第八十七話 野営

 日もだいぶ傾いてきたので街道から見える川の方へ行き、そこで野営をする事になりまずは斥候のレバクルジが周囲の安全確認をしてから準備を始めた。野営に関しては駅犬車で中型簡易テントが2つ用意され、夕食として干し肉と黒パンが配給される事になっていた。

 バルゥクがこの辺りに詳しいという事で話を聞いているとこの辺りの川の周辺には魔物が何故かあまり寄り付かず、出ても弱い魔物が少数という事で、そこを休憩所として利用できるように川岸を少し掘って湾のようにしある程度休憩所として利用できるようにしてあるらしい。ただし、あまり騒がしくしてると魔物が寄ってくる事があるから注意するように言われた。


「なるほど、だからここで野営なんですね。でも、それじゃ盗賊とかに狙われませんか?」

「さっきレバ(レバクルジの愛称)のやつが誰か辺りに何か潜んでないか、罠はないか、川に何か毒物を仕掛けられてないかなど色々と確認してたし、そもそもこの辺は盗賊の類の話は少ないんだよ。ま~、もしいたとしても小規模のたいしたことない奴等しかいないはずだろう、それにここは見通しがいいからそう簡単に奇襲されることもないから俺達だけでもある程度対処できる。秋になると長雨で川が増水する事あるから危ないんだけど、今の時期はそんな事無いから夜は安心して寝ててくれて問題ないぞ」


 その後も話をしていたら川でおいしい魚が釣れるとの事だったのでちょうど野営の準備も終わり夕食までまだ少し時間があるという事で、休憩がてら夕食に一品増やすためにも有志で魚釣りをする事になった。

 ちなみに、釣り竿は冒険者が落ちてる枝や手持ちの道具などを使って手早く作ってくれたものを使う、釣りをしないメンバーは薪拾い、何もしない者に魚を食べる資格はないのである。


「……んー、釣れない……」

「いやいや、まだ釣り始めて五分とたってないぞ! レイ、諦めるの速すぎだ」

「……一気に……バーンって釣りたい」


 ……『一気にバーン』って、ファイヤーボールでも投げ込んでみるか……確か似た様なのをダイナマイト漁とかいうんだっけ? って、大惨事になりそうだしあまり騒がしくしたら魔物が寄ってくるかもしれないって言われてたんだから、ファイヤーボールでの釣りは却下だな――あ、でも美味しい魔物肉を確保できる可能性も……いや、一般人もいるんだし危ない事は極力避けた方がいいな。


 他に何かいい方法は無いか思案し電気ショックで魚を浮かすビリ漁の電気を電撃魔法に変えれば行けるかとも思ったが、それだと下手したら感電する可能性もあるから危険だと思い別の方法を考えつつ川を眺めていると川の中ほどに大きな岩があるのが見えた


 お、あの岩は……うん、あれ使えるんじゃないか? えーと、ほら、何だっけな~、名前が出てこない! え~と……あ、ガチンコ漁! そうだよ確かガチンコ漁だ!


 バルゥクに説明し許可を得てから大きな岩を目がけて大き目のロックショットを打ち込んでその衝撃で魚を獲る事にした。


「あ、そうだ。レイ、魚が浮かんだたら魔法で集めてくれ」

「……ん、わかった。風で集める」

「あ、私も手伝います」


 レイが小さな竜巻を操作して浮いている魚を岸の方に弾き飛ばし、取りこぼした魚をミリシスが水魔法で川の水流を操作して岸に引き寄せていた。


 このくらいの流れなら水魔法の方が有用そうだな。てか、レイのやつ風で集めると言うより風で弾き飛ばすって感じだな。


 釣れ――いや、集めた魚は2種類だったがどちらもサケと呼び区別していなかったが、おれからすると見た目はアマゴとヤマメの様に見えた。


「これって、やっぱり焼き魚かな?」

「ああ、塩焼きがいいだろ。そんじゃ俺は焼くための串を作るか」

「じゃ、あたし内臓の処理しとくよ。レバも手伝って~」


 バルゥクが串を作りコミーとレバが魚の下処理を、ミリシスは……料理がダメなので周囲を警戒、そして串作りも不器用さから無理だとか。コミー曰く『ミリちゃんは魔法以外は基本ダメっ娘だからね。特に料理は……死にたくなければミリちゃんに料理させちゃダメ』との事だった。


 え『死にたくなければ』って、今ある食材で死に至るような料理作れる方がある意味才能あるんじゃないのか? ま、そんな才能をここで披露されても困るんだけど。


 料理はちゃんとした料理をした事のある物がする事にし、まずは魚が結構多く取れたので食べる分以外の魚を冒険者にしめ方を教えてもらいながらしめて(生きてると入れれないので)『倉庫アプリ』に入れようとしたのだが、ちゃんとしめたのに何故か『倉庫アプリ』に入れる事ができなかった。それを見ていた商人からそれは寄生虫がいるためじゃないのかと指摘され、アイテムバックなどを寄生虫の有無を判断するために使っているという事も教えてくれた。

 他にも食事に関して全員同時に食べずに何人か交代で周囲を見張る事と、余裕があれば全員が同じものを食べずに別の料理を食べた方がもし運悪く食事のせいで体調が悪くなったりした場合でも全員が行動不能と言う状態になる確率が減らせるなども教えてもらった。


 確かに食事中は無防備だから誰か見張りに立った方がいいのは当たり前か……それと、アイテムバックにそんな使い方がもあったのか……ん、まてよ。寄生虫がいないなら生で行けるんじゃないか? 刺身が食えるんじゃないか? 


「バルゥクさん。も、もしかして魚を生で食べたりしますか?」

「いや、寄生虫がいなくても何故かお腹を壊す場合があるから、ちゃんと火を通して食べるよ。特にこんな町から離れたところであたったら大変だしね」


 寄生虫がいなくてもお腹壊すのか? ……あ、そうか! 寄生虫以外にもO157とかそう言った細菌が付いてる可能性があったか……ま、そう言う細菌がこっちの世界にいるのか知らんけどな。そう言えば『倉庫アプリ』にも虫は入れれないけど細菌は入れれるよな、前にカビたパンとか入れれたことあったし。う~ん、生物の基準が良く分からんな? 細菌は生き物の範疇には入らないのか?


「あ、そういえば……一部地域では生魚を食べると言うのを冒険者仲間から聞いた事あったな。あれ? でも、それは川魚ではなく海で獲れる魚だったっけかな? ま、どっちにしろ俺は生の魚なんて怖くて食わないけどね」

「生魚食べる文化のある地域はあるんですね」

「ああ、ある。それと、一部地域と言ったけど俺が聞いた事があるのはジャイレフィン大陸の一部地域で、たしか米とか言うのを一口サイズにしたものに生魚の薄切りをのせた料理があるとか聞いたな」


 寿司があるのか! もし亜人大陸――いや、ジャイレフィン大陸だったな。ともかくもし行く事になったら是非食べてみたいな。あ、でも、こっちの大陸で生魚を食べないってだけなんだから新鮮な魚仕入れるか自分で釣って自分調理してみるのもいいかもしれないな……けど、食中毒とか怖いし、そもそも米が無いからやっぱりジャイレフィン大陸へ行く機会があればちゃんとしたところで食べる方がいいか。


 ラグルスに犬車の乗り心地が良かった理由を聞いたら今回の犬車は新しく揺れを軽減する装置などを使った新型犬車で、長距離は今回が初となり試験的な意味もあって雪解け間もないまだ駅犬車が一台も走っていない荒れた街道をあえて走らせたという事で、通常だとこのレベルの犬車はもっと料金が高いのだが試験走行という事と街道調査も兼ねているのでこれでも格安料金となっているらしい。

 今回の試験走行が無事に終わればこの犬車は正式に採用され、まずは貴族用に調整された物が作られその後に駅犬車用の犬車の制作がされると言う話で、そうなれば駅犬車での長距離移動がかなり楽になるだろうとの事だった。


 あ~、確かにこの犬車が普及したら移動が楽になるだろうな。普通の馬車や犬車だと揺れが酷くて乗り心地最悪だからな。


「いや~、それにしても駅犬車の護衛依頼を勝ち取れてよかったぜ」 

「ほんとにね~。ラウティア大陸から出て何とかライアスまで来れたのは良かったんだけど、町には冒険者がいっぱいいてなかなか依頼にあり付けなくて懐具合がきつくなって来てたから、他の町に移りたいと思ってたからほんと依頼勝ち取れてよかったよ~」


 ラミルズ教の騒ぎで危険を感じラガイへ向かったがレイガス行の船は全て満席で乗る事ができなかったため船に乗せてもらえるような依頼を探し抽選の末何とか勝ち取り船に乗ってレイガスまできてそこからすぐに内陸へ向けて移動しようとしたがライアスに着いたところですでに今期の駅犬車の運航が終わっていると言われ仕方なくライアスで生活していたらしいのだが、冒険者過多でなかなか依頼を受ける事ができずに金だけが減って行きいよいよヤバいと思っていたところに駅犬車運航開始の知らせを聞き護衛依頼を抽選で勝ち取ったそうだ。


「リーダーっていつもは運悪い方なのに、ここぞって時の引きがなぜかいいんだよな」

「そそ、なんでだろうね? いつもはパッとしないくせにね~」

「まったくですね。しかも今回新型犬車の実地試験走行も兼ねるため普段より多く四名の護衛を募集してましたか全員が受けれましたしね。こういう時だけはリーダーと呼んでやってもよろしいですね」

「おめぇら酷くないか?」


 今のライアスだと結構な冒険者がいたはずでそんな中でこの駅犬車の護衛を勝ち取れたって言うのは確かに運が良かったとしか言えないだろう。


 あ、トイレ行きたくなってきた……公衆トイレとか仮設トイレなんて、ないよな?


 バルゥクにトイレはどうすればいいか聞いたところ目の届く範囲にある草むらですればいいと言われたが、正直いって人の目が届くところで用を足すと言うのにはかなり抵抗があったので、テントが設営してある場所から少し離れた場所に穴を掘って近場にあった木の枝を伐採して太目で丈夫な枝を穴の上に中心部だけ残して縦横に敷き仮設便器とし、他の枝は仮設便器を覆うような細長の三角テントの骨組として蔦を使って結んで固定し、さらにその骨組みにロープを張って行きそこへ枝を伐採する際に見つけてとっておいた大きな葉を何枚も取り付けて覆った簡易トイレテントを設置したら主に女性陣に感謝された。

 ちなみに大きな葉はおしり拭きにも使う為に結構な量を確保している。


 一応、今回は俺とレイはあくまで客で護衛は大地の牙がいるので俺たちが見張りするをする必要はないから、安眠のためシューティングゴーグルの索敵範囲を狭めテントの周辺だけに設定し念のためタクティカルグローブは付けたまま寝る事にした。

 ちなみに二人とも同じテント寝袋で間に衝立を立てて寝た。間違いが起きることなど無く普通に就寝である。

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異世界で新生活 ~スマホアプリdeチート~ 樽谷 @nitro-

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