第5話 現状把握は重要ですよ
「僕」の名前で「俺」の生き方。それが現状では一番楽なんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら一人ベッドルームでたたずむ。
おっさんことヘンリー・タナカさんは気を使ってくれたのか
「俺は仕事行ってくるからお前さんは休んでおけ。慣れないことばっかりで疲れてるんだろう」
と俺を一人にしてくれた。
やれることもないので荷物をもう一度チェック。
リボルバー、ナイフ、ライフル。これらは使い込まれてはいるがちゃんと整備されている。これを渡されたときのことを「僕」の記憶から思い出す。
これを持っていけ、と父親が渡してくれたライフル。せんべつだったのだろうが、家にあった銃の中では古い方だ。のたれ死ぬ可能性もある若造に一番新しいのを持たせるわけにもいかないだろう。整備も行き届いているし、リボルバーと弾が共通だ。生き延びるための道具としてはかなり良い方だと思う。
リボルバー。これは「僕」が初めて与えられた武器だ。森に行くときはかならず持たされた。整備の仕方も教え込まれた。普通なら兄たちに教育をまかせそうなものだが父親自ら細かく指導された記憶がある。
研ぎ減ったナイフ。これも研ぎ方からウサギの
財布。これもせんべつに渡された幾ばくかの銀貨と、めったにもらえない小遣いをためた銅貨が入っている。「僕」の記憶では貨幣を使った取引は一度しか見ていない。村に来た商隊と村人たちとの買い物のときだ。銃や弾を買って獣肉や野菜を売っていた。物々交換の差分を硬貨でやりとりしていた。
「これじゃ貨幣価値が分からん。部屋を借りて一月暮らせる程度あればいいんだが」
武器類をベルトにもどし、バッグの中身にとりかかる。
まずは木箱と紙箱、そして手紙。
木箱は分かる。野営したときに火をつける道具だ。焼き入れした鉄の板と火打ち石、黒っぽい
紙箱をあけてみる。ドライバーと油が入った小瓶、そして銃弾。ざっと数えて200発。ポケットに入っている分、装弾している分も合わせると250発くらい持たせてくれたのだろう。村ではそれなりに貴重品扱いだったはずだ。
村長が持たせてくれた覚えのある手紙。封はしていないので取り出して眺める。
癖のある字だが日本語として読める。内容はだいたい以下の通りだ。
この手紙の持ち主は西の都市の近くにある村の出身者である。人相書きも入っていた。この者の身分と人格は村長が保証する。西都市の鍛冶ギルドもしくは商人ギルドはこの手紙の持ち主に仕事を与えて欲しい。
口減らしで村を追い出されたと「俺」は思っていたが「僕」は愛されているのかもしれない。
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