第24話 そもそもギルドってなんなんだ?
銃の練習を続けながら、いろいろと疑問が湧いてきた。
銃や射撃に対する疑問も多いが、ギルドとはなんなのか、ということである。
日々の練習。たまに来る客の注文対応、それも弾の販売ばかり。これで商売が成り立つのか。毎日一箱、銀貨二枚に大銅貨五枚ほどの値段で売られる弾薬を消費している余裕があるのか。鍛冶屋ギルドに所属して幹部として商売をやっているだけでそんなに儲かるものなのだろうか。
雇われ者の俺から見ると飯を食わせてもらってるだけでも御の字だ。だがその上に革の作業着、作業ズボン、コートまで仕立ててもらっているのである。まだ現物は目にしていないが。
それらに対して売れているのは弾、メンテ用の消耗品である。たいした額には思えない。これでは収支が合わないのではなかろうか。晩酌のときに師匠に質問をぶつけてみた。
「まあお前さんも弟子だし商売について知ってても問題ないか」
そう前置きして師匠が教えてくれた。
「幹部をやってるだけでそれなりの額が入ってくる。
ってのも鍛冶屋で扱ってるもん自体を独占商売してるんだから金額はギルドの好きに決められるわな。
使う材料ですらギルドが用意して値段をつけてる。上納金の分割払いみたいなもんだ」
以前とは逆のことをいってないか?
「前に同じもんを売ってても割り引きで負ける、っていったよな?
あれは同じ銃を売ってたら客は安い方に飛びつくって話だった。だからうちでは別のものを売って、それぞれでウリってもんを押し出す。
ムラタさんのとこなら同じ型式の銃であればパーツの融通が効く。大量生産で誰でも使えるものを一家に一丁ってわけだ。西都市に寄る商人旅団の護衛にもまとめて卸してる」
そこで一息つく。
師匠にウィスキーを注ぐ。酒は会話の潤滑油。気持ちよくしゃべってもらうための投資である。ちなみに師匠の目に触れないように膝の上にノートを置いて、手元を見ずに要点だけメモっている。記録されているとなると口を閉ざしてしまう人は多い。せっかくの潤滑油も鍵のかかった扉には無意味だ。
「うちで扱ってるやつは西都市では数が少ねえ。出回ってねえわけだ。だから高い。
代わりに客の使い勝手がいいように改造を請け負いますよ、と。いわば趣味人やガンスリンガー相手の王様商売なわけよ」
「向こう、ムラタさんのところは大量にさばける販路を確保している。
こちらは高価な一品物やレア物でがつんと儲けるわけですか」
「おう。でもそれだけじゃねえ。どこでも弾の値段は同じだ。少なくとも西都市のギルドじゃな。
つっても売ってるのはムラタさんとことうちくらいだけどよ」
といってがははと笑い、ウィスキーをあおる。
西都市の弾薬は鍛冶屋ギルドの銃部門がおさえているわけだ。一番の消耗品の値段はギルド内で一律。値引き無しなんだな。
「だいたい100発二銀五大で売ってる.44弾なんざ、仕入れはほとんどロハみたいなもんよ。
それが黙ってても一箱売れたら一人で十日は食える儲けに化けるときた」
ボロい商売してるなぁ、おい。でも作ってるところ自体が大都市に一箇所くらい、売るところも直販店かギルドの店だけとなればそこで買うしかない。ほかの都市から買い付けようとしても大きな都市のギルドは横で繋がっていて値段を同じにしている。輸送コストで足が出るから地元で買うしかないわけだ。
旅人は使った分だけ行った先で補給する形になるのかな。安いところを見つけても品質怪しいだろうしなぁ。
「べつに悪い儲け方してるとは思わねえよ。弾の生産拠点をギルドが管理することで品質を安定させてるって面もある。
それにめったやたらと安く一般人に売らないことで王都でふんぞり返ってるやつらも安心できる」
疑問が顔に出ていたのだろう。師匠が続ける。
「つまりだ、王都、王様に刃向かうために銃や弾が欲しくてもそれなりの値段になってるから貧乏人は反乱できないってわけよ。剣や槍も同じな。それも鍛冶屋ギルドがおさえてるからできるってわけ。
逆に王都が鍛冶屋ギルドをないがしろにしようとしたらギルドが反乱を主導するぞ、とまではいわねえがプレッシャーは与えられる。
ま、政治の世界なんだわな。俺はそういうのめんどくさいし、ムラタのおやっさんもそういうの嫌う質だからあまり関わりたがらない。代わりに儲けた分は開拓村への投資って名目で金ぇ出してるし、若い衆やその家族にいいもんをたらふく食わせてやってるわけよ」
西都市の鍛冶屋ギルドは福利厚生がしっかりしているらしい。高度成長期の頃の大企業みたいだ。
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