第100話 抗弾コルセット
ミリーのカマーバンド、というかコルセットの仕様が決まった。
胸部に銃弾を受けたら大概は死ぬが、腹部の場合は生き延びることもある。だが敗血症などで死ぬ場合も多い。なので腹部は防御力を上げることにした。
胸部も防御すればいいじゃないかと思ったが、成長著しいミリーなのでいちいちサイズを調整したり大幅に変えたりはできない。なので腹部のみの装甲だ。
革のコルセットで、裏に全面ポケット。サイズ調整と動きやすさのためにサイドをゴムひもの編み上げ、背中側をベルトで止める。ベルトの下、腰部分にはパッドを入れてズレ防止。
前の裏側ポケットに焼き入れした鋼鉄プレートを
本当ならカーブをつけた一体型の鋼板にしたかったが動きにくくなるので諦め、鉛玉や刃物を通さない、という点を優先。四角い焼き入れ鋼の四辺それぞれ中央付近に穴をあけ、丈夫なひもで編む。
ショック吸収にパンチングをほどこした薄いゴムシートとシルクの防弾着を重ね、鉄板を編んだ
「で、完成したのがこのアーマープレートか。鎧鍛冶の仕事を奪うんじゃねえよ」
「元から
「防げるだけで痛くてのたうちまわるか息が詰まって動けなくなるだろ。それにこれが流行っちまったら野盗に対処できなくなるぞ」
「それは鍛冶ギルドの力で高く設定して出回らないようにお願いします。同時にこれを無効化できる弾も考えてますし」
「またやらかす気か」
「検討中ですけどね」
「これ、ちょっと動きにくくなるけど重さはそこまではないね」
「そんなことを言える女子はミリーくらいなんじゃ……いえ、なんでもないです」
ミリーの刺すような視線に負けた。
アーマー部分のみを木の棒にくくりつけ、銃撃する。鈍い音がするが、プレート自体にはわずかな
「まあ、こうなるわな。これはどうすんだ? なにかネタあるんだろ?」
「ありません。これ以上なにかすると重くなりますし、腹に金属片がめり込んで血まみれになるよりは打撲で
本当は表面にセラミックプレートを重ねようと思っていたが重くなりすぎるので諦めたのだ。スケイル・アーマーの二枚重ねで隙間ができにくくするくらいが関の山。
プレートのサイズもギリギリまで大きくしてカーブをつけてから焼き入れ。こうすることでフィット感と動きやすさと防御力の妥協点を調整した。けっこう防御力寄りになったが動きの阻害は一枚板よりはましだ。
「たしかに、今までだったら腹に鉛弾をくらったらおしまいだったからな。ないよりはかなりマシだわな」
「コルセットへの装着はポケットにしてもらったので、必要ないときは外しておけますから。そのうち自分の分も作ります。そっちは防御力重視で可動範囲は下げます」
「それは欲しいな。俺のも作ってくれ。素材と焼き入れは任せろ」
「ガワはテイラーさんにまかせますので、その予算もお願いします」
「しかたねえな。まあいつもの事だ。……慣れつつあるのがいかんな」
「よろしくお願いします」
試作テスト用に適当なサイズの圧延鋼とセラミックプレートを布で巻いて合成樹脂を染み込ませて固めた。合成樹脂は最近になって北都市で量産されつつあった新素材だ。
メラミン樹脂かエポキシ樹脂に近いなにかだと思うが詳しくは分からない。主剤と硬化剤に分かれているのがありがたい。フェノール樹脂ではないと思う。硬化剤がヘキサミンじゃなかったようなので。
ヘキサミンなら固形燃料やHMTDなどの爆発物の原料になるのだけど、鉱山用爆薬が手に入る現状では爆薬を自作する意味もないか。固形燃料は欲しかったけど。
ともかくセラミックプレートをFRPで固めて圧延鋼の補強を入れた抗弾プレートが完成した。拳銃弾なら楽勝で、普通のライフル弾も一発までなら貫通しない性能となった。重いけど。これを量産して車に装備したり、家の壁の内張に使ったりする方法を師匠に提案。
圧延鋼のみの抗弾プレートを西都市の鍛冶ギルドに売り込む、ということでまとまった。ギルド長の所には鋼板を布で巻いて合成樹脂で固めたやつの製法を渡して恩を売ることとなった。金属板
どうもウォーワゴンと呼ばれる武装馬車には鋼板が仕込まれているらしい。周りで銃撃している仲間に木片が飛び散って怪我をしたり失明したりということがあるので、破片が飛び散りにくい抗弾プレートに需要があったようだ。
ウォーワゴンといっても戦争があったのはかなり前。人間相手の戦争もあったらしいが、ハグレではないモンスターとの土地争いも戦争と呼んでいたそうな。むしろモンスター相手の戦いの方が多かったという。100年前のモンスター襲撃も戦争の一種とされるようだ。
「俺が若い頃、100年ちょい前は南の開拓地で稼ぐ連中が多くてな。その頃からワゴンは活躍してたぞ。あいつら木の板なんか簡単に破っちまうからな。鉄板を仕込まないと怖くてなあ」
俺とミリーはベック師匠の思い出話を
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