第22話 銃を知ろう

「一番売れている銃はこれだ」


 師匠はそういって一丁の.44口径リボルバーをテーブルに置いた。分解整備を練習しろということだろうか?


 違った。


「一日最低90発は撃つ練習をしろ。その中で気づいたことはなんでもいえ。

 ここが使いにくいだとか不発があったとか手が疲れただとか。なんでもいい」


 一箱100発で二銀貨強。これだけの弾を一日に使えというのは太っ腹なのかなんなのか。給料天引きってことはないよね?


「そんなけちくせえことはいわねえよ。

 鉄砲屋が鉄砲を使ったことがありません、使い方が分かりません。

 この銃の特徴さえ知りませんってわけにはいかねえだろ」


 たしかに。とはいえそこまで習熟しゅうじゅくする必要があるのだろうか。


「客の前で使ってみせる、デモンストレーションの意味合いもあるけどな。

 がんがん使ってがしがしメンテナンスして、壊れたら手前で直して、壊して直して。

 壊れやすい部分を知って、やっと一人前になれるんだよ」


 さすがにガンスミスの教科書というのは存在しない。扱う対象に慣れることがまず最初というわけだ。

 手元にある4.75インチの.44口径リボルバー。構造はピースメーカーとほとんど同じように見える。


「使いにくいところがあれば自分でいじっちゃっていいんでしょうか?」

「ダメだ。俺に相談してからにしろ」


 何故に相談してからなのか。


「その使いにくさがお前に由来するものなのか、普遍的に使いにくいのかを判断してからじゃないと改造のウリにならんからな」


 なるほど、トレーニングと製品のダメ出しと改良の商品化を同時にやるわけだな。


「わかりました。ではこれから撃ってきていいですか?」

「おう、手にマメ作ってこいや」


 シューティングレンジにはテーブルはない。木箱がベッドサイドテーブルの代わりのように置いてあるだけである。それの上に銃と弾薬一箱を置いて、金属プレートのターゲットを眺める。

 まずは「僕」の身体が覚えている動作を「俺」も意識の有無に関係なく行えるように確認していこう。

 右手に持って、ハーフコック。シリンダー内に弾が入っていないことを確認。ハンマーを起こして、左手の親指をハンマーに沿わせたままトリガーを引いて動作確認。シリンダーの回転確認。弾込め。斜め下に銃を保持。

 7メートルくらい先の、一番近いターゲットをにらむ。


 7メートル。

 だいたい二車線道路の幅くらいになるだろう。店の中から向かいの店に撃ち込む感覚。なんか不謹慎なイメージだな。


 銃を向けて、ハンマーを起こし狙う。 

 狙う。狙う。狙う。時間がゆっくりと動く。

 撃つ。

 指に力を入れて、トリガーが動き出す。シアーが外れて。ハンマーが雷管めがけて打ち下ろされる。

 パン。

 乾いた音。手から腕、肩に衝撃が伝わる。

 ほぼ同時にカンと鳴る。

 ターゲットに当たった音だ。

 そして煙。煙の臭い。これが硝煙の臭いだ。


 シリンダーを回し、エキストラクターを動かし、空にする。

 六発の銃弾を持ち、シリンダーを回して装填していく。

 よく狙って撃つ。力を入れすぎず、すっぽ抜けない程度には力を込めて。

 繰り返していくうちに、俺はハンドガンを操作するだけの機械になっていく。


 シンプルな作業を続けていくうちに。弾を込め、狙い、トリガーを引き、排莢し、また弾を込めていくうちに。鼻歌が漏れ、それが口をつき、歌っていた。いつの間にか。ハンドガンを操作する機械になった俺が、無意識に謡う。

 

  もっと金が欲しい

  ヘイヘイヘヘーイ

  最高の女が欲しい

  ヘイヘイヘヘーイ


  力こそ偉大だ

  力こそ魅力だ

  力こそ武力だ

  俺たちに乾杯!


 どっかで聞いたことがあるような空想マカロニウェスタンのOPを口ずさんでいた。


 イタリア語で。

 間違っている。酷く間違っているがそれでいい。

 ただただ作業を続けていた。歌いながら。

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