第八十四話 旅立ち

 ギルドでギルドカードの再発行を無事に終え、孤児院に戻ってからラウとルカにもすぐコーレア村を発つことを告げると。


「じゃ、準備しとくぜ」

「荷物をまとめておきます」

「いや、お前たちはここに残れ。それと、奴隷からも解放する」

「あ、兄貴、どういう事だよ! 俺、俺たちはついてくぜ!」

「そうですリン兄さん。たとえ私だけでも「え、ルカ?」お兄ちゃんはむしろここに捨て――置いていって私はリン兄さんと一緒に」

「……なぁ、兄貴。ルカが日に日に俺に対して酷くなってきてる気がするぜ」


 うん、結構前からそれは感じてた。でも、まさか捨てる的な発言までするとは思ってなかったな。初めの頃は仲のいい兄妹だと思ってたのにいつの間にこうなったんだろうな。


「言っておくけど別におまえたちが邪魔だから捨てるとかそう言うのじゃないからな? それに、根性の別れになるわけじゃ無い。レイの事が片付いたらこの世界をある程度見て周ろうとは思ってるけどいつか必ずここに帰って来るつもりだ――さて、ついでだし今の内に奴隷契約を解除しちゃうか」

「「…………」」


 俺の血を一滴二人の奴隷紋に垂らし、二人を奴隷から解除する事を宣誓すると奴隷紋淡く光、そして消えた。


「よし! これで奴隷から解放されたはずだけど……どうだ?」

「……紋様が無くなってる。あ、兄貴! 俺が兄貴の奴隷じゃなくなったって事はもう兄貴は俺の兄貴じゃなくなったって事で兄貴をを兄貴って呼んじゃダメなのか? それに、こうやって普通に話すのもダメなのか?」


 『兄貴』と言う言葉が多すぎてなんかもう言ってる意味が分かり難い! ま、言いたい事は何となく分かるからいいけど。


「ん~、今まで通り『兄貴』でいいんじゃないか? てか、あんまりよそよそしくされても傷つくぞ? 俺が」

「……リン兄さん。今まで通りでいいんですよね?」

「うん、二人がそれでよければ『奴隷』ってとこは抜きで今までと同じ方が俺としても嬉しいけど……それでいい?」

「「はい!」」


 よ、よかった~。ま~今までの感じでないとは思ってたけど、もし『こんな奴の奴隷からやっと解放された』とか『やっと離れる事ができる』とか何とか言われたらショックで寝込むとこだった。

 ほっとしたら思考にもちょっと余裕が出てきぞ、一応スマホの事とかの事について釘を刺しておこう。


「あ、そうそう。一応言っとくけど、魔道具の事とか引き続き秘密にしといてくれよ?」

「あー、そう言やそんな事言われてたような……気がする?」

「……お兄ちゃん。リン兄さん、お兄ちゃんはちゃんと私が管理しておくので安心してください」

「いや、管理って実の兄に対して……ま、ラウだし口滑らせないかちょっと心配ではあったんだけど、とにかくルカがいれば大丈夫か」


 ラウの様子にちょっと不安を覚えたが、ルカがしっかりしているのでまず大丈夫だろうと思っていたらふと自己紹介の時に言ってた『ツィーラ』と言う家名を思いだし、気になったので聞いてみる事にした。


「そう言えば、いまさらなんだけどラウとルカに『ツィーラ』って家名あっただろ? あれって孤児院の家名なのか?」

「ん? 兄貴、何言ってんだ?」

「リン兄さんあれは家名とかではなく商品名的な物ですよ?」


 ラウとルカの名前にあった『ツィーラ』と言うのは奴隷商の店名だったらしい奴隷店ツィーラのラウディアって事だったようで、売られると奴隷店の所有物ではなくなるため名前からツィーラはなくなるそうだ。滅多にないが家名持ちが奴隷になると家名は剥奪されてしまうという事だった。


 あそこの奴隷商ってツィーラって名前だったんだな。全然店名見てなかったし、他の奴隷たちは『ツィーラ』って名前に付けて自己紹介――名前の事どころかまともに自己紹介もされてなかったな。てか、奴隷に家名の様に自分とこの店名漬けるのがこの世界の常識なんだな。


「ま~、なんだ。これからは血は繋がってないがラウは弟、ルカは妹のように思ってるから家族の様な付き合いしてくれると嬉しいかな?」

「「おう(はい)!」」

「と言っても、俺はしばらく旅に出るんだけどな」


 数日後、一週間後に駅犬車の運航が始まると言う情報をギルドで聞き、その話を受けて翌日に村長たちが村を上げての送別会を企画しだしたと言う話を院長から聞いた。


 いや、いいんだけどさ。本人に言うのはどうかと思うんだよね? こういうのは本人に隠してサプライズとかじゃないのかな~?


 院長が村長にこってりと叱られた後にどうせバレたのなら仕方がないと、何故か俺も送別会の企画会議に参加する事になった。


 おかしくね? 俺の送別会だよな? 自分の送別会を自分でやるみたいで違和感が半端ないんだけど! いや、やれって言われればやるよ? ただ、もやっとする! よし、このもやっとは院長にぶつけることにしよう! さ、もやっとの行き先決まったし、会議会議。


 送別会は当初は誰でも参加できる送別会を一週間に渡って行うにするつもりだったらしいのだが村民以外の者も結構村におり、たいして関わり合いの無い村外の者にただ飯食わすのもどうかと言う意見が結構多かったので、ちょっと早いが春祭りも兼ねて行う事として、開催期間に関しては二日間、余裕をもって俺が出発する四日前に開くことが決まり、出店なども出して表向きはただの春祭りとし、二日目は夕方までとしてその後に一般客(村民以外)お断りの春祭りの打ち上げ会と言う体で送別会を行う事に決まった。


「本来なら一週間くらいかけて送別会を開きたかったんじゃが……」

「やめてください! 一週間って、もうそれは送別会とは違う何かですよ!」


 あれ? でもこの世界だと一週間くらいかけて送別会するのが常識とかだったりするのか?


「そうですよ村長。さすがに一週間は長すぎますって、さすがに一週間ぶっ続けで酒飲めませんぜ? 精々五日が限界でさぁ」


 え、気にするとこそこなの? 結構な日数かけて送別会するのは普通なの? てか、五日も飲み続けるとか体壊さないのか? 


「お前さんたち! バカなこと言ってんじゃないよ? ただ単に酒飲んで騒ぎたいだけだろう! ああ、リン。送別会って言やぁ普通は一日も掛からないもんだよ。まぁ村ん中には村に利益をもたらしてくれたリンに感謝してる連中が多いから盛大に送り出したいって言って考えてるのもあるから悪く思わないとくれ」


 あ、やっぱ何日もかけてやるもんじゃないんだな。気持ちは嬉しいけどあまり大げさにされるのは勘弁して欲しいとこだ。


「いや~、もう別に送別会が無くてもかまわ『それはない!』……あ、はい」


 送別会なんて開いてくれなくていい発言しようとしたら総ツッコミを喰らってしまった。



 翌日から春祭りの準備でみんな忙しそうにしていた。俺も手伝おうとすると、送別会の主役なんだからと手伝いを拒否されてしまったので、せめて料理に使ってもらおうと『倉庫アプリ』に結構入っていた雪ラビットの肉を押し付け――もとい、受け取ってもらいその場をあとにした。

 これといってする事も無く暇になってしまったのでメルと軽く戯れてから村を出て魔法の練習をしたのだが、今回は何故か雪ラビットの群に襲われすべて倒したら渡した雪ラビットより多く得る事ができた。

 村長に伝えると雪ラビットの群れに会うなんて数十年に一度あるかないかぐらいだと驚かれた。


 春祭り一日目、ライアスからも商人が来て出店を出していたので小さな村の祭りにしては結構な規模となっており、客に関してもライアスから日帰りで祭に来ている者も多く中々の賑わいを見せていた。

 春祭り二日目、いまさらながら春祭りと言いつつただで店が出てるだけの祭りにこれでいいのかと思ったが別にそれを気にしてるような人は見受けられなかったので騒げれば何でもよかったのだろう。そして祭りも終わり片付けは翌日にして俺の送別会が開かれる事になった。


「えー、それでは村に多大な貢献をしてくれたリン君の前途を祝して、乾杯!」

『乾杯!』


 ちなみに俺は村長の隣に座り乾杯の後に次々と挨拶に来る人達の対応をし、しばらく酒や料理にほとんど手を付ける暇も無かった。その後やっと挨拶地獄から解放され席を立ち空いてる所に座って料理を食べつつ雑談をした。


「――いや~、それにしてもあのクマ倒すなんてリンはさすがベテラン冒険者だな」

「え、俺まだ冒険者になってから一年もたってないですよ?」

『えええーー!』


 周りで聞いてた者たちまで驚いていた。その中にはちょうどギルド職員の面々もいた。


「何でギルマスまで驚いてるんですか?」

「私も今初めて知ったので」

「え、そうなの? てっきりギルマスとリンくんって昔からの知り合いなんだと思ってた~」


 そう言えばコーレアに来てまだ半年もたっていないんだよな~。


 そのあとはいろんなとこから声を掛けられては話しをして時間が過ぎて行った。


 何と言うか送別会を口実に春祭り――もっと言うと、前に村のおばさんが言ってた『ただ単に酒飲んで騒ぎたいだけだろう!』との言葉通りにただ宴会がしたかっただけなんじゃないだろうな? 送別会のはずなのに一角ではいつの間にかリバーシ大会みたいな事やってたし。


 春祭りの打ち上げ兼送別会は夜遅く日付が変わる時間まで行われた。もちろん子供たちは夜遅くなる前に帰って(保護者が強制的に)いった。


 翌日は朝から多くの者が二日酔いであちらこちらで唸っていて、さながらゾンビのうめき声の様でちょっとしたホラータウンの様相を呈していた。

 ちなみにレイにはルカを見針として付けて置いたので深酒をする事がなかったため軽い二日酔い程度で済んでいた。


 それにしても、良くもあんなに酒をため込んでたもんだな。それともライアスから取り寄せたのかな?



 送別会の後は道中他人に見られても問題のなさそうな保存食を中心に作ったり、ラウと組手をしたりルカと魔法の練習をしたりして過ごしていよいよ村を発つ日になった。


「お世話になりました」

「それはこっちのセリフじゃわい」

「リン君いつでも帰って来なさいね。できれば早く私をむか「遠慮します」……」


 院長にはこれからコーレア村に来るであろう新しい住人や冒険者の中にいる優良物件な独身男性に期待して欲しい。


「兄貴、ぜっっっってぇぇぇぇ! 帰ってきてくれよな!」

「リン兄さん、レイ姉さん、お帰りをお待ちしてます」

「――あ、も、もちろんレイ姉もな」


 取って付けた様な事を言ったラウにレイの氷魔法が炸裂しラウは氷漬けになったが、自力で氷の中から出て震えていた。丈夫な奴だ。


 ラウが氷漬けになってたけど、あれを俺がまともに喰らったら自力で脱出するなんてとても無理だ氷漬けのまま死んじゃうな。


 ラウのおかげ(?)でしんみりした空気にならずに出発する事ができた。ちなみにライアスまでは犬車ではなく徒歩で向かう。



「さて、とりあえずライアスだな。そこで準備してから情報にあった町を目指すか」

「……リン……本当によかったの? 別に私――」


 レイが言い切る前に『いいんだよ』とレイの頭を無造作にわしゃわしゃと撫でると抗議の声を上げつつも尻尾が揺れていた。

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