐の依頼なども多く出していたが、なかなか被害が減らなかったので、近いうちに討伐隊を編成しようかと言う話になっていたらしかった。

「して、報酬の方じゃが、おまえさんに渡せばよいのかの?」

「ええ、いったん私が預かって、後でしっかり分けますわ。それと、後から旅の途中で得た魔物の素材なんかも少し買い取ってくださいませんか?」

「ほぉ、素材かの。話は通しておくから後で受付に持ってきなさい」

 その後もシャルディアとレドラスは商売の話や昔話をしていた。正直言って俺は暇だった。

「それではそろそろお暇しようかと思うのですが……」

「おお、こりゃすまんのう、ついつい長話をしてしまったわい。盗賊討伐報酬とエランの手配書の分を合わせて金貨八枚じゃ」

 そう言ってテーブルに金貨八枚が積まれ、シャルディアがそれを確認していた。


 盗賊討伐と賞金首で金貨八枚となると、スマホに入ってる金は凄い金額と言う事になるな。あ、そう言えば、今の二人の会話の中でギルドに入ると身分証になる物がもらえる様な事が聞こえてきてたような……。


 シャルディアが金貨を数え麻袋に入れて、部屋を後にする事になったところで、俺はレドラスに冒険者になりたいことを話すことにした。

「あの、ギルドマスター」

「レドラスでよいぞ?」

「では、レドラスさん。まず、自分はリン・クスノキです。落ち人なんですが、冒険者ギルドに登録ってできますか?」

「ほう、落ち人とな。落ち人は珍しくはあるが、普通に登録してもらって構わんぞ」

「あら? リンは冒険者になりたかったの?」

「お、リン。分かってるじゃねぇか、男ならやっぱ冒険者だよな!」

「……」


 お、ガイラルがいきなり話に入ってきたな、レイ……相変わらずだな、何か言ってくれよな。


「ただし、いくら盗賊討伐に加わっていたと言っても、最初のランクから始めて貰う事にはなるがの」


 ま、そりゃそうだろうな。俺だっていきなり上のランクにされても、悪目立ちしそうだから嫌だ。


「ええ、身分の証が欲しいだけなんで、冒険者になれるだけで十分です」

「それでは、ちょっとまっておれ」

 レドラスはそう言って、近くにいた職員に何やら指示を出していた。

「俺は冒険者登録をしていくんで、シャルディアさんたちはどうぞ先に行ってて下さい」

「じゃ、リンの分の宿は押さえておくから、宿が決まったら冒険者ギルドへ連絡させるわね」

「ありがとうございます」

 そして、シャルディア達は部屋を退出していった。それと入れ替わるように職員が何やら色々な物を持って部屋へと入ってきた。

「さて、冒険者登録じゃが、小難しい事は何もありゃせん。というか、難しい事を書くと冒険者になれる者がほとんどいなくなってしまうからの」


 この世界の冒険者は脳筋ばかばっかりなのか? まぁいい、とりあえず説明を聞こう。


  1・冒険者ギルドは大陸や国を超えた組織である。

  2・冒険者ギルドに登録した者同士の殺し合いになるような私闘を禁ずる。

  3・その国の法律には必ず従う。

  4・何か不明な点があれば受付で聞く。

  5・ダンジョンより持ち出したもの、魔物の素材などは、自分で使う以外の物については、まずはギルドに卸す。

  6・基本的に、冒険者ギルドがルール


「と、基本はこんなもんじゃぞ?」

「いやいや、さすがに簡単すぎやしませんか?」

「ふむ、それではもすこし詳しくかの? それじゃ、こっちのギルドルールの説明書に目を通してくれ」

「なんだ、ちゃんとそういう物があるんじゃないですか! これって貰えないんですか?」

「いや、ほとんどの者は、この説明書を読むことを拒否するぞい。あと、紙は高価じゃからやれんし、販売もしておらんし、だいたいの――」

 レドラスの話では、冒険者になる様な者は読み書きができない者も目ずらいくないという事で、そもそも説明書の内容を理解できるような者は、冒険者じゃなく騎士や商人などを目指すのが普通だという事だった。 


 う~んこの説明書、結構色々な事が書いてあって、すぐに全文を覚えきる自信が無いな……あ、スマホのカメラで撮ればいいんじゃないか!


「あの、魔道具でこの説明書を写し取っていいですかね?」

「何? そのような物を持っておるのか、ま~汚したり破いたりせんのなら別に構わんぞ」

 許可が出たのでスマホのカメラアプリを起動してギルドルール説明書をカメラで撮って、画像フォルダの題名を『ギルドルール』として保存しておいた。


 なんだろう、この世界にきて初めてスマホらしいスマホの使い方した気がするな。


「読み終わって、納得したらこの紙に必要事項を記入しておくれ」 

 そう言ってレドラスが一枚の紙とペンをテーブルの上に置いた。 

「それにしても、不思議な魔道具じゃな。ちょっと見せてはくれんかの?」

「すみませんが、これは俺にしか触れないんですよ」

 そう言って、実際に触れさせるとレドラスの手がスマホをすり抜けた。レドラスはそれを見て大層驚いていた。


 あれ? そう言えば、実際にスマホを他人に触らせるのを試したのは、これが初めてだったな。


 その後、渡された紙に必要事項を記入し、レドラスに渡した。

 ちなみに、レベルなどが分からなくてどうすれば分かるのか聞くとステータスと念じれば出ると言われたが、俺にはできなかったので、試しにスマホのカメラアプリで自分の手を撮り、鑑定機能を使ってみたら、名前、種族、年齢、レベルが表示された。しかし細かいステータス(HPやMPなど)は表示されなかった。

 そして書いた紙はこういうものだった。


    冒険者ギルド新規会員登録票


 ギルドカードへの記入事項

   ※【 名 前 】 リン・クスノキ

   ※【 種 族 】  人

   ※【 性 別 】  男

   ※【 年 齢 】 15

   ※【 ランク 】 ウッド 

    【 レベル 】  5

    【 能 力 】  無

    【 魔 法 】  無

    【 連絡先 】  無

    【パーティー】  無

    【 備 考 】 スマホ(魔道具)


 ※は確実に記入してください。記入の無い場合は無効となります。


 スマホについては、何に該当するのか分からなかったので備考の所に魔道具として書いておいた。と、それはいいのだが何故か年齢が15歳になっていた。


 あれ? なんで15歳なんだ? リュースが何かやったのか……まさか、また20歳になる前に他の世界に飛ばされるんじゃないだろうな? 今度聞いてみるか。


「よし、ちゃんと書けておるの。それじゃ、この板に血を一滴垂らしてくれるかの?」

 そういってB5用紙ほどの大きさのガラス板に魔法陣が描かれた物の上に、先ほどの冒険者初回登録票、さらにその上にクレジットカードと同じくらいの大きさの金属板とドッグタグほどの大きさの木のプレートを置き、ガラス板の下の所へ針を右の人差し指に刺して血を垂らした。

 するとガラス板が光り出し、上に乗っていた冒険者初回登録票を光の粒子にかえ、全てを光が包み込み、光が収まると、金属板は青色のカードに変わり、木のプレートと青のカードに文字が刻まれていた。

「よし、うまくいった様じゃな。これでギルドカードとウッドプレートの完成じゃ」


 このガラス板の様な物は魔道具かなんかなのかな?


「ほれ、このがお主のギルドカードとウッドプレートじゃ、なくさないようアイテムバッグにでもしまっておくんじゃぞ。あと、このウッドプレートは自身の冒険者ランクを示すもので、ランクの名前と同じ材質の物になるんじゃ。そしてこのプレートは必ず目に見えるとこに付けて置かねばならんのじゃ、とりあえず紐を付けておくから首から下げておれ」

「はい、分かりました。それでは手数料と年会費の支払いを」

「ああ、それなら嬢ちゃんからもう貰っとるよ。それと、何か困ったことがあればシャルディア嬢ちゃんの知り合いだし相談に乗るぞい。じゃが、あまり頻繁にはくるでないぞ? これでも一応はここのギルドマスターじゃし、他の冒険者たちにも示しが掴んでな」


 あれ? いつの間に払ってくれたんだろ? 後で礼を言っておかないといけないな。ま、そりゃギルドマスターなんて偉い人に駆け出しがおいそれと会うわけにはいかないだろうな。


 手続きを終えてレドラスに挨拶をし、一階に降りて受付の職員にバルデス商会から俺に何か言伝がないか聞くと、シャルディアからの伝言で、宿は「黒猫のひげ亭」にしたという事を受付職員から聞き、ついでにその場所がどこか道を教えて貰い、宿へと向かう事にした。

 ちなみに、渡されたギルドカードはこんな感じだった。


  【 名 前 】 リン・クスノキ

  【 種 族 】 人間族(異世界)

  【 性 別 】  男

  【 年 齢 】 15

  【 ランク 】 ウッド

  【 レベル 】  5

  【 能 力 】  無

  【 魔 法 】  無

  【 称 号 】 落ち人

  【 備 考 】 スマホ(魔道具)

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