第六十話 実演販売

 町へ行く当日、俺とラウが犬ソリの護衛兼露店の手伝いと言う事で村長に同行の許可を得て町へ出発することになったのだが、持って行くかんじきの量くらいなら『倉庫アプリ』に入れてもそれほど目立つ量でも無いだろうと思い『倉庫アプリ』に収納した。


「あー、そういやおめぇさんアイテムボックス持ってたんだっけな~。そうだ、悪ぃんだけど帰りに少しでいいから荷物頼めるか?」

「はい、別に構いませんよ。あ、でもそんなに入らないので大荷物は勘弁してください」


 道中は魔物に襲われることも無く天気も良かったので順調に進み予定より早く町に着くことができた。道中聞いた話だと吹雪とかだと町へ行くのを延期したり途中で引き返したりする事もあるらしい。


「よし! それじゃ俺は薪と魔物の素材とかを卸しに行ってくるからおめぇたちはここで露店開いててくれ」

「はい、分かりました」

「おう! おっちゃん任せとけよな」

 

 言われた場所に露店を設営して商品を並べていった。ちなみに露店で売るために持ってきた商品は手編みの毛糸の手袋と靴下、ウッドバスケッド、そしてかんじきだった。

 それなりに客が来てある程度商品が売れるのだが、かんじきだけは見てはくれるのだが誰一人買ってくれなかった。


 物珍しくて見てくれる人は結構いるんだけど、買ってはくれないんだよな~。簡単な説明くらいじゃ買ってくれないか……よし! ちょっと実演販売をしてみるか、実際使ったところを見せたりすれば買ってくれるかもしれないしな。


「ラウ、俺が合図したらそこの雪の上歩いてくれ。その後、今度はかんじきを履いて歩いてくれ」

「分かったぜ兄貴! でも何やる気なんだ?」

「黙ってても売れそうも無いようだから実演販売してみる」


 ラウが『実演販売ってなんだ?』とか言ってる気がするが説明するのが面倒だったので聞こえなかったことにして、ラウと軽く打ち合わせをしてまずは人を呼び込みテレビの通販番組やデパートで見た事のあるの実演販売を思い出しつつ自分なりの実演販売を始める事に。


「さぁさぁお立合い! 御用とお急ぎでない方は、ちょっと見て行ってくださいな! さぁさぁ、見るだけならタダなんだから見て行っておくんなさいよ」

「見た事ま無い珍しいもんだから見てってくれよ!」


 ラウも呼び込みに協力をして、ある程度人が集まった所でかんじきの実演販売を開始した。


「手前ここに持ち出しましたるは、雪上歩行道具の『かんじき』」


「なんだそりゃ?」「見たことも聞いたこともねぇな」

「食いもんじゃなさそうだな」「ザルか? にしちゃ変な形だな」


「おやおや、誰もかんじきが何かご存じない? それじゃぁまずはこの『かんじき』という商品がどういう物か口で説明するより実際に見ていただきましょうかね。ラウ、ちょっとそこの雪が高く積もってるとこ歩いてみろ」 

「おう!」


 ラウが木箱をいくつか使って足場にし、ラウの背丈ほど雪が積もっている所へ踏み出すと『ズボッ』と言う音と共に腰まで埋まってしまった。


「あらら~、腰まで埋まっちゃいましたね~、こりゃ、まるで落とし穴にはまっちまった様だ!」

「ははは、そりゃそうだろ!」

「そうですね、そこのお客さんの言う通りだ! 普通はああなりますよね? 次に……ラウ、今度はこの『かんじき』を履いて歩いてくれ」

「おう!」


 俺が話してる間に何とか木箱の上に脱出して来ていたラウに、今度はかんじきを履くように指示し、先程と同じ様に歩かせると、ほとんど埋まる事無く高く積もった雪の上を歩き始めた。


「ほら、ほらほらほら、どうです、ど~ですか! さっきは腰のあたりまで埋まってしまっていた雪の上をかんじきを履いただけで、あら不思議! 今度は苦も無く歩いちゃいましたよ!」


 ラウがそのまま雪の上を歩きまわっていると。

「「「おおお!」」」「浮いてる?」「いや、ちょっと沈んでるぞ?」「すげぇな!」

「でもなんで雪の上歩けてるんだ?」「不思議だな」「魔法なんじゃねぇのか?」

 などと言う声が聞こえてきたので、どうやら興味を引く事には成功したようだった。


「まぁまぁお静かに! お静かに! ――とまぁこんな感じで雪の上を楽に歩けるようになる道具です! これは魔道具でも何でもない木工職人手作りの誰にでも使える普通の道具です。ですから魔力がうまく使えない人でも問題なくそこの男の子の様に歩けますよ」


 周りを見渡すといつの間にやら結構な人が集まっていたので使い方や注意点などの説明した。


「使い方が分かったとこで次に気になるのはやっぱり値段ですかね?」

「どうせ高ぇんだろ!」

「おっとお客さん、気が早いよ~。まずは値段を聞いてくださいな。この商品、銀貨1枚と大銅貨6枚と言いたいとこな・ん・で・す・が……今日初めてお披露目する商品だ、負けに負けて銀貨1枚と大銅貨4枚でどうだ!」


 ざわざわと『凄い高いわけじゃないけど』とか『試しに買うにしてもちょっとな』とか『酒代に回した方がましだぜ』とか言う声が聞こえてきた。最後のは酒が飲みたいだけの発言な気もするけど。


「――おや、まだ高いですか? 仕方ないですね、大銅貨3「「「もうちょっと!」」」仕方がないお客さんたちだ……降参です。それじゃ銀貨1枚と大銅貨2……いや、面倒だ! もうここは切りのいいとこで銀貨1枚でどうだ! 流石にこれ以上はた村でかんじき作りを手伝ってくれていたこたち幼い子供たちが腹空かせて待ってるんで勘弁してくださいな」


 初めは売れなかったかんじきが、実演販売の物珍しさからかそれともかんじきの有用性を実際に見て理解してくれたからなのか最終的には完売というか数が足りなくなってしまい次に来るときには必ずかんじきも持ってくるという事になった。

 ――――のちにこの実演販売を見ていた商人たちがマネをして、この地方で実演販売と言う文化ができたのは別の話。


「ふぅ~、初めは全然売れなかったからどうなる事かと思ったけど、全部売れてよかったな」

「俺ぁ途中から来たから良く分からんかったが、それでもあんな売り方見たこともなかったぞ。それにしても、まさか完売するたぁな……てっきりほとんど持って帰る羽目になるんじゃないかと思うっとったぞ」

「兄貴が作ったものだから売れるのは当たり前だぜ!」

「さて、それじゃそろそろ必要なもの買って村に戻るぞ」


 あ、そういえばレイが『寒いからなんか温かくなれる道具買って来て』ってこと言ってたな。そんな道具見当たらないしカイロってどうにか作れないかな? えっと、確か……鉄粉とか活性炭とか使うんだっけ? うーん詳しいこと分かんないな……いっそ魔石で作れないかな? 普通の魔石は高いだろうから質の良くないクズ魔石で作れればいいんだけど、発火事故とか怖いしまずは少しずつ試してみるか。ってか、レイは狼っぽいのに寒さに弱いんだな、なんか犬系だから庭駆けまわるってイメージ……ってレイだしそれはないな! てか、氷系の魔法もたまに使うくせに寒さに弱いんだな。


 色々と買い込みついでにギルドに寄ってどんな依頼が出ているのか見てからサラサの宿に寄って挨拶しているとサーラちゃんが『ルカちゃんはきてないんだ……』とがっかりしていたので、今度来るときはルカを連れてくるとサースちゃんと約束してから余り暗くなる前に村に着くように帰ることにした。


 今更だけど『倉庫アプリ』に雪を入れながら進めば道を作りながら楽に進めるんじゃないか? ……でも、人に見られたら目立っちゃうからやっぱりダメか。


「兄貴、また変なこと考えてんだろ?」

「変なこととか言うなよ……」


 帰り路も魔物に襲われることも無く村に着き、ルカにサーラちゃんが会いたがってたから今度行くときは一緒に行こうと話しておいた。


 なんかルカの事だから町に行っても『自分だけが遊んでるわけには行きません!』とか言い出しそうだけど、そこはサーラちゃんのためにも一緒に遊んでいて欲しい。


 翌朝、まだ夜も明けきらぬ時間にスマホが鳴った。目覚まし設定していないはずのスマホが。


『クスノキさん、おはようございます。朝早くからすみません』

『おはよう。えーと、リュースだよな?』

『はい、女神のリュースです。えーと、ちょっと申し上げにくいのですが……左手用の手袋の事でお話がありまして』

『左手用のタクティカルグローブの事?』

『はい、そうです。その手袋の機能の事でちょっと不具合と言いますか手違いがありまして、実は――』


 リュースの話ではどうやらあのタクティカルグローブに本来はあそこまで攻撃的な機能を持たせる設定ではなかったという事で何故そんな設定と違う仕様になったか質問すると『やっぱり安いからといって新しいとこに外注したのは失敗でした』と返ってきた。


 あれってどっかで作って貰ってたのか……リュースが神の力のようなものでで作ったんじゃなかったのか? いや話からすると、ああいう物を作る神もしくは集団が最低でも二組――いや、もっといそうだな。ってことは結構なものづくりしてるグループが客を取り合ってるとか? そう考えると神の世界も結構俗っぽいかも知んないな。


『えーと……それでですね、申し訳ないのですがその手袋の機能を修正するためにスマホの『倉庫アプリ』へ手袋を入れて欲しいのですが』

『それって今すぐ修正できるの?』

『あ、いえ。今からいつもの所に発注して修正してもらうので……そうですね~、明日の朝8時頃までには何とかなるかと思います』


 ん~、今日明日は別に狩りとかに行く用事も無いから村にいるだけだし、修正に出しても問題は無いんだけど。


『その前に、どんな修正するのか教えて欲しいな』

『あ、その事言ってませんでしたね。えっと――』


 具体的な修正はタクティカルグローブで岩を砕いたり握りつぶしたりという攻撃のような事に転用できなくする事、そして当初予定していた防御機能として手の平をかざして魔力を込めるとかざした先の空間に円形魔法陣の盾が出現するようにする事、魔力吸収機能に関してはそのままという事だった。


『あ、それと。今回の謝罪として手袋の機能の応用法をいくつかとスマートフォンのレベルが30になった際に『カメラアプリ』にちょっとした機能を追加させていただきます。と、こちらの不手際でクスノキさんにご迷惑をおかけして心苦しいのですがなにとぞご協力のほどお願いしたく……』


 攻撃力が落ちるのは残念だけど、防御範囲が広くなって『カメラアプリ』にもなんか機能つけてくれるなら協力しよう。って、リュースは女神なんだからもうちょっと偉そうにしてもいいと思うんだけど、腰低すぎないか? あと、なんか『クスノキ』って最近呼ばれてないから違和感半端ないな。


『えーと、わかったよ。この後すぐに『倉庫アプリ』にタクティカルグローブを入れておく。それとこれはこの話と関係ないんだけど……そのさ、こっちの世界にきてからクスノキって苗字で呼ばれることがほぼないからリュースも『クスノキ』じゃなく『リン』って呼んでくれないかな? そっちの方がしっくりくるんで』

『ありがとうございます! リ、リンさん……いまさら名前呼びって、ちょっと照れますね』

『照れながら呼ばれるとこっちまで気恥しくなっちゃうから普通に呼んで欲しいんだけど』

『ぜ、善処します。で、では、リ……ンさん、何かありましたらご連絡くださいね。それでは失礼致します』


 さて、今日は予定もないしもうちょっと寝るか……あ、目覚ましの時間少し遅めにセットし直しとこう。


 スマホの目覚ましを2時間になるように設定し、もうひと眠りする事にした。

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