第66話 オートマティックカービンキットの改良と恩返し
トヨダ式オートをベースにしたカービンキットだが、ストックが2インチパイプで太すぎて使いにくい。ということが原因だと分かったのはしばらく撃ってからのことだった。太い2インチパイプに頬付けして狙うのは視点が高くなってしまってほぼ不可能。だいたいの向きしか合わせられないのだ。細いストックにして顔を低く構えられるようにしたい。
ちょうど外径1.148インチという中途半端な鉄パイプがあったのでそれを予備の蓋に溶接。本体パイプを、トヨダ式オートのスライドが動く分の余裕をみてぶった切る。蓋をねじ込み、溶接。ストック部分もちょうど
使いやすい位置をいくつか決めて本体側チューブに穴をあけてやれば何段階か長さを調整できる。調整時は蝶ネジを手で緩めてスライドし、またねじ込むという面倒な方式となったが固定はばっちりだ。これもあとからバネ式ですぐに調整できるようにしたい。M4やAR-15系のテレスコピックタイプのストックが理想だ。
ストックは肩に当たる面積が狭くなった分、衝撃が肩に集中する。が、最初の鉄パイプを押し当てて殴られているような状態よりはかなりいい。視点も低くなり、ネジの頭で作ったサイトでもある程度狙えるようになった。最初の、上から見て「だいたいまっすぐだな」と引金を引くよりは当たる。本当はもっとサイトを高くした方がいいんだろうけれど。
あとは本体左側の開放部分だ。鉄パイプを雨樋状に
トヨダ式オートカービンの試作改良一号の完成だ。本体パイプ先端から1インチほど飛び出したマズルブレーキ付きバレル。直径2インチ、長さ約9インチの
かなり無骨なデザインになってしまったが、しかたない。本当なら左右から長い箱をサンドイッチしてしまうようなスタイルにしたかったが、ありものの材料ででっち上げたものだから不格好なのも当然。幅を取る形になって しまったのも諦めよう。鉄パイプは丸いパイプのままの方が強度が出る、と心の中で言い訳をする。
これを作っていたことでライカンスロープの事を忘れられていた。やはり精神安定には工作作業が効く。
鉄パイプをベースに作ったカービンキットはわりと簡単に改良版を作れた。細かい部分の設計を見直していく。開放部の縮小、角を丸くし応力を逃がす工夫、補強パーツの最適化。
一つ目のキットは現物合わせで切ったり削ったりと調整していったので強度的に不安があった。なので組み込みにギリギリのサイズの開放穴にして強度をかせぐ。ついでに排莢口とスライドの隙間も曲げ加工で埋めて薬莢が引っかからないように一工夫。
この改良版は二つ製造してみた。一つは10インチバレルで通常運用する。もう一つは5インチバレルでサプレッサーを組み込むのだ。トヨダ式38口径オートマチック弾は音速を超える。するとサプレッサーの効果が酷く落ちる。なので火薬量を減らすか弾頭を重くして音速を超えない、いわゆるサブソニック弾にしてやればどこから撃たれたのか気づかないほど静かな銃になる。なるはずだ、たぶん。もちろん作動音がしてしまうのはしかたない。しかし発砲炎はほとんど見えないし、気づいたら撃たれている銃、というのはアドバンテージになるはず。
モンスターは銃の音に敏感だ。しかも相手の脅威を理解するまではガンガン襲ってくるが相手が強者だと気づいたらさっさと逃げ出してしまう。そうすると逃げたやつがまた別の弱者を狙うわけだ。ならモンスターが気づく前に殲滅しないと危険が残る。以前、剃刀式の有刺鉄線でモンスターの行動を制限した時はこちらの人数と銃の数で削りきったが次はどうなるか分からない。ならば。秘密兵器の出番だ。
幸い材料のスチールウールは金属の錆落としに使っている。衝撃波を外に漏らさないように分散させるバッフルも旋盤で削り出した。立体的に加工するのは大変だったが、これも修行だと思えば楽しいものだ。スチールウールが弾道にはみ出ないようにする金網は手に入らなかったが、鉄パイプに穴をあけまくって代用。バレル固定蓋に穴あきパイプを固定し、スチールウール、バッフル、スチールウール、バッフルと交互に詰めていく。出口の蓋をねじ込んで完成。
「ベック師匠、新しいカービンができました! 表面処理と、コレ用にトヨダ式オートの15発マガジンをいくつか作ってください!」
「へぇ、サプレッサーねぇ……。どこまで効果があるやら」
師匠がまたなんか面白いモノをつくりやがったな、という顔でサプレッサーカービンキットを眺める。
「なにこれ?」
とミリーも興味を持つ。そうか、銃の面白さがわかるようになったか、ミリー。お兄ちゃんはうれしいぞ。
「これは銃の発射音を小さくする仕組みです」
と師匠に説明。同時にノートに断面図のイラストを描いて動作原理を解説。
「ようは発射音というのは発射薬が燃え広がるときに勢いよく空気を押しつぶしちゃうのでパン、と鳴るのです。なのでそれが広がらないようにしてやれば静かな銃ができちゃうのです」
もちろんそれ以外の要素もあるが、原理を理解するならこのくらいで十分だろう。
「どれくらい静かになるの?」
とミリーが聞く。耳が良いミリーには銃の発射音は爆音で拷問しているようなものなのだろう。
「弾の重さや火薬量によるからそのままじゃそんなに小さくならないけど、弾に一工夫すればかなり小さくなるはずだよ」
師匠は難しい顔だ。
「こいつはあんまりよろしくねえ発明品だな。効果があったらヤバい」
元の世界のアメリカやロシアでも許可や資格がなければ購入できない代物だ。その他、多くの国では違法となっている。この世界でも普及したら危険だというのは俺でも分かる。
「やっぱりダメですか」
「他人がいるところで使うのはな」
ということは知られなければいいんですね?
「こいつは封印だ。10インチバレルのほうはうちの製品として売ってもいいか?」
「もちろん。できれば最初は開拓村向けに背負い紐をつけて欲しいです。出身の開拓村を優先していただけたらありがたいですね」
ベック師匠はにかっと笑う。
「おう、ジョニーの親父さんにプレゼントしたいってんだろ。分かってるよ」
やたらといい笑顔だ。
「できれば村長にも恩を返したいと思っています」
本当は恩を売る、と言いたいところだ。
「そこらへんは融通するさ」
例の有刺鉄線もムラタさんの所から仕上がってくるしな、と師匠は呟いた。
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