第四十六話 隠し部屋発見

 各々得意な方法で魔物と戦ってみた結果、遠距離攻撃二名、近接攻撃(速度重視)一名と防御をする者がいなかった。


「ん~、欲を言えばタンク役が一人欲しいとこだな……俺がタンクやるか?」

「……遠距離火力……リン高い」

「そうだぜ、こん中だったら兄貴の魔法が一番強ぇぜ!」


 ラウも慣れたもんだな。あんなレイの話し方に対応して会話が成立してやがる。それにしても、タクティカルグローブのおかげで相手の攻撃を防げるけど、範囲が狭いからやっぱり俺がタンク役として二人を守るのはきついか。となると、ここは身体能力なら俺より上のラウを前衛ろして俺とレイは後衛、前衛と言ってもラウは相手の攻撃をかわして戦うタイプだからな~、敵の注意をひかせてる間に俺とレイで敵を殲滅っていう方法しかないか。


「……リン?」

「兄貴?」

「ああ、悪い。ちょっと考え込んじゃってたよ。それじゃ、前衛はラウで相手の注意を引いて攪乱、そこを俺とレイで中遠距離から攻撃ってことでいいか? あ、それと他の冒険者がいたら余計なトラブルを起こさないようにその場を離れるからな」

「おう(……ん)」


 とりあえず連携を確かめつつ地下15階層まで進んだところでその日の探索を終了させた。


 初めはぎこちなかった連携も何とか形になってきたな。これならよほど強い魔物が出ない限り大丈夫そうだ。とはいえ油断はできないけど。


 夕食後レイになんでダンジョンであんなに迷いなく進めるのかと聞かれたので、スマホで地図確認できることを伝えると、普通は紙が高いから通て来た通路を書き記すことは困難で、かと言って木板などに書くにも荷物がかさばるから普通はできず、何処をどう通て来たかをすべて覚えないといけないから大変なのにズルいと言う事をジト目で言われてしまった。


 いや、ズルいとか言われてもそういう便利な機能があるんだから使わないと損だろうに。


 地下16階層は連携に慣れたこともあり殲滅速度が上がったことで思っていたよりスムーズに進む事が出来たので、その勢いのまま地下20階層まで一気に駆け下り一泊してから地下21階層をすんなり駆け抜け地下22階層へ進んだ。


「さて、ここから先は初めてだから気を引き締めていこうか」

「おう(……ん)」


 地下22階層は土造りの洞窟と言った感じで、そこそこ広い通路で罠の少ないフロア。

 出てきた魔物は頭に角が生えているクマのようなホーンベア、元の世界の太古にもいたとされるのと見た目と名前が同じサーベルタイガー、普通のボアより身体が大きく身体に複数の棘のあるニードルボアで、獣系の魔物ばかりだった。


「なんか出てくる魔物が獣系ばっかりだから食料にできそうだな」

「おう! 肉がいっぱいだぜ!」

「……なんか……ちがう」


 ラウは肉だと喜んでるけどレイには飽きられてしまったな……でも、食料確保は大事だろうに。


 これといって苦戦することも無かったので、最近あまり槍で戦ってなかったので武器を槍に変えてラウと一緒に近接戦闘で魔物を倒していった。


「……リン……槍?」

「槍を使う鍛錬はしてるけど、たまには実戦でも使わないと勘が鈍っちゃいそうだからな。幸いこの階層は通路も結構広いから槍を振り回すのに邪魔にならないしな」


 地下23階層は石造りで割と広い通路で、落とし穴がやたらと多いフロア。

 出てきた魔物はゴースト、見た目はゴーストとほぼ同じゴーストの上位魔物であるレイス、死神の様な見た目のファントムどれも物理攻撃が効き難い霊体系の魔物だった。

 床をよく見ると微妙に床の色が違う所があったので、シューティンググラスのサーモ機能でも床の下に穴がいくつもあることが確認できたので何の注意も払わず歩き出そうとしていたラウに誤って落ちないように注意することにした。


「ラウ! 落とし穴が多いようだから気を付けろよ!」

「……兄貴。なんで俺だけに言うんだ?」

「……理由を言わなきゃわからんか?」

「…………」

「…………行こうか」

「おう(……ん)」


 出てくる魔物が全部宙に浮いてるから(スライムは軽いから落とし穴に落ちないので除く)自由に移動できて、こっちが落とし穴のある床を飛び越そうとするとそこを狙って魔法で攻撃してくる。

 ラウは魔法が使えないし、レイに補助魔法をかけてもらっても落とし穴のせいで魔物に近づけないので後方警戒させておき、俺とレイが魔法で撃ち倒していった。しかし、霊体だからなのか[魔力探知]などで周囲を警戒していないと壁などを通り抜けて攻撃してくる。


「たいして強くないけど、この壁抜けしてくるのがちょっと厄介だな」

「リン! 上」

「天井からも来るのかよ! あーもう面倒だ! うらぁ!」


 天井から現れたファントムにイラッとして左拳で思いっきり殴ると、通常攻撃が効かないはずのファントムを殴ることができてしまい、ファントムの頭が通路の先まで吹っ飛び倒すことができた。


「あ゛、殴れちゃった……」

「なぁ、レイ姉。あいつらって殴れるものなのか?」

「……無理……でも、リンだし」

「兄貴だからか……なんか納得したぜ!」


 何やら言われていたがタクティカルグローブだから殴れたんだと説明したのだが、結局『リンだから』という事で話しをまとめられた。


 地下24階層は円形の塔の内部のような作りで、壁に上に続く螺旋階段があるフロア。

 音波攻撃してくる大きいコウモリのジャイアントバット、高速で体当たりしてくる大鷲のストライクイーグル


「へ? 下り階段が見当たらないんだが、これってとりあえず上まで登らないといけないのかな? てか、このフロアって天井がどう考えても上の階層を軽く突き抜けるくらい高く見えるな……他の階層でもたまにあったけど一体どんな空間構造になってるんだろうな」

「……研究してる人いる……けど、謎」

「おお! 謎か~、なんかカッコいいな!」


 ふむ、ダンジョンを研究してる人とかいるんだな。そして大した事はわかってないという事だな。ラウはよく考えないで『カッコいい』とか言ってんだろうな……。それにしても、何気に鳥型の魔物って始めて見るかもしれないな……あれって、食えるのかな? なんか唐揚げを食べたくなってきたぞ。 


「まだ時間あるし、とりあえず上まで登って辺りの様子を見てから状況によっては地下21階層に戻って一泊して、再度攻略することにしようかと思ってるんだけど……何か意見はあるかな?」

「俺はそれでいいぜ」

「……ん……問題ない……リンに任せる」


 階段を上り始めると魔物が襲ってきたが遠距離か空中からの一撃離脱攻撃でラウには対処が難しかったので床に散らばっていた手頃な瓦礫を使ってラウに投げて迎撃させてみたのだが、腕の力で投げるだけで命中率、飛距離共に悪かったので、野球のピッチャーのような投げ方を教え投げさせると、最初こそうまく投げれていなかったが、次第にうまく投げれるようになり突進してくるストライクイーグルを撃ち落とせるようになっていた。

 内壁を一周したところで魔法陣が現れ、撃ち落とした魔物がそれに触れると消えてしまい、石を投げてみたり魔法を撃ちこんでみると、魔物と同じように魔法陣に触れた途端に消えてしまった。 


 撃ち落とした魔物が下にたまって行っちゃうのかと思っていたら途中で魔法陣で受け止めて消しちゃうんだな……素材とか取れなくなるからなんかもったいないな。てか、魔法陣なんてものもあったんだな。あれに触れたら俺達も危ないかも知れないから落っこちないように気を付けないといけないな。


「魔法陣に触れると危ないかも知れないから気を付けろよ。特にラウ!」

「……兄貴! だからなんで俺だけに言うんだ?」

「……だから言わなきゃわからんか?」

「…………」

「…………行こうか」

「おう(ん)」


 さっきもこんな展開があったな……ま、気にしたら負けだな。


 魔法陣は螺旋階段を一周ごとにでき、やはり触れた者は消えてしまった。そして頂上まで登ると扉が一つあり、罠がないか確認してから中に入ってみるとそこには地下25階層への下り階段があった。


「……上ったのに次の階への階段って、何か不思議な感じだな」

「……それが……ダンジョン」

「そっかー! それがダンジョンか! すげーな!」


 レイ……『それがダンジョン』って身もふたもな言い方だな。そしてラウよ、おまえはただのおバカキャラと化してるぞ。

 さてと、このまま進むか戻るか……今の時間は――午後4時か、安全を考えるなら戻った方がいいかな?


 レイとラウに相談した結果、とりあえず地下25階層への階段を降りて様子を見てから決める事となった。

 階段を降りると目の前には扉がありセーフエリアの階段フロアの右の壁に他とは温度の違う場所があるのを発見し注意しつつ触ってみると壁の一部が押し込まれ隠し部屋が現れた。


「魔物が出るわけでもなく、罠や宝箱があるわけでも無い。この隠し部屋って何なんだ?」

「……多分……『休憩部屋』って言われてるとこ……だと思う」


 『休憩部屋』って言うのは、特殊な隠し部屋で、中に入って扉を閉めると24時間以内なら中に居る者が全員出ていかない限りたとえ中から扉を開けても外からは入る事ができないようになっている。

 部屋の中はセーフティエリアとなっていて、中でたき火などをしてもなぜか天井に煙が吸い込まれて消えたり、どうやって換気されてるのか空気が淀んだりせず澄んだ空気が流れている。 

 荷物や死体などを置いたまま全員部屋から出てると部屋の中にある物はすべて消えてしまうそうだ。そして消えた物はダンジョン内に宝箱の中身となって出てくる事があるらしい。


 宝箱の中身って遺品もあるんだな。でも、それって……。


「なぁ、それってさ。宝箱の中身の元の持ち主だとかいう奴が現れて自分の物だと主張されたらどうなるんだ?」

「……それは――」


 ダンジョン内にある宝箱に入っている物には例外なくダンジョンの物と分かるように特殊な模様が付いているので本来の持ち主であっても所有権を主張できないことになっている。ただし、元の持ち主であることを証明できれば優先的に買い取る権利を得ることができる。


「そうなのか。とりあえず、ここが安全だって言うのならここで一泊して行こうか? 人の目が無いから気にせず料理出せるし」

「あ、兄貴! ここでいい! いや、ここがいいぜ! 早く飯にしようぜ!」

「……最初から……ここしかないと……思ってた! ……シチュー所望」


 二人とも美味しいものが食べたいだけだな。ま、俺も食べたいけど。それにここなら見張りもいらないし人目も無いから『倉庫アプリ』に入ってるベッドを出してぐっすり寝れそうだ。


 いつもは人の目が有ったり魔物が寄ってくる危険を考えてできるだけ簡素で臭いのしない料理をしたり携帯食を食べていたが、今日は自重なしに料理を作って美味しい料理に満足してふかふかのベッドで寝ることにした。


 なんかもうダンジョンとは思えない、虫はいないし寝込みを襲われる心配も無い。これはもうセキュリティのしっかりした宿に泊まってるかの様だな。

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