第五話 盗賊の襲撃

 ぐっすりと気持ちよく寝ていると、何やらテントの外が騒がしくなっていた。うるさいなと目を覚まし、イラっとしながらテントから出てみると、黒翼のメンバーがテントの方にきて敵襲だと知らせて走り去っていった。

 すぐに他の二人を起こそうとテントの中を見ると、ハイルは寝ていたがレイはすでに起きて準備していた。ハイルがいないと魔法の使用許可が取れないので叩き起こして、すぐに敵の迎撃に参戦する事にした。

 どうやら昨日の盗賊の仲間が助けに来たらしく、今はここより少し離れたとこで黒翼のメンバーたちが迎え撃ってるらしい事を近くにいた御者の商人から聞いた。

 周辺を警戒していたのだが、辺りはまだ薄暗く、どこで戦っているのかわからず、ただ戦ってる音が聞こえてくるだけだった。

「……光……つける」

 すると、レイが何やら魔法を詠唱し始めた。そして魔法を唱えると、上空に光の玉が浮かび辺りを昼のように明るく照らした。


 相変わらず言葉の足りない女だな! いきなり明るくなってびっくりしたわ! なんかやるなら言えよな……。


 レイのいきなりの魔法に軽くイラっとしつつ、とりあえずスマホを出し具現化アプリを起動『MK3手榴弾』と打ち込み具現化し、恐らく闇に潜んで近づいてきていたのであろう後方にいた盗賊たちが光で丸見えになっていたので投げつけてやった。

「ちっ、ばれたか」

「なんだ。こんな石ころ投げてきやがって、バカにしてんのか」


 盗賊たちが剣を片手にこっちに来ようとした瞬間に、手榴弾が爆発して盗賊たちの半数以上は爆死した。

「な、な、なんですかあれー! 魔法ですか?」

 ハイルが何やら騒いでいたが、相手している暇はないので無視しておいた。

「レイ! 後ろの残りを頼む」 

「…………了解」


 急いでんだからさ~、すぐ返事してくれないかなーもう! 


 ハイルを連れ、昨日と同じハンドガン(CZ75B)を具現化で出して左の方へ向い、盗賊を見つけるたびに撃ち殺していった。不思議な事に、このころには既に人を殺す事に忌避感をまったく感じなくなっていた。


 左はこれで終わりかな? ハンドガンも消えたし、ちょっと魔力回復しておくか。


 ハイルに周囲の警戒を任せ、盗賊の死体からスマホで魔力を吸い取り、魔力を満タンにしてから催涙手榴弾を具現化する前の段階まで進めて、シャルディアの馬車の近くで指揮を執っているガイラル元へハイルと共に走った。この頃にはレイの放った光の玉は消えていたが、その頃には朝日が差してきていたので何とか視界を確保できていた。

「戦況は?」

「おお、リンか、現在は前方35m付近の場所が主戦場で左右でも小競り合いしてる」

「左は俺が片づけてきた。ついでに、後ろにも伏兵がいたが半数以上は倒して、残りはリンが相手してるはずだ」

「……呼んだ?」

 ガイラルと話をしていたらすぐ後ろからレイの声がして驚いて振り返った。


 うお、いつの間に居やがったんだこいつ! 全く気配を感じなかったぞ。今のが敵だったら殺されてたな。 


「レイか、リンが言ってた後方のやつらは片づけてきたのか?」

「……」

 レイは無言でうなづいた様に見えた。と言うか、フードでうなづいてるのか何だか良く分からないから口で言って欲しいと本気で思った。

 「じゃ、残りは右と前か……回り込んでくる可能性もあるから、荷とお嬢を守るため俺はここを離れるわけにはいかねぇ、おまえらで遊撃してくれ」


 前方からだと、ここは風上になるよな? 風上なら催涙手榴弾が使えそうだな。


「ちょっとした魔法使うから、前方の奴ら下がらせてくれないかな?」

 ガイラルは「分かった」と一言言って、側にいたメンバーに前方への伝令を出させた。

「で、どんな魔法使うつもりだ?」

「ん~何と言えばいいか……死なない程度の毒ガスみたいな感じかな? こっちが風上だからこそ使うんだけどね」


 ん~敵の数が多いとハンドガンじゃ弾数が足りなくなるし、他に何かいい魔法か武器はないかな?


「前方の盗賊は何人くらいいるんだ?」

「主戦場に二十で、さらにその奥に盗賊の頭の部隊がいるらしいが数までは分からねぇな」


 奥の数は不明か、いっそロケットランチャーを具現化できないかな?


 具現化アプリの入力画面にある催涙手榴弾を消して、『RPG-7』と打ち込んで具現化実行をロングタップしたがエラーと出て具現化できなかった。


 だめだったか、他のだとスナイパーライフル、アサルトライフル、サブマシンガン辺りはどうかな?


 順番に具現化できないか試した結果は、スナイパーライフル(PSG-1)・ライフル(M16A3)はエラーで、サブマシンガン(イングラムM11)は成功した。

「おい、前方が開いたぞ」


 あ、催涙手榴弾消しちゃったな。とりあえずサブマシンガン撃ちまくっておくか。


「予定変更で、先に鉄の弾をばらまいてから毒ガス散布するよ」

 そう言って、前方へ弾が尽きるまで横薙ぎに射撃をしながら走って行き、全弾撃ち尽くすとすぐに投げ捨てて、催涙手榴弾を具現化し、盗賊たちとの距離が20mといった所で安全ピンを抜き、盗賊たちのちょっと手前に落ちるように投げつけて、すかさず今度は魔法アプリを起動して『ウィンド』と打ち込み発動をせず、催涙ガスが噴出したあとに一拍置いて、ウィンドの魔法を発動して風を起こし、催涙ガスを盗賊たちに浴びせた。

「な、なんだこの煙は」

「ゴホッ、ゴホッ、め、目が、喉が!」


 お、効いてる効いてる。煙も消えてきたし、そろそろいいかな? 一旦ガイエルのとこに行くか。


「これで盗賊たちはまともに動けないはずだから、後は任せてもいいかな?」

「ああ、構わないが、お前はどうするんだ?」

「ちょっと盗賊の大将首を撃ち取ってくるよ」


 盗賊のリーダーがいなくなれば連携を取れなくなって、こっちが有利になるだろう。


「分かった。だけど、一人じゃ無理だ。いつもの二人ともう一隊連れてけ」

 ガイエルはそう言って前方から戻ってきたメンバーから三人に、俺に同行しろと命じた。

 そして顔合わせも終えて、六名で盗賊のリーダーのいる本体への強襲をする事となった。


「悪いんだけど、魔力が心もとないから前方で倒れてる盗賊から補充してから敵本体に強襲する」

 ハイルにそう説明し、即座に移動して前方で苦しみ倒れている盗賊より魔力を吸い取っていたのだが。


 そう言えば生きた相手の魔力が0になるまで吸い取ったことなかったよな? 時間はないけど、ちょっと試してみるか。


 試した結果、盗賊は意識を完全に失った。それでもまだ吸い取ろうとしたが盗賊の魔力が0なので吸い取ることはできなかった。


 なるほど、魔力0でさらに吸っても死ぬわけじゃないんだな。あれ? でも、魔力0で気絶状態なら、魔力なんてない俺はどうなるんだろな? ま、今はいいか。


 その場所より少し進むと、斜め右前方約20m先に盗賊の本体らしき集団を発見し、木に隠れて少し様子を見ることにした。


 さて、この距離ならサブマシンガンでも十分届くけど数が多いんだよな。先に催涙手榴弾を投げるか。


 他の五人を近くに呼び寄せて、俺が考えた作戦を伝えることにした。

「一応、俺に作戦があるんだけど、まずは聞いてくれ――」


  1・まず、俺がガス攻撃(催涙手榴弾)をする。

  2・俺の『作戦開始』の合図とともにそれぞれ動いて貰う。

  3・その後すぐにレイは攻撃魔法を撃ち込む。

  4・レイはそのまま魔法攻撃を続けて、ハイルはレイの護衛に付く。

  5・他の3人は大きく右に迂回して、盗賊の右側方15mの位置に回り込む。

  6・俺は回り込まずに、盗賊に姿を見せつつ左側方に攻撃しながら走る

  7・俺がファイヤーアローを上空に打ち上げたら、レイは攻撃中止。

  8・俺が爆裂魔法(手榴弾)を打ち込み、爆炎が収まったら右の三人は一気に突っ込む。

  9・レイとハイルは三人のサポートに回る。


「――って感じで、この作戦で行きたいんだけど、異論はあるか?」

 誰からも異論は出ず、全員から作戦の了承を得て、すぐに行動を開始することにした。


 具現化アプリをきどうして、まず催涙手榴弾を具現化し、次にイングラムを入力画面に打ち込んでいつでも具現化できるよう準備をし、催涙手榴弾の安全ピンを抜いて盗賊の方へ投げつけた。

 「作戦開始」 

 その号令と共にレイが多分ファイヤーボールであろう魔法を放ち、ハイルはレイの護衛、俺はイングラムを具現化し、三人は右奥へと走り、それぞれがしっかりと作戦通りに動き始めた。

 俺は斜め左前方へ身をかがめて走りつつイングラムを盗賊の方へ乱射していたが、始めの催涙手榴弾でほとんどの盗賊が行動不能に陥ってるようで、まともに回避できるものはほぼいなかった。

 そのまま予定通り左側方部まで到着し やり過ぎかも知れないなと思いつつ手榴弾を具現化して、次に魔法アプリを使ってファイヤーアローを空に打ち上げて合図を送り、手榴弾の安全ピンを抜き、盗賊たちの中心に落ちるように投げつけて身を伏せた。

 数秒置いて爆発が起こり、回り込んでいた三人が盗賊へと突っ込んだのを確認して、俺は爆発で近くに飛んできていた、たぶん盗賊であったのだろうボロボロの肉塊を直視しないようにしつつ、その元盗賊の物体から魔力を吸い取った。


 さすがにこれはきついな。グロすぎて吐きそうだ。


 そんな事をスマホの魔力が満タンになるまで繰り返し、辺りを確認してみると、なんか腹から出てはいけない物を出していたり、頭が半分なかったりと無事な盗賊なんてそこには一人もいない様に見えた。


 あ、やばい……これは本当にやり過ぎたな、これじゃただの惨殺現場だな。


 広がっていた光景は、半数以上が人の形を保っていなくて、飛び散った肉と血の海、近くの木には何かモザイクをかけないといけないような感じで肉片で飾られていると言う阿鼻叫喚の地獄絵図で、他のみんなはすでに戦闘停止してその現場から目をそらしていた。なんなら木の影で吐いてるやつまでいた。

「リンくん……さすがに盗賊がかわいそうに思えてきたよ」

「……鬼畜……鬼……悪魔……人でなし……リン……」

「おいレイ! おまえ、さらっと酷いぞ! お前だってばかすかファイヤーボール撃ってたじゃねぇかよ! てか、いつもより口数が多いし、最後のに至っては俺の名前じゃねぇかよ! 俺の名前を酷いやつの慣用句の様に使うんじゃねぇよ!」


 こいつは俺の事を何だと思ってんだかな!


 俺は、人の事言えるかとレイを睨んだのだが、レイのやつはサッと顔をそらしやがった。フードで顔が隠れてたから見えてた訳じゃないけどね。


 こうして早朝の盗賊による襲撃は俺たちの大勝利で幕を閉じた。

 ちなみにこちらの被害は、軽傷者が数名だけで、盗賊の方は四十六名が死に、十三名が部位欠損などの回復できないほどの重症(スマホの回復魔法では骨折程度までしか回復できなかった)、さすがと言うか何と言うか盗賊のリーダーの男は回復可能な程度の重傷だった。

 馬車には十四名の盗賊を追加で乗せるだけの余裕がなかったため、盗賊のリーダーと他の盗賊より多少身なりの良かった者を二名のみを追加で乗せ、残りは重症なので縛る必要もないだろうと、ここに置き去りにしてホラブの町まで行くことが決まった。

 ちなみに、置き去りにした盗賊がどうなるか聞いたところ、あの怪我だし魔物のエサになるのが落ちだそうだった。

 時間的には朝食の時間だったのだが、戦闘のあまりにも悲惨な光景にみんな食欲がなくなっていたので、すぐにホラブの町に向けて出発することとなった。

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