第67話 特注品と量産向け試作品
朝食。いつもと同じ。これからやることを師匠とミリーに話して、コーヒーをいただいて。
師匠から.44口径弾が入った箱と.38オート弾が入った箱、トヨダ式オート用ロングマガジンを2つとさらに長いマガジンを一つ渡される。
「15発用ロングマガジンはこれでよかったよな? 20発用も作ってみたからテストしてくれ。問題なかったら好きに使え」
「はい、ありがとうございます。これで火力もずいぶん充実します。安心です。午後はカービンキット用の
空になったマガジンを入れる布ポーチに、ロングマガジンを突っ込んで。グリップ補助パーツの設計図とミリーへの課題をバッグから取り出しテーブルに広げる。
「また、けいさん。ぶんすう、わりざん、そくど…… ゼロ除算はムリ……」
ミリーが頭を抱え煙を噴いている。それを無視し。
「トヨダ式オートハンドガン用のカービンキット…… これ長くて言いにくいですね。カービンキットでいいや。カービンキットのフォアエンドを握るとき、一応チェッカリングは刻んでますが、滑って
「安全のための部品か。使い慣れないやつはここを握れ、ってわけだ。悪くない発想だな。この太さなら手がでかくないやつでも握りやすいな」
設計図には1インチほどの太さのパイプをナナメに固定するためのパーツが描いてある。「R」の上部分を、「J」だけ切り落とした「k」みたいな形。握った手が滑っても、それ以上滑らないように出っ張りを追加したアシストグリップ。先端はバレルより長く飛び出し、バレルが押し込まれて動作不良が起きてしまうのを防ぐ意味もある。
直径2インチ、つまり5センチの本体パイプを掴むより補助グリップのほうが握りやすいし、うっかり力が抜けて下に滑ってしまっても一度引っかかるような突起が人差し指と中指の間、前方にある。突起部分は人差し指をかけて後ろに引きつけてもいい。
土台と突起部分は削り出し、追加グリップ用の1インチパイプは土台にねじ込み、さらにネジ止め。土台部分はカービンキットに2本のネジ止め。構えとしてはマフィアがトミーガンを構えるように左右の手で前後のグリップを掴む形だ。これは右利きでも左利きでも問題ない。
「とは言っても元のトヨダ式オートが右手で握るのを前提にしてるだろ。マガジンキャッチだって右手親指で押し込む位置だし」
そうなのだ。ほとんどの製品が右利き前提。割と新しめのボルトアクションライフルやポンプ式ショットガンでも右利き向けに設計してある。右手で持って左手で支える。これが基本のスタイル。設計の前提になっている。
左利きの人間はいないのか? いるのだが別に不満は聞こえてこない。右利きの世界に慣れてしまっているのだろう。
もっとも俺自身が右利きだ。左手は器用ではない。左右の筋力が大幅に違うということもないが、右手でできることが左手ではできないというのも確かにある。特に精密な動きなど。箸を左手で、とかペンを左手で、というのは無理だ。
「そういうのは……、言われてみれば何でだろうな。習慣だからか。新しいトヨダ式オート銃も、他のライフルやポンプショットガンも排莢は右ばっかりだな」
とベック師匠も不思議そうな顔だ。
「でもガンスリンガーの中にはリボルバーを左に下げて左手で撃つ人もいますよね?」
と聞いてみる。
「うむ、たしかに左腰に吊って左手で撃つやつもたまにいる。左利き向けカスタムもいくつか手がけたことがあるぞ」
「というわけで左右どちらの手で扱っても操作がしにくいのを減らしていきたい、というのが今回のカスタム部品の制作理由、その一つです」
もちろん、完全に左右問わず、というのはトヨダ式オート自体のカスタムが必要になりますが、と付け足す。
追加パーツだけで全部の操作をなんとかすることはできない。なので「撃つ」という動作だけでも左右どちらでもできるようにするのが最低限の目標。初弾を込めず、コッキングレバーを引いてトリガーを引く。これを左手でグリップを握っていてもできるようにするのが第一。添えた手を銃口の前に飛び出さないようにするのが第二。そのうちセーフティを左右どちらの手でも操作できるようにトヨダの二代目に進言するのが第三。可能ならマガジンキャッチも左右入れ替えできたほうがいい。
設計思想はどうであれ、実際の制作となるととたんに技術が追いつかなくなる。特に削り出しとなると俺にはお手上げだ。特に本体パイプにぴったり合うカーブを鉄塊から削るとなるとどれだけかかるやら。なので師匠に相談し、製品化するか、試作のみで俺が使うか、試作せずに却下かを決めてもらう。却下となったら相応の対価を給与天引きで師匠にお願いして作ってもらうしかなくなる。もしくはある程度自分で作って、一部削りだけお願いするとか。
幸いカービンキットは俺が自分用に開発者のトヨダ氏からプレゼントされたオート拳銃5インチスライドモデル。それに特注10インチバレルを組み込んだ私物。なので好き放題弄れるのだ。しかもそのノウハウはベック師匠の銃砲店で販売するカスタムパーツにフィードバックされる。個人所有のテストベッドだからこそ俺好みのカスタムができるというもの。そのうちいくつか商品化できるものが完成したら師匠に貢献できる。いくらかのマージンも入る。
問題があるとすれば、撃ち方のスタイルや好みが反映されるので、この世界のオートカービンの使い方が俺のスタイルに似てしまうということだ。構え方や握り方がそのまま製品に反映されるとどうなるか。この銃はこういう使い方をするということがバレる。するとそれに対する対策も立てやすくなる。
連射速度はリボルバーには負けないが、構えるまでの時間は熟練のガンスリンガーのリボルバーには勝てない。そこを突かれると俺やカービン使いが死ぬ。ミリーを守る人間や開拓村の人間が死ぬということだ。本職の悪人はそのあたりを研究してくることだろう。
カスタムパーツのアイデア出しも良し
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