第八十三話 ギルドカード再発行

 ライアスとコーレアを繋ぐ街道も犬車が走れる程度にま雪が解け、ちらほらと冒険者などを中心に村に人がやって来るようになってきた。ただ、移住に関してはまだ村で受け入れる態勢がが整っていないため移住の受け入れは拒否していたのでそのまま長期間(約半年程度)村に居座った場合は例え期間中に移住受け入れが開始されたとしても移住受付開始以前から村にいた者は一旦ライアスへ戻って移住申請しないと認められず、もし強引に村に居続けた場合は罪に問われる事になるらしい。

 一応ライアスからコーレア村へ行くには許可が必要になる事になっており、前科持ちやあまり粗暴な者は排除しているそうなので無理に村に住み着こうとする者はまずいないであろうと予測されているとの事だった。


 そういえばやってきた冒険者は確かに乱暴者って感じしなかったな、偉そうな態度もしてなかったし結構礼儀正しい人たちばっかりだった。


 村にやってきていた冒険者を眺めてそんな事を考えていたら。以前メルに遊び道具を作ってやると言った事を思いだしこれといって急ぐ用事も無かったのでメルに木製ドッグウォークなどの遊び道具をいくつか作った。


 もうすぐ村を出るから壊れた時とかのこと考えて誰かに管理を任せた方がいいよな?


 その後すぐに壊れやすい箇所の部材を量産し簡単な設計図や整備費として多少の金をダイロに渡し整備を任せた。


 あ、そうだ。一応村長たちにも、もう少ししたら旅に出る事言っておいた方がいいよな。下手にこっちをあてにした長期の仕事まわされても困るし、ちゃんと言っておこう。


 村長に話に行ったら丁度院長がいたので近々村を発とうと思っていることなどを話しておくことにした。


「近々村を発とうかと思ってます」

「それはまた突然じゃな」

「え! リン君はこのまま私と一緒に孤児院を「しません!」まだ最後まで言ってないのに!」


 いや、真面目な話してる時に何言い出すかな~このダメウサギは!


「一応、孤児院に厄介になる時に言ったと思うんですが『春になって駅犬車が通るようになるまで厄介になる』って言う様な事」

「おお、そう言えばそうじゃったの。色々あり過ぎてリン君はずっとこの村に住んでた村民の様な気になっとったわい」

「本当に……それはもう私とは一緒に孤児院を経営してる夫婦「なって無いです!」……まるで夫「だから無いって!」……恋び「無い!」そんな強く否定しなくても」

「いや、ここで強く否定しとかないと後が怖いんで! 話が進まないんでふざけないでください! ちなみに、ふざけてないとかいう意見はスルーします」


 ほんとこういうとこは否定しとかないと怖いからな。別に院長が嫌いってわけじゃ無いんだけど、見た目は美人だし性格も……ちょーっと難はあるものの基本いい人ではあるんだけど、どうも恋愛対象に見えないんだよな。


 駅犬車が運航開始に合わせ村を発つ予定だと伝え、ラウとルカの事に関しても二人に話しておくことにした。


「――と言う感じでお願いします」

「ふむ、分かった」

「寂しくなるわね」


 村長の家を出たところで、ギルドカードの種族の欄が『人間族?』と言うのはまずいのではないかと今更ながら思い、変更――したら嘘になるから隠匿できないかマルトに相談しに行く事にした。


「こんにちは」

「あ、リン君こんちゃ。最近冒険者の人たち増えたから依頼残って無いわよ? それともなんかギルドからリンくんたちへ指名依頼とか出てたっけ?」

「いや、依頼とかじゃないよ。ちょっとマルトさんにお願いがあってきたんだけど、今大丈夫かな?」

「あー、ちょーっと書類に埋もれてるはずだけど、リンくんならあってくれるんじゃないかな~? ちょっち待っててね、今聞いてくるからー!」


 ミミリスは元気よくマルトのいるであろう部屋に向かって走り去っていった。そして、ややあって扉が開きこちらに向かって大きな声で呼んできた。


「リンくーん! 手が離せないから部屋に来てだってー!」

「――ミ・ミ・リ・スさん? 例え知人が来たとしても、ちゃんとしたギルドの受付としてふさわしい対応をしてくださいね? じゃないと……分かってますよね?」

「にゃ、にゃーーー! し、失礼しましたですルカ先輩! んっんん、し、失礼いたしました。今後このような事が無い様気を付けますです! ひ、平にご容赦を!」


 いつの間にか別の部屋から書類の束を抱えたルカがやってきていてミミリスの俺への対応に対して注意をし、それを聞いたミミリスは訓練された兵士の様にピシッと姿勢を正し敬礼の体勢になっていた。


「それに、ミミリスさん。横着しないでちゃんと受付まで戻ってお客様に報告してください。ギルマスもちゃんと注意してくださいね?」

「す、すみませんでしたー! わ、わたくしの監督不行き届きでルカ様の手を煩わせて――」


 おぅ、なんかマルトが『ルカ様』とか言って謝ってるのが聞こえたんだが、ギルマスなのに……ルカって、まだ職員ですらないはずなのに、もしかしたら既にこのギルドを掌握してるのかな? ルカにはもうちょっとラウまでとはいかなくても天真爛漫に育って欲しいな。てか、俺はどうすりゃいいんだろ?


「すみませんでした。リン兄……リンさん」

「いや、別に俺は『リン兄さん』でもいいんだけど?」

「いえ、ちゃんと公私の区別は付けないといけませんので」


 ルカって何歳だっけ? どう考えても言葉使いや態度がすでに大人顔負けなんだが……まさか生前の記憶がよみがえったとか言わんだろうな?


 とりあえずマルトのいる部屋へ向かった。ちなみに、ギルドは冒険者に対しては基本さん付けで、依頼者に対しては様付けであるらしい。 


「ごめん、この書類だけ片付けちゃうからそこに座って紅茶でも飲みながらちょっと待っててください」

「はい……ん? いつの間に紅茶が?」

「ルカさ……くんが用意していきましたよ」


 マジか! いつの間に用意したのか全く気が付かなかったぞ。


 いつの間にか用意されていた飲み物とクッキーに驚きつつ、座ってありがたくいただきながら待つことにした。


「――ふ~、それで、用事と言うのは何でしょうか?」

「実はギルドカードの事で相談があるんですが」


 この先別の町などへ行く際に種族の欄が『人間族』だと揉める原因になるのではないかと思っている事などを話した。


「んー、そうですね~、確かに現状ですと『人間族』と言うのは下手したら町に入れて貰えないとか、最悪牢屋行なんて可能性もありますね(まさか殺される事は無い……とも言えませんかね?)……獣人族とかの虚偽表示は規約違反になっちゃいますんで、不審に思われる可能性もありますが種族の表示をさせないように変えた方がいいかも知れないですね」


 小声で言ってたけどちゃんと『殺される』って聞こえてたぞー。ちょっと認識が甘かったかもしれないな、とりあえずこっちの大陸にいる間はコスプレを止める事は出来ないな。


「そ、そうですねー。それじゃギルドカードの種族の変更をお願いします」

「えーと、名前と年齢以外の表示は表示内容の変更は余程の理由がない限りできませんが、カード所持者が魔力を流して変えたい項目を念じれば任意で簡単に非表示に切り替えれますよ?」


 言われた通りに『倉庫アプリ』からギルドカードを取り出して『種族の欄、非表示になれ!』と念じたがいくら念じても全く変化しなかった。


「……できないんですけど?」

「あれ? ちゃんとギルドカードに魔力流してますか? ギルドカードに魔力流しつつ任意の欄を非表示にしたいと念じればすぐに表示が消えるはずなんですが」


 ああ、なるほどね、魔力ね、聞き逃してたな……って、俺魔力ないから無理だな。さて、どうしよう。魔道具みたいな感じでいいならスマホから魔力照射すれば行けるかな?


 俺は魔力が弱く照明の魔道具を点ける事も難しいと言うようにマルトに伝え、さらに魔道具|(スマホ)を使えばもしかしたらもしれないと思いとりあえず試してみたのだが、表示は一切変わらなかった。 


 やっぱり登録の時に血だけだったから無理だったか。


「う~ん、変わりませんね。宜しければ念のためどのように登録したのかお教えいただければ……」

「えーと――」


 初回登録した時の事を最初から順番に話したが、特に登録方法に関して問題は無くギルドの方で何か手違いがあった可能性はまずない事から、使用者個人の問題であるとの結論になった。

 この世界で生活魔法以外使えない者は数多く存在し、魔力を体外に出すことが不得意で生活魔法が使えず、魔道具もうまく使えない者も多少いるが完全に魔力を持たない者はおらず、人種以外の動植物でさえ魔力を持っているので俺の様な存在は病気でも無ければあり得ないそうだ。

 ちなみに、血液で登録するのは本人の生体情報を読み取って書面に書いた内容と会っているか確認するのと登録を簡易的に行う方法で、その中には魔力も入っている。


「そう言う病気あるんですか?」

「魔欠病と言って体内の魔力が放出されてしまう病気です。それにしても、このままでは表示を変更できませんね……どこか大きい都市のギルドならできるのですが」


 大都市にある様なギルドでなら書類を書いて提出すれば特殊な魔道具で何とかなるかもしれないらしいがこの近くにはそんな大都市はないとの事だった。

 費用は掛かるが再発行ならできるから血液に魔道具の魔力を流してみてはどうかと提案され再発行を頼むことにし、早速再発行費用を支払い再発行証を書き依然と同じ様に血液を垂らしたところでスマホの魔力照射を行いとりあえずギルドカードの再発行が終わった。


「いまさらなんですけど、魔道具を使って魔力登録とかしてよかったんですか?」

「規約に魔道具を使ってはいけないとはないんで大丈夫ですよ。それにうまく行ったかどうかやってみないとわかりませんし、とにかく試してみてください」


 ギルドカードにスマホから魔力照射しつつ種族の欄を非表示にするため目を閉じて集中し『非表示になれ!』としっかりと念じてから目を開けてカードを確認すると、ちゃんと種族の欄が空白――つまり、無事に非表示に変っていた。


「うまく行きました!」

「おめでとうございます。それと、注意点が三つあります。一つ目、今回の魔道具を使った登録法を絶対に他言しないでください。二つ目、魔道具を使ってギルドカードへの魔力照射する際は誰にも見られないようにしてください。三つ目、非表示の項目はギルドでは種族確認できてしまうのでそこはご了承ください」

「ギルドに隠す事は出来ないんですか?」

「そこは無理ですね。虚偽記載として罰せられる可能性があります。とは言え、犯罪を犯さない限りギルドカードの内容を他者に漏らすような事はありませんのでご安心ください。それに、ギルド増築の際にも依頼だったとはいえ色々と助けていただきましたし、私にできる範囲で何とかしときます」


 そんなマルトの言葉を嬉しく思いつつ、あくまでも無理のない範囲でお願いしますと言ってからギルドを後にした。

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