第23話 練習と練習と報告と硝煙の匂い

 二日目の射撃練習。


 一箱を消費するのに休憩を挟みつつも三時間ほどかかった。一つ一つの動作を意識しつつ、しっかり狙い、撃つ。外れたらどこが悪かったのかを考える。それを繰り返して練習を続けていた。


 初日は漫然とただ動きを身体になじませる、反動に慣れるということだけを目的に、機械的に撃っていた。

 いろいろと考えながら撃つのがまずかったのか、初日よりも当たらない。たった7メートルの距離でたまに外してしまう。土煙があがった場所で、どうもターゲットより下に着弾しているらしいことは分かった。

 フリンチングというやつか。

 反動に対して無意識に力を込めて耐えようとしてしまう癖をフリンチングと呼んだはずだ。うろ覚えだけど。


 「俺」がフリンチングをおこすなら「僕」にまかせたらどうなるのか。


 結果は「初日よりも当たる」だ。約九割の命中。とはいえ7メートルで30cmの円盤ターゲット。しかも相手は動かない的だ。ではなぜ「俺」と「僕」でここまで違いが出るのか。

 単純に慣れの問題だろう。 .22LRくらいの豆弾と.44口径ピストル弾。反動の違いはあれど今まで撃ってきた数が違う。「俺」は素人もいいところだ。自分の意志で、意識して撃ったのは昨日が初めてなのだ。それも最初のうちだけ。あとは無意識、つまり「僕」の手続き記憶にまかせて撃っていただけだ。

 やらなければならないのは「俺」が自分で意識しながら、しかも無意識のように自然に撃つのを第三者視点で眺める。TPSか。無理。早々にあきらめて、フリンチングしない撃ち方を練習するしかないと決める。


 握る力は十分に、しかも力を抜く。なんという矛盾。

 その上でトリガーを引く。引き絞る。急に力を入れないように加圧する。

 しかもできるだけ早く引く。最後の一つは人間やモンスター相手の場合だ。生き死にに関わる。


 無理だろう。

 やらなければならないことが多すぎる。まず一つだけをやれるようにしよう。十分にリラックスしながらトリガーを引く。これだけを意識する。当たるとか外れるとかは二の次。最初に的を狙ったら、そのあとは考えない。じわっとトリガーを引くだけ。

 これができるようになるまで二日かかった。


 毎日射撃練習。そしてその後に最低限のメンテナンス。銃の清掃だ。

 シリンダーを外してフレームとバラす。そしてバレル、薬莢が収まる穴、シリンダーとフレームの隙間。そこを専用の薬剤をつけたブラシで擦っていく。手ぬぐいのような布きれで拭き上げる。さらに機械油を薄くぬって拭き上げて組み立てて終わり。


 数日後には分解整備の仕方を師匠から教わる。俺用にと師匠のお下がりの工具類を渡された。

 

 朝起きて、朝食を食べて、コーヒーを飲んで。師匠に気づいたこと思いついたことを報告、弾を受け取ってシューティングレンジへ。一箱100発を撃ち尽くしたら昼飯。師匠に報告。銃の清掃をして分解、組み立て、動作確認。師匠に報告。晩飯を食べて、師匠とちょっと呑んで。部屋で一服して。気づいたことをノートにまとめて、翌日分のタバコを手で巻いて寝る。


 こんな生活が一週間ばかり続いた。

 硝煙の匂い染みついて、むせる。

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