第七十七話 コーレア村ギルド新職員とギルドマスタールカ?

 ギルド出張所増築が終わったが、中に木くずなどあって少し散らかっていた。掃除などに関しては俺達ではなく村人から何名か雇う事が決まっていた。本来ならギルドの増築で村人からも手伝いを頼むところを俺達だけで全部やってしまったので村人たちにも還元させるためという事もありそちらの仕事は村人に任せる事となっていた。


 確かに農家は冬だとこれといった仕事も無いだろうからギルド増築の仕事があれば休耕期の収入が見込めるか、そこら辺も少し考えて村人にももっと仕事を回すべきだったな。ま、あまり不満は出てなかったそうだから良しとしとこう。


「そう言う事で片付けなんかは間に合ってるから、リン君には別の仕事を依頼したいんだけど」

「依頼内容次第ですけど……何すればいいんですか?」


 よほど変な依頼じゃなければ受けるけど……でも、受けて当たり前と思って内容も言わないと言うのはギルド職員としてどうなんだ?


「いやいや、別に変なことを頼むわけじゃないよ? 以前いってたたりない備品とかの運搬依頼だよ」

「それならちゃんと依頼書出してくださいよ」

「ごめんごめん、ちょっと待ってね~、確かこの辺に――〈10分経過〉――あったよ。はい、これなんだけど」


 渡された依頼書の依頼内容はライアスのギルドから職員三人と備品などをコーレア村ギルド出張所まで護衛兼荷物持ち……いや、備品などを『倉庫アプリ』で運ばせるのが目当てだろうから荷物持ち兼護衛するという内容だった。


「えっと、移動手段はどうなってます?」

「それに関しては村長にライドドッグとソリを借りる事になってるからそれを使ってください」

「分かりました。それと……この前ルカたちが片づけたはずなのに散らかすの速すぎですよ」

「あ、そ、そうだよね。まさか依頼書があんなものの下に挟まってたとは……」


 ……依頼書は依頼書でちゃんと別に片付けて置けばいいだろうに。


 アイテムボックス持ちという認識で体よくつかわれてる感はしたが、依頼書を見て詳しい内容を再確認したが特に問題は無く報酬もそれなりだったので依頼を受ける事にして、いつ向かえばいいのか聞くと、期日については直ぐにライアスのギルドへ連絡するので順調にいけば向かうのは三日後になるとの事だった。



 予定通り三日後、ライアスのギルドへ行き依頼書を見せると同行する職員を呼んでくるから先に荷物の積み込みをして欲しいと倉庫に案内され、そこに二山に分けて用意されていた荷物のうち『アイテムボックス行』と書かれた札の掛かった方の荷物を『倉庫アプリ』に入れてから「まだアイテムボックスに余裕ありますけど?」と言ったのだが、重要な物などは関係者以外のアイテムボックスに入れるわけには行かないので、『ソリ用』と書かれた札の掛かった方はそのままソリに積んで欲しいとの事だった。


「今回コーレア村に来る職員の型の中でアイテムボックスを持ってる方はいないんですか?」

「いえ、一人いるのですが――」


 一人だけアイテムボックス持ちがいるが、既にその者のアイテムボックスには限界まで荷物を入れているので倉庫にある『ソリ用』の札がある方の荷物は全てそのままソリに積んで欲しいとの事だった。とは言ってもそれほど量は無かったので今回コーレア村に来る3人程度なら乗せる余裕は十分にある。

 職員と話をしていると今回コーレア村に来る(正確にはコーレア村ギルド出張所だが)職員たちがやってきた。

 

「今回コーレア村のギルド出張所へ異動となりますラービルです」

「同じく、ミミリスよ。よろしくね!」

「同じく、コーアです。よろしくお願いいたします」

「あ、どうも、依頼を受けたリンです。よろしくお願いします」


 ラービルは茶髪三人の中で一番背が低く体型は普通、ちょっと神経質な感じを受ける青年。

 ミミリスは赤髪ショートカットの明るい感じの美人というよりかわいいと言った感じの少女。

 コーアは腰まで伸びたプラチナブロンドの髪でスラっとしたモデル体型の落ち着いた感じのインテリ美人の女性。


 中年くらいのベテランっぽい人が来るのかと思ってたら結構若い人たちが来るんだな……っと、あんまり時間かけてられないし、とっとと荷物積んで村に戻るか。


 ゆっくりと長話してる時間も無いので簡単な自己紹介だけで済ませ残ってる荷物をソリへ積み込むことにした。

 ソリへの荷物の積み込みは、今回コーレア村ギルド出張所へと異動となる3人も手伝ってくれたので直ぐに終わり、3人と共にそのままコーレア村へ向けて出発する事となった。


「それでは出発しますが、忘れものとかありませんよね」

「「「はい」」」


 道中無言のまま進むのと言うのも気まずかったので、周囲を警戒しつつ雑談をする事にした。

 ラービルは狸人族、ミミリスは猫人族、そしてコーアが狐人族と種族はばらばらだが、3人ともライアスで生まれ育った幼馴染でギルドに入って3年目となる同期でもあるらしい、年齢は19歳との事だった。


 ミミリスも19歳なのか、15,6歳くらいかと思ってた。


「そ、それにしても初めての異動なんで、ちょっと緊張します」

「あ、私も私も!」

「まったく、二人ともしっかりしなさい。どこだろうとギルドはギルド、教わった通りにしっかり仕事すればいいのよ」


 ラービルはガチガチに固まっていてまるで置物の様になっており、ミミリスは『私も』と言ってるが、その様子はどう考えても緊張している様にはとても見えない。そんな二人をたしなめるような事を言うコーアは何と言うか真面目だ。そんなコーアを見ていて委員長と言う言葉が頭をよぎった。

 雑談したおかげでお互いだいぶ砕けた感じで話せるようになった。


「コーレア村はのどかなとこだからそんなに緊張しなくてもいいんじゃないかな? それに、冒険者がやって来るのはまだ先の事だろうし」

「そうなの?」

「俺は雪が降り始めの頃から村にいるけど、まだ冒険者が来たのを見た事無いよ。ま~冒険者が来るのは犬車が走れるくら雪が融けてからじゃないかな?」

「それでは、それまでにしっかり準備しておかなければいけませんね」


 実際見た事は無いだけで来ていたかも……無いな、狭い村で村民以外の物が居たら気が付くはずだ。それに金になるような事も無いのに冒険者がわざわざ来るとも思えないしな。


 その後も雑談が続き、ミミリスとラービルは受付、ユーアは宿で働くことになっていた。4人だけでは清掃やベッドメイクなどの仕事まで手が回らないため期間職員として数名コーレア村で雇い入れる事にしており、その事は既に村長と相談済みらしい。ただし、料理人だけは後日別の町からやって来るらしい。


「なるほど、あの大きさの施設をこの人数でどうやって行くのかと思ってたけど、村で従業員を雇うのか」

「ああ、さすがに僕たちだけじゃ無理だろうし」

「そこそこ大きい建物だって聞いてるから、うちらだけじゃ掃除するのも大変そうだしね~」

「あなたたちはまだいいけど、私は宿の担当だから掃除の範囲も広くなるはずだわ。それと、村の人たちを雇用する事にしたのは労働力に余裕があるから是非にと村長さんが話していたためらしいですわよ」

「へぇ~、そだったんだ。っと、そろそろコーレア村に着くからギルド証……いや、職員証か、とにかく身分証の用意をしてくれ」

「「「はい」」」


 コーレア村ギルド出張所に新たに三人の職員がやって来た事でコーレア村ギルド出張所は出張所から正式にコーレア村ギルドとなった。

 出張所から普通のギルドになった事で今までやっていなかった業務が行われる事になりとりあえずはその準備などを行い落ち着いてから本格始動となるらしい。


「食料関係はどこ置けばいいですか?」

「それならそこのマジックボックスに入れてください」

「マジックボックス?」

「ほら、そこにあるやつですよ」


 あれって前に持ってきたやつだっけ? てっきり小さ目のワードローブか何かかと思ってたよ。てか、そもそもマジックボックスってなんだ?


 マジックボックスと言う物が何なのか分からなかったので聞いてみると、マジックボックスはアイテムボックスの様な感じの収納の魔道具であり、物にもよるが今目の前にのは縦100cm幅50cm奥行き40cmの物だが、中はその3倍くらいの容量が入り、アイテムボックスとは違い時間停止するというような事は無いがそれでも中に入れておくと腐りにくくなるそうだ。

 アイテムボックスの劣化版と言った感じだが、それなりの値段がするので一般人はおろか下級貴族程度でも簡単に買えるものでは無いらしい。ただ、2倍くらい入る物なら一般人でもなんとか手が届く値段だそうだ。


 こういう魔道具もあったんだな。ま、俺にはスマホの『倉庫アプリ』があるから必要ないけど。 



 数日後、ギルドからの指名依頼として、ルカがたまにギルドの仕事を手伝うようになったのだが、追加でギルド職員が来ているのにルカに仕事を頼むという事は、もしかしたら本気でギルドの受付嬢としてルカを狙ってるのかもしれない。


「ルカはギルドの受付嬢の仕事に興味あるのか?」

「そうですね……レイ姉さんに魔法を教わってからは冒険者としてやっていきたいと思っていたんですけど、学校の先生やギルドのお手伝いをして私には冒険者より事務的な仕事の方が向いてるかもしれないと感じてきてます」

「じゃ、教師かギルド職員を目指すのか?」

「いえ、私はリン兄さん……いえ、リン様の奴隷ですのでリン様に使えて行きたいです!」


 あー、そう言えば二人はまだ俺の奴隷のままだったっけ……ラウがあの調子だったし、俺も奴隷扱いしてこなかったからすっかり忘れてたな。


「いやルカ、奴隷という事を抜きにして将来の事を考えてみてくれ」

「……はい」


 んー、ラウはちょっと不安だけど……そろそろ二人を奴隷から解放してもいいかもしれないな。


 ルカは新たにコーレア村ギルドに来た3人の職員よりも仕事ができる。ギルド職員でもないルカにやらせてもいいのかと思うような仕事まで頼んでいるらしい、大丈夫なのか確認をするとかなりグレーゾーンではあるがルカがいないと倍以上時間がかかるらしい。

 ルカがどんなことしてるのかちょっと気になったので一緒にギルドへ行きじっくり見学する事にした。


「ルカさんこれはどうしたら」「えーとルカ先輩これどうすればいい?」「ルカさん、こちらはこれでよろしかったでしょうか?」

「そちらはあちらの棚の一番上の右から二番目にしまってください。

 それは倉庫の備品棚の下から三番目に同じものがあるのでそこにおいてください。

 はい、問題ないですよ。でも、そこをこうしたらもっといいですね」

「ルカちゃんこれなんだけど――」

「ギルマス、そこ間違ってます。そこはここをこうしてそっちのをあちらの方においてください」


 ここのギルドのギルドマスターであるマルトまでもがルカに頼ってしまっていた。


 マルトちょっと待て、お前が聞いてどうすんだよ! ……もうこれルカがいないと大変なことになるんじゃないか? 


「――それじゃ、ルカちゃんお願いしますね」

「はい、それではこちらの方はギルマスにお任せします。ラービルさんはそちらが終わったら備品の在庫リストの方を、ミミリスさんはそのまま今の作業を、ユーアさんはそちらが終わりましたら宿の方をお願いします」


 ルカがギルドマスターの部屋で仕事をし、マルトが受付の裏で事務処理をしていた。


 いや、それ逆だろ! もうこれ、受付嬢どころかルカがここのギルドマスターでいいんじゃね? てか、実質そんな感じだし。さっきはスルーしたけど、なんか先輩とか呼ばれてたし!


 コーレア村ギルドの未来がちょっと心配になってきてしまった。

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